表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
148/162

第三十三話「骸の王」-2

 僕は無事に避けることができたが、二体のリッチはそうはいかなかった。直撃こそ避けられたものの、不格好に転がり、僕の指先から、魂のリンクが剥がれていく。


「――くそっ!」


 悪態を吐きつつ、すぐに立ち上がる。


 あの巨体が、リトラの動きにリンクして襲いかかってくる。それはつまり、奴は天災の如きあの霊魂の嵐を、自在に操れているということだ。


 最大出力では、どうあっても敵わない。


 そう思考する僕を、急加速したリタが追い抜いていく。振り向き様のアイコンタクトが、転がるリッチたちを指した。


 彼女が仕掛けている間に、二体とのリンクを復旧しろということだろう。僕はそう読み取って、横合いに飛び退く。


 一方、鋼鉄の翼を振り上げたリタは、助走の勢いもそのままに、魂の嵐へと向かっていく。


「この大きさなら、手加減は要らなさそうね! いくわよ、『鉄の――』」


 と、思い切り振り抜こうとした所で。

 嫌な時だけ冴え渡る僕の勘が警鐘を鳴らした。


 リタの『鉄の翼』なら、骸の王に対しても有効打となりうるだろう。いくら凄まじい力を持っているとはいえ、竜種のような、規格外の龍鱗に覆われているわけではない。


 なのに、リトラはどうして、その一撃を防ごうともしない――?


「――駄目だリタ、打つな!」


 静止するも、既に遅し。

 剛翼が、渦巻く魂の表面に接触する。それと同時に、埃まみれの布団を叩いたときのように、無数の悪霊が舞い上がるのが見えた。


 それらは、リタの翼に巻き付くと、そのまま力を奪っていく。先ほど、僕の脚にそうしたように。


「……!? なによ、これ――!」


 突然の脱力に驚愕したのか、彼女はそのまま、緩やかに墜落していった。それを追い打つように、骸の王の表皮からは無数のウィスプが放たれる。


 空中では避けることもできず――その全てが、リタの矮躯に着弾した。


「ふ、ははははは! 浅慮だな、【赤翼】! 悪霊の塊を殴って、無事でいられるとでも思ったか!」


 リトラの不快な哄笑をバックに、リタは受け身も取れずに地に堕ちた。


 それを助けに行くこともできず、僕は一刻も早く、リッチのコントロールを取り戻すことに努めた。

 しかし、指先の痺れが、先ほどよりも酷くなってきている。もしかするとこの二体も、活動限界が近いのかもしれない。


 それでも、ここで手を緩めるわけにはいかなかった。無理やりに魂を繋ぎ、僕は二体を起き上がらせる。メアリーの杖が、僅かに軋む音がした。


「無駄な抵抗は止めたまえ、坊ちゃん」


 リトラがため息混じりに口にする。



「骸の王に死角はない。近付くものは全て迎撃し、抗うものは全て打ち据える。私の反応速度すら超えてね。【赤翼】がどれだけ速かろうと、関係はない」


「……随分な誇大広告だな。勝鬨を上げるにゃ、まだ少し早いと思うぜ」



 僕は魔弾を装填する。もう、出し惜しみをしても仕方がない。

 奴の自動迎撃を遥かに超える速度で。認識も、音も、何もかもを置き去りにできるほどの最速。その一撃で、勝負を決める。


 魔弾のスリングショットが引き絞られるのに連動するように、腕の腱が悲鳴を上げた。込められた魔力が、僕の方まで逆流してきているようだった。


 渾身の一撃を、リトラは不快な笑顔で待ち受けている。これでは斃されぬ、という自信があるのだろう。


 ならば、それを真っ向から撃ち抜いてやる。その覚悟で、僕は引き金を引く――。


「――喰らえ、魔弾、最高出力!」


 音を超えた証左として、聴覚を危ぶませるほどの破裂音が弾ける。

 もはや視認すらも不可能な、最速の射撃。同時に、魔弾使いの魔法陣が、音を起てて砕けた。


 刻印を刻んだスリングショットに限界が来たのだろう。そのまま、力無く項垂れる。完全に活動限界を迎えたようだ。


 そんな、僕の決死の一撃は、流星の如き軌跡を描いて、リトラの胸に突き刺さる――。


 ――その手前で、悪霊の火花に押し留められた。


「――っ!」


 目を剥く僕に、リトラはひとつ息を吐いた。嘲る表情に、いくらか落胆を混ぜ、さらに挑発するように。



「見えないほどの、最速の射撃、か。ふむ、今の坊ちゃんが持つ手札の中では、最良のものだろうね」


「にしては、随分簡単に受け止めてくれるじゃないかよ」


「当たり前だ。この二つの目玉で見えていなくても――幾千の瞳であれば、捉えることはできる」



 幾千の瞳。それを聞いて、僕はすぐにピンときた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ