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第三十三話「骸の王」-1

 ずっと疑問だったことがある。

  リトラが、仮に一万もの魂を集めたとして、あいつはそれをどうやって操るつもりなのかということだ。


 僕のような未熟者では、どう頑張っても同時に契約できる霊魂は二十程度のもの。

 恐らく、親父なら万に届くかどうかという程度まではいけるだろうが、相当の無理をすることになるのは間違いない。


 ならば、リトラはどうやって、意志を持つ一万以上もの霊魂の手綱を握ったのか。


「……連鎖契約、それなら、ありえなくもないと思う」


 思い出すのは、地下墓地に降りる階段の背中。先を行くリタの背中に、僕はそう、呟いた。



「なによ、連鎖契約って」


「生前、霊魂と関係があった人の魂を用いて、複数の魂の契約を一つにまとめることだ。わかりやすく言うと、両親の魂を使って、子供の魂を釣る……みたいな」



 それならば、恐らく必要な契約量は半分以下にできるはずだ。


「……でも、霊の記憶は薄れる。あんた前に、そう言っていたじゃない」


 僕らの脳内に去来するのは、【凪の村】にいた少年の霊。

 長く彷徨えば、それだけ彼らの記憶は漂白されていく。


「ああ――だから残りは、単なる力の塊として強制契約したんだろう。複雑な術式には使えないが、単純な熱量としてなら、使いようがある」


 それならば、どうにか人類が扱える範疇に収めることができるだろう。


「なら、あいつはそれだけの魂を操って戦うってこと? それって……」


 怪訝そうに言うリタに、僕は首を振った。


 いくら多くの魂を操れるとはいえ、あくまでも理論上だ。流石にそれだけの魂を自在に使いこなされたら、僕らに勝ち目などあるわけがない。


「それに、あいつは死者蘇生の法を使うために、魂を集めているんだ。一万の魂に手を付けることはできない。せいぜい多くても千か二千か……そのくらいなら、こっちの有利は動かないだろ」


 リタという存在は、それだけ大きい戦力だ。死霊術師一人で、どうこうできるようなものではない。

 だからこその【愛奴】だったのだろう。奴が敗れ、ほとんど万全の状態のリタが参戦してくるのは、向こうも予想外なはずだ。


 しかし、リタの表情は、どこか晴れなかった。


「……そうかしら、あの男は、今まで楽観してきた私たちを、ことごとく突き落としてきたわ」


 リトラ・カンバールは侮れない。

 その考えは決して、荷物にはならない。だから、持っていてもいいだろう、くらいの気持ちで、僕は考えていた。


 彼女はいつも、最悪の事態を想定して動いているのだから、きっとこの悲観も、そういったもののひとつなのだろうと、そう、結論づけた。



 ――そんな、リタの懸念は、最悪の形で顕在化した。



「……ふざけんな、骸の王、だって……!?」


 僕は呆然の中呟く。


 目の前で組み上がっていく、凄まじいエネルギーの奔流。そして、砕けた死者たちの残骸。

 朽ちた白骨がいくつも折り重なり、やがて、その巨躯が露わになる。


 骸の王。

 あらゆる屍者の中でも頂点に位置する存在。屍竜とすら並び得る、まさしく災害とでも言うべき怪物だ。


 その外見は、さながら発光する巨人、とでも言うべきものだった。立ち上がれば、高さはゆうに、【夕暮れの街】の外壁を越えるほどだ。


「あんた、何か知ってるの?」


 リタの問いかけに、僕は弱々しく肯定を返す。



「知ってる……ってほどじゃないけど、資料で読んだことがある。確か歴史上でも、二度しか出現してない、マジモンの災害だぜ」


「二度……?」聞き返す声にも、余裕がない。


「ああ。一度目は千年前。スペクター家の祖先、死霊術の開祖が鎮めたって話だ。二度目は――僕が生まれる、少し前か」



 【冒涜戦争】の折、大量殺戮が行われた【蔦の街】付近に自然発生したそれを、鎮めたのは親父、シド・スペクターだったという。


 正確には、親父以外誰も対処できなかった――というのが正しいようだが。


「随分と余裕でお喋りをしているようじゃないか、お二方」


 莫大なエネルギーの嵐の中から、悠然と、リトラが歩み出してくる。

 あの悪霊の暴風の中にあっても、彼は、何一つとして変わらぬ様子で、靴を鳴らす。


「屍の王……無数の霊魂が集まってできた、巨大も巨大な悪霊の塊。私も、まさかここまでうまくいくとは思ってなかったがね」


 彼が腕を振り上げれば、リンクしたように王の腕が持ち上がる。出来の悪い人形か何かのような――気持ちの悪い動き方だった。


「……ふむ。それでは、行かせていただくとしよう。決着をつけるのに、わざわざ時間をかける必要もあるまい」


 そう、口にした言葉が届いた、僅かに一拍後だった。


「――ジェイ、伏せなさい!」


 リタの悲鳴じみた声が弾ける。それに応じるようにして、僕が身を伏せれば、頭上数センチのところを、巨大な手のひらが横薙ぎにしていく。


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