第四節 呪いと過去
魔神王ヴォーディガーン。
魔族の中では、誰もが知っている大英雄的な存在であり…不当な扱いを受けていた魔族館の自由を取り戻す為に戦った人物。
ヴォーディガーンが挙兵するにあたり、真っ先に協力を要請したのがセタンタを含めたボルーグ族の戦士"五十人の勇士達"達だった。
優秀な戦闘力に俊敏性、異常な気配察知能力・索敵能力・弱点看破能力を兼ね備えた彼等は、ヴォーディガーンの側近部隊として採用された。
与えられた役割は、前線の援軍や夜間の夜襲と言った他の魔族軍とは違った特別な役割だった。
圧倒的な戦闘力による圧倒的な奇襲を受けた敵軍は全てなす術も無く全滅。
押されている軍の前線に立てば一騎当千の実力で戦局を覆してしまう。
まさに、最強の軍団。
その名は魔境大陸だけでなく、他のあらゆる大陸でも名を馳せる程だった。
ある者達は尊敬し、ある者達は恐怖し、ある者達は歓喜する。
ような存在だった。
魔神戦争が中盤に差し掛かった頃。
彼等の目まぐるしい活躍を称して、魔神王は彼等に感謝とこれからの活躍を期待してとある品を贈呈した。
その槍の名は、狂呪ノ死槍。
この名を知ったのは、悲劇が終わった後であった。
その槍を受け取ったのは、当時より戦士達を率いて居たリーダーであったセタンタの師匠。
セタンタには、別の槍が与えられ…他の戦士達にも各々に槍が贈呈された。
槍を主な武器として扱う彼等にとってその槍はこれ以上無いくらいにいいプレゼントであった。
その魔槍は、凄まじい性能を誇っていた。
持ち主の全ての能力を極限まで底上げし、例え槍を投げても己の元へと戻り…
魔力を込めれば、槍は三十に分かれ飛んでゆく。
敵の血を喰らえば喰らうほど、その力は増幅し…己の中に眠る"闇"を侵食させてゆく。
やがて、その力は暴走し…逆に槍が持ち主を使うようになった。
虐殺に虐殺を重ね、女子供も関係なく殺し…捕虜となった者達を次々に殺害し。
味方であった魔族の軍を血祭りに上げ、大混乱に陥れた…挙げ句の果てには、戦士団はボルーグ族同士で虐殺を始めてしまった。
最終的には、師匠であるスカサハの手によって犯された戦士団の大半が殺され…全ての呪いを一身に引き受けた。
その呪いの力は凄まじく、ボルーグ族最強と謳われた師匠でも完全に抑え切る事は難しいと判断し、この地を去る事にしたと言う。
最後に、彼女はセタンタに言葉を託した。
「それが、先ほど言っていた?」
「ああ、あの女は最後に俺に『必ず私を見つけ、殺しに来い。』と言った。」
解決したとは言え、その被害は尋常では無かった。
50人は居た屈強な戦士達は10人へとその数を減らした。
村は、血と臓物の池と変わり果て…生き残った者達もまた身体の何処かを欠損していた。
セタンタもまた、最愛の妻を失い絶望した。
中には、自分の子供を喰らい殺した戦士がおり自らの首を斬り落とし自殺する者も居た。
しかし、セタンタは他の者とは違い自分達を騙し…敬愛していた師匠に全てを背負わせた後悔や怒り…復讐心に駆られる。
その間に邪魔する者達は皆殺しにした…脅威と見なされ送られて来た討伐隊を全滅させ、憎き仇敵を殺す為に動いた。
残された、妻の愛槍『ドゥヴシフ』を手に持ち魔神王殺しへと向かった。
遂に、魔神王対英雄達の戦いの最中に参戦した。
そして見事に憎き魔神王を倒すに至った。
その後の彼は、残された妻の願い『ボルーグ族の評判の払拭』と呪に侵された師匠の殺害を目的にいつ終わるかも分からない旅に出た。
何年、何十年、何百年も旅をしたが未だに評判も師匠も見つける事は出来なかった。
それでも尚、旅を続けるセタンタはコレを呪いだと呼んでいる。
壮絶な話だった。
セタンタは、冷静な表情で話をしていたが…彼からは悲しみ、後悔、恨みなど様々な感情が伝わってきた。
俺もこの話には、胸糞悪さと怒りを覚えた。
ボルーグ族の評判…噂、その裏には俺達では決して知り得なかった出来事があった。
自分が恥ずかしかった、俺もまた少し前まではその噂を本当だと思い込んでいたのだから。
同情…そんなことを口に出してもセタンタにとっては良く思わないかも知れない。
それでも、俺に出来る事はないのだろうか…この先の旅で俺はセタンタに守られるだけで良いのだろうか…良いはずが無い。
「微力ながらですが、僕も貴方の奥さんが貴方に託した目的の手伝いをします。」
気付いた時には、そう言葉にしていた。
誰にも信じられず、苦しむ辛さは俺も知っているつもりだ。
だからこそ、俺はこのまま何もしないなんて選択肢は無かった。
セタンタは、とても驚いた様子で俺の方を見る。
「無理はしなくていいぜ?」
「俺がやりたくてやるんです。気にしないで下さい。」
俺が胸を叩きながらそう言うと、セタンタは声高らかに笑った。
「なら、協力してもらうぜ?」
「はい!任せてください。」
「私も出来る限りの事はしましょう」
この日ーー初めてセタンタと親睦を深められた気がした。
俺は、彼を信用する事にした。
彼になら裏切られたって構わない、自分から信じる事にしたんだ。
その結果がどう転ぼうと、後悔はしない。
なぁ、女神…お前は、コレを全て知っていたのか?
なんて、聞くまでもないよな。
まぁ良いさ、今だけは何も考えないでおこう。
この日の夜は、俺とセタンタと族長とその奥さんで朝が来るまで話をした。




