第十二節 崩壊は唐突に
エレシウス領より、少し離れた森。
魔物が多く出没する森の中には、複数の弓や剣を手にした男達が狼の姿をした魔物と戦闘を行っていた。
その中でも、一人の男は他を圧倒したった一人で十数匹の狼を斬り伏せた。
「ふぅ…」
「イアソンさん、流石です。」
「ああ、それよりも先に進もう。」
全く、困ったものだ…ここ数年、魔物が異常な程に出没している…こんな事はこの村にきて初めてだ。
しかも、一匹一匹がそれなりに強い…だからこそ、俺がこうして魔物の討伐隊を編成して対処しているのだが…
そんな事を思っている間にも、ゴブリンとワーウルフの群れが俺達の周りを囲んだ。
「だぁー、クソ!何なんだこの数は!」
俺は相当に苛立っている。
なんて言ったって今日は、愛する息子の10歳の誕生日だって言うのによ…今頃、ユージンやそのご令嬢さんがお祝いをしてくれるだろうよ。
ダインの奴…あんの、問題児と言われていたクロセルお嬢様の心を掴んで見せたらしいじゃねぇか。
ユージンの話では、お嬢様が攫われた時に3人の悪党を魔法でやっつけたって話だ…流石は俺の息子だ。
「凄いな、イアソン様は…」
「ああ、あの数をたった一人で蹂躙している。」
あいつと離れてから、3年…大きくなってんだろうな…はぁ、息子に会いたいぜ。
娘のペネロペもアイツの娘のアーニャも3歳になって、生まれて来たばかりの時よりももっと可愛く成長してるのを見せてやりたかったな…
せめて、ニーニャとアルマとアーニャだけでも送り出したかったが…難しそうだな。
それから暫くして、やっと魔物の出没が治った。
ようやく家に帰れる。
「帰ったぞー!」
家に着くと、元気よく扉を開ける。
すると…パタパタと可愛らしい足音を立てて二人の幼児が俺の元へと駆け寄って来た。
「パパぁ〜!」
「いぁしょん!」
俺は、天真爛漫で俺に抱きついて来た二人の娘と孫を抱きかかえて肩に乗せる。
俺とイヤシスと同じ髪色をした方が俺の娘のペネロペ…こっちの紫色の髪色をした子が…複雑だが、俺の孫アーニャだ。
「いい子にしてたか〜?」
「うん!してた!」
「私もえらいえらいしてたよ!」
「よしよし、良い子だなぁ。」
本当に、可愛いな♡
将来は、偉い別嬪さんに成長するだろうなぁ〜…
「お帰りなさい、あなた。」
「お帰りなさいませ、イアソン様。」
「お帰りなさーい!」
台所から、俺の妻イヤシス…使用人のニーニャ…その妹アルマも出迎えてくれた。
妻のイヤシスは勿論の事だが…この二人もこの数年で本当にいい女に成長したな。
ニーニャは、26歳。
アルマは、15歳の成人を迎えた。
「どうだった?」
「ああ、魔物の数が尋常じゃない…こんな事、前は無かった…例の唸り声らしき現象に共鳴しているようだ。」
そう、ダインがフロッセル邸に家庭教師の仕事に赴いてから数週間後から気掛かりな出来事が起こっていた。
深夜に外を出て、耳を澄ませてみると何かの呻き声の様な風音が聞こえて来るようになった。
最近では、その声は朝〜夜中に掛けてずっと続くようになっている。
耳をよく澄ませれば聞こえる程度の小さな音…娘達は気付いていないようなので良かった。
が、嫌な予感がする。
何か不吉な事が起こる予兆なのかも知れない…
「ダインは、元気かしら…」
「折角の、誕生日なのに…」
「大丈夫さ。あの子は強いからな。」
なんて、言い聞かせるが…父親の俺としてはイヤシス達と同じように申し訳ない気持ちで泣きそうになっちまう。
この魔物の活性化が落ち着いたら、家族皆んなで顔を出そう…あー、いや…ダインに帰ってきて貰うか?
その間に、プレゼントも買っておかないとな…今頃、アイツはもっと強くなってるんだろうな。
次戦ったら、俺は負けてしまうかもな。
よし、負けないように剣の鍛錬を頑張るか!
そう思って俺は、家の外に出る。
「ぱぱぁ〜、どこいくの私もつれてって!」
「困ったなぁ〜、なら少し散歩でも行くか!」
ペネロペの小さい身体を持ち上げて、肩の上に乗せる。
しっかし、ダインがプレゼントしてくれたパジャマは凄いな…着用者の成長に合わせて服も成長していく魔法服…ペネロペやアーニャはこの服が相当気に入ってるようで、ずっと着ている。
さてと、散歩ついでにセレーナティアスに挨拶でも行って来るか。
あの子も、この数年間で見違えるほどに良い女に育ったぞダイン!
今年で、15歳になったからな。
「ぱぱ…あれ、なにぃ?」
「ん?…何だ、アレは…」
ペネロペが、指をさした空を見上げる…そこには…巨大な赤黒い月。
ただの月じゃなく、今すぐに爆発しそうだ。
長年、冒険者をやっていた影響なのか…アレが良くない物だと言うのは一瞬で理解した。
どうすれば良い…そう考えていた瞬間ーーその瞼が開かれ、真っ黒に染まった月が赤紫の光を放った。
あそこは…エレシウス領付近…違う、今はそんな事考えいる暇は無い…家族を、ここにいる家族を守ることを考えるんだ。
俺は、ペネロペをしっかりと掴んで家の方へと走り出す。
背後からは、凄まじい速度で紅色の光が迫り来ていた。
「お前たち!」
外の異変に気付いたイヤシス達に、俺は力一杯叫んだ。
「逃げーーー」
しかし、最後まで言い切る前に俺とペネロペは謎の光に飲み込まれてしまった。
「あなたッーー」
「アーニャ!アルマ!」
イヤシスもニーニャもアルマもアーニャも、皆んながなす術なく飲み込まれ消えてしまった。




