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愚かな人間達の末路

 

 闇色が世界を染める。

 クラシオン共和国にて規模の縮小を余儀なくされたクレプス教本部では、長年の悲願の達成まで秒読みということで祝勝ムードが漂っていた。


 三年前、シリル王国に侵攻した際はたった一人の『黒持ち』に7万の軍勢が無力化され、その後は王国に対する侵略行為を裁判で裁かれ教会の栄華は崩壊した。共和国内でも教会に対する不信感が募り、更には規制していた諸外国の情報が一気に入ってきた事で今ではクレプス教の権威は失墜していた。


 共和国と教会は一心同体であったにも関わらず国民はすぐに自分達にとっては未知の国に興味を示したのだ。今では素晴らしい文化や技術を知り、共和国の文化が如何に古臭く、そして権力者に利のある構造なのかを知り革命を訴える暴動もちらほら各地で起こっていた。


 それを危惧した教会は、教皇ウジェーヌの代わりに新たな教皇を選定、今一度国を正しき道に戻す事を目標に今日この日までやって来た。規模を縮小したところで共和国内には隠れ信仰者が秘密裏に暗躍。表立って行動は出来ないが徐々に準備を進めてきた。


 そうして迎えた今日この日。

 真の信仰者である者たちにとっては待ちに待った『降臨の儀』に心躍る信者が今か今かと待ちわびていた。



「皆の者! あの忌まわしい日から今日までこの苦難を共に乗り越えてきてくれた事に感謝する。我々はどんな苦難にも立ち向かい、そして力を合わせれば乗り越えられるのだと証明して見せた。そして我々の努力に神は遂に! お答えして下さったのだ! さぁ、祝おう! 我々の悲願、神クルムのご降臨だ!!」


「おぉ……!」

「ついに、この時が!」

「神よ……! 感動で打ち震えております……!」



 ソルラージュ大聖堂の地下、奥深く。歴代の教皇と教皇に選ばれた真の信仰者のみに足を踏み入れる事を許された秘密の部屋。そこには黒のローブで身を包んだ信仰者達が歓喜の声を上げている。

 ウジェーヌの死によって新たに選定された教皇フォートリエは自身の代での『降臨の儀』の成功を望み、そしてそれが実現する事に歓びを噛み締めていた。

 シリル王国への侵攻は失敗に終わったが、おかげで自分に教皇の座が転がり込んできたのは僥倖。間違いなく歴史に名を刻む存在となるのだ、と意気揚々と拝命を賜ったフォートリエ。規制されながらもその地位に就いたことに何の不満もない。フォートリエは皆より一段高い場所から神に祈る信仰者を見回す。涙を滲ませその時を待つ信仰者達に、満足気な笑みを浮かべた。


 青白く妖しい光を放つ魔法陣が一層の光を放ち、そこから闇色をした霧が発生する。


 ―――来た!!



「神よ! 我らが神よ!!」



 心が跳ねるフォートリエと信仰者達。目を見開き血走らせるその姿は狂信者と言う言葉がよく似合う。



「心よりおまちっ……ごふっ?」

「えっ……あっぐぅ!?」

「ぐぼっ!?」



 大聖堂の隠された礼拝堂に集まっていた信仰者達を飲み込んだ霧。まるで生き物のように蠢くソレは、信仰者達を包み込みそして無慈悲に喰らいついた。



「そ、そんなっ!?」

「お、お、お待ちくださっぎゃあぁぁ!!」

「う、うわぁぁ!?」



 ゴキッ! バキッ! と、骨を砕き肉を嚙み千切る音と仲間達の絶叫を前に、教皇フォートリエは愕然と立ち尽くす。まさか、そんなはずはない! そんな思いばかりがフォートリエの頭を駆け巡り、現実逃避するが否が応でもこの嫌な音は耳に入ってくる。叫び苦し気に助けを求める仲間達は最後には誰一人残っておらず、祭壇の前に残されたのはフォートリエのみ。



「か、神よ! 何故、何故このようなっ! ひぃっ!!」



 教皇フォートリエは自身の野心と名声を何よりも欲する強欲な人間だった。その欲望が己の死期を早めることになったのは否定できないが、それももう後の祭りである。


 決して人間如きが触れてはいけない領域。そこに自ら触れてしまったフォートリエ。そして、この世界に生きる者全てにとって最悪の事態を引き起こす事になる。



『……フィリウス』



 闇が、世界を覆う。




 ******




「チッ! 遅かったか」



 忌々し気に舌打ちするのはエヴァン・コールドリッジ。聖獣達を説得し、これから起こるであろう最悪の厄災の降臨を察知しての事だった。



『!! これはっ!』

『愚かなことをしたものよ……』

『矮小なる人間如きが、決して踏み入れてはならぬ領域に踏み入れた』

『そうでなくとも、お怒りであったというのに……』

『何とも愚かなものよな』



 聖獣達は察知するのと同時に、落胆した。彼らは知っている。人間の愚かさ、弱さ、臆病さ。それを知っても尚、共に生きる事を望み今日まで守護してきたのだから。

 だが、やはり改めて実感したのだ。



『愚かよ。実に愚かなものよ、人間!!』



 最早魔王どころの話ではない。多数の犠牲は伴うだろうが魔王は封印が可能。しかし、魔神は―――?



「ハッ! 魔神様のご降臨か。思ったより早かったな」



 魔神クルム。

 クレプス教に於いての唯一絶対神。この世界を創ったと言われている精霊王の生みの親。真の創造神という訳だ。

 魔神は作った世界に管理者として精霊王を生み出した。その精霊王は息子も同然。魔神自身の血肉と力を注いだ可愛い我が子。初めての自分以外の存在。大切に思わない筈がなかった。


 それを堕落させ、魔の王に堕とした事を許すだろうか? 可愛い我が子が管理していた世界で魔王となった精霊王は邪魔な存在。封印するという事は自分がまかせていた役目を取り上げるという事。世界を創った精霊王が、作った人間に牙を剥けるなど、父親が許すだろうか。


 否。


 魔神はいくつもの世界を創り出し、それぞれに管理者を立てている。その内の一つが失敗したとなれば、廃棄するだけだ。管理者として置いた精霊王、今は魔王だが、それも元の精霊王に戻す事など造作もない。ならば、邪魔なのは世界の方。



「人間を更生させるなんて面倒なことはする必要なんてねぇ。世界事消しちまえばいい。教会の連中は何を勘違いしたんだか……。人など炉端の石ころ程度のものだというのによ」



 ケケケッ! と笑うエヴァンに対し、聖獣達は深刻そうだ。

 彼らは数千年の時を人間と共に生きてきたが故に、愛着を持っている。如何に弱い存在であるかも、そしてどれだけ愛情深い生き物なのかも知ってしまっている。

 精霊王と敵対し、人間を選んだ聖獣達もまたこの世界と共に消え去る事になるだろう。魔神が大切に思っているのはどこまででも息子である元精霊王なのだから。



「ケッ! ご降臨されたのなら時間はねぇな。消される前に魔王の顔ぶん殴ってからイェルサの魂を消滅させてやる」



 ククッと笑うエヴァンは心底楽しそうで、まるで恐怖心なんてものは感じない。エヴァン・コールドリッジにあるのはこれからやっと魔王を殴れるという喜びと、イェルサに対する変わらずの憎しみだけだ。



「〝やめて〟だぁ~? 嫌に決まってんだろ。万が一、魔王が嘆願してお前の魂を取り戻しでもしたらお前だけがハッピーエンドだろ? そんなもん、俺が許すとでも思ってんの? なぁ、どうしてお前は自分だけ助かろうなんて考えてんの?」



 一体何を怖がる必要がある?



「この世の全てが同じタイミングで〝み~んな仲良くさようなら〟ってなるんだぜ? 何を怖がる必要があるってんだよ?」



 押し黙ってしまったイェルサは激しく後悔している。こんなつもりじゃなかった、こんなことになるなんて思わなかった、とそればかり。

 聖獣達もエヴァン・コールドリッジの発言に言葉を失う。何てこというのだと思えど、声にならない。だがコールドリッジにとってはそれほど可笑しい発言ではないのだ。



「〝死〟は全ての生きる者に対して等しくやってくる。そこだけは世界で唯一の平等。金持ち、貧乏人、貴族、平民、奴隷……。生きていられる時間や幸福度に違いはあれど、誰にでもやってくるのが〝死〟であることには変わらない。それこそ聖人と言われるような人間にも極悪人と呼ばれる人間にもやってくる。

 ……そこからお前は一体どれだけの時間を逃げてきた? 逃げ回るにはもう、十分すぎる程の時間を過ごしただろう。

 ―――いい加減、諦めろよ」



 そしてコールドリッジは飛んだ。魔王の元に。彼の中のイェルサは嫌だ嫌だと泣き叫ぶが知った事ではない。

 全ての元凶。憎いお前達を地獄に叩き落す。いや、消滅させるのだから地獄にさえ落ちないのか。まぁ兎も角、コールドリッジは魔王の元に飛ぶ。リズがしたように、力の解放を行う。


 溢れ出る力を完璧に制御し人間の限界を突破。コールドリッジもまた肉体の硬質化が進んでいたのだが、高エネルギー体へと昇華させた事で今までの不調が嘘のようだ。まるで新しい肉体を得た気分だった。



「この世界が消えようと! 俺には関係ない! 死に行く俺にはもう! この先の未来などないのだからな!」



 狂ったように、されど心底嬉しそうに笑うコールリッジは一直線に魔王に向かう。眼下にはリズによって殴り飛ばされ、項垂れている魔王。そして、殴った張本人。


 リズを一瞥して魔王に照準を合わせるコールドリッジ。手加減? 土地への配慮? 無いない。そんなもの、どうせすぐに消え去るんだから。

 魔王が項垂れ消沈している所をぶん殴る事に、躊躇いなどない。これまでの想いを拳に込め、全てを破壊するつもりで魔王に襲い掛かった。



『我は間違っていたのか……? イェルサは、我の愛するイェルサは……』



 魔王を中心に闇色の霧が広がる。悲しみ涙を流す魔王に寄り添うように霧は魔王を取り込んでいき、そして完全に魔王の姿は消えてしまった。



「っクソがぁ……!」



 霧は魔王を取り込むとその一部が今度はコールドリッジに向かい伸び、拘束した。霧状だというのに実態がある。しかし攻撃しても空気の揺らめきで分散されダメージなど受けない。物理攻撃、魔法攻撃、精神攻撃どれもダメージなど与えられないソレはコールドリッジの全身を包み込み、そして―――


 ボキッ!! ゴキッ!!



「ガハッ……」



 全身を握りつぶされたかのような感覚に、息が詰まった。潰される直前、自分に出来る最大限強固な結界を張ったのが功を奏したのか肉片に化すことは免れたが、全身の骨は粉砕され内臓も破裂した。高エネルギー体となったはずなのに、いつの間にか元の肉体に戻っていたのだ。

 手足は完全に潰れ、最早殴る事も叶わない。



(クソが……! あと、少しだったってのにっ!!)



 魔神クルム。お前の降臨があと少し遅かったなら、俺は……!


 痛みも感じぬこの体ではもう、魔王を殴る事も叶わない。せめて、イェルサの魂を……!

『黒持ち』の魂に入り込んだイェルサの魂を消滅させるのには自分の魂ごと消滅させるか、イェルサの魂のみを分離し消滅させる方法がある。この世に未練などないコールドリッジは迷うことなく前者を選んだ。


 殴れないのなら、せめてイェルサを道連れに消し去る!! 迷いなどあるものか!!



『―――……』



 潰れた肉体で最後の力をかき集め、命を燃やす。そこには勿論イェルサの魂もある。



 〝いやぁぁぁ!!! 助けてっ! 助けて、フィリウス!!〟



 この期に及んで命乞いかよ……

 掠れ行く意識の中、エヴァン・コールドリッジは心の中でそう呟いたのだった……



今月の更新は以上です。

今後の更新は11月半ばから末頃を予定しています。

時間は空きますが、今後ともよろしくお願いします!

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