田植え
次の日、ゴブリンにどこから来たのか聞いてみると、案内するというのでついて行く事になった。着いたところは川を越えてもう少し南に行ったあたりだった。電車で一駅もない位の距離だ。君はいつからここにいたのと聞いてみると、どうやら昨日だと言っているようだった。話を聞いてみると、ゴブリンはまだ昨夜以外夜を経験したことがなかったみたいだ。
器用なものである。生まれたその日から言葉が聞いてわかるなんて、もしかして前世の記憶でもあるのかなと思ったが、それにしてはやっていることが子供のようでそんなに長生きした人間のようにはとても思えない。
もう少しその辺を探索してみたところ、なぜだかわからないが、数珠と十字架が数個見つかった。これはなんだろう。とりあえず持って帰ることにした。
帰り道には果樹園の中を通りながら、まだ取っていなかった果物を数個ほど見つけてはかじりながら戻ってきた。冬の間は、本拠地の周りの整備をすることにした。川と崖の間には柵をもう少ししっかりと作っていき、池の北側の坂のあたりは急になっていなくて、登りやすそうなところにいくつか柵を作った。西側は、川から崖までの間を柵でつなぎ、東側もなるべく川が近いところから、崖までを昨日つないだ。そんなことをやっているうちに、4ヶ月ほどの冬はあっという間に過ぎていった。
春になってからは、去年の秋の遠出の時に、見つけた蕎麦や麦、大麦、らい麦、山芋、とろろ芋などの種を、果樹園から東側の柵までの間を畑にして巻くことにした。冬の間にある程度雑木とかは抜いてあるので、畝を作って種を植えるだけであるが、それだけでも石器では結構大変だ。
こんな時に牛でも鹿でも何でもいいので動物がいれば楽だろうとは思うけれども、まだ動物は確保できていない。なので、石で作った農具で一生懸命畝を作り、種を植えていった。
西側は去年食べた果物の種をたくさん蒔いていった。イチゴを食べるときに種を全部剥がしてイチゴを食べると言う、ものすごい奇行を行ったが、イチゴの種は結構取れたので、今回はイチゴ畑を作る。そして柵の回りにキウイもたくさん植えていく。
キウイが植え終わってからはアケビの種まきだ。アケビの皮は意外と保存食料になって冬の間すごく重宝した。できるだけ増やそうと、枝を数本挿し木もして、回りに砂利で印をしておいた。
そして南側の果樹園になっているあたりは春の終わりぐらいになってから、周囲の林からぜんまいが伸びてシダになっているところをあちこちで見つけては、果樹園の木の下に移植を行った。来年の春はぜんまいが取れるかなと願うのだった。
山菜と言えば、竹の子だ。
竹ならば去年コップを作るために何度も行った竹林がある。春先の暖かくなってきた頃に竹林に行きたけのこ狩りをした。たけのこは竹林の地面がちょっとだけ飛び出ていれば、もうそこには竹の子がいると思い、穴を掘ってみると、たけのこが取れるのだ。ゴブリンを連れて行くと、竹の子がないところまで一生懸命掘ってキャッキャと笑っている。いつまでもゴブリンと呼ぶのもアレだから、ゴブリンのリンだけで呼ぶことにしている。
「リン、もうちょっと右の方を掘ってみれば?」
言われた通りに、地面を掘ると筍が出てきたので、皮をむいてそのままかじるリン。
今回のたけのこ狩りでは、前回拾った金属の十字架がすごく役に立った。十字架はあれから一生懸命叩いて削って、足のところをナイフの形に加工し、頭のところには木で持ち手を削って作って繋ぎ、何とかナイフの形にしてみたのだ。
掘り上げたたけのこを皮をむいてから金属で作ったナイフのようなもので、薄く削いでそのままかじると、たけのこのお刺身みたいな感じで結構おいしい。
日が暮れる頃までに葦で編んで作った籠がいっぱいになるまでたけのこを取り、帰り道には、やはり肩紐がちぎれ飛んでいた。それから数日かけて、たけのこは全て干し、次の冬の保存食品にすることにした。
リンはいろいろなところに行っていろいろな草をかじることが好きみたいだ。ある日、草を1つかじってみたらすごくおいしかったのか。私を連れて行って私にその葉を押し付けながら
「かじってみる」
と言うのだった。
その葉っぱはなんとなく大根の香りのする葉っぱだったので、もしやと根まで掘ってみると大根が見つかった。
その日の夕食は、大根の味噌汁になった。
麦の粥と大根の味噌汁、なんとなく人間の食事である。それから大根は本当に本当に数日かけて、たくさんの量を拾ってきて、西側の畑に植えて行った。
いちご畑の隣である。
多摩川のあたりまで歩いて行くと結構な数の大根を拾うことができた。大根は全てやせ細っていて食べるところはあまりないが、とにかくたくさん確保したので、大根の葉っぱがたまに食卓に上がるようになってきた。洗って塩で揉んで切っただけの大根の葉っぱの浅漬けだ。
枝豆以外にも色々と豆になっているものを見つけたのがあったので、今年はいろいろな豆を東側の畑に埋めてみた。
東側の畑は川から水を持ってきやすいように簡単な水路を作り、ど真ん中にため形を1つ作っておいた。もしもどこかで、米を見つけてきたらすぐに水田が作れるようになっている。
今は溜め池の周りに蕎麦だとか豆だとかそういうものを植えてある。とうもろこしも欲しいけれど、この世界では多分難しいんじゃないのかなと思う。
辛いものが何かないかなと思っていて、大根探しに歩いていたある日、とげのある小さな木を1本見つけたので齧ってみたところ、山椒の香りだったので、ついに辛味ゲットとなった。ということで早速持ち帰って、北側の崖の周辺に植えて行った。
崖の頂辺の生垣がわりに山椒を植えたのだ。もしも誰かが勝手に崖を登ったら、山椒の棘に刺されるだろうということで、前回拾ってきたブラックベリーも、カシスも、崖の上に池垣代わりに植えていき、棘がいっぱいある木苺も途中で見つけてあるので、それも崖の上に植えてあげた。後は、蔦になる植物をいくつか見つけて池の囲いの両側に植えていった。
春も後半に差し掛かって来ると、とにかく雑草がたくさん生えてくる。
毎日雑草を抜いては鶏鳥小屋に入れてと繰り返していると、ある日ひよこが目についた。なので鳥は通れない小さめの通路を作って、中にひよこ達用の餌をたっぷりと入れてあげた。
ある日川の生簀でとった魚を捌いていると、卵がいっぱい入っていたので、同じ種類の魚をもう2匹ほど捌いて、雄の白子と卵をコップに入れて、しっかり混ぜてから池の真ん中の湧水の近くに籠に入れて沈めてあげた。もしかすると池で繁殖出来るかなと思ってやってはいるが、アヒルの餌になってもいいかなとは思っている。
日時計の目盛が夜より昼が長くなる頃になると、流石に初夏の陽射しに感じられる。半月ぶりくらいで池の中を確認すると、小さな魚が群れを作って泳いでいた。




