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赤き翼の万能屋―万能少女と死霊術師―  作者: 文海マヤ
三章『竜の慟哭と壁の町』編
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第十四話「出陣」-2

 今回の依頼をこなすにあたって、ラティーンとリタが立てた作戦は至極シンプルなものだった。


 町の砦の両翼から分かれ、ドラコとリタが飛び立つ。僕とラティーンはそれぞれの相方についていきながら補佐を担当。

 リタと僕は地面を這う敵はすべて無視して、とにかく直進。


 呪いの根源である北の沼地までは、そこまで距離があるわけではない。とにかく、一刻も早く目的地に辿り着くことだけに集中すればいいという話だったが――。


「――こりゃあ、予想以上だな」


 リタに抱えられるようにして飛びながら、僕が眼下の景色を前に口に出せたのは、そんな月並みの言葉だけだった。


 地面を埋め尽くすのは――無数の魔物たち。もはやそれは、一個体を見分けることも難しく、一つの意思を持った本流のように町に押し寄せている。


 【壁の町】の壁上から確認もしている。これだけの数の魔物たちが迫っていることは、知っているはずだった。しかし、実際に間近で目にすれば、流石に恐れが先行してしまう。


「ちょっと、そんなに喋ってて、舌を噛んでも知らないわよ」


 頭上からリタの声が降ってくる。普段の飛行であれば抱えられているだけだが、今回、僕らの体は頑丈なハーネスで繋がれている。


 それだけ激しい動きが伴うということなのだろう。僕はハーネスの金具が外れたり壊れたりしていないかと、少しだけ目をそちらに向けてから、返事をすることにした。


「あ、ああ。大丈夫大丈夫、というか、魔物たちはみんな、地面を歩いているわけだしな。おっかないけど、別に無視していれば――」


 そんな軽口を叩いた僕の頬を、礫のようなものが掠めた。

 正面に視点を戻せば、羽ばたく影が見えた。それは一つや二つではない。翼を持つ無数の魔物たちが、僕たちの行く手を塞いでいた。


「まあ、当然よね」リタは、どこか呆れ混じりに。「飛べるやつだっているわ。これだけの種類の魔物が、湧いて出ているのならね――!」


 と、そこまで口にして、彼女の翼が鋭く閃く。


 そこから放たれた無数の羽弾が、魔物たちを穿ち、貫き、端からどんどんと落としていく。



「さ……流石だな。この程度じゃ、時間稼ぎにも……」


「だから、黙ってなさいってば!」



 ぐいんと、リタが大きく旋回する。それと同時に、僕の頭が先ほどまであったあたりを、何やら高速の物体が通過していく。


 それは、羽虫の群れだった。しかし、虫とはいえ僕の上腕ほどはあろうかという巨大な虫が、群れを成して飛んでいる。口元の大きな牙は、指くらいなら容易く食い千切るだろう。

 すかさず、リタは羽弾を放つ。しかし、群れの中の数匹が落ちただけであり、依然として、不快な羽音は絶えていなかった。



「おい、効いてないみたいだぞ! これじゃ……」


「大丈夫よ、大丈夫だから、もう少し静かにできないの?」



 呆れたように口にする彼女は、奇妙なほどに落ち着き払っているようだった。一体どうしてそこまで冷静にいられるのかと、そう思考するのと同時。


「私たちには、頼れる仲間がいるじゃない――」


 ――羽虫の群れを、飛来した火球が焼き払った。


 数十メートルは離れた位置にいた僕の頬も焦がすような灼熱の炎弾が、ぎらつく甲殻を、薄刃の翅を焼き尽くしていく。

 火球の飛んできた方向に目を向ける――までもなく、僕らの体を、大きな影が覆った。


「ばっはっはっは! おうい、リタ、こんな連中に苦戦してちゃあ世話ねえぜ!」


 僕らの頭上を飛ぶ、その強靭な体躯は竜種――ドラコのもの。そして、不安や恐れも吹き飛ばすような豪快な笑い声は、ラティーンのものだ。


 彼らは僕たちと同じ高度まで降りてくる。並ぶように飛びながら、余裕のサムズアップまで返してくる始末だ。



「うっさいわね、苦戦なんてしてないわよ。あんたこそ露払いの役割、しっかりしてよね」


「おいおい、ジェイくんよう。お前んとこのおひいさまは随分とわがままなんじゃねえのか?」


「僕んとこじゃないだろ、責任をこっちに持ってくるんじゃねえよ!」



 まあ、何だっていいがな。与太話をそう結んだ彼は、手にした槍を構え直す。

 それを合図にしたかのように、前方に無数の敵影が現れた。有翼人、羽虫、大きな鳥型の魔物も見える。


 普通に相手をしていれば、かなりの苦戦を強いられるだろう。しかし、万能屋二人の様子には、全く動揺が見られない。


「……任せて、いいのね?」


 リタの言葉に、ラティーンが強く頷いた。頭部を覆う兜は表情を覆い隠してしまっているが、彼が不敵に笑っているのだろうということは予想がついた。

 しかし、それでも空を埋め尽くさんばかりの数の魔物だ。一筋縄ではいかないだろう。



「……僕らも加勢したほうがいいんじゃないのか?」


「加勢も何も、どうせ、あんたは戦力にならないでしょ」


「本当のことを言うなよ、傷付くだろ」



 はあ、と溜め息を一つ。それは恐らく、無知な僕に対する呆れのニュアンスを含んだもので。


「――黙って見てなさい。これが、原初の騎竜兵の戦い方よ」


 リタがそう口にするのと同時、ドラコが一度、大きく羽ばたいた。それと同時に巨躯は加速し、魔物の群れに突っ込んでいく。



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