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赤き翼の万能屋―万能少女と死霊術師―  作者: 文海マヤ
二章『【凪の村】』編
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第七話「万能の翼、揺らぎの向こう」-2

 あの家に飾ってあった写真。

 あそこには三人しか写っていないにも関わらず、四人分の名前が記されていた。さらに、日付も現状と一致しない。僕はその不和についてずっと考えていたが、よく考えれば、合理的な答えは一つしかない――。


 もちろん、彼ならこの質問だって簡単に答えられるはずだ。彼はあの夫婦と旧知の仲だった。もう一人の存在だって、知っているだろう。


「…………ッ!」


 なのに。

 なぜか彼は、答えようとしなかった。


 今まで僕に向けていた、疑いと怒りを半々で混ぜたような形相はひどく強張り、あまつさえ、細かく震えてさえいた。明らかにそれは、予想される反応とは違う。



「……そうか、やっぱりな。お前は答えないんじゃなくて、答えられないんだ。そうだろ?」


「ふ、ふざけんなよ。アイツんちにもう一人なんていないっつーの! だって、そんな話は一度も聞いたことがねえし、見たこともねえよ!」


「ああ、そうだろうな。だって、その子はもう――死んでるんだから」


「なっ……そ、そりゃあ……」



 ハッタリではない。あの写真もそうだが、不可思議なタイミングでの帰郷や、さっき話した際の反応から、僕はそこについてはほとんど確信に近いものを持っている。


 そして――それだけじゃない。


「ま……待てよ。デタラメ言ってんじゃねえぞ。アイツんちにもう一人、子供がいたっていう証拠はあんのか? お前が出任せを言ってるんじゃねえのかよ」


 僕は呆れてしまい、思わず首を振った。もうこの反応を見れば真実は明らかになったようなものだ。ボロが出た、といっても差し支えない。これだけ動揺の色を顕わにすれば、子供だってその不自然さに気が付くだろう。


 正直、これ以上は必要ないかとも考えたが、騒がれても面倒だ。ここは一つ、脅しを利かせておくことにした。


「出任せなんてとんでもない。僕は死霊術師だ。必要なら、ここに呼び出してやるよ」

 両手に霊符を構えながら、僕はそう言った。


「死霊……術師……?」イアンが呻く。流石に予想外だったのだろう。


 僕はその蒼白な面に見せつけてやるように、手の中の札のうち一枚に青白い火を灯して、くるりと操ってみせる。パチパチと火花のように弾けながら、霊魂は彼の頬を掠めるように飛んでいき、そのまま宙に溶けた。


 さて。

 これでもう、逃げ場はない。あとはもう、唖然としている彼を問い詰めるだけだ。


「逃げられないぜ、イアン。お前は本当は何者なんだ? どうして、こんなことをしたんだ?」


 彼は、顔を覆うような形で頭を抱えた。

 さっきの決着とは、全くもって逆の図だ。今度は僕がチェックをかけた。何も反論ができなければ、これで終わり。


 ――この平穏な村を騒がせた誘拐事件は、これで終息する。


 まさか事件にとどめを刺すのがリタではなく、全くの部外者である自分になるとは思わなかったが、これはこれでまあ、彼女の鼻を明かせたので良しとしよう。


それにしても、リタはどこへ行ったのか。そろそろ登場してもいい頃合いじゃないだろうか。この場に彼女がいないなんて、それはそれで締まらないな――なんて。


 そんな風に。

 僕は、能天気に。


「――あァ」

 考えていたから、一瞬だけ。


「――もう、面倒くせえや」

 一瞬だけ、反応が遅れた。


 途端。


 ――ズダン。


 それが何の音なのか、僕には判然としなかった。

 何か重いものが、ぶつかるような音。


 しかしそれを認識するよりも早く、僕の視界はめちゃくちゃにシェイクされた。

 三半規管に感じた揺らぎの正体を掴めないままで、僕はゆっくりと地面に落ちていく。頭を埋め尽くす疑問符が、赤く染まった視界までを侵して。


 そして、最後に痛みが訪れた。


「ぐッ……あ……?」


 そこまで来て僕はようやく知覚する。殴られたのだ。横薙ぎの一撃――恐らく、さっきの鍬によるものだろう。

 しかし、どうして。彼は両手で顔を覆っていて、武器を手にしてすらいなかったはずだ。


「――ヘッ。死霊術師って言ったって、所詮はこんなものじゃねえか」


 倒れ伏す僕に、ゆっくりと声が近づいてくる。


 起きなければ、とは思うが、体に上手く力が入らない。さっきの一撃のダメージが大きすぎる。

 指先は痺れ、足は震え、倒れ伏したままで、僕は振ってくる声を聴いた。


「忘れたわけじゃねえだろう? 認識阻害魔術だよ。お前には俺が負けを認めているように見えたのかもしれねえが、その実、俺はずっとお前の側頭部を狙ってたってわけさ」


 ゲラゲラゲラ、と哄笑が響く。

 嗤う彼の表情は、醜く歪んでいた。目はギョロリと剥かれ、口は三日月のように大きく裂けている。


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