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赤き翼の万能屋―万能少女と死霊術師―  作者: 文海マヤ
一章『万能屋と死霊術師』編
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第二話「食事処【イットウ】」-2


「……どうしたの? 人の顔をまじまじと見て」


「あ、いや、何でもないんだ。ちょっと疲れからかな、ボーッとしちゃって」



 僕は慌ててそう言ったが、怪訝そうに見つめてくる彼女の目は誤魔化せないようだった。


「……疑ってるんでしょ。こんな小娘が本当に【赤翼】なのかって」


 ドキリとした。

 疑っていない、はずがない。


 【赤翼】のことは僕も知っていたが、聞いていた噂話はどれも、屈強な大男を連想させるような話ばかりだ。


 数十人の野党を一人で倒したとか。

 単身でマフィアを一つ潰しただとか。

 干ばつで滅びかけた村を救っただとか。


 言っては悪いが、間違ってもこんな――矮躯(わいく)の少女の為したものであるなんて、考えられない。


「……正直少し、気になってはいる。【赤翼】って言えば、僕がガキの頃から名前が知れているような有名人だ。なのに、あんたはずいぶんと若く見える」


 リタの外見はどう見ても十四、五歳程度であり、間違っても僕より年上には見えない。しかし、伝わっている話が正しいのなら、【赤翼】は僕が生まれる前から活躍しているはずだ。


 世界一の万能屋。


 そのネームバリューの大きさから、名前を(かた)る者は多い。彼女もそうしている可能性は、決して低いものではないだろう。



「……まあ、そういうのは慣れっこだからいいけど。色々あってね、今は外見を誤魔化しているのよ」


「色々、って……?」


「そんなこと、あなたが聞いてどうするのよ。魔術を使えば、なんてことはないでしょう」



 言った彼女の表情に、ほんの僅かに陰りが見えた。

 余計なことまで聞いてしまったのかもしれない。どうあれ、今の僕には彼女に依頼する以外の道は残っていないのだから、わざわざ聞かなくてもよかったのに。


 咄嗟に「すまない」とだけ口にした。どこか(つくろ)うような調子になってしまったのは否めない。昔からそういった人の機微を感じ取るのは、どうにも苦手だった。


 リタはしばらく僕のことを値踏みするような目で見ていたが、そのうちに呆れたように首を振った。なんとなく馬鹿にされたようでイラっとしたが、そのくらいで済んだのであれば、まあ、マシな方だろう。

 一つ息を吐いて、彼女は言う。



「ジェイ・スペクター、って言ったわよね、あなた」


「あ、ああ。そうだが……」

 唐突に切り替わった話題に、思わず声が震えてしまった。


「スペクターってことは、【昏い街】を治める貴族の家の出?」


「……さすが、よく知ってるな」


「そりゃあ、知ってるわよ。スペクター卿と言えば大陸一の名君だし、何より、『死霊術』の大家だもの。そうでしょ?」



 その口ぶりは、質問というより半ば、確認のようなものだった。誤魔化しは効かないらしい。もっとも、そんなことをするつもりはないのだが。


 僕はジャケットの裏側に手を突っ込んで、霊符を一枚取り出した。先ほど、時間稼ぎに使ったのと同じものだ。その端を握ったまま強く念じて、これもまた先ほどと同じ青い炎を灯して見せる。


 死霊術。

 大気中のマナを用いて超常現象を巻き起こす魔術とは違い、死霊術は周囲に存在する死者の霊魂に働きかけることで発現を可能にするものだ。


 詳しい話は割愛するが、僕の父は死霊術の第一人者だった。母も、兄も、祖父も、祖母も。

 当然、僕も。


「そうだ。あんたの言う通り――僕らは死霊術師だ。んでもって、僕はその由緒正しきスペクター家の一員だよ。兄さまの出涸(でが)らしの、次男坊だったけどな」


 自嘲気味にそう言って、ほんの少しだけ、奥歯に力が籠るのを感じた。『だった』という響きが、予想の何倍も心に深く刺さったのだ。何気なく言えば飲みこめると思ったが、間違いだったらしい。


 そう、『だった』のだ。僕の肩書は、今はもう過去のものになってしまった。気楽な貴族の次男のままでいられたなら、こんなところまでは来ていない。


 ここまで来たのは――やらなければならないことがあるからだ。


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