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ある日
「何だここは?」
建物の間の細い裏通りを通り抜け、明かりの先に歩き出した瞬間、全身の感覚が異質な何かを感じ取り、視界が急に焦点を失い、心のどこかで第六感が警鐘を鳴らす。
前に踏み出す一歩を躊躇い、バランスを崩しそうになりながらも無理やり後ろを振り向くと、そこは一瞬前に自分がいた筈の暗い裏通りではなく、森の獣道の出口と化していた。
このまま後ろに振り向かず、来た道を戻るべきかと一瞬躊躇するが、だからといって目の前の踏みしめられた土の道は、何がどうあってもあり得ないとしか思えない、なぜこのような都会の街中の裏道が植物だらけの非舗装道路なのか、それは常識ではあり得ないとしか思えない。
後ろの方のどこか遠くから、鳥か小動物かなにかの鳴き声のようなものが聴こえた。
振り返っては後戻りができないかもしれないという後ろめたさを感じながらも、思わず振り返りそれがなんの音だったかを確認しようと目を向け、振り向いたすぐ目の前には土の地面しか見えず、近くから遠くに向けて焦点を移すと、野原と茂みと林と森と、遠くに山が見えた。
どう見てもそれは、富士山だった。