第十四節 運命は別たれる《フェイト・ロード》
ーーエレシウス領ーー
あの誕生日から数日後、いつもと同じ様な日常を過ごしていたある日ーークロセルがこんな事を言ってきた。
「貴方が、魔術の師匠から学んだ技を見せて欲しい!」
って、断る理由が無かったので俺は承諾した。
とは言っても、流石に規模が規模なのでこんな屋敷でやる訳にもいかずユージンに何処か魔法を思う存分ぶっ放せる所はないか?と聞いた所、ここから少し離れた場所には開拓があまり進んでいない平原がある。
と聞いたので、ヒッポリュテとクロセルを連れて城砦都市ガレスを離れて平原へと訪れていた。
思ったよりも広いし、何も手が付けられてない訳ではないようだ。
ここなら問題ない。
それに、俺にとっても都合が良かったしな。
クロセル達から貰った、この杖『陽を総べる魔杖』を使う良い機会だしな!
いつ見ても、この杖は綺麗だな…でも、本当に太陽みたいに輝くから眩しい時もあるので師匠の杖と同じく普段はカバーを付けている。
現在は、外している。
この数日の間で、庭に出て魔法を使ってみたんだが…素晴らしいと言う言葉しか出なかった。
杖がある事で、俺が直接手から魔法を放つ時の魔力の消費量が杖から魔法を放つ時とでは消費量が違った。
しかも、名前や見た目通りに炎魔法に関しては破格の効果を持っている。
フレアに関しては、ほんの最適程度しか魔力を使って無いにも関わらず普段の4倍程の威力を持っていた。
威力を間違えてしまえば、それこそ味方も巻き込んでしまうかも知れない。
この世界の、専用の武器の重要さを改めて知る事が出来た。
まだ使い始めて少ししか経ってないので、色んな調節が難しく慣れるには暫く時間が必要だと思う。
ただまだ重いので、実戦で使うには少しリスクがあるかも知れない。
それは今後、慣れていけば良い問題か。
魔力の調節をしている間、クロセルとヒッポリュテの二人はまだまだかと待ち侘びている。
クロセルが楽しそうにしているのは何となく予想していたが、ヒッポリュテまで楽しみにしているのは意外だった。
正直、俺にもどうなるか分からない。
火属性を使うのは色々と不味そう…岩属性で試してみようか。
師匠みたいに、7つの属性の流星群を振らせるのは不可能だが火・岩・水(氷)の三つを使えると言っても、完全に模倣した訳でも無いしほんの一部を再現しただけだ。
やってみる、価値はあるしな。
「準備が出来ました!」
「早く見せて!」
まぁまぁ、そんな焦りなさんな。
俺は、深く深呼吸をして落ち着く。
そして、陽を統べる魔杖を持ち上げて空高くに掲げる。
目を閉じて、身体の中の魔力を一気に巡らせる…散らばった魔力をより繊細に収束させる。
「ん?」
「え?」
む、どうしたのだろうか…まだ魔法は発動してないのだが…気になって目を開けると…
俺の目に映ったのは、赤黒い奇妙な瞼に飲み込まれるように様々な濁った色の魔力らしき力が渦巻き、空間が歪み始めている。
(アレは、ジュネーヴが発見した時の謎の物体?なんか、やばそう。)
「ヒッポリュテ!アレは何なの!」
「分からないです〜…でも、あんな膨大な魔力を内包し続ければ大爆発が起こりますよ!?」
「なんか、少しづつ瞼が開いて来てますね。」
ヒッポリュテの、額から流れる汗の量を見るに…アレは相当にヤバいらしい…
確かに、俺の目からしてもアレが良くない事は一瞬で分かった。
ん?
何だろうか…ほんの一瞬だが、空が光った様な気がしたが…気のせいか。
「街に避難しますか?」
「いや、街には戻れない。あと数分も経たぬうちにアレは爆発する。」
「ど、どうするのよ!」
「あそこに、丁度いい空洞がありますね…避難すーー!ダインッ!!」
「ッ!?」
ヒッポリュテがそう叫んで、コチラに凄まじい速度で走って来た。
本能的に、俺はその場にしゃがんでいた。
刹那ーー凄まじい衝撃音が鳴り響く。
ふと目を開けると…俺とクロセルを守るようにしてヒッポリュテが剣を構え立っていた。
彼女の視線の先には、謎の女らしき人物が立っていた。
赤に白の髪が混じったポニーテール、般若の面を被り、和服風の衣服を着ていて…手には、刀身が一尺四寸、茎が一尺八寸程の大きさを持った薙刀を持っていた。
誰だ…?
分かるのは、明らかに味方では無いと言う事。
服装や般若の面は、日本を彷彿とさせるがそんな事は無いだろう、この世界には日本に似た食べ物が存在するからな。
そんな事を思っている間に、謎の般若女が地面を勢いよく踏み込んだ。
ヒッポリュテも劣らない踏み込みを見せる。
直後、金属と金属がぶつかり合う音。
地面を蹴り、駆ける音。
剣や薙刀が空を斬る音。
それだけで、壮絶な戦いだと分かる。
実力は互角なのか…お互いに一歩も引かない攻防を繰り返す。
が、獲物が長い般若女の方が有利…少し押されている。
どうする?参戦するか…?
いや、俺が行ってどうなる…俺の役目は、クロセルを守る事を優先しなければ!
と思った次の瞬間ーー背中に強烈な悪寒を感じ、慌てて杖を前に突き出し岩の絶壁を発動する。
バギィ!と言う衝撃音が鳴り響き、岩の絶壁が破壊されてしまった。
「ほう、これを止めるか。」
砂埃と共に現れたのは、顔の大半をマスクで覆った謎の男。
手には、黄金に輝く弓を持っていた。
「無事か、ダイン!」
「ダイン!」
クロセルとヒッポリュテが俺に、駆け寄る。
ヒッポリュテは、俺が無事だと分かると再び剣を二人に向ける。
「貴様ら…何者だ?」
「どけ、"剣帝"ヒッポリュテ…お前に用は無い。」
「お前達は、何者だと聞いている。」
「『武鬼』ユユーラ。」
「『天光』ミカエラス。」
ん?
聞いた事がある名前だな…確か…
「何が目的だ?」
「我は、天界龍ジズ様の命令により、空の異常現象の原因を探る為に訪れた。
そして、その原因がお前達だと疑い現れた。」
おいおい、それはとんだ勘違いですぜ…
思い出した…天界龍についての本の中に出て来た最強の配下の名前に、巨大な薙刀を軽々と扱う鬼人族のユユーラと天の光を操り高速で移動しながら矢を放ち戦う天使族のミカエラス…だ。
さて、どうする…
恐らくあの二人は、ガチで強い…ヒッポリュテでさえあの般若女だけで手一杯なのに…俺とクロセルでやるしかないか?
「ならば、私達は無関係だ。」
「信じられんな。」
「"剣帝"ヒッポリュテ=アマゾニアが誓う!それでも足りぬのなら、見るがいい!世界十三魔剣が一つ『雷切丸』の名において誓おう。そして、誇り高きアマゾネスの女王として誓おう!」
ヒッポリュテは、己の剣を天上に掲げて叫ぶ。
え?
ヒッポリュテってアマゾネスの女王だったのか?
初耳だよ〜ん?
「……その誓い、偽りは無いな?」
「ない。」
「そうか。」
「!ユユーラ、俺の肩に掴まれ!」
天使族の男、ミカエラスがそう言うとユユーラと名乗った女は肩に捕まり光となって消え去った。
「ッ!?」
気付いた時には、遅かった。
その瞼は完全に開かれ、巨大な瞳が顕になる。
赤黒く禍々しい泥の様な液体が、地に落ちると真っ赤な鮮血の様な光が城塞都市ガレスをあっという間に飲み込んで、こちらに迫って来た。
間に合わない、そう確信した俺は…此方に走って来るヒッポリュテに向かって叫ぶ。
「ヒッポリュテ!僕の事は良いです!お嬢様を守ってください!」
「ちょっと、何を…「ああ!」
ヒッポリュテは、光に飲まれるほんの数秒前にクロセルを抱きしめ…消えていった。
ああ…本当、フラグってのは立てるのは良くないなぁ…こうも面白く回収させられちまう。
師匠、再会は少し難しいかも知れないですね。
こうして、俺もまた、光に飲み込まれた。
天龍暦503年、エレシウス領が地図から姿を消した。
人境大陸の人々はこれを、『魔神の怨嗟』と呼んだ。
後の、世界五大厄災の一つとなる。




