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第三節 『禁断の恋心』


シグニュー・マニーサ。


シグルス・マニーサの姉。

しかし、二人は本当の姉弟ではない。

姉のシグニューは孤児だった。


ある国の崇高な家の元で産まれた彼女は、産まれながらにして不安な運命の渦中にいた。

現在、国は暗黒期を迎えており次代の王位の座を狙った王族や貴族による暗躍や暗殺が日常的に行われていた。

彼女の両親もまたその内乱の中心に居た。


そんなある日ーー彼女の父が外交に向かおうとした道中に襲撃者に襲われて命を落とした。

その報告を聞いた彼女の母親は我が子の身を案じ、護衛を引き連れて国から脱出する事を決意した。

まだ朝日も昇らない暗い夜道に、松明の灯りを頼りに馬車を走らせる。

道中までは順調だった。


しかし、運命とは残酷である。

彼女達の逃亡に気付いた貴族達は、暗殺者や兵士を送り込んできた。

全速で馬車を走らせるが、追手はすぐに迫り来る。

祖父の代からずっと仕えて来た護衛達は暗殺者や襲撃者と命を賭けて戦い必死に馬車を逃そうとする。


毎朝、毎晩。

休む間もなく襲いかかって来る敵に屈強な騎士達は次々と倒れて行く。

一人、また一人と。


犠牲を出しながら、目的地であるフィアナ勇王国の国境付近にまで辿り着いた。

既に護衛は一人も居らず、母親もまた矢や魔術から必死に我が子を庇いボロボロ。

もはや自分は助からないだろうとすら、悟っていた。

馬車を失い、足を引き摺り、必死に歩く。


"レンスター領へようこそ"という文字が刻まれた看板を発見する。

農業などが盛んな領地であり領主が住まう城砦都市以外は全面に田畑などが大きく広がっている。

フィアナ勇王国の五大貴族が一席アーシン・サーバ家が治める領地。

彼女は護衛の話で城砦都市ガレスは、外からの客に対して友好的だという話を聞いた事があった。


此処ならきっと…

最後の力を振り絞って必死に歩く。

視界が薄れゆく。

身体の力が徐々に抜けてゆく。


大切な我が子はぐっすりと眠っている。

きっと何が起きてるかも分かっていない。

でも、それでいい。

何も知らなくていい。

ただ、ただせめて…


ドッと、身体が地面に崩れ落ちる。

大切な子を庇うようにして倒れる。

身体が遂に限界を迎えた…まだ、まだ死ねない…


前方から馬の足音が響いてくる。

遠のき掛けた耳を澄ませる。

僅かながらに、その足音が此方に近付いている事に気付く。

敵じゃない…後ろからではない、その足音に僅かに安堵する。


馬の足音がすぐ近くで止まり、新しい足音が地面に着く音が聞こえる。

数人の鎧を着た兵士とその兵士を率いている男性が側に駆け寄ってきた。

男騎士は、母子を腕で抱きかかえる。


「まだ生きている、早く治療を…!」


優しい目をしている。

この人なら…彼女は今にも消えそうな意識の中で、腕を伸ばす。

ぐっすりと眠る赤子を男騎士の腕の中にそっと渡す。

男騎士は、全てを悟る。

母親が最期に見せたその笑みと言葉を…


事切れた母親の身体を騎士に抱えさせ、男騎士は託された赤子を騎士に預ける。

背後から迫り来ていた謎の刺客達に向けて馬を走らせる。

鬼のような形相で、剣を抜刀する。

迫り来る刺客の攻撃を掻い潜り、男騎士は全てを斬り伏せた。

事の顛末を領主に報告した男騎士は赤子の身は自分が譲り受けると引かなかった。


赤子の温かい温もりを腕の中で感じならが、自分が暮らし治める小さな村に帰還する。

レンスター領の更に辺境にあるエリオ村と言う小さな村でイアソン・マニーサは騎士領主として村を統治している。

数百人という小規模な村故に住民同士の助け合いや交流が多い。

他の地方領主と比べれば些細なものだが、それでも住民の生活は豊かで貧困者は居ない。

また、イアソンとその妻であるエミリーの人望は厚く愛されている。


イアソンの騎士としての適性は高く、村に稀に現れる魔物や魔獣の討伐を進んで行なっている。

また、自警団を組織しイアソンが直接彼等に剣を教えている。

騎士貴族と言っても、他の貴族の爵位と比べれば限りなく低い。

本人の物腰も柔らかく、貴族と民という関係性ではなく正に友という関係が相応しい。


とまぁ、そんな訳でイアソンは赤子を抱えて我が家に帰る。

出迎えた妻のエミリーは最初こそ驚いたが赤子を自分達の娘として育てる事を決意した。


その子の名前はシグニューと名付けられた。


イアソン・マニーサ(21)

エミリー・マニーサ(17)

夫婦にとって初めての子供となった。

シグニューは愛情を持って育てられた。


家事メイドとして住み込みで働いていた侍女エッダもシグニューの世話係として手助けをした。

まだ13歳の彼女は歳の離れた妹が出来た気分でそれはもう愛情深く。

それから数年後。

イアソンとエッダの間に待望の息子が生まれた。

可愛らしく、天使のような赤子。

当時、5歳だったシグニューは特に弟が出来た事に歓喜していた。


生まれた赤子はシグルドと名付けられた。


シグニューは愛しい弟の世話をしていく中で気付いたことがある。

生まれたばかりの頃から、赤子のシグルドはあまり泣かない。

妙に知性があり、生まれて間もないと言うのに哺乳瓶の位置を記憶して自分の意思で飲んだり…シグニューが探していた物の位置を覚えてそれを持って来たりだと、とにかく物覚えが良かった。


一度注意した事は理解したように頷き、2度と繰り返さなかった。

なんていい子なのだろう、とシグニューは感心した。

特に本が好きなようで、本が置かれていた部屋を見つけ何処からか鍵を持ってきて部屋に忍び込み魔法の本などを読みふけていた。

その姿は、一歳半とは思えない知性を感じた。

この頃から、自分の中に芽生える恐ろしい気持ちに気付き始めた。

最初こそ、ただの弟だと思っていた。


其処からのシグニューによるシグルドの溺愛ぶりは凄まじかった。

一度、シグルドを抱けば二時間は離さずに溺愛し続ける。

子供が必死に逃げ出そうとしても絶対に離さないので、シグルドは諦めたように姉の愛に屈服する。


たまに、エッダがシグルドを持ち上げると胸に顔を埋めて妙に鼻息を荒くさせる事がある。

シグニューのまだ発展途上の小さい胸にも頬をすりすりしてくる。


それから暫くして。

シグニューが8歳、シグルドが3歳になった頃。

シグルドは両親に黙って密かに魔術の練習をしている所を発見した。

魔術の勉強をしている時のシグルドはとても生き生きしていて凄くカッコイイと思った。

ずっと可愛とは思っていたが、それはあくまで"弟"としてだ。

しかし、今回は違った。

シグルドの姿をみて"男"としてカッコいいと感じたのは流石に不味いと自分でも思った。

我ながら子供に…弟相手に何を考えているのだ!と、自分を叱る。


家の事をする以外はシグルドの事を考えてしまうようになった。

この頃にはもう、自覚していた。

自分はシグルドに恋愛感情を抱いていると。

ある日、家の本棚に興味深い本があった。

それは、姉が実の弟に恋をしてしまう恋愛物語。

正に今の自分と同じ立場の主人公に共感し、本の中で行われた出来事を妄想し自分を慰める習慣が付いてしまった。

シグルドを変態だと言ったが、自分の方が何倍も変態だったと少し反省する。


あの本を読んでから、さらに拗らせるようになってきた。

必死に自分の心に言い聞かせる。

自分をこれまで育てて来てくれた両親を裏切るような真似は出来ない。


シグニューは知らなかった。


エッダもまた、同じような感情を抱いていたという事に。


この話が面白かったら評価をお願いします。

また、感想や質問も是非お気軽に時間があり次第返していきたいと思います。

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