エピローグ
梅雨が明けると、本格的な夏の始まりだ。
感動の? 変則アフタヌーンティからしばらくしたある日、また勢いよく『はるぶすと』の2階リビングのドアが開けられる。
「あっつーい! わあ、でもさすがにここはクーラーがよく効いてる~」
由利香がうるさいのはいつもの事と、『はるぶすと』従業員は特に驚く様子もない。
「クーラー目当てなら、電気代払ってもらおうっと」
「椿は? 一緒じゃないんすか?」
「いらっしゃい由利香さん。今日は冷たい物の方がよろしいですか」
「私はここのオーナーよ! 電気代は……さすがに払ってないけど」
「椿はちょっとお買い物、あとで来るから待ってなさい」
「わあ~さすがは鞍馬くん。えーとねえ、じゃあジンジャーエール!」
三者三様の挨拶に、ご丁寧に答えて由利香はどっかとソファに陣取る。
そしていきなり提案するのもいつもの事。
「ねえ、聞いて! ×市の海岸沿いにね、レストランがあるんだけど、そこに新しくバーベキューエリアがオープンしたのよ。海を見ながらバーベキューなんて、素敵でしょ」
ゴソゴソと鞄からパンフレットやらなんやらを取り出して、まるでバーベキュー施設の回し者のようだ。
「ふうん」
いちばん手近なところに座っていた冬里が、興味なさそうにパンフレットを眺め出す。
「バーベキューっすか。俺にもパンフレット見せてください」
夏樹がやってきて、テーブルに広げられたものを一枚手に取る。
「どうぞ、ジンジャーエールです」
シュウは由利香の前に涼しげなグラスを置くと、そのまままたキッチンへと行ってしまう。
「あ、ジンジャーエール美味そう」
「夏樹にも作ろうか」
「いえ、自分で作ります」
そう言うと、夏樹はパンフレットを持ったままキッチンへと向かおうとして。
ちょうどそこへ椿が入ってきて、恒例のハイタッチとなる。
「おう、お疲れ。ジンジャーエール作るんだけど、椿もいるか?」
「うお~あっつぁーい、……ああ、作ってくれ~」
「了解!」
夏樹は嬉しそうにキッチンへ入り、椿はそのままソファへと直行だ。
「お疲れ様、私のちょっと飲む?」
由利香が勧めると、さすがに喉が渇いていたのか、椿は「ありがと」とグラスを手に取った。
「ところで、お買い物ってなに?」
パンフレットを眺めながら冬里が聞くと、椿は「あ、いけない」と、持っていた紙袋から何やら取り出した。
「手土産ですよ、いつもいきなり来てお騒がせしてるんで」
「わあ、さすがは椿~」
「私も是非って言ったわよ」
「チーズケーキです。男性にも人気があるって言う店なんで、どんなのかなと思って」
そう言って取り出したケーキの箱を開くと、種類の違う5つのチーズケーキが入っている。
「へえ、美味しそうだね」
「どれどれ、おお、ホントだ! ほい、ジンジャーエール」
やってきた夏樹が、ジンジャーエールのグラスを椿に渡しながら言う。
「じゃあ俺は皿を持って来ます」
と夏樹が言ったところで、シュウがちゃんと皿とフォークを持ってやってきた。
「あ、すんません、シュウさん」
「うん?」
すると、シュウではなく、椿が返事をする。
「なんだよ椿」
「これ、お前が作ったのか?」
「ああ」
「うーむ」
「だから何だよ」
「えーと、由利香のは? それも夏樹が?」
「ううん、私のは鞍馬くんが作ってくれたのよ」
「ああそれでか」
椿はものすごく納得したように頷いた。
「味がちょっと違うなって思って」
「へえ」
「え?!」
由利香は感心したように言うだけだが、夏樹は動きが止まる。
「えっと、えっと、ちょっと由利香さんのジンジャーエール飲ませてもらってもいいっすか」
「ダメに決まってるだろ」
「で、でも、シュウさんのと俺のと、味が違うんだよな? どこが……」
そう言って焦る夏樹に、運んできた皿を置いたシュウが困ったように微笑む。
「夏樹」
「はい!」
「だったら一緒に作ってみようか」
「はい!」
キッチンへ向かうシュウのあとを、尻尾が振りきれるほど振ってあとを付いていく夏樹がいた。
その2人を面白そうに見やったあと、冬里がパンフレットを見てニッコリとした。
「ねえ、バーペーキューはまあ良いとして、このオープン記念の催し物、面白そうだよ?」
そう言いながら、キュッと首をかしげる冬里。
さあ、また何か新しい遊びを思いついたのでしょうか。
「海辺のナイスガイコンテストだって。水着、ラッシュガード、ビーチウェアが超似合うあなたに贈る暑い熱いコンテスト! だそうだよ。優勝者には次回無料券進呈って書いてあるね」
「へえ、ナイスガイって事は男性よね。じゃああんたたち参加しなさい。」
「ううん、老若男女どなたでも参加OK! なんだって」
「ええ、ナイスガイなのに? でも私はパス! 大勢の前で水着になるなんて、絶対、ぜぇったい嫌よ!」
頑として嫌がる由利香には、もう誰が何を言っても聞く耳持たず。
シュウも当然「私は参加しませんよ」の一言で終わる。
あとは……
「ふふ、残るは君たち2人、かな」
「え? ええと、俺は水着なんて超似合わないし……」
焦る椿と。
「俺も嫌っすよ。バーベキューの焼き方コンテストとかなら喜んで出場しますけど」
むくれて言う夏樹と。
「ふうん、でもさ、夏樹なんてこのフォトジェニック賞、絶対行けると思うんだけどな」
「へえ、そんなのがあるの。なになに、イケメンを自称する君は、撮影会に参加して、フォトジェニック一番を狙おう! ですって。ホントいけそうね」
「ええ?! もっと嫌っすよお」
「賞品はレストランのディナーにご招待ですって! しかも5名までOKよ! なんて太っ腹なの。夏樹、出なさい!」
賞品に目がくらんだ由利香が強制参加を宣言する。
それでも、出ない、出なさい、じゃあ椿も、いや俺は、とうるさい面々を横目で見ていた冬里が、ぽつんとつぶやいた。
「僕も出場するから、ね?」
またまた、ピキッと固まる約2名。
由利香は「珍しい~」とか言って驚いている。
冬里はまた可愛く首をかしげながら、ニッコリと微笑む。
「だから、出てくれるよね、そこの、ふ・た・り?」
「「はい! 是非、出場させていただきます!」」
綺麗にハモったところで、ナイスガイコンテスト出場が決まったのである。
そして当日。
見事「フォトジェニック大賞」を手にした夏樹は、レストランディナー券も難なく手に入れ、由利香さまの大いなるお褒めにあずかった。
椿は極力目立たないように2人(冬里と夏樹)のうしろに隠れていたので、こちらもめでたく参加賞のポケットティッシュをゲットした。
でね、意外なことに、冬里が審査員特別賞なるものを頂いてしまったのだ。
賞品は「夏休み、海辺のレストランで調理実習をしよう!」という体験が出来るものだった。
夏樹は「俺はこれが良かったあ~」とごねたのだが、いかんせん参加出来るのは小学生以下。
冬里はあやねちゃんとアイちゃんに権利を譲って、めでたしめでたし……とは行かず。
夏樹があまりにもうらやむので、アイちゃんが、
「それでは、朝倉さんが引率で来てくれれば良いのではありませんか?」
と、なんとも大人な対応をしてくれたので、万事うまくいったという訳だ。
さて、こうして夏も賑やかに過ぎていく。
いらっしゃいませ、お暑い中をようこそ。
いろんな事がありますが、『はるぶすと』は本日も通常通り営業しております。
了
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
『はるぶすと』新作です。
5月6月から始まって7月の下旬頃まで、まだまだ夏はこれからですが、初夏から夏の入りへかけてのお話です。
相変わらずのメンバーたちが繰り広げる日常話、お楽しみ頂けましたでしょうか。
今さらながら、時代背景や各種設定に ? と思われる事も多々あるかとおもいますが……
『はるぶすと』は、いかんせん「ファンタジー」ですので、そのあたりはどうか大目に見てやってくださいませ。
さて、かれらの日常はまだまだ続きます。今後もお目にかかれることを期待して。
それではまた!




