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21. やっと来ました初仕事!

 動画が拡散されてから数日。二人のビラ配りは相変わらずの日課となっていたが、通行人の反応には明らかな変化が生まれていた。


「あ、動画の人だ」

「マジ? わー、実物はもっとデカイな……」

「おお、あのパーカー本当に着てる」


 指を差され、ヒソヒソと笑う声も聞こえる。だが、以前のような恐怖や無関心だけではない。明らかに好奇心が混じっている。タケルが笑顔でビラを差し出すと、面白半分とはいえ受け取ってくれる人が増えたのだ。


「ありがとうございます! 『RE:Genesis』です! 動画も見てくださいねー!」

「兄ちゃんたち、ちょいといいかい?」


 不意に、張りのある声がかけられた。タケルが顔を向けると、そこに立っていたのは背が高く強気そうな雰囲気の女性だった。

 年齢は三十代半ばくらいだろうか。使い慣れた雰囲気のエプロンを着け、豊満な胸を得意げにアピールしているディアンドル風の衣装。茶髪をゆるく大きめの三つ編みにまとめて肩にかけている。


「アンタたちだろ? あの雨の中で歌ってた馬鹿……いや、ロックな奴らは」

「は、はい! 我々です! 動画、見てくださったんですか!?」

「ああ、見たよ。知り合いの冒険者が酒の肴に見せてきたのさ。アタシはリザってんだ」


 リザと名乗った女性は、ガハハと豪快に笑いながら言葉を続ける。


「度胸あるねぇ。あんな土砂降りの中、客もいないのによくやるよ。正直、腹抱えて笑った」

(やっぱり笑いものかぁ……)


 タケルは苦笑いした。しかし、リザは続けた。


「でもね、嫌いじゃないよ。そういうド根性のある奴は面白いからね。どうだい? 今度、うちの店で歌ってみるのは」

「え?」


 タケルの動きが止まった。今、なんて言った?


「う、歌う? お店で?」

「ああ。アタシは街外れで『赤竜(せきりゅう)のあくび亭』って酒場をやってるんだ。旦那が作る料理は自慢の一品なんだけど、最近はちょいと客足が悪くてねぇ」

「景気が悪いとかですか?」

「いや、街外れはモンスターが出やすいんだよ。街の結界ギリギリだからさ」

「そりゃ客足が悪くなるでしょうね……」

「仕方ないじゃないか、その方が安いんだから! まあ、そういうわけでうちの店に来るのは荒っぽい冒険者ばかりでね」


 リザはポリポリと頭をかいて話を続ける。


「アンタらみたいな見世物でもあれば、少しは話題になって盛り上がるかと思ってさ。ま、報酬は小遣い程度の金と安酒と賄い飯くらいだけど、それでもよけりゃ……」


 条件は決して良くない。場所は場末の酒場、客層は荒くれ者の冒険者たち。扱いは客寄せパンダ、より適切な表現をするならヘンテコな見世物扱い。

 タケルは恐る恐るヴァルガンの方を見た。魔王に対する侮辱とも取れるオファーだが、こんな扱いを許すだろうか?


「……どうします? ステージなんて呼べる代物じゃないかもしれませんし、客層も悪そうですけど」

「フン。愚問だ、タケルよ。我の歌を求めている者がいるなら、それだけで十分だろう」

「!」

「それに、見世物呼ばわりされたままでは終わらん。いいか、女将よ。我の歌声で、貴様の店を震わせてやるから覚悟しておけ」


 ヴァルガンの口元には余裕の笑みが浮かんでいた。かつての彼なら、無礼者と一蹴していただろう。だが、今のヴァルガンは知っている。泥の中から這い上がる楽しさを。そして、自分の歌が誰かの心に届く喜びを。


「……やります!」


 タケルはリザの手を強く握りしめる。


「やらせてください、最高のイベントにします! 必ず客単価を上げてみせますから!」

「へえ、熱いね兄ちゃん。気に入った! じゃ、詳しくはまた相談して決めるとしようか。ステージはこっちで用意しとくからね!」


 *


「セットリストはどうしますか? 店の雰囲気的に、バラードより盛り上がる曲がいいかもしれません!」

「ああ、冒険者共を大いに沸かせる曲がよいだろうな」

「年代的に少し上の人が集まるかもしれないので、今の流行りより馴染みがありそうなところを狙って……」


 ボロ家に戻った二人は、遠足前の子供のように楽しげに会話をしながら準備を始めた。ヴァルガンは衣装のパーカーを入念にブラッシングし、タケルは小躍りしたい気持ちを抑えて新たなカバー曲の候補を探し始める。


「初めての……仕事ですね」

「うむ」


 今までは自主的な活動だった。だが今回は誰かに求められ、場所を提供され、対価を貰う仕事のオファーだ。プロとしての第一歩。ヴァルガンは拳を握りしめた。その目には、戦場に向かう戦士のような鋭い光が宿っている。


「緊張しますか、ヴァルガン?」

「まさか。むしろ、昂ってきたくらいだな」

「見せてやりましょう、俺たちの本気を。酒場を、伝説のライブハウスに変えてやるんです!」

「無論だ!」


 街外れの小さな酒場から、二人の新たな挑戦が始まろうとしていた。

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