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赤き翼の万能屋―万能少女と死霊術師―  作者: 文海マヤ
三章『竜の慟哭と壁の町』編
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第十三話「思い/思い出」-2


「依頼人くらいには、話しとけよ。じゃねえと、お前はただの――」


「……わかってるわよ。全部、全部、全部」



 リタは、そう言って何かを飲み込むように、胸を強く押さえる。それは、彼女が今までに見せたことのないくらい、弱々しげな仕草だった。


 そこで、僕は席を立つ。流石の僕も、ここから先の話に自分が邪魔であることくらいは、察しがつく。



「おい、兄ちゃん、どこに行くんだ?」


「……僕がここで聞いてても仕方ないからな。どこか、客室で休ませてもらうぜ。その方が、あんたらも話をしやすいだろう」



 もう、彼の前では付き人のふりをする必要もなくなったのだ。それであれば、リタの仕事に深入りする必要もない。


 それに――リタの隠していることを、わざわざ聞き出す必要もないのだ。



「おい、いいのかよ。お前さんも、薄々勘づいてるんじゃないのか?」


「……そりゃ、まあ。でも、別にいいんだ。今も僕はこうして、無事なんだからな」



 ここまで二週間。何度か危なかったことはあれど、僕の命は確かに守られている。

 リトラ神父の手勢、偽イアン、有翼人たちとの戦い――は、だいぶ際どかったが、それはそれ。他でもない彼女の実力を、もう僕は疑ったりはしない。


「……お前さんがいいなら、いいか。客室は二階だ。昨日のうちにマキナがベッドメイクをしているはずだから、そのまま使って構わんぜ」


 僕は片手を上げて挨拶の変わりにすると、そのまま、ダイニングを辞すことにした。

 そうして階段を上がれば、すぐに煤けた扉が見えてくる。確認もそこそこにドアノブを捻れば、そこは先程までいた部屋と同じくらいの広さがある、ツインの部屋に繋がっていた。


 僕は壁際のハンガーラックにジャケットを掛けると、そのまま、ベッドに背中から倒れ込む。周囲に舞う埃と、外干しした洗濯物特有の匂いが、ふわりと鼻先に香る。


 自然、仰向けの姿勢は天井を睨むことになる。息を吸って、吐いて、吸って、吐いて。繰り返すうちに、心の水面が凪いでいく。


 ――リタが隠していること。

 ――明日の魔物退治。

 ――リトラ神父の追手。


 考えなくてはならないことが、いくつも積まれていた。考えれば考えるほど思考は堂々巡り、答えは出ない。


 とはいえ、緊急性が高いのは、追手についてだろうか。現に、僕は今日襲われたのだ。

 それに、マキナを人質に取っていた……つまり、彼女が僕たちの関係者だと、向こうも知っていたということなのだ。


「……とくれば、どこからつけられていたんだろうな」


 マキナが襲われた以上、この小屋に僕らが滞在していることは、既に露見しているのだろう。

 なら、街の中で尾行されたのか――あんな、人混みの中で?


 或いは、ドラコに乗って帰ってきたのが悪かったのかもしれない。竜種はひどく目立つ。もしかすると、その姿をリトラ神父の手下の一人に見つかったのか。


 その可能性はある。しかし一方で、連中がどうしてこの街にいたのかがわからない――最後に見た【夕暮れの街】からここまでは、列車を乗り継がなければ来られないくらいに離れている。


「……僕らがこの街に来ることが、わかっていたのか? どうして……」


 考えるべきは、ラティーンが内通者である可能性。

 ゼロではない。だが、リタがあれだけ素直に話したのならば、その可能性はかなり低いだろう。彼女は、僕よりずっと頭が回る。


 リタが信用しているのなら、僕も信用できる。と考えるのは、少し盲目的過ぎるだろうか?


「……駄目だ、わからん」


 僕は上腕を瞼に被せるようにして置いた。僅かに、眼球が脈打つ感覚を表皮に這わせつつ、一つの結論が出る。


 何かを見落としているのか。

 そもそも開示すらされていないのか。


 わかることがあるとすれば、僕は暫くの間、用心を怠ってはいけないということくらいだろうか――。



 ――こん、こん、こん。



「――っ!!」僕はそこで、反射的に立ち上がった。


 静かなノックの音。話を終えたリタが来たのだろうか、いや、彼女であれば、ノックなどせずに勢いよく扉を開け放つだろう。

 なら、ラティーンが? それも、イメージと違う。あの太い腕で、こんなに静かなノックができるとは、悪いが考えづらい。


 とくれば、残されたのは。僕の思考がそこに至るよりも早く、答え合わせの時は訪れた。


「……失礼、ジェイ様。入ります」


 ゆっくりと、扉を開けて現れたのは。


「こんばんは、先程はありがとうございました」


 そう言って深々と礼をする、マキナだった。




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