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残された王族達

本日2話投稿します。

 

 召喚魔法は失敗したのか。

 魔術師達は総出で検証を行い、城に囚われた敵を尋問すべく騎士団の一部と軍の尋問部隊の一部を向かわせた。


 王弟の喪失を魔術を通して目の前で見た王妃は気丈に振る舞ってはいたが、そっと三人娘の一人であるフローラが寄り添った事で何とか踏みとどまっている状態なのだと察知した。自分が最低な時期に最も信頼し、黙って支えてくれた大切な家族を目の前で失ったのだ。……ショックを受けない方が可笑しい。


 王は淡々と指揮を執る。まだ魔族が消えたわけではないからだ。

 王都上空に飛んだままの魔族は魔法陣の不発に首を傾げるが、結界を破るという目的を失ったわけではない。未だに人間は被捕食者であり、彼らの餌である。ご馳走を前に諦めるという選択肢は奴らにはないのだ。


 三人娘と連携して結界の持続性と強度、それから捕らえた敵の数や捉えた時の状況を確かめる。そして捕らえた敵の中には見知った顔が数人いる事も確認が取れた。



「ラヴクラフト伯爵。何故、貴様がここにいる」



 一旦城に戻った国王と第一王子達の前に跪かされたラヴクラフト伯爵は苦々しい表情を浮かべてはいたが、口から出たのは予想通りの言葉だった。



「国王陛下! これは何かの間違いです! 私は国の一大事と思い、一刻も早く助太刀いたそうと馳せ参じた次第! なのにこのように拘束されるとは、遺憾極まりない! この化け物どもを即討伐下さい!」


「馳せ参じたというならお前の部下はどこだ? どれほどの規模で参戦するつもりだった? 物資は? 資金はどこから? 貴殿と共に捕らえられた者達との関係は? ……その首からぶら下がってるモノは何なんだよ?」



 ガラの悪さが最後は露骨に出たリオネルは跪く伯爵の前にこれまたガラの悪い座り方をして見下し、身に付けていたペンダントトップの部分を強引に手繰り寄せた。その反動で伯爵の体は第一王子の前に崩れたが、王子はお構いなしにペンダントトップの品定めを行った。



「こ、これはっ! 先祖から代々伝わる我が家の当主にのみ装着することを許された由緒正しいっ……」


「由緒正しい、クレプス教信者の証である琥珀石を取り囲む五つの石。それぞれ本物の宝石を使っていることからお前が教会の中でも上位の存在である事はこれが物語っている。そこの宗教を信仰していようと構わないが政治と宗教は切り離すことが条件だ。伯爵ともなれば猶の事。……王国の裏切者め」



 第一王子リオネルの心の底から蔑んだ、汚物を見るような目で見下ろされたラヴクラフト伯爵は瞬間的に怒りが湧いた。



「裏切りだとっ!? あの魔族を王太子に据えた事自体が王国への裏切りだ!! 我が一族はこれまで人間の国の為に尽力してきた! それを魔族の手に委ねようとする愚かな王の所為で人が滅ぼうとしているのだ! 黙って見過ごすわけにはいかない!!」



 国王アーサーをギッと睨み付ける伯爵は拘束され芋虫のように這いつくばるしかないというのに眼力だけは凄まじい。言ってることは納得できずどれも理解し難いものだが、伯爵には伯爵の正義と常識があるのだろう。それが王や第一王子を筆頭に多くの人間には理解できないものだとしても。



「国だけでない。全ての人間を危険に晒したという自覚もないのか?」



 今度は国王自ら問う。それを鼻で嗤った伯爵に、リオネルは自然と頭を叩いた。



「っ! 貴様っ! やはり魔族の血を引くだけの事はあるな! 知性の欠片もない! すぐに手を出すとはとても人間のする事にはっ……ぎゃっ!!?」


「虫に対しての慈悲の心なんて持ち合わせていないのでね? それにこれは尋問。必要なら手足をジワジワ切り落とす事も躊躇わないよ。お前が持っている情報を全てこちらに明け渡してくれるなら、考えてもいいけど?」


「うぐぅぅっ!! クソ、殺すなら殺せ……! 魔族の言いなりになどっ」


「ま? これ俺の趣味だから本格的な尋問は専門家に任せるよ。でもさぁ、ちょーっと面貸せや」


「えっ? ちょっ、まっ!?」


「では陛下。私は用事が出来ましたのでしばらく席を離れます」


「ああ。……殺さないでくれよ。私も、とても大切な事を訊きたいからな」


「っ……!」



 リオネルと同じくゴミを見るような目で見下ろす国王アーサー。その眼には明確に怒りを携えていた。王妃ジュリエットを魔族と称したも同然のこの男を、許す事など出来ようか。


 では後程、と言って去っていくリオネル。引きずられる伯爵は先ほどまでの威勢は少しばかり小さくなってはいるが、矜持を保って命乞いはしなかった。ズリズリと音を立てながらリオネルは姿を消し、その後は静寂を齎した。


 残ったのはアーサー、ジュリエット、ブリジット中将のみ。エルグストン大将は残って指揮を執っている。本当は妻に付いていたいがブリジットが残るように促したのだ。騎士団、軍、魔術師団を取りまとめるのにその代表が抜ける事は許されないと。

 エルグストンもまたブリジットに陛下の護衛を務めるように命令を下したことで軍人としての体面も保たれた。そのさりげない優しさが、ブリジットは好きだった。


 城には避難してきた民が混乱の中も強く生きようとしている。きっと大丈夫、そう信じて親は子を愛しい人と体を寄せ合いこの苦難を乗り越えようと励まし合う。


 彼らは今日もいつものように生活をしていた。これがずっと続くのだと何の疑いもなく。


 それがいきなり覆されたのだ。我が国の王族や貴族によって。混乱のさなか逃げる為に怪我を負った者や親と逸れてしまった幼い子供、足が悪く逃げるのにも精一杯な所に転んでしまった老夫婦。混乱に乗じて略奪を行った者やこの世の終わりだと自暴自棄になり、誰かれ構わず傷つけようとする者達。その中で命を落とした者も複数いると報告を受けた。


 この状況を創り出してしまった原因。避難してきた民の中には王弟が諸悪の根源だと訴える者や聖獣は何をやっているのか、王太子はどこに消えたのだと王族の居住空間にまで押し寄せようとしていた。この困難を打開する手立てはまだ見いだせていない。しかし、民に対する説明責任を果たさなければ新たな暴動が起こるだろう。そうなれば王族も貴族も関係なく暴力の波に吞まれてしまう。



「民達の前に立ち、此度の件、包み隠さず説明せねばならん。……王族から謀反者が出たとな」


「あぁ。下手に隠蔽しようものなら民に知れた時新たな暴動の種になる。……信用は失墜した、ならばとことん落としてしまえ。最悪、王政の廃止も検討するべきだろう」


「はい。包み隠さずあったままを。国の在り方も議論する必要があります」


「うむ。だがまずは……生き残らねば、な」


「「はい」」



 アーサー、ブリジット、ジュリエットの三人は心を決めた。そして民が一時的に避難している王宮広場に足を運んだ。



「王様!」

「国王様!!」

「国王様! 一体どうなっているのですか!?」

「説明してください!」



 広場を見下ろすバルコニーに現れた王族三人。顔色は良くないが、この状況になっても逃げるという選択肢を選ばない気高い人達だ。

 国民は不安に思っている。いきなり魔族が現れ、結界に阻まれているとはいえ奴らは自分達を餌だと認識している。着の身着のまま、家財も何も持たずに逃げてきた彼らには不安しかないのだ。明日生きていられるのか、あの魔族達は何なのか、どうして魔族が現れたのか、これからどうなってしまうのか。


 国民はそれぞれ訴える。誰が何を言っているのか、何を訴えているのか、それが罵倒なのか助けを求めての事なのか、収集がつかないほどに広場は荒れた。


 しかし、それを治めたのは国王アーサーだった。

 スッ、と両手を左右に広げ静まれと言わんばかりの仕草に国民は押し黙った。それだけで国民を落ち着かせたアーサーはまごう事なきこの国の王である。



「此度の件、未だ危機が去ったわけではない。空の上にいるのは『不可侵の森』にて封印されていた真の魔族だ。封印を解き、人の世に再び現れた奴らは我らを餌にしか思っていないだろう」


「そ、そんな……」

「本当に、本物の魔族だったのか!?」

「ねぇどうなっちゃうの!? 死んじゃうの!?」



 再びザワザワし始めた広場だが、アーサーは続けた。



「魔族復活の責任は我ら王家の人間にもある事が判明した。王国のみならず世界を危険に晒した事、とても許されるものではない」


「王家の人間が?」

「それって……封印を解いたのは王家の人間だという事か!?」

「嘘っ!? 何で!? どうしてそんな事……!」



 混乱は不安を呼び恐怖を駆り立てる。あの魔族達がいつ襲ってくるのかわからない今、怯えて待つしかないのか。それにこの状況を創り出した責任は王家にあるだと? そんな事を訊いてしまえば行き場のない怒りは王家に向けられるのは当然。それまで怯えて弱々しかった声は次第に大きくなり罵声となる。



「王家の所為でこんな事になったっていうのか!?」

「非道い……! こんな、こんなことして一体何がしたいの!?」

「魔族が復活して、聖獣様はどこに行ったんだ!? どうして守ってくれない!!」

「王太子様は? 何処に行ってしまったの!? やっぱり……!」



 〝王太子は魔族の仲間なのか〟



 そんな考えが皆の心に宿った時、異変は起きた。


 ゴゴゴゴゴッ



「な、なにっ!?」

「揺れてる……!」

「いやぁ!!」



 途轍もない揺れに立っていられなくなったのは民達だけではなかった。バルコニーに立つ三人の王族も壁に手をついて何とか倒れないように踏ん張ったが、揺れは凄まじく、長い。



「クッ! ジュリー、手を! 姉上も!」


「陛下!!」


「アーサー! ジュリエットを支えてやれ!!」


「姉上!!」



 激しい揺れに耐えようとしたがブリジットは地下の異変に気付いた。土の魔力を地下に向かって放ち、何が起きているのか調べようとしたのだ。そして地下の奥深く。今まで気づかなかった事が不思議なまでのエネルギー反応を確認した。そしてその近くに紛れるようにして人間の気配が二つと、一つの魔物? の気配がある。



「地下……? どうしてそんなところに……」



 見知った魔力反応。弟である国王の側近であるエドガー・オールバンスのものだ。事前調査でオールバンス家の反逆の疑いはまるでなしと判断されていた為、エドガーが裏切ることは無いという事はブリジットも信じていた。しかし、それならこの揺れは一体なんだというのか。


 長い揺れが治まり、漸く立てるようになった頃今度は恐ろしいまでの神々しいオーラが地下から空に向かって放たれた。



「!! 何だ!?」



 神々しいオーラは金の輝きを放ちそしてだんだんと赤みを帯びていった。真っ赤な燃える炎のような美しい光の柱が王宮を包み込む。その光に飲み込まれた人々は一瞬恐怖したが、温かさが心地よく気づけば恐怖心が消えていた。



『―――…』



 直接頭の中に響いた声はとても穏やかで、その声に安心したかのように民は眠りにつく。

 残された者達は困惑しながらもその声に耳を傾けたのだった。



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