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第十一節 卒業試験

それから数ヶ月後ーー遂に魔法勉強の卒業日が訪れた。


何故、急に?とは思ったが…どうやら師匠やアル先生の本来の目的であった獲物が動きを見せたらしく…これを逃す手は無いので、明日にでも旅立つと言うのだ。


寂しい…だが、仕方ない…


それで、卒業試験は何をするんですか?と師匠に聞いた所…この村にある広大な草原へと赴いて魔法の実演を行うとか…


俺はその言葉を聞いた瞬間に、絶望の色に染まった…それはつまり…外に出るって言うのか?

どうしようもなく怖い…外で足がすくんで動けない俺を待機している師匠にアル先生…そして両親にメイド姉妹が心配な様子で見る。


前世での引き篭もり…になったトラウマを思い出すと進み出したくても足が動かない…

家の前で、幼馴染と元凶の女…そしてクラスメイトや近所の住民の軽蔑する様な視線に言われのない言葉がヒソヒソと聞こえて来る様な幻聴と幻覚に襲われる。


ここは異世界…あっちの世界とは違って本当の俺を知っている者は居ない…それでも、怖い…

この村の住民が、幻覚で元の世界の人間と同じ顔に成り替わり俺を見ている様な…そんな景色が浮かび上がる。


もう後悔しない様に…そう決めた筈なのに…


「大丈夫ですよ、怖くありません。」


そう言って、アルトリウス先生が俺の背中を押す。


あぁ、そうだ…そうじゃないか…


「さぁ、ダイン…私の手を取りなさい。」


師匠が、優しく慈しむ様な微笑みを向けながら手を伸ばす。


何を恐れていたのだろうか…俺には、俺を見てくれる家族が大切な人達がいる…だから、怖く無い…


俺は、ソッと師匠の手を取る…彼女は、再び微笑んで手を握る。


あぁ…彼女の温もりが…優しい"色"が俺の身体を包んでくれる。

俺はもう、お前達に負けない。


「さぁ、行こう…」


俺と師匠は歩み出す。


外に出れた…ふぅ、一安心だ…


「行ってらっしゃい、ダイン!」

「あの、ダインが遂に外に…!頑張れよ、ダイン!」

「行ってらっしゃいませ、ダイン。」

「行ってらっしゃい!」


「はい!行って来ます!」


少年の殻は遂に破られた。






ーーー


そう息巻いて外に出てみると…それはもう美しい景色が広がっていた。


辺り一面が綺麗な緑と野菜の彩りに包まれた畑がいい味を出している…

畑の周りには村人が農作物を耕している…そんな彼等は、俺と師匠に視線を向ける。


しかし、その向けられる視線に悪意は無く純粋な興味と物珍しさの視線。

何というか心地が良い…それに、師匠にはまた別の感情の視線が向けられている。


しかも、感謝の言葉や野菜などを手渡されている。


「いやー、人気者は困ったねぇ〜…この数年で私も村の為に頑張ったからねぇ〜」


いや、本当に凄いな師匠は!

確かに、家の窓からよく師匠が村の老人や子供達に魔法を見せたり、作物を成長させたりしてるのをよく見ていたからな。


「このイーネはね米の原料になっているんだ!こっちは、ニンジソにダイゴン…」

「師匠は物知りですね。」

「そうでしょう!まぁ、村人の受け売りだけどね!」


あら、正直に言ったよこの人。

む?ですが、師匠よ…これから魔法の試験を行うと言うのにそんなに荷物を持って大丈夫なのですか?


「こうして、君と手を繋いで歩くのは最後になるね。」

「寂しいです…」


あぁ、そうだった…今日は師匠との最後の授業になるんだった…本当に寂しいなぁ…


「私も寂しいよ…まさか君に、ここまで愛着が湧くとは当初は全く思って無かったよ…おっと、そんな話をしている内に辿り着いたよ。」


辿り着いたのは、先程の田舎とは思えない程に何も無い大地が続く平地。

遠くに目を凝らすと、ほんのうっすらと山が顔を出している。

ここでやるのか…緊張して来た…


「君は、全属性の中でも特に炎魔法が秀でている…そんな訳で、最後の試験の内容は、王級炎魔法の中でも特段に難易度が難しい『真紅の大爆淵(エクスプロージョン)』+私からのサプライズを見せてあげる!」

「おぉ!」

「今から、私がお手本を見せるから真似してね!」


王級の魔法を使うのは初めてだから、少し緊張するな…

でも、何だかとても楽しみだ。

それに、全属性混合魔法…なんかとんでもなくやばい予感がする。


「じゃあ、我が弟子よ、少し後ろに下がっていなさい!

今から使う魔法は、超広範囲に炎の大爆発を起こす危険な魔法だから巻き添いを喰らえば、跡形もなく消し飛んでしまう。」

「わ、わかりました。」

「では、今回は詠唱込みで合格とします。」


そう言って師匠は、俺の前へと出る。


そして大きく深呼吸をして、真ん中に美しい薔薇の宝石が置かれた杖を前方に伸ばす。


「ーー紅き黒炎 光を浴びし漆黒の炎祖 大気纏いし爆炎は遥か摩天楼へと至らん

   ーー汝 この声が聞こえるならば その意その理を持って目覚めよ!

  ーー新緑の森は塵へ 長き大地は焼け野原へ 蒼き空は紅く染まり その全てを灰塵へと帰すが汝の定めなり!

ーーさぁ、顕現せよ! 

 ーー『真紅の大爆淵(エクスプロージョン)』」


彼女が詠唱を一つ一つ、発していくたびに膨大な魔力が収束してゆく…


その全てを唱え終えた後…彼女の伸ばした杖の先端より野球ボール程の小さな魔法の塊が放たれる。

やがて、その球体はピタリと空中で停止する。


そして…あたり一瞬が白き光に包まれると共に…凄まじい爆音が鳴り響き渡ったと同時に爆炎に包まれた巨大なドーム型の大爆発が起こった。


大気に吹く風がまるで灼熱を帯びている様に熱い…更に驚く事に、大爆発の影響なのか空が真っ赤に染まっている。

魔法一つで、ここまでなる物なのか…それとも、師匠の魔法が異常なだけか?


エクスプロージョンはやがて小さく縮まり消えてしまった。


しかし、その威力は常軌を逸している。


真っ平だった平地の真ん中には巨大なクレーターが現れ、その周りでは未だに残火が踊っている…その景色がその魔法の恐ろしさを物語っている。


「うん、威力はだいぶ抑えたから大して被害は無いね?」

「いやいやいや!これで威力を抑えたって無理がありますよ師匠…」

「そう?私が本気で今の魔法を放ったら…そうだねぇ、小さな国一つは灰塵に帰せると思うよ?」


あー、そうだった。

この人は頭がおかしいくらい化け物だったんだ…流石、魔法だけで言えばこの世界でも最強と自負するだけはあるよ。


さてと…では、いっちょ行くぜ!


大丈夫!

なんて言ったって俺はそんな世界一の魔法使いの弟子だ!


俺は、師匠と同じ様に深く深呼吸をして渡された杖をソッと前へ出す。


身体の中の魔力を循環させ、イメージを構築する。

そして唱える。



「ーー紅き黒炎 光を浴びし漆黒の炎祖 大気纏いし爆炎は遥か摩天楼へと至らん

   ーー汝 この声が聞こえるならば その意その理を持って目覚めよ!

  ーー新緑の森は塵へ 長き大地は焼け野原へ 蒼き空は紅く染まり その全てを灰塵へと帰すが汝の定めなり!

ーーさぁ、顕現せよ! 

 ーー『真紅の大爆塵(エクスプロージョン)』」


詠唱を終える…その瞬間ーー凄まじい爆音と業火の音と共に師匠の放ったものよりも少し小さめの大爆発が起きる。

なるほど…このエクスプロージョンは、時限式の爆弾みたいな仕組みなのか?

それならば、魔法を放ってからかかる数秒の時間を工夫すれば0秒で起動出来るんじゃないか?


「ふむ、合格だね!

それに、天才な君の事だからきっと気付いていると思うけど、このエクスプロージョンはちょっとした工夫で起爆に掛かる僅かな時間を0にして放つ事が出来るよ!」


やはり、俺の思った通りか…


「うん、文句なしの合格だね…本来ならここら辺で終了なんだけど…君にはいずれ辿り着けるであろう大魔法を披露してあげようかな?」

「先程、言っていた…サプライズの事ですか?」

「そうだとも!」

「楽しみです!」

さぁ、今から見る魔法は少し他人に知られるのは避けるべきだからね…結界を張らせて貰うよ。」


そう言うと、師匠は杖を「ほいっ」と振る。


ん?

何をしているんだろうか…辺りを見渡しても同じ様な景色しか視界に映ってないけど?

結界を張るなんて言っていたけど、失敗した?


「はい、これでよし!

これで、今から私達が何をしても他の人に見られる心配は無いよ!

こちらからは相手が認識出来ても、向こうから此方は認識出来ない様になってる。」


なるほど…

つまりあれか?

ミラーガラス的な感じなのだろう。

試しに何も無い所に手を伸ばしてみると…途中で何か壁の様な物に遮られた。

これは、エッチし放題ってやつだ。


「ダイン、今から私が見せる魔法はね?私が何百年も鍛錬を続けてようやく習得した大魔法なんだ…そして、いざという時の最強の切り札でもある。

だから、ここで見た事は内緒だよ?」

「はい!」

「うん!

では…行きます…」


師匠は目を閉じる。


そして杖を地に突き刺して、大きく両手を空へ…いや、天へと上げ大きく開く。


「ーーあぁ 覚醒の時来たれり 

  ーー水氷塊の祖(フリーズ)紅蓮の祖(ブレイズ)大気の祖(エアリス)豪雷の祖(サンダース)大地の祖(アースダムス)漆黒の祖(ダークネス)極光の祖(シリウス)

ーー誇り高き七つの祖よ 我らに一塊の業を与えし汝に願う

 ーー天の法廷に背かんとするこの身が 朽ち果て消えようとも構わない 汝らの罪は私が背負おう 故に、汝らの力の全ては我が元に! 私が祝福し凱歌を捧げようーー」



まだ、詠唱の途中だと言うのに彼女の周りには七つの色を纏った美しき魔力が重なり収束する。

世界が雄叫びを上げる様に唸っている。



「ーー凍つくは氷塊の流星 焼き尽くすは紅蓮の流星 吹き荒ぶるは大気の流星 轟くは雷鳴の流星 揺るがすは大地の流星 飲み込むは宵闇の流星 天照らすは極光の流星!

 ーー天空の門よ目覚めよ(ゲートオープン) 天上の門は開かれた 天より来るは 七つの流星 七つの惑星

ーーこの一撃を以って 世界は我が名を知るであろう

    ーーー『祖は、七つの流星(ユア・メテオール)』」


美しい歌の様な詠唱が終わりを告げると共に、師匠を囲む様に収束していた魔力が一筋の光となって遥か天へと昇る。


光は天上に届く…すると、空中に七つの色が異なった大魔法陣が描かれる。

魔法陣は、七つの光を放つ。

その瞬間ーー巨大な七つの魔法陣より、それぞれ形・大きさ・纏う物が異なった惑星にも似た球体が流星群の様にゆっくりと…聞いた事のないような轟音を上げながら飛来する。


一つの流星は荒々しい風を纏いながら…一つの流星は猛々しい業火を包みながら…一つの流星絶対零度の氷を纏いながら…一つの流星は憤怒の如き雷霆を纏いながら…一つの流星は重圧の岩石群を纏いながら…一つの流星はあらゆる物を飲み込むブラックホールの様に…一つの流星は極光の熱を纏いながら…


地に堕ちた七つの流星は、この世界を滅ぼさんとする様な激しい勢い…

なんか…もう…えぐ過ぎて何も言えないわ…


でも、神秘的なその魔法に心を奪われたのは事実だ。



「どうだったかな?」

「とても素晴らしかったです!師匠の化け物っぷりが嫌と言うほどに見せつけられました!」

「あははは〜…まぁ、とにかく!これで、君の最終試験は終了さ!お疲れ様、ダイン…」

「はい!」

「さぁ、帰ろうか。」


そう言って、俺と師匠は帰路につく。


その時、前を歩く師匠の方から「寂しいなぁ…」なんて声が聞こえたけど気のせいか。

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