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第三十二話「地下墓地の底」-5

 一心拍。開戦の嚆矢となったのは、リトラの放ったウィスプだった。


 僕はそれを、大剣使いの一薙ぎで払い落とす。はらはらと、青白い炎が宙を舞った。


 そして、同時に事態が動き始める。一斉に飛びかかってくる骸骨たち。徒手のものがほとんどだが、たまに副葬品と思われる、古い剣や槍を持った個体もいるようだった。


 それらを、リタの翼が吹き飛ばしていく。負けじと、僕も二体のリッチを繰って、骸骨たちを押し留める。


 ――しかし。


「……くそっ! 数が、多いっ……!」


 リタはともかく、僕は一対多に向いていない。


 リッチたちは未だ、精密な操作ができるほど手に馴染んでいない。骸骨の群れを牽制するくらいなら何ということはないが、敵に全方位を囲まれた状況で、二体を効果的に操るのは難しい――。


「――余所見はいけないな」


 そんな思考のノイズを、不意に飛来した青白い輝きが遮った。


 悪霊の火――怨嗟の熱を帯びた拳が、僕の顔面めがけて振るわれる。


 右、左。大振りの攻撃を避けながら、僕はどうにか、右の前蹴りで距離を取った。


 ――つもりだったのだが、その脚が掴まれる。かと思えば、そのまま力任せに、横合いに転がされた。


「……くっ!」


 崩れた態勢を立て直すよりも速く、顔目掛けての踏みつけが飛来する。それを間一髪、寝返りを打つように回避してから、回転の勢いのまま体を起こした。


「ジェイ、大丈夫!?」


 こちらを振り返る余裕もなく、リタが声を張る。僕はそれに返事をしつつも、リトラから目を離すことはできない。ただ前を見据え、杖を構え直す。



「ふむ、坊ちゃん。体捌きが一瞬遅れたな、【愛奴】のやつは、そんなに強かったか?」


「……へっ、なんてことなかったよ。あいつ一人くらい、さ」



 言いながら、僕は先ほど掴まれた右脚に視線を落とす。


 ズシリと、まるで水を吸った泥に突っ込んだかのように、脚が重い。

 悪霊の呪い――ということだろうか。強い怨嗟の念を帯びた魂に触れれば、生気が奪われる。


 ただでさえ実力に開きがあるというのに、これを何度も食らえば、勝機は完全に無くなってしまう。


 ――そんな風に思考している間もなく、次の骸骨が襲いかかってくる。


「……おい、一息つく間もないのかよ!」


 接近してきた一体を『魔弾』で処理し、体勢を立て直した時には、既に視界からリトラの姿は消えていた。


 このままでは、また先ほどと同じように不意打ちが来る――そう、僕が警戒を強めた瞬間だった。


「――埒が明かないわね」


 とん、と。背後から軽い感触。微かに視界を掠めた髪色から、リタが背中を預けてきたのだと察した。


「ああ、くそっ。あいつ、これをやるために大陵墓を指定したってのかよ……!」


 振り返ることなく、僕は二体のリッチに指示を出す。相変わらず、周囲の霊魂は支配されており、僕の攻め手はこればかりになってしまう。


 しかし、指先には僅かな重さも感じていた。先ほどの【愛奴】との戦いで、リッチたちも相応のダメージを受けているようだ。


 補修をしなければならないのだろうが――そんな暇はなかった。故に、その報いは今、痺れるような金属疲労じみた感覚として、僕の意識に負荷をかけていた。


 羽弾を撒きながら、リタは辺りを注意深く観察する。無数に押し寄せる骨の波に紛れ、襲い来る悪霊の火を見逃さぬように。



「……ねえ、ジェイ。あんた、あいつと付き合い長いんでしょ。なにか、弱点とか知らないの?」


「んなもん知ってたら、もうとっくに突いてるよ。最強の【赤翼】サマこそ、この程度の連中、一網打尽にできるんじゃないのか?」


「ええ、できるわよ。あんたが巻き添えになってもよければね」



 軽口を叩き合うが、追い込まれているのは事実だった。


 何か、無いだろうか。ここを切り抜ける方法、打開策。僕の持ってきた方策は、ほとんど【愛奴】戦で吐き出してしまった。


 ――『大剣使い』や『魔弾』では、骸骨たちを一掃することはできない。

 ――リタの力なら一掃はできるが、僕が巻き込まれる可能性がある。


 ならば、僕が自身の被害を省みず、リタに翼を振るってもらうのが最適解に思えるが、それは最終手段だ。


 的確に、この屍者の群れから、リトラだけを撃ち抜く方法、それが無いだろうか――。


「……くそっ、どさくさ紛れに、ロザリオを獲られたらたまったもんじゃないぞ!」


 僕は守るように、ロザリオを握り締める。つまるところ、彼の狙いはこれなのだ。殺し合いとかなんとか言っておいて、一直線に奪いに来てもおかしくない。



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