第三節 フェリエノ族の村
そんなこんなで、翌日。
夜が過ぎて、太陽らしき光が明かりを灯した。
ここが、魔境大陸…辺りは一面、岩と砂だらけの世界が奥まで続いていた。
人境大陸とは違って、亜人魔混沌戦争の影響で出来た戦争の跡が色濃く残っており、デコボコの大地が多い。
綺麗な植物は生えてなく、ボロボロに枯れた人の手の様な草が生えている。
岩もただの岩では無く、人の身長よりも遥かにデカい岩が幾つも積み重なって階段になったりしている。
セタンタさんの話ではこの大陸は他の大陸とは違って魔素の濃度が濃い為、ここで生まれて来る魔物や魔獣も凶暴であり強力らしい。
ここから人境大陸に辿り着くには少なくとも数年は掛かるだろう…との事だ。
長旅になってしまうな…一人じゃ絶対に無理だろう、セタンタが居て助かったよ。
「ほれ、ダイン。行くぞ。」
辺りの景色を見渡していると、セタンタがやれやれと言った様子で声を掛けてきた。
しっかし、セタンタは本当に100年以上生きているのだろうか…何処からどう見ても10代後半の見た目なんだよなぁ…
あの後、また夜中に目が覚めてしまったのでそのままセタンタと話をした。
俺のこれまでの事は全て話した。
セタンタ自身も秘密にしている事以外は話してくれた。
随分、仲良くなれた気がする。
それに子供の扱いが上手いし、ノリが良い兄貴分って感じで好印象だ。
彼なら、クロセル達と上手くやれると思う。
あー、疲れた…もう数時間も歩いているって言うのに、未だに同じような景色が続いている。
魔境大陸…想像よりも遥かに過酷な場所だ…土の部分もジメジメしてて歩き辛いし…岩も高低差が激しくて脚が痛い…
こんな所で、生活をしている魔族は尊敬する…とそんな事を思いながら歩いていると…突如、目の前に巨大なミミズの様な魔物が現れた。
「魔物!」
「砂蛇蚯蚓か。
下がってな、ダイン。」
そう言って、セタンタが俺の首根っこを優しく掴み背後に立たせる。
俺達の存在に気付いたサンドワームと呼ばれた魔物が咆哮する。
キッモ…その外見はあの有名なゲーム『モン◯ターハ◯ター』に出て来るフ◯フ◯を彷彿とさせる。
その咆哮と共にサンドワームの口から大量の触手の様な物が発射された。
セタンタが、槍を構える。
凄まじい踏み込みで空中を飛び、サンドワームの放った触手の上で槍をヌンチャクの様に回しながら駆ける。
全ての触手がセタンタに向かって襲い掛かるが、全てを上手く躱しながら縦横無尽に駆け抜け…サンドワームの脳を彼の槍が突き刺した。
「うっし、先に進むぞ。」
セタンタは、槍先に付着した血を払い槍を背中に掛けて…歩き出した。
凄い…あんな一瞬であの巨大な魔物を一撃で仕留めてしまうなんて…ヒッポリュテとどっちが強いんだろうか。
でも、どうやって魔物が現れる事が分かるのだろうか…あ、そう言えば…あの顔の右側で青く光っているタトゥーが黄色く発光する時に必ず、セタンタは俺の事を後ろに下がらせていたよな?
なるほど、あの不思議なタトゥーはある条件毎に色が変化する仕組みなのかな?
便利だな…でも、アレがある事でボルーグ族とバレてしまうのは少し厄介だな。
「強いですね…あんな魔物を簡単に殺してしまうなんて…」
「ありゃこの辺だと数は多いが最弱の魔物だぜ?もう少し奥の方へ行けば、こんな簡単には進めねぇさ。」
そうなのか…強さは、俺はまだ戦った事が無いから分からないが…数は多い気がする。
アムスフィア王国では有り得ない光景だ…しかも、これでまだ少ない方だとは…はぁ、先が思いやられる。
「僕も手伝いますよ?」
「ん?気にすんな!
実戦を積むのも悪くないが、今の所は俺一人で十分だから何もしなくて良いぜ。」
なんて、頼もしいんだ兄貴!
敬意を込めて兄貴と呼ばせて貰うぜ!
ーー
それから、数時間後。
ようやく目指していた場所に辿り着いたようだ。
元の位置から、ここまで然程の距離は離れて居ないらしい。
地面の高低差が激しく、昇り降りを繰り返しているから長いと錯覚してしまうが実際はそこまで進んでないみたいだ。
マジかよ…結構な距離を歩いたと思ってたのに…実際はあまり長い距離を歩いていないとは…高低差があってそう感じただけなのか。
体力には、自身があったけど…それでもこの道のりはキツイよ…セタンタは、全く疲れた様子は無い。
此処が、セタンタの言っていた知り合いの村か…村と言うよりは集落っぽいな。
小さい村だ、エレシウス領の半分程の広さしか無い村に小さな畑がある。
育てている物は、元の世界でも見た事の無い作物ばかりだ。
外から、村を見渡すが…村人が外に出て民族衣装を洗濯板で洗っている。
その村人をよく見ると、見た事の無い髪色をしていた。
黄緑色の髪の毛、狐色の瞳の村人。
「待て!」
すると、一人の村人らしき魔族が俺とセタンタの目の前に現れた。
今の発音、魔神語だ!
凄い、分かる…分かるぞ!勉強していてよかった。
「セタンタ殿、その子供は何だ!」
そう言って、その魔族は俺を指さした。
「拾った。」
「拾っただと?」
「んな事より、お前に用事はねぇから、村長を呼べ。」
可哀想だよセタンタ、モブにだって仕事はあるんだから!
ま、うざったいのは事実だから良いけどさ。
その魔族は、プルプルと震えながらも村の奥へと消えていった。
その後、この村の長らしきイケメンが出てきてセタンタと少し話し承諾を得る事が出来た。
ようやく、一息付ける。
ーー
この村に住んでいる魔族はフェリエノ族と言うらしい。
他の魔族達と違ってボルーグ族のセタンタを恐れずに迎え入れて居るのは、この村が魔物に襲われている時に助けてくれた事で恩義を感じでいるからだそう。
しっかし、この村は裕福では無さそうだな…魔族の大半はそうらしいがこの村はその中でもかなり貧困村なようだ。
家は、高床式倉庫みたいな感じで建っていると言っても、家に使われている素材は何かの魔物の素材っぽい。
しかも、今にも崩れそうだけど大丈夫なのか?
アムスフィア王国に限らず人境大陸の建築物はどれも技術が高い…それと比べてしまえば粗末な物だが、魔族達にとってはコレが普通なのかも知れない。
そして、この村で耕している粗末な作物は主に食料として利用されているらしい。
完成された物も見てみたが、玄米見たいな感じのものだった。
俺達では有り得ない話だが、魔族にとってはこれが主食として食べられているんだろう。
村には、村人が殆ど居ない…過疎化が進んでいるのだろうか…家の外から出て来るのは、女子供ばかり。
ここは、女と子供しか居ないのか?なんて思っていたが、村長さん曰く、ここの男どもは村の外に出て食料となる魔物を狩に出ているようだ。
俺達は、村長の家へと招待された。
ーー
家へと、入ると。
フェリノエ族長の妻らしき人物が出迎えてくれた。
何かの魔物の素材で出来た机と椅子に座らされた。
「では、いきなりで悪いが…君の事に付いて話して欲しい。」
なるほど。
まぁ、こんな子供とはいえ正体不明の奴を置いておく訳にも行かないしな。
俺だってそうすると思うし。
俺は、隠す事も特に無いので身辺について話すことにした。
自分の名前から家族まで逐一話した。
そして気付いたら、この魔境大陸に居たと。
それに同じくこの大陸に飛ばされたかも知れない、家族を探すつもりだと言うことも。
女神や俺が見た夢の事は話さなかった。
あの夢が誰のものかも分からなかったので話す必要を感じなかった。
女神の件に関しては、まだ半信半疑なので無理に話す事も無いと思ったし、もしかしたら魔族の敵かも知れないしな。
時刻は夜を回っていた。
「ふむ、なるほど。資金はあるのかな?」
「冒険者をやって金を稼ぐつもりです。」
「何かアレば、おれも付いてるし大丈夫だろ。」
セタンタが、そう言うと…族長のカルバーナがため息を吐いた。
「セタンタ殿、貴方はもう町には入れるようになったのかい?」
ん?
それはどう言う事なのだろうか…町に入れるようになったのかいって…まさか、入れないのか?
「ゲッ、ま、まぁ大丈夫だろ!」
「はぁ〜、我々はお前さんに恩があるから快く受け入れているが…他の魔族及び他の街の魔族はそうではない。」
ああ、そうか。
セタンタはボルーグ族…どの種族にとっても共通の恐怖の対象なのを忘れていた。
確か、師匠の話では…かつてボルーグ族の戦士が攫われた子供を親の元に返す為に街に入った時に、1000の討伐隊を編成し殺されたという事を聞いた事がある。
酷い話だ、兄貴はこんなにも子供想いのいい奴なのによ。
「まぁ、何とかするさ。」
「何とか出来ると良いがの…所で、お前さんの旅の目的の方は。」
セタンタの目的とは何だ?
確かに、セタンタの兄貴は旅をしていると話していたがその目的を聞いては居なかったな。
「聞いても良いですか?」
俺は、恐る恐るセタンタに聞いてみる。
「まぁいいか。俺の旅の目的は…ある女を殺す為だ。」
え?
「そしてもう一つは、友に託された目的であるボルーグの評判を覆す事だ。」
後者は、少し難しいだろう。
もう彼らボルーグ族のイメージは"恐怖"で完成してしまっている…それを覆すとなると相当の努力が必要だろう。
何年いや、最悪の場合は100年は掛かるかも知れない。
「ボルーグ族の評判ですか…それは、あの噂を払拭するという事ですか?」
「あの噂?」
「亜人魔混沌戦争の時に、ボルーグ族がーー「そいつは、確かに事実だが、アレは俺達の意志じゃねぇ。」
声のトーンが変わった。
先程の様な、陽気な声とは裏腹に今度は明確な憎悪と殺意が籠った声に変化した。
その表情も、憎悪の顔に歪んだ。
「裏切りだ…魔神王ヴォーディガーンに裏切られたんだ!」
魔神王…ヴォーディガーン…確か、500年前に世界に破滅と混沌を齎した魔族のボスだよな?
裏切られた…どう言う事だ?
「教えて下さい、何があったのか。」
「気分の良い話じゃねぇぞ。」
「百も承知です。」
俺がそう言うと、セタンタはそうか…と呟いて静かに話し始めた。
あの戦争に起きた、裏側の話を。




