表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/97

24. 炎上商法(不可抗力)の功罪と働き方改革

「……聞くたびに思うんだけどさ。まともな報告だったこと一回もなくない?」

「俺もそう思う」


 ボロ家『ひだまり荘』の六畳一間。今日は女神ルミナスへの定期報告日、いつも通りヴァルガン不在のタイミングで通話だ。


「ま、今回の件はいい勉強になったでしょ? 無茶しても得なんてないんだから」

「……反省してる。自分のキャパを完全に越えたせいで、周りに迷惑かけたし」

「何事もほどほどが一番よ。私くらいのスタンスを見習いなさい」

「手抜きとグレーゾーン連打の中間管理職なんざ見習いたくねぇ~……」


 なんだかんだでルミナスも心配していたらしい。軽口を叩きつつも、いつも通りに戻ったタケルを見て安心した様子だ。


「でも、反省してる割にその量は大丈夫なわけ?」

「あー……これは色々あって……」


 普段は殺風景な部屋が、今は雪崩のように積み上がった書類の山で埋め尽くされていた。タケルはルミナスの指摘に深いため息をついた。その息には疲労と、それ以上の困惑が混ざっている。


「実はステラに認知されてから、オファーが急に増えたんだよ……」

「今までは害獣駆除とか土木工事メインだったんでしょ。変わったの?」

「ああ、だいぶ。こんな感じ」


 タケルは山の中からいくつか摘み上げ、その内容を読み上げる。


『新規オープンの酒場にて、賑やかしのライブをお願いします。なお、酔っ払いが暴れた際は、歌を中断して物理的に排除してください』

『商店街の福引大会の司会急募。筋肉を見せつけて客を呼び込み、ハズレを引いた客を威圧して納得させてほしい』

『ウチの息子の誕生日会に来てくれ。最近言うことを聞かないので、魔王の格好で泣かせて心の底から反省させてほしい』


「前に比べたらアイドルっぽいけど、方向性おかしくない?」

「わかってるよそんなのさあ!」


 思わず嘆くタケル。

 ステラによる公開処刑……もといウインク付き宣戦布告が放送されて以来、状況は劇変した。それまで純度100%の肉体労働ばかりだったのに、別の仕事が来るようになったのだ。

 ただ、アイドルとして認知されたわけではない。「ステラに噛み付いた面白い筋肉ダルマ」というネタ枠としての需要が爆発しただけなのだ。


「は~……このままじゃ歌って踊れる便利屋から、歌って踊って殴れる面白芸人にジョブチェンジしてしまう……」

「ま、今のところ魔王のコントロール上手くいってるみたいだし頑張ってよね~。この感じなら、神界側で何かすることはなさそうだから」


 *


 ルミナスとの通話後。

 仕事の打ち合わせに向かう道中、街の雰囲気は明らかに変わっていた。

 タケルとヴァルガンが大通りを歩いていると、すれ違う人々の視線が突き刺さる。ステラのコメントの影響で、目を向ける人がさらに増えたようにも感じる。

 そんな中、ヴァルガンは堂々と大通りの真ん中を歩いていた。パーカーの背中に刻まれた『RE:Genesis』の刺繍を、誇らしげに見せつけるように。


「フン。民衆の視線が熱いな。我の覇気に当てられているようだ」

「ポジティブすぎない!? どう考えてもやべー奴認定されてるぞ!?」


 タケルは小声でツッコミを入れるが、ヴァルガンは意に介さない。嘲笑する群衆に向かって優雅に手を振った。王が民衆の歓呼に応えるかのような、完璧なファンサだ。

 すると、奇妙な現象が起きた。あまりにも堂々としたヴァルガンの態度に、笑っていた通行人たちが逆に気圧され始めたのだ。


「お、おう……なんか、すげぇな……」

「普通、縮こまるだろ? なんであんなに自信満々なんだ?」

「ここまで突き抜けてると、逆にカッコいいかも……?」


 嘲笑が困惑へ、そして奇妙な敬意へと変わり始める。ヴァルガンはタケルに顔を寄せ、ニヤリと笑った。


「見ろタケル。笑っているということは、我を受け入れた証拠だ。順調だな」

「……」


 タケルは呆気にとられた。

 笑われているのではない、笑わせているのだという絶対的な自信。自分が魔王であるという芯が揺るがないからこそ、他人の評価などという些細な風には微動だにしない。これこそが、カリスマ性というやつなのかもしれない。


(……俺が気にしてどうすんだ。本人がこう振る舞ってるなら、俺も胸を張らなきゃな)


 タケルは顔を上げ、前を向いて歩き始めた。


 *


 その夜、『ひだまり荘』での作戦会議。

 依頼メールはひっきりなしに来ており、端末の通知音が鳴り止まない。以前のタケルなら、興奮して鼻血を出しながら「チャンスだ、全部受けます! 寝る間を惜しんで働きましょう!」と叫んでいただろう。


 だが。ふと、脳裏に蘇る光景がある。医務室の無機質な白い天井、身体が鉛のように重くて動かなかった感覚。そして何より、あの時のヴァルガンの顔と声。


『我を一人にするな』


 その言葉が、タケルの心に深く刻まれていた。


(また調子に乗って詰め込んだら、今度こそヴァルガンに迷惑をかける)


 タケルは自分に言い聞かせた。

 もう、空っぽじゃない。誰かのために自分をすり減らして、使い捨てられるだけの存在じゃない。


(俺はヴァルガンと一緒に、ドームの頂点を目指す「相棒」なんだ。だから、俺自身も大切にしなきゃいけない。倒れたら、そこで夢は終わってしまう)


 タケルは新しいノートを開き、マジックで大きく文字を書いた。


『RE:Genesis 活動ルール(魔王軍・働き方改革)』

 ・週に二回、難しくても一回は絶対休む(魔力回復と喉の休養のため)

 ・一日の稼働は十二時間以内(移動含む、オーバーしたら翌日に余裕作る)

 ・食事はしっかり摂る(エナドリ禁止、手作り推奨)


「ヴァルガン、これからはこのルールを守って活動するぞ」


 タケルがノートを突きつけると、ヴァルガンは眉をひそめて覗き込んだ。


「働き方改革、だと? 依頼も厳選するのか?」

「ああ。お前の価値を守るため、そして長く戦い続けるためだ」

「我は三日三晩、勇者軍と戦い続けても平気だったぞ?」

「今回の件でよくわかった、俺は全然平気じゃない! それに、無理して質が下がったら本末転倒だろ? プロとして、コンディション管理も仕事のうちだ」


 タケルが珍しく強い口調で言うと、ヴァルガンは少し考え、やがてフッと笑って頷いた。


「一理ある。王たる者、万全の状態を維持するのも務めか」

「ホッ……わかってくれて何よりだ」

「貴様が倒れては、我のMCをフォローする者がいなくなるからな」

「そこはトーク力磨いてなんとかしろよ!」

「善処しよう。だが、サポートがあった方が心強いのは確かだ」

「……まあ、うん。そう言ってもらえるのは嬉しいっちゃ嬉しいけど」


 二人は顔を見合わせて笑った。

 タケルはスケジュール帳を開き、赤いペンで大きくバツ印を書き込んでいく。仕事を断る記号ではなく、今後も活動を継続するための休息の証だ。


「よし、明日はオフ! たまにはゆっくり特売でも見に行かないか?」

「市場の視察か。構わんぞ」

「確か明日はお肉が安い日だし、ちょっと贅沢するなら何がいいかなー」

「肉ならばドラゴン級の塊肉を所望する」

「却下、豚こまで耐えろ。その代わり、予算内でいっぱい食べさせるから」


 六畳一間のボロ家に、穏やかな時間が流れる。

 明日は休み。頂点を目指すためにゆっくり寝て、美味しいものを食べて、アイドルとしてのエネルギー補充だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ