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2. 露骨なパクリ商法!? マッスルプリンス登場

 サザンクロス島のフェス会場となる中央広場。

 そこは、南国の太陽を上回る熱気に包まれていた。突き上げられる拳、そして飛び交う黄色い悲鳴。


「キャーッ! エリオ様ーっ!」

「こっち見てー! あっ目が合ったよね今!?」

「筋肉カッコいいー! サイコーッ!!」


 タケルたちは広場に入ると、その勢いに圧倒されていた。

 RE:Genesisがこれまで披露したイベントとは、その熱の名前も種類も違う。どこか背徳的で、脳髄を痺れさせるような甘ったるい熱波だ。


「エリオってのが、ライブしてるのか……?」


 視線の先、豪華な装飾が施された特設ステージの中央に、スポットライトを浴びる一人の男がいた。


「フハハハ! オレちゃんのステージによく来たな、子猫ちゃんたち?」


 半獣人(ハーフビースト)の男──エリオはマイクを口元に寄せ、よく通る声で叫んだ。

 金髪を後ろで結んだマンバンヘア、ピンと伸びた狐耳と尻尾。肌はオイルで光り、鍛え上げられた肉体をこれでもかと見せつけている。

 何より目を引くのは衣装。前を開けたシースルーのジャケットと派手なアクセサリー、そして面積が極端に少ないビキニパンツ。側面を紐で結ぶ構造になっており、もはや局部を最低限隠すための布切れである。


「太陽の化身、支配者たるオレちゃんに……ひれ伏すがいいぜーッ!」


 そのままエリオは、ビシッと天を指差すポーズを決めた。

 腰に手を当てて胸を張り、傲慢な笑みを浮かべて客席を見下ろす。


 ドォォォォン……!


 彼の背後から、チープな音と共に安っぽい魔法の花火が打ち上がった。昼間でも見えるようにされた、ドギツイ色彩の光が広がる。


「……」


 ライブを見ていたタケルの顎が外れそうになった。

 偉そうなポーズ、腕組み仁王立ち。「支配者」「ひれ伏せ」というワードチョイス。花火の演出と流れ始めた楽曲の雰囲気は、どこからどう見てもかつて後夜祭で披露したものをそれっぽく再現したもの。

 すべて、RE:Genesisがこれまでやってきたことだ。


「……パクリだ! しかも絶妙に安っぽい! 適当に悪魔合体して、チャラさと露出度をトッピングしたような……なんだあれ!?」


 ヴァルガンが持つ重厚感や威圧感はない。

 そこにあるのは、表面を雑になぞっただけの薄っぺらな模倣。ところが、その薄っぺらさが逆にわかりやすい刺激となり、観客たちを熱狂させている。


「おい、タケル。あれはもしや我の真似をしているのか?」


 タケルの隣でステージを眺めていたヴァルガンが、不快そうに眉をひそめた。サングラス越しでもわかるほど、眼光が鋭くなっている。


「真似というか、コンセプト泥棒だな。まさか、芸能界の悪しき風習『話題になったやつの二番煎じ商法』をこの世界で見せつけられるとは……!」


 スタイルを模倣し、さらに大衆向けにわかりやすく噛み砕いて提供する。商売としては賢いのかもしれないが、オリジナルのプロデューサーであるタケルとしては腸が煮え繰り返る思いだ。


「セレイナさん、あんなの許されるんですか!? ルール違反じゃないです!?」

「心情としては理解できますが、特定の何かを違反しているわけではありません」


 セレイナはクールに答えるが、彼女にも思うところがあるのだろう。

 エリオを見つめる目は冷ややかだ。


「芸事は真似て学ぶ、とも言います。その権利が人々にある以上、真似ること自体は咎められません」

「そんな……!」

「悪質な模倣問題が増えれば、いずれ権利保護の仕組みが必要になるでしょう。ですが、あのパフォーマンス自体を悪質とするのは難しいでしょうね」


 その説明を聞いてさらに怒りは増したが、タケルは受け入れるしかなかった。

 厳格すぎるルールがあったら、逆にヴァルガンはアイドルとして活動できていないかもしれない。曖昧だからこそ助かっている部分もあるからだ。

 とはいえ、やったもん勝ちなのがムカつくことに変わりはない。


「……あいつのこと、詳しくわかります?」

「少々お待ちください」


 タケルが尋ねると、セレイナ魔導端末を手早く操作する。

 何か情報がヒットしたようで、画面を見せてきた。


「彼は、ルミナ・シティに拠点を置く芸能事務所『オフィス・グリード』に所属するアイドルのエリオさんです」

「オフィス・グリード……有名なところなんですか?」

「手段を選ばない売り方で急成長の事務所ですね。エリオさんは一ヶ月前からキャラ変を行い、急激に活動を増やしているようです」


 セレイナは画面を触り、情報を切り替える。

 端末に表示されたのは『マッスルプリンス☆エリオ』とデカデカと文字に書かれた、筋肉アピールをしている広告だ。


「今の売り方はマッスルプリンス。恐らく、ヴァルガンさんが話題になったタイミングで目をつけ、大衆受けする要素を混ぜ合わせた……言わば『全部乗せのキメラ』です」

「なんだよそれ、最悪じゃねぇか!? プライドねぇのかよ!」


 ガルドが吐き捨てるように言った。

 戦うのなら力で上回るべしという価値観を重んじる彼にとって、他人の褌で相撲を取るような真似は唾棄すべき行為なのだろう。


「ですが、悔しいことに数字は持っています。彼のファンは増えており、関連グッズの売上も良い。今回のフェスでも、集客の目玉として期待されているようです」

「そうなんですよね~……。観光協会の打ち合わせでも『エリオさんを入れよう!』とプッシュされてましたから。でも、私はRE:Genesisさんの方がパワーあると思ってますけどっ!」


 ステージ上では、エリオが腰をくねらせながらウインクを飛ばしている。

 曲を歌うことよりも、とにかく客へのアピールが最優先だと伝わる見せ方。


「みんな~! オレちゃんの筋肉、食べたい? それとも……オレちゃんに食べられたい~?」

「「「きゃああああああ!! 食べたーい!!」」」


 台詞に合わせてエリオは観客の前で決めポーズし、体を見せつける。

 あまりにも品がない。だが、その欲望に忠実なアプローチが、彼の客層には刺さっているようだ。


「……フン」


 しばらくライブを見ていたヴァルガンが退屈そうに短く息を吐いた。

 自分のスタイルを真似されることへの怒りではない。その真似があまりにも稚拙で、魂がこもっていないことへの嫌悪感だ。


「猿真似ならば、せめて上手くやってほしいものだ。あれではただの道化であろう」

「同感だ。……でも、今はあいつがステージやってるんだから、俺たちが割って入る隙間はないよ」


 タケルは悔しさに唇を噛んだ。

 あんな偽物で盛り上がるより、ヴァルガンのパフォーマンスを見てほしい。しかし、イベントに待ったをかけることもできないもどかしさ。


「今日はみんなありがと! オレちゃんのこと、これからも応援よろしく~♪」


 一曲歌い終えたエリオが、ステージ袖へ向かおうとして──ふと、タケルたちの存在に気づいた。


「ん?」


 エリオはステージの端で足を止め、タケルたちの方に目を向ける。そして、ニヤリと口角を上げた。

 彼はそのままステージを飛び降り、軽やかな足取りで駆け寄ってきた。尻尾が楽しそうにゆらゆらと揺れている。


「うわーお、本家さんじゃん! 生で見るとデカいね~♪」


 エリオは悪びれる様子もなく、笑顔でヴァルガンの前に立った。

 至近距離で見ると、その筋肉の質感がよくわかる。見せるためにパンプアップされ、光沢を出した造形美。ヴァルガンのような実戦的な筋肉とは違う「商品」としての肉体だ。


「オレちゃん、エリオって言いま~す。どーぞよろしく☆ 本家さん筋肉ゴッツいねー、すっごー」


 そう言いながら、エリオは馴れ馴れしくヴァルガンの体をペタペタと触る。

 その無礼な態度にガルドが指を鳴らして一歩前に出ようとしたが、タケルが手で制した。


「……お前、俺たちのことパクってるだろ」


 タケルは極力冷静な声を絞り出した。

 ここで掴みかかったら負けだ、あくまで大人の対応をしなければならない。


「え~? 人聞き悪いなぁ。パクリじゃないよ、リ・ス・ペ・ク・ト!」


 エリオはウインクを飛ばし、わざとらしく笑った。

 パクリと言われることなんてわかってますけど? という開き直り。


「良いものは取り入れる、そんなの常識っしょ? 傲慢な王様キャラも筋肉も、オレちゃんがやればもっとキャッチーになるしね~」

「何がキャッチーだよ、ただ下品になっただけじゃねぇか」


 ガルドが侮蔑の感情を隠しもせず、ジロリと睨みつける。

 だが、エリオは動じない。むしろ、その反応を楽しんでいるようですらある。


「下品? 最高の褒め言葉だね! お客さんはさぁ、わかりやすさを求めてるんだよ」


 エリオは背後の観客席を親指で差した。

 そこには、彼のパフォーマンスを見て興奮しているファンたちの姿がある。


「見なよ、あのお客さんの数。あれが答えだよ。本家さんが何を言っても、数字出せなきゃ負け犬の遠吠えってこと♪」


 タケルには一瞬、エリオの瞳の奥に冷たく濁った光が見えたように感じた。

 計算高さ。図太さ。そして……ファンも含め、他人を見下すような傲慢さ。


「あ、そーだ! じゃあさ、今から本家さんもライブやってみる?」

「は? いや、飛び入り参加なんてできるわけ……」

「今日さ、出演者にキャンセル出ちゃったんだよね~。でしょ、スタッフちゃん?」


 エリオはノノに向かって声をかける。

 彼女はポケットから魔導端末を取り出し、イベントスケジュールの確認を始めた。


「えーっと……あっ、そうですね。体調不良で一枠空きがありますっ!」

「ってわけで、本家さん。オレちゃんに文句あるなら、ステージやってみればいいんじゃない。まあ、別に断ってくれてもいいんだけど~?」


 露骨な挑発。

 パクリだなんだと言う前に、ステージで実力を披露してみせろ。エリオの態度からその本音が滲み出ている。


「……いけるか、ヴァルガン?」

「ああ、問題ない。今までやった曲であればすぐ披露できる」

「参加ですね? わかりましたっ! ではすぐスタッフに連絡してきますっ!」


 顔を見合わせて頷くタケルとヴァルガン。ノノは二人の返事を聞くと、イベント進行スタッフに話を伝えるため小走りでステージ裏へと向かっていった。

 エリオはヒュウ、と口笛を吹いてニヤニヤと笑っている。


「わーお、楽しみ! 精々頑張ってよ、本家さん。どれくらい盛り上がるか見物させてもらうからさ~♪」


 彼はヴァルガンの肩をポンと叩いたあと、手をひらひらと振りながら去っていった。


「……なんなんだよ、あいつ」


 タケルはふつふつと湧いてくる怒りを抑えられず、エリオの背中を睨んでいた。

 絶対、ここで折れるわけにはいかない。


「本物の格の違い、見せつけてやろう! あんなパクリに、この島の主役を譲るなんて絶対にごめんだ!」

「当然だ。くだらん真似をしたこと、後悔させてやる」


 ヴァルガンはサングラスを外し、露わになった真紅の瞳でステージを睨みつけた。

 タケルたちは気合を入れ直し、ステージ袖へと向かっていった。

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