表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
160/162

第三十五話「万能少女と死霊術師」-3

「……はっ、あれだけリトラの奴に文句言っといて、これじゃ、世話ないよな」


 僕は自嘲気味に吐き捨てた。

 自らのエゴのために他人を切り捨てるリトラを、あれだけ糾弾したというのに。結局のところは、僕も彼のことを犠牲にしようとしたのだ。


 だって、『現人帰し』が本当に使える術式だったのなら――いつか、親父や家族たちとも、また会えるかもしれないのだから。


「……あんたの自嘲に付き合うつもりはないわ。別に、死んだ人にまた会いたいと思ってしまうのは、悪いことではないもの」


 リタの声には、悲壮感が滲んでいた。


 彼女は【燃える街】で拾われた。そして、恐らく、その火災は彼女自身が――正確には、彼女の中の『天使』が起こしたものだ。


 ならば、彼女の家族は今、どうしているのだろうか? 年端もいかない少女が一人、万能屋なんて因果な仕事をしていることが、全ての答えであるような気がした。


 だからきっと――彼女にも会いたい誰かがいるのだろう。


 リトラだって、そうだった。死した妻ともう一度。それは決して、異常な願望ではない。


 ただ、手段を間違えてしまっただけだ。筋道さえ正しかったなら、誰もが彼の背を押していただろう。


 そんなやり取りの末に、リタは一度、区切りをつけるように手を叩いた。


「はい、はい! ちょっと脱線したけど、本題に入りましょう、私が今日ここに来たのは、こんな与太話をするためじゃないのよ」


 そして、ローブの内側から、何か紙のようなものを取り出す。広げてみれば、それは何かの契約書類のようなものだった。



「……リタ、これは?」


「依頼の満了証明書よ。ほら、明日で陸の月が終わるでしょ? ちゃんとひと月、あんたを守りましたよ、って、署名をもらいに来たのよ」



 ああ、と僕は気の抜けた返事をした。

 そうか、僕の依頼は、陸の月いっぱい守ってくれ、というものだった。


 つまり、月が変わり、陸の月が終われば――僕たちの関係も、そこまでということになる。


「……ああ、そうだな」


 僕は、ペンを手に取る。

 止まない雨も、明けない夜もない。


 何もかもに終わりがある。日々にも、命にも、或いは、何かを生み出せていたかもしれない、曖昧な関係にも。


 それもまた、僕がこのひと月で学んだことの一つだ。永遠を望むことが、如何なる結果を生み出すことになるのか。兄弟子の散り様を、教訓としなければならない。


 そうして、手癖交じりの署名をしようと、ペンが紙面に触れる――。


「――ちょっと、待ちなさい」


 ――その刹那、凛とした声が割り込んだ。


 顔を上げれば、リタがこちらを真っ直ぐに見つめている。どこか、覚悟を決めたような、険しい表情だった。


「あんた、これからどうするか決まってるの?」


 それは先程、エイヴァにされたのと同じ問い。お前も同じことを訊くのかよ、とでも返そうかと思ったが、不機嫌になるのが目に見えていたので、ぐっと堪える。


「……さあ、まだ決めてないよ。とりあえず、お前に報酬を払ってもまだ、スペクター家の遺産は残ってるからな。しばらくは、根無し草でいようと思ってる」


 先日の戦いで、僕はスペクターの当主を名乗った。


 だから、いずれはスペクター家を建て直したいし、そうするべきだとも思っている。そう考えれば、本格的に着手する前の今の時期というのは、ある種貴重な自由時間とも言えるのかもしれない。


 何にも縛られず、のびのびと。

 やりたいことをやることができる、そんな時間なのかもしれない――。



「――決まってないのなら、私から一つ、提案があるんだけど」


「……提案?」僕は眉を顰めた。


「そうよ。本当はもっと早く、あの【病の街】にいた時にでも、伝えようと思ってたんだけど……」



 そこでふと、僕の記憶は第一医療棟を出立する直前まで遡る。


 彼女はあの時、何かを言いかけていた。一体、何を言うつもりだったのか、そういえば追及する機会を失ってしまっていた。


 それが僕への――提案というのだろうか?


 再び、リタが口をもごもごとさせる。また何か、言いづらいことでもあるのだろう。急かしても仕方がないと、僕は彼女の言葉をゆっくりと待つことにした。


 だって、たぶん、その言葉は。

 彼女から聞かなければ、意味がないのだから。


 待つこと、十数秒。やっと、といった様子で、彼女はそれを口にした。




「……あんた、私の助手、やってみない?」




 意外な提案に、思わず驚愕する。

 僕が、リタの助手?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ