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赤き翼の万能屋―万能少女と死霊術師―  作者: 文海マヤ
二章『【凪の村】』編
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第八話「凪いだ水面」-1

「さーて、これで一件落着……とは、いかないわよね」


 気絶した偽イアンを、崩れた納屋から引っ張り出し、同じくその中に収納されていたロープでキツく縛りながら、リタは浮かない顔でそう言った。


 確かに、こうして犯人は捕まった。これ以上この村で事件が起こることはない。この村には名前通りの凪が戻ってくるだろう。


 しかし、だ。彼を捕まえたところで、まだ、攫われた子供たちは一人も戻ってきていない。

 もう売られてしまたのか、それとも、どこかに囚われているのか。すべての子供を連れ戻すまでは、この一件は終息しない。


「まあ、あんたが【イットウ】に連絡さえしてくれてれば、どっちなのかくらいはわかったんだけどね」


 不機嫌そうに、リタは頬を膨らませた。ロープを握る手には相当の力が込められているようだが、偽イアンの体がうっ血するほど締め上げられているようには見えない。その辺りの力加減も万能屋のスキルのうちの一つなのかもしれないが、僕には詳しいことはわからなかった。


「なんだよ、連絡してればって。あの暗号、どういう意味があるんだよ」


 確か、ハチドリがどうだとか。なんだかよくわからないことを言われた気がする。


「『キジバトの群れが通る』よ。あれは私とオレリアの間だけの符丁で、『人身売買ルートの封鎖、および調査の依頼』を指してるの。予め【凪の村】に向かうことは言ってあったから、その辺りをしっかりとマークしてくれるだろう……って、計画だったんだけど」


 つまり、僕が独断で動いたからそうもいかなくなったわけか。

 本当に、僕の行動は一から十まですべてが裏目だったようだ。きっと、リタの中ではもっとスマートにこの事件を収束させるための絵が描かれていたのだろう。


 予想外だったのは僕だけで。

 予定外だったのは僕だけだ。



「……そんなしょぼくれた顔しないでよ。さっきも言ったけど、別に大した影響じゃないの。どうあれ、まだ子供たちが引き渡されてないとしたら、見つけ出さなきゃいけないわけだしね」


「……当初は、そうなった場合にはどうするつもりだったんだ?」


「犯人を問い詰めて問い詰めて、必要なら尋問、拷問も厭わずに聞き出すつもりだったわ。でも――」



 僕らは揃って、掴んだ縄の先に目を落とす。


 偽イアンはすっかりノビてしまっている。何度か覚醒させようとしたが、意識を失ったままだ。

 右腕と、アバラも何本かが折れているであろう大怪我だから仕方がないとも言えるだろう。ただ、現実的な問題として、これでは話を聞くこともできない。


「――言っとくけど、私のせいじゃないわよ。一発で仕留めずに、また変な魔術使われて逃げられたりしたら厄介だったし」


 まあ、それにしても手加減のしようはあっただろうが、言い出せばまた喧嘩になるのは目に見えていた。


 非は僕にあるのだ。彼女をまた怒らせるようなことはしない方がいいだろう。

 何しろ、僕らにはまだやらなければならないことが残っている。



「……で、だ。実際どうするんだよ。何かアテはあるのか?」


「そんなものあるわけないでしょ。とりあえず、もう一度こいつの家を探してみて――それで駄目なら、(しらみ)潰しにするまでよ」



 僕は思わず呆れてしまった。そんなものはもう、ただの力技だ。


 それに、もうしばらくすれば陽が完全に沈んでしまう。夜になれば被害者を探すのは困難になるだろうし、森に行くのであれば、獣が出る心配もある。

 時間は、あまり残っていないのかもしれない。



「というか、誘拐を指示する文書があったってことは、こいつには仲間がいるってことなんじゃないのか? 急がなきゃ、子供たちが連れ出されちまうかもしれないぞ?」


「うっさいわね、他にどうしろってのよ。それともあんた、何か考えがあるっていうの?」



 あるわけがない。

 確かに、この事態を招いたのは僕だ。責任を取って、代替案を出せというのは、まあ、わからない話ではないのだが、無い袖を振ることはできない。


 そもそも、こういった件について僕は素人なのだ。いくつもの修羅場を潜ってきたであろう【赤翼】よりもいいアイディアが浮かぶはずもない。


 眉を寄せる僕を見て、リタは深いため息を吐いた。それが疲れや単なる呼吸のためのものでないことくらいは、僕にも察することができた。



「ああ、もう、いいわ。あんたに期待してても時間の無駄。とりあえず犯人の家を探しに行くわよ」


「……すまん」


「謝るくらいなら、最初からちゃんと言うことを聞いときなさい――だいたい、なんで単独行動なんてしたのよ」


「なんで、って、それは……」




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