糸の切れた人形がもたれる椅子の製作者
彼の話です。
彼は目立たない様にしていました。
そして恐らく、それは無理だと知っていました。
なぜなら彼は顔が良く知的でとても優しい人だったからです。
女性職員は何とか彼に近づこうと努力して、男性職員は唯一独身である彼を見下す事で何とか優位に立とうしていました。
彼はそれら全てを分かっていました。
それでも彼は誰にでも一切態度を変えることなく、誰にでも優しく、されど一線を引いて接していました。
ある日、彼の退職が職場を揺るがしました。
一ヵ月後に退職することになり、同時期に女性職員も何人かショックで退職します。
彼女たちは彼に操られていました。
彼は思い通りに出来る人、出来ない人、それを見極めていました。
ちなみに私の知る限り、彼が女遊びをしている様子も噂もまったくありませんでした。
何気ない言葉、それとない行動、自分の顔や知性、表向きの性格を上手くつかい、女性達を思い通りにしていました。
彼女の話です。
彼女は時間はかかるが、いつかは操れるタイプでした。
操れるタイプにもいくつかあります。
すぐに操れるタイプ、少し日にちが必要なタイプ、時間はかかるがいつかは操れるタイプ。
ちなみに僕は、別に人を操り楽しんでいるわけではありませんでした。
興味のない、また嫌悪する人には、自分の武器を使うことなくひたすら無視をしてきました。
もちろんそれが余計に好意を寄せる女性達や、何とか見下そうとする男性たちをイライラさせているのは分かっていました。
彼女はおそらく全てわかっていましたが、それでもいつかは操れることは出来る、
そんなタイプは初めてでした。
子供の頃から読心術に長け、見た目もあり、人を操る術は7歳の頃には身に着けていました。
薄れゆく意識の中、僕の結論です。
人を操るなんて出来ないのです。
いつだって相手が暴走しない程度にやってきたつもりでした。
まさか適当に操り、誕生日のプレゼント交換をしていただけの年増の人妻に刺されるなんて。
電柱に隠れ、倒れる僕を見る彼女と目が合いました。
彼女は僕と同じように、いや僕よりもうまく、この年増を操ったのでしょう。
そんな彼女は確か、時間はかかるがいつかは操れるタイプだったはずです。どうして年増に僕を殺すよう仕向けたのでしょうか?もう知ることも出来ないのが心残りです。
そしてお墓参りをしている彼女による締めの言葉。
あのクズは地獄に落としたよ、かたきはとったから、安心して眠ってね、お母さん。