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25. その輝きは、世界を侵食する呪い

 海がオレンジ色に染まり、鳥の鳴き声が旅の終わりを告げるように響いている。

 ルミナ・シティへと戻る大型船のタラップ前で、RE:Genesis一行は荷物の積み込みを終えていた。


「いやぁ、楽しかったな! 一生分の夏休みを使った気分だぜ!」

「マスター、帰ったらギルドの報告確認が山積みなのでよろしくお願いします」

「うげぇ……夢から覚めるのが早すぎねぇかセレイナ……」


 ガルドとセレイナのいつものやり取りを横目に、タケルは名残惜しそうに島を振り返った。滞在した期間こそ短かったものの、あまりにも濃密な時間だった。

 魔獣退治、エリオとの対決、そしてみんなで楽しんだ打ち上げ。


「さーて、行くか」

「うむ。さらばだ、常夏の島よ」


 タケルとヴァルガンがタラップに足をかけようとした、その時だった。


「よっ! もう帰んの? 寂しくなるね~」


 軽薄な、しかしどこか温かみのある声。

 振り返ると、いつの間にか派手な私服にサングラス姿のエリオが立っていた。


「エリオ! 見送りに来てくれたのか?」

「まーね。一応、戦友ってことで? 元気でやれよ、本家さん。俺もしばらくしたらルミナ・シティに戻るけどさ」

「お前も社長に負けずに頑張れよ、応援してる」

「へへっ、任せといて」


 エリオは右手を差し出した。タケルはその手を握り返し、グッと力を込める。


「……なぁ、タケル」


 握手をしたままのエリオが、不意に真面目なトーンになった。

 真剣な瞳でタケルを見つめる。


「一つ、相談なんだけどさ。オレちゃんの新しいマネージャー、やんない?」

「へっ? マネージャー……?」

「ウチの社長はあんなだしさ。計算高いだけの大人じゃ、こっから上に行くの大変な気がするんだよね」


 エリオはチラリとヴァルガンの方を見たあと、再びタケルに向き直る。


「あんたみたいに熱くて、お人好しで、馬鹿みたいに一生懸命な奴が隣にいたら……もっとすごい景色を見れると思うんだ」


 冗談めかしているが、決してふざけていない。本気の勧誘だ。

 プロデューサーとしてのタケルの手腕、そして何よりタレントに対する愛を見込んでのオファー。


「給料は弾むよ? ヴァルガンより、ずっと楽させてあげられる自信あるし」

「……」

「だから……オレと組んでくれない?」


 タケルは少しだけ驚き、それから微笑んだ。

 接戦を繰り広げた相手からの、これ以上ない評価。光栄としか言えない。


「ありがとな、エリオ。そう言ってもらえて嬉しいよ」


 タケルは言葉を区切り、握手している手に少しだけ力を込める。


「でも、ごめん。俺は、あいつが頂点に立つまで見届けるって約束したから」


 タケルは少し離れたところに立つヴァルガンを見た。

 魔王は明後日の方向を見ているフリをして、耳だけはこちらに傾けている。

 手のかかる暴君で、世間知らずの相棒。でも、誰よりも自分を必要としてくれる最高のアイドル。


「俺の居場所は、ここなんだ」

「……そっか」


 迷いのないタケルの言葉。

 それを聞いたエリオは、パッと手を離した。


「あーあ、フラれちゃったかー! 残念無念!」


 エリオはおどけて肩をすくめ、いつものチャラい笑顔に戻る。その声に湿っぽさはなく、カラリとしていた。


「ま、いいや。あんたらに負けないくらい、オレちゃんもビッグになるからさ!」


 ビシッとタケルを指差しながら、いーっと歯を見せるエリオ。


「見てやがれよ! その時に『ああ、エリオのマネージャーしとけばよかった~!』って後悔すんじゃねーぞー!」

「おう、楽しみにしてる!」


 エリオは踵を返し、港の入り口へと走っていく。そこには、彼の出待ちをしているファンたちの姿が見えた。

 その光景に、タケルは安心した。彼はもう孤独じゃない、自分の足でファンの元へ帰っていけるようになったのだと感じられたから。


「まさか、引き抜きの打診をされるとはな」


 一部始終を見ていたヴァルガンが、ニヤニヤしながらタケルの肩を叩く。


「だが、我を選んだのは正しい。褒めてやろうではないか」

「そりゃそうだろ、一緒に頂点に立つって約束したんだから」

「もし受けていたら即座にこの島を吹き飛ばしていたところだ」

「怖ッ!」


 二人は顔を見合わせて笑い、タラップを登った。


 ボォォォォォォ……!


 汽笛が鳴り響き、船が岸を離れる。

 甲板の手すりに寄りかかり、遠ざかっていくサザンクロス島を眺める二人。


「次はどこへ行く?」

「もちろん、ルミナ・ドーム! ……の前に、山積みの書類仕事からだな」

「フン、現実は世知辛いな」


 希望に満ちた会話。

 今回の遠征で得た経験と自信は、彼らをさらなる高みへと押し上げるだろう。

 だが──光が強くなればなるほど、影もまた濃くなる。


 *


 サザンクロス島の奥深く、人跡未踏の原生林。観光客の歓声も届かない静寂の中で、水晶玉を見つめる女性──女神ルミナスがいた。

 彼女は、険しい表情で測定器の情報を確認している。


「……やっぱり、増えてる」


 水晶玉の中に浮かび上がるのは、地図上に示された無数の赤い点。

 それは『魔力溜まり』──魔素が異常に濃縮され、魔物が発生しやすくなる危険地帯の反応だ。


「この島だけじゃない。プリズマリアで魔力溜まりの発生率が急上昇してる……」


 ルミナスは唇を噛んだ。

 突然起きたクラーケン騒動も、決して偶然ではなかったのだ。本来ならありえない時期に現れた魔獣。それは世界そのものが軋みを上げ始めている証拠。


「魔獣の活性化、魔力溜まりの増加……。全部、魔王復活の影響ってことよね」


 ルミナスは水平線の彼方、ヴァルガンたちが乗った船が消えていった方角を見つめる。


「あいつが『善い魔王』になったとしても、存在するだけで世界を歪ませてる」


 魔王とは本来、世界に君臨し恐怖と混沌をもたらすためのシステムの一部。

 その強大すぎる魔力は、たとえ本人が平和にアイドル活動をしていようと関係ない。無自覚のうちに周囲の環境に影響を与え、世界のバランスを崩してしまうのだ。


「ヴァルガンが存在感を増すほど、世界への負荷も大きくなる。……アイドルとして本物の輝きを得るほどリスクも濃くなる、か」


 ルミナスは深くため息をついた。

 今はまだ小さな歪みで済んでいる。しかし、いずれ誤魔化しきれないほどの災厄となって顕現するだろう。

 その時、世界は魔王を許容できるのか。そして勇者候補として召喚されたタケルは、どんな決断を迫られるのか。


「はー、どうしたもんかしら……。このままじゃ、いずれバレるわよ……」


 女神の呟きは波音にかき消され、誰にも届くことはない。

 水平線に沈む夕日が、来るべき嵐の前触れのように海を赤く染め上げていた。

第四章はこれにて完結です。ここまで読んでいただきありがとうございました。

次は第五章スタート、今後は『火/木/土/日のお昼12時30分更新』となります。


ここまで作品を読んで「ヴァルガンどうなるの!?」「エリオも応援したい!」と思った方は、ぜひページ下部のブックマークと星評価【☆☆☆☆☆】をポチっとしてもらえたら嬉しいです!


アイドル『RE:Genesis』は、プリズマリアにどんな影響を与えるのでしょうか?

引き続き応援よろしくお願いします!

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