魅力王子の帰国
それから、すぐにタピオは自国へ帰った。
ヘルミが塔で一緒に暮らすと主張しはじめたからだ。
「サーシャちゃんは信頼できる友人の一人であり、ただの同居人だよ…。今までも何もなかったし、これからも何もないよ…」
タピオはキッパリと断言した。そして、ヘルミもタピオの話は信じている。
だが、そのサーシャはタピオに想いを抱いており、今はタピオにその気がなくてもサーシャへいつしか惹かれるときがくるかもしれない…。ヘルミは平静ではいられなかった。
サーシャはヘルミが今までみてきた女性のなかで一番の美人だった。どうやら、サーシャもヘルミも隣の芝生は青いようだ。
「私も共同生活いたします!タピオ様とひとときも離れたくございません!」
「ねぇ?お嬢様…。タピオの魅了にかかってないのに…。ベタ惚れだね?」
サーシャは指先でリスのように膨らんでいるヘルミの頬を突っついた。
ヘルミがタピオへ恋心を抱いたのは…。第三王子と婚約が決まった子供の頃だ…。
ヘルミの父親である公爵は、王家よりヘルミと王子との婚約を持ちかけられたとき、眉目秀麗な方が娘も喜ぶに違いないと第三王子を選んだ。同い年で話も弾むだろうとも考えていた。
ところが、顔合わせのとき、第三王子はじっとしていられず、すぐに席を外し学友たちと遊びに行ってしまった。もしかしたら、ヘルミの可憐さに照れてしまい逃げだしただけかもしれない。
しかし、残されたヘルミは居た堪れなくなり泣きだしてしまった。弟の付き添いで同行していたタピオはそんなヘルミに優しかった。
泣き止むまで寄り添い、好奇心をくすぐるような話題を振っては、耳を傾けてくれる。
4歳差はあったが、タピオは頼もしい兄的存在でヘルミはあっという間に彼へ夢中になった。
タピオの魅了魔法の作用もあり、ヘルミはタピオに会うたび恋焦がれて仕方なかったが、第三王子の婚約者であるため、ずっと心を押し殺し律してきたのだった。
「子供の頃から好きでしたの…。確かに…。私はタピオ様の魅了にかかっていたのかもしれませんが…。好きになったきっかけは、私の本心ですのよ…」
魅了魔法は相手に気持ちがないと効力が発揮しない。
「タピオ…」
「何だい?サーシャちゃん…」
「女の子にここまで言わせといて…」
「…。そうだね…。分かってるよ…。けど、僕が国へ帰れば、また無意識のうち、皆へ魅了をかけてしまうだろう?」
「それでしたら、私が何とかいたしましょう…」
ディアミドが口を挟んだ。
「確か、この塔から出るとき、罪人は魅了封じの魔道具を身につけるんですよね?それをいただきましょうよ」
「それは…」
タピオが口ごもり、レンニが続きを話す。
「以前…。タピオ様も修道女にご相談なさったのですが…。タピオ様は罪人ではないのでくださらなかったのです…」
魅了封じの魔道具は世間に混乱をもたらせた罪人が装着するのものであり、この国ではそれを身につけると、かつて魅了魔法を悪用した人間だと人々に周知することになる。
異国の王子へそのようなものを着用させるなど、外交問題に発展する危険が生じてしまう。
「ふむふむ…。では、分からないような形で持てば良いんですね…。タピオ様ご安心ください。私目には優秀な魔導師がついておりますので…。彼とは親友なのです。無理難題を吹っかけても笑顔で答えてくれるはずです…」
そうして…。決して快諾ではなかったが、渋々その話を受け入れてくれたディアミドの友人が指輪型の魅了封じの魔道具を作ってくれた。
こうして、彼らは帰国の途についたのだった…。




