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赤き翼の万能屋―万能少女と死霊術師―  作者: 文海マヤ
二章『【凪の村】』編
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第五話「霧の中の敵」-1

 リタが最初に足を向けたのは、村の中央付近に位置する広場だった。二人目の子供は、この物陰で姿を消している。


 最初の事件が起こったのは森の中、それも、どこかはわからない。最初にここを訪れたのは、一刻を争う現状、当てもなく分け入ることは流石にできないという判断だろう。


 広場へは集会所からおよそ二十分ほどで到着した。


 広場といっても、別に噴水や派手な花壇があるわけじゃない。

 どちらかと言えば、村のど真ん中に空いた大穴、という印象だった。


 四十メートル四方の舗装された地面の上に、ぽつぽつと柵やベンチが設置されている。

 端の方に野ざらしの机が積んであるのを見るあたり、市なんかも開くことがあるのかもしれない。


 中央には、二本の細い柱にブリキの板を打ち付けた掲示板のようなものが立っていて、村の行事や連絡事項と思しき張り紙がベタベタと貼ってあったが、少なくとも僕が興味を惹かれるようなものは無さそうだった。



「……本当に何もないな、この村。【夕暮れの街】の近くだから、もうちょい栄えてると思ってたよ」


「仕方ないわ。最近でこそ地価の上昇からこの辺りに住む人も増えたけど、それ以前は人口の流出が止まらなかったの。過疎化が進んで、僅かな農夫しか暮らしていなかった時期もあるのよ」



 へえ、と、適当に相槌を打って誤魔化す。

 難しい話はよくわからないが、村の外には見渡す限りの畑と森、その向こうにうっすらと【夕暮れの街】の街並みと、そこから伸びる列車の線路が見えるばかりだ。


 僕でも、不便なこの村よりも街での暮らしを選ぶだろう。



「じゃあ、人が増え始めた矢先のこの事件、ってわけだ。下手な評判が立てば、また住人は減っていっちまうかもしれない。そりゃ、村人たちも焦るわけだよな」


「……それよりも、単純に自分たちの暮らしが脅かされてることの方が大きいとは思うけど。まあ、確かに、原因はその辺りにあるのかもしれないわね――」



 原因? と、僕が聞き返す前に、リタはすたすたと先に行ってしまった。僕は慌てて後を追う。


 彼女が歩いて行ったのは、広場の中央に立つ掲示板の裏だった。年季が入ってるのか、あちこちが錆び、こびりついた糊と剥がしきれなかった紙の跡があちこちに残っている。


 そういえば、子供が消えたのはここで遊んでいて、ほんの少し目を離した隙に、という話だった。

 となれば、必然的に犯人はこの近くに潜んでいたことになるが、この広場で身を隠せそうなのは、この掲示板の後ろだけだ。


 しかし。


「……ここに隠れてたってのか? 流石にそれは無理があると思うぞ。正面から普通に足が見えるし、いくら何でもバレるだろ、こんなの」


 僕の言葉に、リタは何の反応もしなかった。しゃがみ込んだりしながら、掲示板の表面や足元を検分している。


 無言のまま、しばらくそうして何事かを調べていた彼女は、「わかったわ」と、不意に立ち上がった。



「……何が分かったんだ?」


「微かにだけど、魔力の残滓があったわ。犯人はここで、何らかの魔術――恐らく、視覚を阻害するようなものを使ったんでしょ」


「魔力の残滓? そんなの、感じ取れるのか?」


「ええ、こんなのは初歩的な技能よ。魔術に多少通じている人間なら誰でもできるわ。もっとも、これに気づけなかった時点で、この村の衛兵たちには魔術を使える人はいなかったってことになりそうね」


「……というか、魔力、ってことは、死霊術師が犯人である線は消えたってことか」



 魔術と死霊術には、大きな違いがある。

 僕ら死霊術師は、魔力を練って力を発揮する魔術とは違い、宙を漂う死者の霊魂と簡易的な契約を結ぶことで、その力を借りて行使するのだ。


 よって、僕らは魔力をほとんど必要としない。魔力が残留していたのなら、かなり線は薄くなったと言えるだろう。


 しかし、リタは首を振った。








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