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24. ご褒美バカンス? いいえ出張営業です

 新人音楽祭の翌日。

 『赤竜のあくび亭』は貸し切り状態で、RE:Genesisの祝勝会が開かれていた。


「みなさん、お疲れ様でした! かんぱーい!」

「「「「乾杯!」」」」」


 タケルの音頭に合わせて、全員でエールの瓶を合わせる。参加者はヴァルガン、レオン、ガルド、セレイナ、そして女将のリザだ。

 テーブルの上にはリザが「頑張ったご褒美だよ!」と用意してくれた料理がズラリと並んでいた。奥のキッチンでは旦那さんが今も追加の料理を作ってくれているようで、軽快なリズムが聞こえてくる。


「ぷはぁ……今回は初オリジナル曲だから認めたけど、次からはちゃんと俺も関わらせろよ? プロデューサーなんだから」

「案ずるな、今回の件でよくわかった。タケル抜きで作るのは至難の業だとな」

「マスターと私で、振り付けまでする羽目になるとは思いませんでした……」

「なんもわかんねぇのに、付き合わされたこっちの身にもなれよなぁ……」


 ガルドとセレイナがげんなりとした顔で遠い目をした。

 タケルへのサプライズという都合上、自力で振り付けをなんとかする羽目になり地獄を見たのはこの二人だった。

 ガルドとセレイナは必死に振り付けの動画を見続けて、それっぽく成立するよう案を作成。当然、その踊りをヴァルガンに教える必要もある。そのため、ひたすら気合でなんとかするという超ゴリ押し戦法で形にしたのだ。


「これまでの経緯を考えると、ステラ様に『仕上げが甘い』と言われた程度で済んだのが奇跡とも言えます……」

「俺の曲が素晴らしかったおかげだな。でも、二度と直前変更すんじゃねーぞ」

「フン、それは貴様の曲次第だ」


 一方、レオンの空気は晴れ晴れとしていた。相変わらずだらしない感じがするボサボサ髪と無精髭だが、時折見える瞳には力強い意志が宿っている。


「そういえばレオンさん。今後の契約って、結局どうするんです?」

「……他に仕事もねーし、金払いがいいから付き合ってやるよ」

「本当ですか!? やった! これからもよろしくお願いします!」


 タケルは頭を下げ、彼の手を握る。レオンは素直に「これからも力になる」というのが恥ずかしいのか、金目当てという建前で誤魔化しながらも手伝ってくれる姿勢を示した。


「これで、体制はさらに盤石になりましたね。あとは~……」


 そう言いながらタケルが目を向けた先には、新人奨励賞の賞金袋が置かれている。優勝賞金には及ばないものの、今の彼らにとっては大金だ。


「この賞金をどうするか。それが問題ですね」


 タケルは腕を組み、真剣な顔で考え込んだ。

 堅実にいくなら、活動資金として貯蓄すべきだろう。あるいは、次回のライブに向けた予算に回すか。


「この店の肉をあるだけ持ってこい。我が全部食らう」

「却下。食事代で全部吹き飛ぶってどんだけ食う気だよ」

「俺と契約したんだ、新しい楽器や機材を用意するのはどうだ?」

「うーん……気持ちはわかりますが、お値段が……」

「アタシがツケにしてやってる分を払うの、忘れないでおくれよ」

「すみませんそれはちゃんと払います!」


 各々が好き勝手なことを言い始め、収拾がつかない。

 そんな中、酔っ払ったガルドがバン! とテーブルを叩いて立ち上がった。


「馬鹿野郎! これは頑張った成果だろ? なら、楽しいことでパーッと使っちまえよ!」


 ガルドは懐から一枚のパンフレットを取り出し、テーブルに広げた。

 そこには突き抜けるような青空、エメラルドグリーンの海、そして真っ白な砂浜が描かれていた。


「見ろ! 常夏リゾート『サザンクロス島』だ!」

「おおっ、綺麗……!」

「ほう。我が知っているものより、こちらの海は随分と涼しそうだな」


 タケルたちの目が釘付けになる。

 サザンクロス島。ルミナ・シティから船で数日かかる場所にある、この世界でも屈指のリゾート地。年中温暖な気候で日差しが強く、様々なアクティビティや豪華な食事が楽しめる。と、パンフレットに書かれていた。


「賞金全部つっこんで、みんなで旅行だ! 海で泳いで美味いもん食って、酒飲んで思いっきり遊ぶ。最高だろ?」

「いいですね。最近働き詰めでしたし、たまにはそういうご褒美もアリかも!」


 タケルの脳裏に、ビーチサイドでトロピカルジュースを飲みながら優雅に過ごす自分の姿が浮かぶ。

 日々の激務、魔王のワガママ、書類との戦い……それらすべてを忘れて、南国でリフレッシュ。なんて魅力的な響きだろう。


「じゃあ決まりだな、行くぞサザンクロス島! 水着の準備をするぜぇ!」

「盛り上がっているところ申し訳ありませんが」


 テンションが上がったところでクールな声が響く。

 セレイナは眼鏡をクイッと押し上げ、魔導端末で計算しながら冷徹に告げた。


「却下です」

「「ええーっ!?」」


 タケルとガルドが声を揃えて叫ぶ。


「なんでだよセレイナ、たまにはいいじゃねぇか!」

「サザンクロス島への旅費、宿泊費、現地での娯楽費。この人数で行けば、賞金どころかギルドの予備費まで食い潰します」

「うっ……」

「それに、今後の活動費も必要です。無計画な散財は認めません。みなさん、それくらいの計算はしてください」


 セレイナの正論パンチに、タケルたちはぐうの音も出なかった。

 一同の恨めしそうな視線を浴びても、セレイナは動じない。むしろ、勝ち誇ったように笑みを浮かべた。


「ですが、仕事なら話は別です」

「え?」


 セレイナは魔導端末を操作し、テーブルの上に置いた。

 画面には『サザンクロス島観光協会・イベント出演依頼』という文字が表示されている。


「実は先日、観光協会からオファーが来ていまして。観光シーズンに合わせて開催されるイベントに、RE:Genesisを呼びたいと」

「マジですか!?」

「条件も悪くありません。現地までの交通費・宿泊費は先方持ち。ギャラも出ます。これを受ければ、仕事の合間にリゾートを楽しむことも可能です。どうしますか?」


 タケルの目が輝きを取り戻す。

 経費で旅行、しかもギャラまで貰える。夢のような話だ。


「セレイナさん……! もしかして女神ですか!?」

「マネージャーです」

「もちろん受けましょう、仕事とリゾートで一石二鳥です!」

「よっしゃあ! これで思いっきり遊べるぜぇ!」

「では、受けると返事しておきます。で、マスター」


 魔導端末で連絡をサクサクと進めたあと、セレイナはガルドに向き直る。


「確認ですが、ギルドマスター不在の間に『獅子の牙』を誰に任せるか考えてますか?」

「あ……」

「私は事務スタッフ内で今回の件を共有し、別日で穴埋めするつもりですが」

「……」

「もし任せる方がいないなら、マスターはリゾート同行不可ということで──」

「待て待て待て勝手に決めんじゃねぇ! 絶対代役を用意して穴を空けないようにするからな、俺もリゾートに行く! いいな!!」


 こうして、次なる目的地は南の島に決定。RE:Genesisとしての新しい仕事、そしてリゾートで過ごす特別な時間に心を躍らせるタケルたちだった。

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