第十節 独白
次に、この世界の言語は各種族によって使われる物は異なっている。
人境大陸で使われているのは、人族語。
フランツェ大陸で使われているのは、亜神語(獣神語+人族語)。
迷宮大陸で使われているのは、武神語。
魔境大陸で使われているのは、魔神語。
海境大陸で使われているのは、海神語。
天境大陸で使われているのは、天神語。
まぁ、ここら辺はそりゃそうだよなって感じが多いな。
ただ勘違いしては行けないのは…例え同じ種族間でも使われている言語の名前は同じでも使い方や意味に違いがある事もある。
アムスフィア国周辺の地域では、その地域独自の言語が用いられている。
そこから少し離れるとまた異なったニュアンスなどの言語が用いられている。
アムスフィア王国は他の小国と違い規模が大きいので、富裕国に分類される。
故に、富裕国特有の言語を他の地域で使うと金の亡者が貧相国に何の用だか!なんて皮肉を言われる事もあったり、襲われる可能性もある。
フランツェ大陸は少し特殊となっている。
亜境大陸とフランツェ大陸では、獣神語と人族語が用いられる。
北部の亜境大陸では獣神語、フランツェ大陸では人族語。
またその二つの大陸の一部の亜人と神聖国の間では交流があるので、人族語を使う亜人もいれば、亜神語を使う人族がいる。
海境大陸の海族の間では、海神語が用いられている。
また海族には、複数の種に分かれている。
中でも好戦的な部族…海人族は危険視されている。
海族はあまり他の種族とは関わりを持たないので、出会う事も稀であり殆どの者は海神語など必要ないと認知している。
ふむ…この辺りの言語は全て習得しておいても損が無いと思うので習得しておきたい。
まずは、亜神語に分類される獣神語を覚えよう。
ちょうど、亜人族と魔族の間とされているヒッポリュテがこの家には居るから教えて貰おう。
早速俺は、ヒッポリュテの元へ行き獣神語を教えて貰うことにしました。
ーー
あれから一年の月日が経過した。
ヒッポリュテから獣神語を習ってから半年にはもう習得することが出来た。
想定していたよりも、短い間に習得する事が出来た。
予想していたよりも、難易度は低く文字数が少なく同じ文字を何度も使うので頑張れば誰でも覚える事が出来ると思う。
獣神語の文字の形は、英語を少し変化させたような感じだったので覚えるのにもさほど苦労しなかったのかも知れない。
それでも、人族が一から獣神語を憶えるのは難しい事だったらしくたった半年で習得してしまった俺は、ヒッポリュテからとても驚かれてしまった。
ガレスの町に出て、高い本を買う羽目にならなくて良かった。
しかし、問題は魔神語。
ヒッポリュテに魔神語も出来るのか?と聞いたが、使える人間は限られているらしく彼女は使えないと言っていた。
これは仕方ない、と言う事でガレスの町で安く売られていた魔神語の本を購入した。
ーー
さらに、一年が経過した。
ここに来てから2年、俺は9歳になった。
しかし、未だに魔神語は覚えられない。
マジで、難しい…元の世界の楔形文字に似ている。
何度も魔神語の本を読み返しているが、翻訳しようにも全くあの字も分からないので行き詰まっている。
獣神語のように、英語が少し形を変えた程度の文字だったなら習得は簡単までは行かずとも習得は出来たのかも知れない。
誰かに、教えて貰おうにも魔神語を喋ったり読んだり出来る人も居ないので頼ることも出来ない。
はぁー、どうしたものか…それと、一年前に師匠に手紙を送ったが未だに返事が来ていないのも心配だ。
ま、取り敢えず自力で頑張ろうと思う。
ーー
そんな事を思っていた、翌日。
待ちに待った師匠から手紙の返事が届いた。
届いたのは手紙だけではなく、一冊のノートが一緒に入っていた。
手紙を開けてみた。
内容は、少し省略する。
『久しぶり、元気にしてるかい?
返事が遅くなって申し訳ないないね〜、君に手紙を送った後…公国内でゴタゴタがあって私達もその対応に追われていたんだ。
この手紙が君の元に届く時、私は恐らくブルータル公国から旅立っていると思う。
少々、気掛かりな事があったんだ…再会はもう暫くかかりそうだと思う。
話は変わるけど、君からの手紙を読んだ時はとても驚いたよ!
まさか、あのエレシウス領の氷の令嬢の元で家庭教師をしているとは…しかも報酬もかなり美味いとか…ずるいや!
それに、あの"剣帝"ヒッポリュテにも算術や魔法を教えているんだろ?
凄いじゃないか!
あ、そうそう。
君が最近、言っていた…魔法で想像したフィギュアの事なんだけど…色んな所で見るようになったよ。
ブルータル公国の道具屋にも売られていたよ?私もそのマーリン人形を買ったんだけど、とてもいい出来じゃないか。
でも、金稼ぎも、程々にね?
本題に入るけど、手紙と共に送った少し分厚いノートに私が簡易化した魔神語とその他の言葉を記しておいた。
これはどう言う文字なのかーとか、一から全部記して置いたから君の努力次第では数ヶ月で覚えられるんじゃないかな?
魔神語さえ使えれば、もり魔境大陸で迷子になっても近くの魔族の集落とかに寄って道を聞くなんて事も出来るようになるしね。
頑張っておくれよ!
偉大なる魔法使い、マーリンちゃんより
P.S. 手紙とノートと一緒に送った、箱の中身を開けてご覧?とっても良いものがあるからね!それじゃバイバーイ』
豪華な包装がしてあった木箱を開けると…中に入っていたのは、可愛らしいフリフリが着いた下着だった。
こ、これは師匠の者では無い…この匂い…はっ!アルトリウスの下着か!
ありがたや…ありがたや…ポケットにしまっておこう。
さてと手紙を読み終わったけど、取り敢えず師匠が元気そうで良かった。
相変わらず、お調子者なのは変わっていないようだ。
このノートには、あらゆる言語が簡易化されて書かれている…おぉ、本当だ!
凄いなこれ、あれだけ難しそうだった魔神語が凄く簡単に誰でも分かりやすいように記載されている。
これがアレは、すぐに習得出来る。
魔法の鍛錬で作った魔法フィギュアの売れ行きも良いようだ…初めは単なる小遣い稼ぎで売ってみたのだが、これが思ったよりも大反響で人気が出てしまった。
エレシウス領だけに留めておくつもりが、他の小国や帝国なんかでも流通しているらしい。
ま、いっか。
師匠の手紙の中で、もう一つ気になったのは…ヒッポリュテの事についてだな。
どうやら、彼女は…雷神流(剣神)の中では五番目に強いとされているらしい。
それもそっか、剣帝は…剣聖と剣神の次の位だったか?それでも上に四人も居るとは…世界は広いな。
剣王も少数、剣豪も少数、上級は少し多め…思ったよりも上級から上の人間は少ないらしい。
それは、残りの流派でも変わらないらしい。
って、つい話に夢中になってしまった。
勉強を再開しよう。
俺の家にあった、種族の本よりもより深く詳しく書いてある。
種族のあれこれが全部だ…どうして魔族でも無いのにこんなに詳しく知っているのだろうか…あ、そう言えば師匠は俺よりもずっと長くこの世界に居るんだっけ?
なら、これほど詳しく知っていても不思議ではないか。
字が綺麗で読みやすいし、字だけでは無く所々でイラストなどが描いてあるので飽きない。
あ、師匠の黒タイツの匂いを定期的に嗅ぎながら勉強をしよう。
うん、勉強が捗るねぇ〜
◆【ヒッポリュテ】◇
「お〜い、ダイン…ん?」
ダインに用事があって、部屋を覗いたんだけど…勉強中だったようだ。
真面目だなぁ〜…普段は、こんな私の身体を見て息を荒げている変態小僧とは思えない〜
今思えば、この子…初めて出会った時からこうだったな。
イアソンがジュネーヴ様の家に訪れて頭を下げてまで、仕事をさせてやってくれ…と言うからどんな問題児かと思ったが…いざ、奴の元へ来てみれば、とてもそうには見えなかった。
初対面ではイヤシス似の顔だったから、女子の様な容姿で身体もとても華奢で肌白い軟弱そうだなと思っていた。
期待できそうに無いと、諦めていたが…イアソン(旧友)からの頼みを断る訳にも行かなかった、もし仮に失敗したなら私の家庭教師を頼もうと思っていた。
案の定、お嬢様によって制裁を加えられていた。
しかし、あの人攫い事件以降ーーお嬢様は、ダインの事を大層に気に入られたようで嬉しい。
そして同時に、イアソンやイヤシスが言っていた通りにダインは天才だった。
僅か、7歳だと言うのに無詠唱で魔術を使い…聞いた事も見た事もない魔術で3人の男を圧倒した。
その内の一人は、この辺りでも名の知れた悪党だった。
最後の相手は、魔術使いにとって相性が悪かった。
初めての土地、初めての実戦であそこまで出来た…文句を付ける方が難しいだろう。
そしてその時ーー血を流しながらも必死にお嬢様を守る戦士を見て私の中で何かが芽生えた。
我ながら驚いている、そう言った感情は同じ戦士であるイアソンにすら抱かなかった物だった。
そして、教師としても優秀であった。
お嬢様ならともかく…幼少期より、殺し、戦い、奪う事だけで生きて来たあーしが、算術や読み書きが出来るようになってしまうとは思いもしなかった。
教え方が上手かった、たとえ誰でも出来るような問題を解けるとアイツは自分の事のように喜んだ。
不思議な奴だ…自分が思っているよりも私はアイツを信頼して心を許してしまっている。
冒険者時代から、決して男には身体を触らせなかったあーしが…簡単に身体を触らせることを拒む事なく受け入れている。
あーしの身体は、他の女よりも少しばかり発育が良いらしく…冒険者をしている時はよく、イアソンや他の男達が私の胸や尻を見ていた。
その目は、不愉快だった。
イアソンには、恩義があったので黙認していたが…他の男達は、2度と歩けなくなるほど痛めつけた。
ダインも、その男たちと同じこと目をしているが…何故か不快に感じない。
思えば、もう一人だけ不快に感じなかった方が居た。
あーしの、剣の師匠だ。
名前は知らない。
性別が女という事だけは分かる。
ただ、その剣技に惚れ…その強さに憧れた。
弟子にしてくれと頼めば、快く受け入れてくれた…酒癖は酷かった…寝込みを襲われた事もある。まぁ、アマゾネスでは、女同士での交尾は毎日のように行われているので慣れている。
雷神流…稲妻のように疾く、雷の如き一撃を振るう事からそう呼ぶ者もいる。
師匠は、"剣聖"と名乗っていた…私からすればあの人は一度だけ目にした事がある"剣神"サー・ランスロットよりも強い。
あの人は、ある日…私の前から姿を消した。
まぁいい、いずれ何処かで再会するかも知れないしな。
アマゾネスの同胞達が、今のあーしを見たらどう思うのだろうか…そもそも、私には彼女達と会う資格など無いがな。
それでも、驚くだろう…いつか、叶うと願おう。
教師としてのダインは、完璧だ。
アイツは、あーしに『剣の指導上手ですね!』と言っていたが、あーしからしたら足元にも及ばない。
現に、たった一年と少しで雷魔術を中級まで習得出来たんだ。
ダインの魔術を見た時から、あーしの魔術へのイメージ大きく変わった。
これまで、私が見て来た魔術師は前線で戦う我々にとって障害でしかないと思っていた…元メンバーの魔術師は、サポート向きだったからな。
しかし、無詠唱を使いこなし逸脱した魔術威力を持つダインに関してはそんな感情は湧いて来なかった。
あれ程の魔法使いと対峙すれば、あーしとて勝敗は分からないだろう。
イアソンも、此方に送り出す前に一騎打ちをしたが…あと少しでも判断が遅れれば負けていたのは俺だなと言っていた。
イアソンと違って、雷神流の才能は無いが…剣の筋は悪くない。
舞神流の方が、奴に会っている気がする。
私は、教える事は出来ない。
だから、私には私が出来る事を全て教えて行こうと思う。
イアソン同様に、根性は人一倍ある。負けず嫌いだし。
遺伝と言うのは、面白い。
だが、変な方向にも遺伝が継がれている。
ダインは、女好きだ…下手をしたら、イアソン以上に。
あーしの着替えを覗いてきたり、お嬢様の部屋に忍び込んでぐひひと笑っていたり。
勉強中に、私の胸の谷間を見ながら喋っていたり…お嬢様への説教中にお尻を揉んだり…困ったものだ。
悪い事ではない、男が女に興奮を覚える事は本能なので仕方ないと思っている。
アマゾネスだって、種族間で互いの身体を触り合ったり、見せ合ったり、交尾を重ねている。
だが、知らぬ女に興奮しているダインを見るのは少しモヤモヤする。
リエッタ様に、その事を話してみるとそれは嫉妬だと言って来た。
少し違う気もするが、まぁそう言う事なんだろう。
お嬢様もまた、着実に成長している。
出会った当初は、まるで氷の様な存在だったが…ダインと出会ってからはその氷が少しずつ溶けている気がする。
ダインの事を本当に気に入ってるようで、毎日ダインが如何に素晴らしいのか演説してくる。
やはり、お嬢様には笑顔が似合うのでとても喜ばしい事だ。
剣術の方に関しては、天才だ。
このまま行けば、将来は私と同じ剣帝いやそれ以上の剣士になるんじゃ無いかと期待している。
お嬢様も、ダインに対して色恋の感情を持ち始めているらしい…まさか、あのお嬢様が誰かに対してこんなにも夢中になるとは夢にも思わなかった。
もし、お嬢様とダインが結婚するなら私は祝福しよう。
私は、この心をダインにもお嬢様にも伝えるつもりは無い…二人が笑ってくれればそれで構わない。
師匠、貴女の言っていた事が今になって理解出来た。
ーーいつか、君にも幸せと思える瞬間が来るさ!
フッ…確かに、私は幸せかもな。
豆知識として、ヒッポリュテは普段こそギャル風の話し方をしていますが偶に見た目とは似合わない言葉を使う事があります。
それは彼女が自分の故郷に居た際の話し方の名残です。




