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26. 次の挑戦はオリジナル曲(担当者不在)

 冒険者ギルド本部の奥にある大会議室。

 普段はSランク冒険者が集まった際の作戦会議などに使われる重厚な部屋だが、今日は少し毛色の違う議題で熱気が渦巻いていた。

 テーブルを囲むのは、『RE:Genesis』のメンバーであるタケルとヴァルガン、そしてギルド側のマネジメント担当であるガルドとセレイナだ。


「本日の議題は『RE:Genesisのネクストステージについて』です」


 セレイナはホワイトボードの前に立ち、手にした指示棒でパンパンと板面を叩いた。彼女の表情は真剣そのものだ、眼鏡がキラリと光る。


「ギルドとの提携により、活動環境は改善されました。依頼の質も向上し、知名度も徐々に上がっています。しかし、アイドルとして致命的な欠点があるのです」

「なんだ、我の歌が不満だというのか?」


 ヴァルガンが不機嫌そうに眉をひそめたが、セレイナは動じずに続けた。


「コンテンツの問題です。現状、ライブで披露したのは『カバー曲』のみ。これではプロとして弱すぎます」

「うっ、痛いところを……!」


 セレイナの指摘に、タケルは呻いて胸を押さえた。

 薄々気付いてはいたのだ。知名度の高いカバー曲を歌えば、手っ取り早く客の心を掴める利点がある。だが、それはあくまで他人の褌であり『そのアイドルだからこそ』という評価を得るのは難しいことを。


「今後、さらに大きなステージを目指すなら、避けては通れません。そろそろ『オリジナル曲』が必要です。RE:Genesisだけの代表曲が」

「オリジナル、か……」

「我の魂を乗せる、我のためだけの旋律を用意するということか。悪くないな」


 ヴァルガンは乗り気だ。

 自分だけの歌を持つ。それは『魔王ヴァルガン』という唯一無二の存在を世界に刻みつける、王としてのアイデンティティの確立にも繋がる。


「そこで、ちょうど良い機会があります」


 セレイナは一枚のポスターを取り出し、ホワイトボードに貼り付けた。

 『未来のスター発掘! 新人音楽祭ルーキーズ・フェス inルミナ・シティ』と書かれている。


「この音楽祭はステラ様のような超大物は出ませんが、これからを担う実力派たちが集う登竜門的イベントです。業界関係者も数多く視察に来ます」

「どれどれ……えっ、受賞したら賞金まで貰えるんですか!?」

「その通りです。優勝すれば知名度は『イロモノ』から『実力派』へと飛躍的に向上します。活動資金を得られるのも魅力的です」

「これだ! 優勝して『箔』をつけてから、さらに大きく打って出ようぜ。提携後のチャレンジとしては最高のタイミングじゃねぇか!」


 ガルドがテーブルをバン! と叩いて賛同する。タケルも興奮気味に拳を突き上げた。


「やりましょう。ヴァルガンのための最強のデビュー曲を作って、このフェスで初披露するんです! そして優勝をかっさらう!」

「我の魂を初披露する舞台に相応しいな、よかろう」

「わかりました。では、登録を行います」


 セレイナは手際よく魔導端末を操作し、その場で手続きを進めていく。


「エントリー完了しました。すぐにオリジナル曲の制作に入りましょう」

「はい!」


 と、そこでタケルはふと冷静になって全員の顔を見回した。

 熱意はある。方向性も決まった。イベント参加も決定。だが、肝心なピースが欠けていることに気づいてしまったのだ。


「……あの、素朴な疑問なんですが。誰か、作曲できますか?」


 シン、と会議室が静まり返った。

 タケルは自分の胸に手を当てた。アイドルの曲も山ほど聴いてきたし、良し悪しを判別できる自信はある。だが、音楽理論はわからないしゼロから曲を作った経験などない。


「我は即興で歌うくらいしかできんぞ」

「楽器は習ってましたが聴く専門です」

「俺にそんなことできるわけねぇだろ」

「誰も曲作れないじゃねーか!!!!」


 タケルの絶叫が会議室に響いた。

 作曲・編曲。現代日本ならクリエイターに発注すれば済む話だが、ここは異世界。ツテもないし、そもそも「魔王のための曲」なんて特殊なオーダーに応えられる作曲家がいるかどうかも怪しい。


「ど、どうするんだこれ……自力でひねり出すしかないのか……!?」


 前途多難なスタート。だが、エントリーしたことでもう走り出してしまった。

 オリジナル曲という新たな壁に、魔王軍は頭を抱えながら挑むことになった。


 *


 一方その頃。

 ルミナ・シティの一等地にそびえ立つ、巨大建造物『聖アイディール大聖堂』。ステンドグラスから七色の光が差し込む厳かな祈りの間で、一人の少女が神官から報告を受けていた。


「お時間をいただき申し訳ありません、マリアンヌ様。急ぎの報告がありまして」

「お気になさらないでください、お願いします」


 金色の紋様が刻まれた白の法衣に身を包んだ美少女。露出度は控えめなのに一目でわかるスタイルのよさ。髪型は緩く編み込んだシニョンで、美しいアッシュブロンドの一部は下ろされている。パッチリとした瞳は、吸い込まれそうな輝きのエメラルドグリーン。

 彼女の纏う空気は清廉潔白そのもの。この国の宗教の一つである『聖アイディール教』の象徴的存在として民衆から崇められている聖女だ。


「例の筋肉アイドルRE:Genesisが、来月の新人音楽祭にエントリーしたようです」

「あら……それは困りましたね」


 マリアンヌは眉を下げ、頬に手を当てた。その仕草は可憐で守ってあげたくなるような儚さがある。だが声色はどこか冷ややかで、事務的な響きを含んでいた。


「今年の音楽祭は我が教会の『聖歌隊』が優勝し、神の威光を示す計画になっているのでしょう?」

「はい。夏祭りでは、先日デビューした教会新人ユニットの実力アピールにも成功しております。新人たちに話題を流す点も加味すると、この音楽祭は重要なタイミングです」


 教会にとって、音楽祭は単なる娯楽イベントではない。布教活動の一環だ。

 清く正しく美しい聖歌隊が、圧倒的なパフォーマンスで優勝する。それにより教会の権威を示し、影響力を高める。そのための完璧なシナリオが既に描かれていたのだ。

 そこへ空気を読まない筋肉アイドルが殴り込みをかけようとしている。荒々しく野蛮な、でもなぜか人々を熱狂させるパフォーマンスで。


「あのような異端が目立っては、みなさんの心が惑わされてしまいます。そうなってしまうと、わたくしたちにとって不都合なんですよね」


 マリアンヌはふぅ、と溜息をついた。

 彼女はヴァルガン個人を恨んでいるわけではなく、彼が邪悪だから倒すといった正義感もない。ただ、「教会の計画スケジュールにとって邪魔な要素」という、極めて事務的な話だ。


「一度、彼らと『話し合い』をする必要がありそうですね」


 マリアンヌは優雅に微笑んだ。背景に百合の花が咲くような、聖女らしい笑顔で。


「まずは、平和的に辞退をお願いしましょう。……まあ、断られてもアイドルとしての実力差で踏み潰せばよいだけですから」


 彼女が視線を向けた先には、数名の少女たちが控えていた。

 シスター服をアイドル風にアレンジした聖歌隊の衣装を身にまとった彼女たちは、一見すると可憐なユニットだ。

 だが、その手にはマイクや楽器ではなくトゲのついたメイスや、刃のついた投擲武器──タンバリン──が握られている。モンスター鎮圧型物理攻撃特化アイドル『ホーリー・エンジェルス』、それが彼女たちだ。


「さあ、神の愛を教えに行くとしましょう」


 聖女の号令と共に、少女たちが殺る気満々の笑顔で敬礼した。

第二章はこれにて完結です。ここまで読んでいただきありがとうございました。

明日から第三章スタートです、以降は『お昼12時30分更新』となるので引き続きお楽しみください。


ここまで作品を読んで「次の展開が気になる!」「ヴァルガンを推したい!」と思った方は、ぜひページ下部のブックマークと星評価【☆☆☆☆☆】をポチっとしてもらえたら嬉しいです!


アイドル『RE:Genesis』が挑む次の目標も引き続き見守ってくださいね。

応援よろしくお願いします!

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