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5. 無限湧き魔獣!? 姿を消した龍神様の謎

「はーい、みなさんおはようございます! 『突撃! RE:Genesis辺境開拓日誌~スイレイ郷編~』第二回、今日も元気にスタートです!」


 翌朝。爽やかな朝日が降り注ぐ中、タケルはテンション高めに魔導カメラを構えた。この動画を見るであろう視聴者を意識して、明るく元気に実況を続ける。


「ヴァルガンの覇王開拓撃で荒れ地を見事……まあ、その、見事に……耕し、立派な畑の土台を作りましたね。ほぐした土には種も蒔いておきました。今日は一晩経った畑のお手入れといきましょう!」


 ゆっくりとカメラをパンさせ、昨日ヴァルガンがクレーターだらけにしてから一応は平らにならした畑へとレンズを向けた。


「さあ、ここから次の一歩を……って、えええええっ!?」


 タケルの実況が素っ頓狂な裏返り声に変わる。カメラのレンズ越しに見えた光景に、自分の目を疑った。

 ボコボコに粉砕して柔らかくしたはずの場所が、まるで魔法にでもかけられたかのように再びカチカチにひび割れ、不健康な荒れ地へと様変わりしていたのだ。


「なっ……なんだこれ!? なんで元に戻ってんだよ!」


 慌てて畑に駆け寄り手で掘り返そうとしたが、岩のように硬くて指先が痛くなっただけ。昨日蒔いたはずの種は干からびて表面に浮き、あっさりと枯れていた。


「ぬう。我の拳圧が足りなかったか? ならば次は、大地ごと粉塵に変えるほどの気合いで叩き潰してやるか」

「やめろ! それもう破壊活動だから! 畑ごと消し飛ばす気か!」


 タケルがヴァルガンの腕にしがみついて必死に止めていると、ガサガサッ……と畑の隅の茂みで物音がした。


「……ん?」


 音のした方を見ると、額に小さな角が生え丸々と太ったタヌキのような小型の魔獣が数匹集まっていた。

 彼らはタケルたちがあらかじめ持参したお昼用の食事を、もきゅもきゅと美味しそうに食い荒らしている真っ最中だった。


「なっ!? コラァッ! お前ら、何勝手に俺たちの飯食ってんだ!」


 カメラを持ったまま、小魔獣たちに向かって怒鳴った。

 タケルの声に驚き、タヌキ魔獣は「キュゥッ!」と鳴いて威嚇する。


「小賢しい獣め。我の飯を奪うとは、死にたいようだな?」


 ヴァルガンが一歩前に出て、真紅の瞳で魔獣たちをギロリと睨みつけた。

 殺気を含んだ魔王の威圧感プレッシャーが放たれた瞬間。タヌキ魔獣たちは恐怖で飛び上がり、蜘蛛の子を散らすように森の奥へと一目散に逃げていった。


「ふぅ、油断も隙もない……って、ああっ!?」


 タケルがホッとしたのも束の間。

 今度は畑の反対側からウサギのような魔獣がコソコソと現れ、枯れた種をかじり始めた。


「また出た! こら、あっち行け!」


 畑から追い払うと、今度は背後の屋根の上からサルのような魔獣が顔を出す。タケルたちに向かい、イタズラで木の実を放り投げてきた。


「キキッ!」

「あてっ!? あーもう、キリがないぞ! これじゃ開拓どころか飯すら守れない……!」

「はは。これがこの村での日常だ、身に沁みただろう?」


 そこへ、村を巡回していた様子のレオナルドが諦めた半笑いを浮かべながら歩いてきた。サル魔獣の投げた木の実が頭にヒットしてもノーリアクションだ。


「これ、どうなってるんですか!? 一晩で土は戻るし、結界はザルだし!」

「言ったはずだ、この村はもう限界だと。リンファが修復できるのは、あくまで表面的な大きな綻びだけ。土地のマナそのものが弱り切っているから、小さな魔獣の侵入までは防ぎきれないしすぐ荒れ地に元通り」


 レオナルドは、枯れた種を足先でツンツンと小突いた。

 自分たちがやった時もこうだったなという哀愁が漂っている。


「私たちも赴任当初は肥料をやったり、魔獣避けの柵を作ったり色々試した。だが、徒労に終わる。……だから、みんな諦めるのさ」

「ここまでダメって、流石におかしくないですか!? だって龍神様がいるんですよね!?」

「正直、私はそれも疑わしいと思っている。色々調べた情報を合わせると違和感しかないんだ」


 声のトーンを潜め、静かにレオナルドは語る。

 この話を村人に聞かれたらマズいと感じているのだろう。


「この村にはかつて『龍神祭』という催しがあり、龍神が郷に降りて姿を現していたらしい。なのに、いつからかそれがなくなってしまったそうだ」

「む? 姿を見せていたはずの神が、突然村に顔を出さなくなったというのか」

「そうだ。だからこそ、龍神は既にいなくなっているのではないかと考えている」

(龍神祭……龍神様が姿を見せなくなった……。まさか、龍神様に何か異変が起きた?)


 一つの仮説が形作られていく。

 村人たちの信仰心が足りないからじゃない。リンファの祈りが弱いからでもない。龍神様自体に根本的な原因があるのではないかと。

 理由が何であれ大元の『マナの供給源』が断たれているのなら、いくら表面を繕っても意味がない。村がゆるやかに破滅へと向かうのも納得だ。


「……この村をなんとかするには龍神様に会って、話を聞くしかないのかも」

「おい、正気か? 本当にいるかどうかすらわからないんだぞ」

「そこも含めて、全部確かめる必要があります」

「直談判か、面白い。表に出る気がないというなら、我が引きずり出してやろう。案内せよ、タケル」

「いや、俺も場所は知らないんだけどな。……よし、リンファに聞きに行こう!」



 レオナルドに案内してもらい、タケルとヴァルガンは足早に村の奥にあるリンファの家に向かう。

 神域とされている山の麓にある、社務所を兼ねた雰囲気の自宅。こっそり庭を覗き込んで見ると、縁側で古びた書物を整理している最中のようだった。


「リンファ。ちょっといいかな?」


 タケルが声をかけると、彼女はすぐに警戒の色を浮かべて視線を向けた。


「……何? また何か壊したの?」

「俺たち、この村のマナが枯渇した原因を探りたいんだ。理由を調べるため龍神様と話したいんだけど、会う方法はないかな?」


 単刀直入に切り出したタケル。

 だが、その言葉を聞いた瞬間……リンファの顔色が変わった。警戒心は明確な敵意へと変わり、立ち上がってタケルを睨みつける。


「……本気で言ってるの?」

「ああ。流石にこの状況はおかしいと思ってる。ヒントを得るためにも龍神様から詳しく話を聞きたいんだ」

「ダメ、絶対。あんたたちみたいなよそ者を神域に入れるわけにはいかない」


 タケルは真剣な眼差しで訴えたが、リンファは首を横に振って拒絶した。声色は固く、冷たい。


「よそ者って……一応、領主代行としてこの村を良くしようと──」

「撮れ高がほしいだけでしょ? そんな遊びに、神聖な龍神様を巻き込まないでって言ってるの」

「ほう。拒否するのなら、この村に今以上の災厄をもたらしてやろうか?」

「ヴァルガン、そういうのはダメだ。……頼む。俺たちもこの村をなんとかしたいと思ってるんだ。せめて、事情を聞くだけでも……」


 タケルの懇願に、リンファは苛立たしげに舌打ちをした。

 村の現状が悪いのは事実だし、それに昨日の魔獣騒動で結界を維持しきれなかった負い目もある。

 彼女は深くため息をつき、渋々といった様子で口を開いた。


「そこまで言うなら、代わりにあたしが龍神様にお伺いを立ててきてあげる」

「代わりって、俺たちが直接話すんじゃ……」

「これが限界。部外者を神域に入れるなんて認められない、嫌なら帰って」

「……わかった、じゃあ頼むよ。この村で何が起きているのか、詳しく教えてもらってくれ」


 リンファにそう伝えると、彼女はタケルの返事も待たず足早に神域があると思われる方へと向かっていった。


「しょうがないか。窓口担当がいてくれるだけでもマシと考えよう」


 *


 龍神様の返事を待っている間、一同は村にあるレオナルドの駐在所……という名の、隙間風の吹くボロ屋で話をすることにした。


「あまり期待しすぎると、余計にダメージを受ける。諦めるなら早いほうがいい」

「諦めるつもりはないですけど、リンファが……あそこまで拒絶されると、どうしたものかと困っちゃいますね……」

「……彼女の過去を知れば、少しは同情する気にもなるさ」


 レオナルドはそう言って、駐在所の奥から古びた書類の束を取り出してきた。

 リンファの名前の上に、家族だったであろう人々の名が記されている。


「龍神の巫女は代々世襲制でな、先代の巫女はリンファの祖母だった。だが、祖母が亡くなった後にリンファの両親は郷に愛想を尽かし、リンファを置いて街へ逃げてしまったんだ」

「えっ……両親が、捨てた?」

「正確には、連れて行こうとした。こんなところで暮らすのはやめて、都会でゆっくりしようと。それをリンファが拒否して残ったんだ」


 両親が先に諦めた。それでも、この村に残ると決めた女の子。

 だからこそ、あんなに必死になっていたのかと納得するタケル。


「巫女を受け継いだ自分がいなくなれば、龍神様のお役目が完全に途絶える。だから彼女は、役割と思い出だけを支えにたった一人で結界を守り続けてきたわけだ」


 レオナルドは書類の束をパラパラと捲りながら、同情交じりに語った。


「村人たちは一応、リンファの手伝いをしている。だが、解決のため自ら動こうとはしない。リンファもすべて背負い込んでしまっている、あの若さでな」


 その言葉を聞いて、タケルの胸がチクリと痛んだ。アイドルなんか大嫌い。彼女がそう叫んだ理由が少しだけわかった気がした。

 企画のため自分たちの村にやってきた、撮れ高を探しているアイドル。彼女からすれば、無責任で甘えた存在にしか見えないのだろう。


「……だからあんなに、龍神様第一なんですか」

「ああ。龍神様がこの村を見守ってくれている。その信仰だけが、あの子の心が折れないための唯一の拠り所なんだよ」


 レオナルドは取り出した書類の中から、一枚の色褪せた絵巻物の切れ端をタケルに差し出した。


「ついでに、これも見るといい。駐在所の整理をしていた時に見つけた資料だ。『昔の龍神祭』の様子が描かれている」


 タケルが絵巻物を覗き込むと、そこに描かれていたのは予想外の内容だった。

 巨大な龍……恐らく、龍神様と思われる人物が中央にいる。村人たちと一緒に輪になって座り、大口を開けて笑い合っている姿だ。


「これ、今みたいな『触れちゃいけない絶対神』って感じとは違う……?」

「ああ。村人と同じ目線で酒を飲み、共に楽しむ。かつての龍神は、もっと身近な存在だったらしい」


 現在のリンファや村人たちが抱いている「遠くから崇め奉る神」というイメージとの激しいギャップに、タケルは違和感を覚えた。


(どうして、この神様が誰とも会わなくなっちゃったんだ……?)


 *


 数時間後。

 夕暮れ時になり、ようやくリンファが山から下りてきた。


「おかえり。龍神様はなんて言ってた?」

「……龍神様のお言葉、よく聞きなさい」


 彼女は小さく咳払いをして、神託を伝えるように厳かに告げた。


「時が来れば恵みは戻る、東の池で祈りを捧げて静かに待て。そう仰った」

「ええっ!? なんだその抽象的な内容は! 何もかもさっぱりわかんないぞ!」

「龍神様が仰ったんだから、間違いない」


 タケルはツッコミを入れ、レオナルドも「そんなものだろ」と溜息をついた。

 とりあえず、タケルとヴァルガンは村の東の方角を探索してみたが、そこには干上がった窪地があるだけ。池と呼べるようなものは見当たらなかった。


 神託に従って数日様子見をしたが、当然のごとく土地が元に戻ることはない。小魔獣たちがコソコソと侵入してきては嫌がらせをしていく状況も、全く変わらなかった。


「全然ダメじゃん……これじゃ明日もモグラ叩きだぞ……」

「フン。あの小娘の言葉、嘘ではなさそうなのが厄介だな」

「えっ? でも池なんかないし、何も解決してないぞ?」

「言葉そのものに嘘はない。だが、『神の真意』でもないということだ」


 ヴァルガンは魔王としての鋭い洞察力で、リンファの言葉の裏に何があるのか。その正体を的確に感じ取っていた。


「神に縋りたい己の願望が成立するよう、意味を歪めて解釈したのだろう。例えば神が『何もする気はない』と伝えたとして、小娘が『待っていれば大丈夫』と変換したようなものだ」

「だとしたら余計ヤバくないか!?」


 もし、ヴァルガンの言う通りだとしたら。リンファは現実から目を背けるため、自分自身すらも騙していることになる。なら、窓口をしてもらったところで何の意味もない。


「……伝言ゲームじゃダメだ。やっぱり俺たちが直接、龍神様と話してみる必要がある」


 なぜか人前に出なくなった神こそが、最大のキーマンであると勘が告げている。こうなったら、多少強引な手段になってもやるしかないとタケルは決心したのだった。

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