第十三節 いざ、魔境大陸脱出へ
ネメアの獅子を討伐した、という噂は瞬く間に広がり。
俺達のランクは飛び級し、Aランクになった。
もうこの街では、『呪いの槍』の名前を知らない者がいない程度には有名になった。
それと並行して、セタンタもといボルーグ族の評判の方も少しずつだが好調だった。
カルとマルが、思った以上に活躍してくれていると言うのもあるのだが。
これまでの依頼の中で救って来た魔族の人々にも協力を仰いでいる影響もあるのだろう。
更に、もう一つ。
旅の為の資金がある程度貯まった。
これなら、旅の道中で金に困ることは当分ないだろう。
俺個人としての考えでは、あと数ヶ月は掛かってしまうのでは?と思っていたが、ネメアの師匠討伐による報酬がデカかった。
ようやく、前に進める。
そんな訳で、俺達は宿へと戻り今後の方針を決める事にしたのだ。
「これからの旅をより円滑に進める為に皆んなで話し合いをしましょう。」
「いきなりどうしたのよ?」
眠たそうにしていた、クロセルが目を擦りながらそう言った。
ごめんよクロセル、睡眠の邪魔をしてしまった。
寝ぼけているクロセルも、悪くないな。
おっと、話が逸れた。
「えっとですね、これからの旅は僕達が想定している以上に大変な物になって来ると思います。
そこで、予めルールというか約束事を決めておこうかと思いまして。」
「おっけー!」
ヒッポリュテは、満面の笑みでそう言うと俺の膝の上に頭を乗せて来た。
あらやだ、積極的♡
「むぅ〜、ずるいわよ!私だって!」
oh…
両膝に、心地いい感触が…ここ最近、2人はやけに積極的になって来ているなぁ。
まぁ此方としては、気分は悪くない。
寧ろ、大歓迎だ。
「んで?
具体的には、何を話すんだ?」
「まぁ、話すと言うよりは決め事をしましょう。
まず、何か少しでもおかしい事や不明な点、何か失敗或いは成功した時には報告をしましょう。
それが、些細なことでもです。」
些細な事が、後々に大きな失敗に繋がるって場合もあるかも知れないからな。
今回の冒険者生活でも、そう言った場面が多々あった。
「次に、重要な事や必要な物や事があったら誰にでも良いので連絡して下さい。
そして最後に、やりたい事、困った事、一人じゃ解決出来そうにない事があったら相談して下さい。」
相談は大事だからな。
悩みを誰かに話す事で、自分では思いつかないような事も発見出来るかも知れない。
連絡も大切だ。
セタンタは、頭も良いから理解が早いから助かる。
クロセルとヒッポリュテは…話を聞いているのだろうか…さっきから、ずっと俺の頬やら身体(主に腹筋や上腕二頭筋)などを触ったりしている。
「あいよ。」
「「は〜い。」」
やれやれ、二人は本当に理解出来たのだろうか…セタンタさんや、アンタも彼女達をどうにかしてくれませんか?
って言っても、セタンタは「良い事じゃねぇか。男なら女の一人や二人常に手にしておくべきだ!」とか、元の世界じゃ倫理観ぶち壊れの事を言ってるんだよなぁ。
この世界では、人間の国も魔族もフランツェ大陸を除けば殆どが一夫多妻或いは一妻多夫制を取り入れている。
まぁ俺としても、そこら辺に文句を言うつもりはないし寧ろ有難いが。
どうにも、元の世界の倫理観がね。
それに…トラウマもあるしな。
流石の俺でも、2人が俺に好意を寄せている事も分かってるし嬉しいけど…セリアの事もある。
おっと、話が脱線したな。
「次に、この旅の終着点。
僕とセタンタの予定では、魔境大陸をずっと下に南下して、亜境大陸へと向かい、フランツェ大陸を超えて、故郷のある人境大陸のアムスフィア王国に帰還する事です。」
何故、そんな遠回りをって思うかも知れないがこれにはしっかりとした理由がある。
海境大陸と言うのは基本的に、全ての島と海を拠点とする種族によって管理されており彼等は基本的に他種族との関わりを持たず、また外部からの接触を異常に拒絶する者が殆どで。
不用意に近づけば、船ごと沈められて終わりなのだ。
しかも、海境大陸の中心部には遥か奈落の底に続く大きな穴が存在しており万が一にも、彼らとの接触を逃れてもその穴に吸い込まれて永遠に帰って来れなくなる。
だから、必然的に遠回りをするしかないのだ。
魔境大陸と亜境大陸を繋ぐ魔港都市ネプスに向かい、そこで魔導客車に乗り、亜境大陸へ。
そして、亜境大陸からフランツェ大陸へと向かう方法は少し異なっている。
二つの大陸を繋ぐのは、神龍山脈が一つ。
龍の下尾と上尾と呼ばれる山道を経由しなければならない。
ここが厄介で、コンディションやその時の時期によっては最悪の場合数ヶ月は掛かるんだとか。
上尾は、下尾と違ってルートが複雑で魔力濃度も濃く普通の人間では立ち入る事さえ出来ないが、それでも何度も関所を通過しなければならない下尾と違って早く辿り着ける。
「なるほどな、まぁそれが妥当だろうな。」
「噂なんですが、かつて遥か昔には大陸の移動には特殊な転移術を使っていたらしいですよ。」
「ああ、転移魔法陣か。
確かに、今から数万年前〜数千年前は拠点ごとに転移の術式が込められた魔導具を使って一瞬で移動していたらしい。」
「今は使えないんですか?」
「無理だな。
使う以前に、アレは神話の産物として触れる事すら許されない。」
そりゃ残念だ。
結局、故郷に帰るには徒歩しかないと言うことか。
セタンタの話では、次の目的地である魔港都市ネプスには徒歩で三週間以上は掛かるらしい。
一つの都市に向かうのに三週間か…こんな時に、車があったらなぁ…そうだ、馬車とか使えば良いんじゃないか?
「ああ、それはアリだな。
でも、ソイツを借りるにはかなり金が掛かるし、図体がデカいから融通が効かない。
魔境大陸を長期間旅するならオススメだが、今回は無しだな。」
ふむ。
やはり、歩くしかないのだろう。
移動については良いとして、次は宿泊とかの問題だが此方も何とかなりそうだ。
何でも、道中には小規模な町が点々としており其処では冒険者や旅人などを中心とした者達の為の休憩所的な役割であるらしい。
宿賃も安く、料理も出て、日用品の調達も可能らしい。
「それじゃ、出発しましょう。」




