Q.男女の友情は成立するか。
━━━━━━夢を見る。
遥かに昔の、まだ物心がつく前のある一幕。
「ねぇねぇ、未来?大人になったら結婚しよう?」
その少女の言葉に俺は…きっと笑って承諾したのだろう。
━━━━━━夢を見る。
かなり昔の、中学校に上がった頃のある一幕
「未来?どうしたの?私の顔をずっと見て?」
その女子の言葉に俺は…きっと誤魔化して有耶無耶にしたのだろう。きっとあの言葉を忘れていると思っていたから。
━━━━━━夢を見る。
昔の記憶。彼女と会った時の一幕。
「未来?あの約束を覚えてる?……覚えてなくてもいいの。それでも私はあなたに伝えたい。私はあなたのことが━━━━」
━━━━━━━目が覚める。
「…………ふぅぅ」
悪い夢なのだろうか。俺はそう願いたい。だってそうでなければ、あの人に不誠実だろ?すると俺の起きた音に気がついたのか、足音が聞こえる。
「未来さん、体調は大丈夫ですか?」
「あぁ…少なくとも熱は引いたみたい。ありがとう、綾香さん。」
俺、美空未来の妻、美空綾香がふにゃりと微笑みを携えて俺に尋ねる。
「そういえば今日もでしたよね?お墓参り。準備はしていますから、朝食を早く食べちゃってください。子供達の世話は私がやっておきますから。」
「ありがとう…本当に、何から何まで。」
「いえ、いつもやってくれてますからね。そのお礼です。」
本当に、いつかお礼をしなければならない。ガチで。彼女のプレゼントを考えながら朝食と、準備をし終えたバックを持って玄関へ向かう。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
あの夢を見たからだろうか。なんだかその声が重なっているような気がして、ほのかに悲しくなる。ただ、それ以上に満足感を得る。きっと、普段してしまう声がけに反応してくれる声があるからだろうか?
駅に向かい、電車に乗る。いつもの降りる駅を通り過ぎて、ただひたすら遠くにある目的地に向かって、ただ…ただ…遠くへ。
「次は…西吉寺学園前、西吉寺学園前。降りる際はドアにご注意下さい。」
声が聞こえた。あの頃と変わらない、いつもの声。ずっとずっと続くと思っていたあの声が聞こえてきた。あの子が亡くなって、なんとなくいづらくなって逃げたことへの罪が自分に問われているような気がした。
駅を出たあと、目的地に向かって歩き始める。
10分ほど歩いたからだろうか?墓地についた。階段を登り、目的の墓を探す。
「えぇと、佐々木…佐々木…さ、さ……あった。」
彼女、俺の幼馴染で、親友で、だけどそれ以上にはならなかった人の墓。ここが俺の目的地。佐々木美優のお墓。それに向かって一人線香あげて呟く。
「今年も戻ってきたよ。」
…反応はない。そりゃそうだ。反応があったら怖い。それでも寂しく想うのは人間の性なのだろうか?
「最近第二子が出来たんだ。可愛い息子だよ。綾香さんも俺には勿体無いぐらい出来た人だ。俺がまだお前に引っ張られているのにも関わらず、俺と一緒になってくれた。最高の女性だよ。」
彼女は6年前に俺に告白をして、俺はそれを最初は拒否したものの、彼女に根負けして、最終的には結婚した。今となっては後悔していないし、勿論、あの人にも後悔はさせないように心がけているつもりだ。それでも、あの人に頼りっぱなしなのは事実な訳で……
だからこそ、俺はあの人に頼りっぱなしにはしないしできない。せめて、あの人にきちんと向き合うことが、男として…仮にも綾香の夫としての俺の義務だと思う。
「だから、俺はあなたにさようならを言いにきた。今までのように何日毎に来たりはしないよ。多分…お盆とかにしかいかないと思う。せめて、これぐらいが俺が彼女にしてあげられる唯一ことだと思うから。」
返事は無い。
「あなたがあの日、俺を公園に呼んで何かを告げようとしたその時、あなたは死んだ。飲酒運転のトラックが公園に突っ込んで来て、俺とあなたの両方を跳ね飛ばした。俺は一命を取り留めたが、あなたは即死だったらしい。」
返事は無い。
「本音を言うと、もうあなたのことを思い出すことも少なくなってきている。だってそりゃ10年も前のことだ。10年あなたを想ってきた。ただ、その記憶には色褪せてる部分が多いんだ。これを心に傷は時間が癒すって言うのかな?」
返事は無い。もう、彼女の声も思い出せなくなってきている。あの鈴のような、聞くものを落ち着かせる声も思い出せなくなってきている。彼女のどこか親しげのある瞳も、日本人にしては少し高い鼻も、いつも微笑んでいた口も、霧がかかっている。
それを、前を向いてるって言うのならばきっと…きっとそうなのだろう。
「…俺とお前は、まだ親友のままだ。馬鹿やって、怒られて、それでも笑い合った男女の親友。」
━━━━思い出す。あの夢の続きを
━━━━考える。トラックが来ていなかった世界線を。
━━━━妄想する。そしたらきっと━━━━━━━やめる。これ以上は考えたら…ダメだから。
「俺は、あの続きを聞こうと思わない。予想もしない。もしかしたらも妄想しない。俺とお前は親友のままだよ。友達以上恋人未満。親友…うん、それが俺たちの関係にちょうどいいな。」
カラスが鳴き始める。もうそろそろ時間かもしれない。
「じゃあな親友また来るからあの世で首を長くして待っててくれ。」
関係が変わるのを恐れてずっと想いを告げなかった役立たずと、勇気を出して一歩踏み出した結果望まぬ死を迎えた人。これは、もし俺が勇気を出してあの時よりも早く想いを告げたら、もし彼女が俺たちの関係が変わるのを恐れて想いを告げなかったら、こうはならなかった。
だから、俺はこの罪を抱えて生きていく。永遠に変わらない親友を想って…俺の幸せを見つけてく。
時折、過去に囚われるかもしれないけど…今の俺には待っててくれる人がいるから。
Q男女の友情は成立するか?
A成立する。だってもうこれ以上変わることもないから。俺たちのように。
そう心で唱えると、プリンを買って家に帰った。
「ただいま」
「おかえりなさい。美空さん。」
俺は、この笑顔を守るために、お前のいない世界で生きている。
初作です。
テーマは過去を受け入れて、前に進み始めることです。きっと彼にとってはここからが人生のスタート地点になると思います。




