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双書の黙示録 ― 終末を観測する少女 ―  作者: 夜柊乃
1章

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4/4

実力の評価

日付は一日進んだ。今は王立アルセイン学院、剣術課程の授業。

中庭の訓練場には、基礎剣術の型を反復する生徒たちの掛け声で溢れている。


「一の型!」


教師の一言を皮切りに、木刀が次々に振り下ろされ、乾いた音が断続的に響く。


レオン・アルトゥス・ヴァルディスは、列中央の最後尾に立ちながら全体を見渡している。

基礎の型は既に体に染みついている。物心ついたときから剣を振るい続け、授業で行う基礎など呼吸するのと変わりない。彼にとって、この時間は周囲の観察の時間である。


誰が伸びるか。誰が脱落するか。誰が”使える”か。

第一王子という立場上、人間を見る目は周囲とは異なる。有能な人材であれば学院にいる間は共に高め合い、いずれは我が国に招待し戦力となってもらう。あるいは要職に付けて王の地盤を固める。既に候補として目を付けている人物は三人いるが、レオンは新たに加えるべきかどうか、再評価するべき人物が目に映っていた。


リゼ・アルフェンだ。

常に物珍しい白狼を従えているが、頭の出来は良いとは言えない。魔術成績も凡以下で、剣術に関しては握りは甘く、踏み込みは浅い。剣を持ち始めたばかりの初心者。取るに足らない人物、周囲の有象無象の生徒と同列、以前の自分は、そう評価していた。

しかし、今彼女が振るう剣は今この場にいる生徒の誰よりも完成されたものになっている。自分と遜色ない程の出来だ。

重心、踏み込みは深く、振り下ろされた木刀の軌道には無駄がない。何より――止めが静かだ。力任せではないが鋭く、衝撃が消え流れる様に次の動作に入っている。呼吸も乱れていない。おおよそ、完璧。

型は基礎だ。基礎ほど誤魔化しが利かない。少なくとも、昨日までの彼女への評価とはまるで別人だ。


「二の型!!」


木刀の振りが変わる。レオンの目線の先には変わらずリゼの姿が映っている。

鋭い。研ぎ澄まされていて、昨日までに存在しなかった精度だ。


――何があった。偶然はあり得ない。それは己の身を持って証明できる。しかし、この短期間での成長にしては説明がつかない。評価を改める必要がある。


「そこまで!」


教師が手を打つ。授業が一区切りついた。生徒たちは教師の周囲に集まり、レオンもその中に歩み寄る。その横に、リゼが並んだ。特に意図はないであろう自然な動き。レオンは横目で隣の少女を見る。恐らく、偶然ではない。直観では、この場所に来ることを選んでいるように思う。


「これより、隣にいる者同士で打ち込み稽古を行う!ペアとなって散開!」


教師の指示で、訓練場の空気がわずかに変わる。

この学院には暗黙の了解のようなものがある。あらゆる物事において、選択するのは貴族側だ。学院は貴族と庶民の隔たりがない――ということになっているが、一般生徒が先に声をかけることはない。それが礼儀であり、秩序だからだ。

だが、ほとんどの場合貴族同士、庶民同士という形に収まる。立場の違う相手を選ぶということは、何かしらの意図、意味がそこに介在していることを示す。派閥だとか、勢力がどうだとか、面倒事が起きないようにそれぞれが立ち回っている。


「殿下、お相手を――」

「いえ、私が努めます!」


レオンの周囲にいた貴族生徒、レオンに近しい立場の貴族生徒たちが、我先にと声を上げる。しかし、レオンはそれらの誘いを断り、静かに隣に立っていた少女へと体を向け、


「リゼ・アルフェン」


わずかな沈黙。


「お前の評価を修正する必要がある。俺と打ち合え」


その言葉に、周囲に寄っていた貴族たちは一瞬言葉を失う。王族が庶民を選んだ。それだけで、周囲は罰の構図を想像する。が、レオンの言葉には評価を修正するとあった。つまり、この庶民はいまだ計り知れない実力を持っている可能性があるかもしれないということ。

確かに、今日見た少女の型は、数年は修練に打ち込んだ程の出来を見せていた。しかし、それは周囲の生徒に違いはほとんどわかっていないだろう。見分けがつくほど実力が高いわけではないから。この違和感に気づいているのは、レオンと教師だけだ。


「……はい」


リゼは表情を変えず、短い返答だけを返す。レオンが訓練場の空いている場所へと移動し、リゼもその後に続く。今のやり取りを見ていた貴族生徒達も、遅れて相手を決めて散開するが、その視線は件の二人に向けられていた。


レオンとリゼは距離を少し開けて相対する。木刀を構え、相手を注視し、教師が試合開始の合図を出すのを待つ。リゼは片手で木刀を握り、低く構える。それは基礎剣術で学ぶ構えではなかった。付け焼き刃で覚えたての扱いきれぬ剣術、今までの実力を見ればそう思うかもしれないが、隙が――無い。

まっすぐにこちらへ向けてくる視線。昨日向けてきたものとは別物だと肌で感じる。今この瞬間、レオンは初めて気味の悪い感覚に襲われる。野生の獣が獲物を仕留める直前に放つ、あの気配。


「それでは始め!」


教師の一声で生徒が打ち合いを始める。木刀がぶつかり合い、地面の砂が擦れる音が不規則に訓練場を包み込む。

しかし、レオンとリゼの二人だけは動かない。足の置き方、肩の角度、視線。昨日までとは完全に別人だった。少しでもリゼに隙があれば、レオンが先手を取っていただろう。鋭く、力を最大限乗せた一撃で終わらせるつもりでいた。それで十分の評価をしていたはずだった。

打てる。

だが――打てば負ける。


手が出せない。それだけがレオンの思考を埋める。


「……面白い」


小さく呟く。構えを変える。王族に伝わる正統な中段構え。幾度となく振るい続け、もっとも手に馴染む最強の剣。一瞬でも気後れした、その考えを振り払いたった一人の相手に全力を出す。


「行くぞ!!!」


先に仕掛けたのはレオンだった。

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