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25. 力仕事はお任せあれ!……歌は!?

 翌朝。

 ボロ家『ひだまり荘』の六畳一間で、タケルは目を覚ますなり異変を感じ取っていた。枕元に置いていた中古の魔導端末が、カイロのように熱を帯びて淡い明滅を繰り返しているのだ。


「……なんだ? 端末が熱い……魔力回路がショートしたか?」


 タケルは慌てて画面を起動すると『ルミナ地下掲示板』の更新を知らせる文字がびっしりと並んでいた。何か自分たちに関わるレスが来た時に備えて、通知登録をしていたのだ。


「えーと……『新着書き込みあり』……は? 百件以上!? この時間に!?」


 魔力を消費して書き込むこの世界において、百件のレスというのは異常事態だ。タケルは通知が来たスレッドを探すと、一番上に出てきた。


【映像あり】公園の歌う不審者、ワイバーンに素手で勝利


 スレッドタイトルを見ただけで、タケルの血圧が上がった。間違いなく自分たちのことだ。


「ついに……ついに俺たちの時代が来たのか!?」


 期待と不安を胸に、タケルは画面をスクロールした。通信魔力が追いつかず、文字が一行ずつゆっくりと表示される。


 12:名無しの魔導師

 動画見た。なんだこれは。

 身体一つでワイバーンを相手にするなんて……。

 強化魔法の輝きも見えない。純粋な膂力のみか?


 13:名無しの魔導師

 >>12

 見たところこの男の筋肉、かなり実用的なものだ。

 生半可な鍛え方ではこの領域に到達できないだろう。

 下手をするとそこらの冒険者より強い可能性まである。


 14:名無しの魔導師

 しかし歌声の威圧感がすごいな。

 鼓膜ではなく、生物としての本能に恐怖を訴えかけてくる。


 15:名無しの魔導師

 アイドル(筋肉)


 読み終わったタケルは膝から崩れ落ちた。掲示板の住人たちは魔王ヴァルガンの歌唱力やパフォーマンスではなく、戦闘力と筋肉について熱い議論を交わしていたのだ。


「ふわぁ……騒がしいぞ。どうしたタケル」


 悶絶しているタケルの物音で目を覚ましたヴァルガンが、むくりと起き上がる。


「いえ、その……昨日のライブが話題にはなっています。なっていますが……方向性が違うんです! 強いとかそういうのばっかりで」

「方向性? 我の強さが評価されたのなら、あながち間違いではない」

「間違いだらけですよ、アイドルなんですから! 暴力装置じゃありません!」


 タケルは涙目で訴えたが、現実は無慈悲。掲示板の書き込みが変わるわけではない。


(いや、落ち着け……この反応は一旦置いておこう……)


 タケルは一度深呼吸をして落ち着きを取り戻す。改めて端末を確認すると、スレッドの通知以外に端末の『個人宛通信ボックス』の通知も来ていた。酒場で配ったビラに連絡先を載せた効果が早速出たということだ。


(魔力を使ってわざわざ連絡が来た、つまり相手も本気ということ! きっと仕事の依頼か何かに違いない。オファーを受けて、そこから軌道修正しよう!)


 タケルは通信ボックスを開き、届いた依頼文を読み上げた。


『送信者:建築ギルド』

『要件:岩盤が予想以上に硬くて困っています。その素晴らしい肉体で岩を砕いていただけないでしょうか。日給一万ルマ。追伸:歌は不要です』


「土木工事! しかも歌うなって書いてある!」


『送信者:北の開拓村・村長』

『要件:冬眠し損ねたモンスターが出て困っています。至急、例の「奇声を上げて気絶させるやつ」をお願いします。美味しい鍋をご馳走します』


「害獣駆除! せめてスーパー・シャイニィ・シャウトくらい覚えろや!」


『送信者:ハヤテ運送』

『要件:大型魔導冷蔵庫を一人で五階まで運べる人材を探しています。即戦力として期待しています』


「ただの力仕事!」


『送信者:地下闘技場プロモーター』

『要件:メインイベントの対戦相手が逃亡しました。緊急参戦求む。ルール無用、武器の使用も可』


「デスマッチ!」


 残りのメッセージも全て同じようなものばかり。読み終わったタケルは端末を机に叩きつけた。


「歌の仕事が一個もない! アイドルじゃなくてなんでも屋だと思われてるぅー!!」


 見事にフィジカル系の依頼しかなかった。せめて結婚式の余興とか、商店街のイベントとか、そういうのを期待していたのに。


「……待て。これはどうだ?」


 ヴァルガンがリストの一つを指差した。


『送信者:魔導重機メーカータイタン』

『要件:新作ゴーレムの耐久テストを行いたいのですが、破壊していただけますか?』


「テストクラッシャーじゃないですか! 余計に暴力イメージがつきますよ、なんでこれを選んだんですか!?」

「面白そうではないか」

「そんだけかい!!」


 タケルは頭を抱えた。このままではアイドル『RE:Genesis』は「歌って殴れる便利屋」として定着してしまう。

 慌てて掲示板に書き込みをしようとするが、指が止まる。『我々はアイドルです! 平和的なお仕事待ってます!』……なんて書いても、そういう設定の戦闘狂集団と思われるのがオチだ。


 ネット(掲示板)のノリというのは、一度定着すると中々修正が効かない。現代日本でも異世界でもそれは同じだった。タケルは絶望に打ちひしがれていたが、ヴァルガンの反応は意外なものだった。


「タケルよ。嘆くことはない。どんな形であれ、民衆が我を求めているのだからな」

「で、でも……これじゃアイドル活動とは……」

「岩を砕き、獣を狩る。それもまた、我にしかできない『ファンサ』の一環だろう?」


 ヴァルガンは立ち上がり、マッスルポーズを決めた。朝日に筋肉が輝く。


「それに、今の我らには活動資金が必要なはずだ。まずは名声と軍資金を稼ぐ。歌を聴かせるのはそれからでも遅くはない」

「……!」


 タケルはハッとした。ヴァルガンの方がよっぽど現実的で、そして前向きだ。プライドが高いはずの彼が「求められるならなんでもやる」と言っているのだ。プロデューサーが選り好みしてどうする。


「……そうですね。わかりました! やりましょう、便利屋アイドル! どんな依頼でも、歌って踊って解決してやりましょう!」

「望むところだ。我の拳(と歌)で、あらゆるトラブルを粉砕してやる」


 こうして、『RE:Genesis』の活動方針が決定。彼らが真に歌で評価される日はまだ遠いが、この勘違いを上手く利用してやると覚悟が決まったのだった。

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