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有言実行! ドヤァ!

 

「これでぶん殴れる!!」



 今の私は人間であって人間でない半端な存在。それでどこまで魔王やその側近を相手に出来るかは分からないが何もせずに嬲り殺しにされるよりはマシ。せめて一発……! せめて一掠りでも……!


 内から溢れる膨大なエネルギーを完全に制御する。新米精霊よりも劣る存在の今の私のはずだが何がなんでも一発入れてから死んでやらぁ! などと考えている内に魔王の側近が4人、何の躊躇いもなく殺しにかかって来た。



「うおっ!? あっぶなー!!」


『ちょこまかと……! さっさと死ね!!』



 とても人間では躱せない速さの手刀でもって一突きしてきたではないか。あんなの喰らったらお腹に大きな穴が開いてしまう!!



『! ちっ、すばしっこいな』


『手ぇ貸すかぁ?』


『必要ない』



 ふっ、舐められてる。まぁ仕方ない。時間がないんだ、さっさと目的を果たそう。



『小娘、さっさと魂を寄越すがいい』


「冗談はおやめくださいな。……本気で行く」


『『『!!?』』』



 自分でもわかるくらい今の私は殺気立っている。目つきも随分悪い事だろうがこんな奴ら相手に時間も魔力も消費したくないんでね。



『き、貴様!?』



 ちっ、一匹仕留め損ねたか。だが3匹は滅したぞ。

 人の肉体を超越し高エネルギー体となった今、肉体への物理攻撃は無意味。その点は肉体を持つ魔族と比べれば優位に立てる点だ。強靭な肉体と豊富な魔力を持つ魔族に対抗するにはこの方法は有効的だろう。生身の肉体でなくなった事で私がイメージする動きがタイムラグなしで実行できるのだ。


 先程打ち取った魔族だが、私が行ったのはただ魔族の横を通り抜けただけ。ただし、音速並の速さで通り抜けたのだけどね。体のすぐそばを通過しただけではあるけど音速でそれも高エネルギー体となればそれだけで凶器になる。


 打ち取り損ねた魔族は1体。致命傷は避けたようだが片腕は失った状態でこちらを睨むのだが、先程とは打って変わって焦りが見える。信じられないと顔に書いているが、彼も魔族。それも魔王の傍に控えていただけあって王都にいた魔族達よりも魔力量も多く、上位魔族の中でも上の方に位置するのだろう。焦り取り乱したのも一瞬、すぐに冷静さを取り戻しまず行ったのは自己再生。


 全く、魔族と言うのも理不尽な存在だ。

 人間ならいくら治癒魔法をかけたとしても欠損を元通りに治すなど不可能だというのに。みるみるうちに欠損したその先から肉が盛り上がっていきまるで植物のように腕が生えたではないか。


 体力・魔力・精神力・殺傷能力・回復力。どれをとっても人間では敵わない。こんな絶望の中諦めることなく魔族に挑み続けた祖先の立ち向かう勇気と気概に脱帽するしかない。こんなもん相手にするもんじゃないよ。



『舐めていたが改めよう。お前は強い』



 そうして一層鋭く、禍々しく放たれたオーラ。本気になったようだ。……だけど。



「構ってなどいられないんだよ」



 ちょっとイラっとした。ううん。違う。

 もう随分本気で怒っていたんだ。私の中のイェルサは今黙らせているけれど、この女の魔王に対する愛しさがすごく嫌だ。愛しいという感情が、私の感情なのではないのかと勘違いしてしまう位には影響されている。それが無性に腹が立つ。


 苛立ちをぶつける相手が目の前にいる。この魔族(ひと)達に恨みはないけれど、私の邪魔をする時点で敵でしかない。そこに、情けなどない。



『死ね! 小娘ぇ!!』



 エネルギーが枯渇する前に、私の限界が来る前に、魔王をぶん殴る。

 残された時間は刻々と迫っている。人の枠からはみ出た事で普通では到底不可能は速さで動く事で時間の流れを遅らせる。スキルや魔術で時間操作をしている訳ではないので止まっている時間が一秒でも惜しいのだ。


 カッ!!


 不可侵の森一帯を包み込む眩しい光。目が潰れてしまうほどに明るい光の正体は〝雷〟

 王家ラファティ家が得意とする魔法。威力はさることながらそれを避ける事も難しいそれは、魔族にも有効な攻撃手段だった。回避不可能な速さの雷は魔族が攻撃を仕掛ける前に肉体を貫通。外すつもりなどなかったが、万が一避けられた場合のことも考えて大きめの雷を放ったのだが思っていた以上の威力に吃驚。


 結果、魔族は何も出来ずに黒焦げ……を通り越して炭化し崩れていった。再生能力以上のダメージを喰らった魔族はそのままボロボロと崩れながら落ちていく。これで再生したとしたら凄いわ。拍手を送りたくなるよ。


 さぁ、本命。魔王め、そのお綺麗な顔面に拳をたたきこんでやらぁ!!



『小娘っ! 我のイェルサを返せ!!』


「勝手に入り込んだんだよ! アンタの性悪女の魂がな! こっちはいい迷惑だってのに、なぁにが返せ! だ!! 私達の人生を返してから言え!!」


『このっ……! 我のイェルサに何たる侮辱!! お前は絶対に許さんぞ!!』


「許されたいなど思うものか!! 思い上がるのもいい加減にしろよ!」



 あぁっ! 本当に……!!



「イェルサは死んだんだ!! 死んだ者は生き返らない、魂は輪廻の輪に取り込まれ生まれ変わるのだと! ()()()()()()()()んだろうが!!」


『黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!! 我のイェルサを返せ!!』



 自ら決めた理の所為で愛しい者と別れなくてはならないなど、その時の魔王……精霊王は考えてもいなかったんだろう。死は生を受けた者に必ず付き纏う。ある意味この世界で一番平等なものだ。勿論金で延命する事も可能だけど、決して死から逃げる事は出来ない。


 イェルサの死が受け入れられない魔王。その魔王を今も愛するイェルサ。

 お互い求めあい、渇望する。


『一緒に生きていたい』


 その思いで今日までやって来たのだ。

 心が騒めく。違う、私の想いなんかじゃない……! 

 私は私だ。イェルサじゃない。なのに侵食してくるな!! 



 〝一緒にいたいだけなの……! お願い! 彼の元に行かせて!〟



 ふざけんな。

 一緒にいたいなら一緒に滅べ。百歩、一万歩譲って死を受け入れて輪廻の輪に向かえ、魔王と一緒に。そして来世で再び出会い、再び恋をして、再び愛し合えばいいだろう。一緒の時代に生まれ変われるのか、出会う事が出来るのか、不安材料が多数あったとしても生物である以上、死は受け入れるべきものではないのか。


 死と言うものが曖昧な存在である魔王や精霊といった存在からすれば、人間の生はとても短く儚いものなのだろうが、だからこそ美しい。悩み、苦しみ、傷つきながらも歩いて行くしかない。

 それが人間だ。



「魔王!! その人間を創り出したのはお前だろう!? どうして忘れた、何故受け入れられない!? お前は知っているだろう!!」


『黙れと言っている!! それ以上口を開くな!!』


「人間とはとても儚く脆いが、何とも美しいと!」


『やめろっ……、やめろっ……!』


「魂の輝きの美しさは苦しみ、藻掻き、抗って生きた証! イェルサの魂は美しかっただろうが、今はどうだ!?」


『……っイェルサ!』


「美しいとは程遠い!! 欲望とお前の執着心が蜷局を巻いて濁り切った醜いものよ!! そうさせたのは他でもない! お前とイェルサ自身だ! お前が愛しいと思い、美しいと感じたイェルサはもうっ……どこにもいないんだよぉぉぉ!!」



 ぅおおおおおおオオオッラァァァl!!!


 渾身のエネルギーを込め、魔王の左頬に向かって叩き込んだ拳。痛みなど感じない筈だというのに拳だけでなく体中が悲鳴を上げるほど痛い。興奮して色々捲し立てたけど言いたいことは言ってやった。おかげでスッキリ爽やか。そして目的だったぶん殴る! も、実行出来た訳だしね。私ってば有言実行。ドヤァ!!


 ……グラッ



「……っ! あ~あ」



 エヴァンよ。お前は何をしているのだ。私は殴れたからもう後は良きに計らえ。


 ……時間切れだ。


 エネルギーが枯渇し、状態を維持できなくなった。そうしたらどうなるのか。答えは簡単。元の体に戻るだけ。それもかなり消耗した状態で元に戻るのだ。死にかけが虫の息にまでレベルアップ。……って、こんな冗談も、もう言ってられない。


 バキッパキキッ


 結晶化が進む。魔力はかなり消費し放出したというのに、肉体の結晶化は止まらない。

 ゆっくりと下降し、地面に足を付けたらそこで倒れ込んでしまった。もう、起き上がれそうにない。


 バキンッ


 嫌な音……

 あとどれくらい、時間、あるのかなぁ? 


 そうして意識は暗転。私は眠りに落ちた。




 *****




「起きろとは言ったが攻撃してもいいなんざ言ってねぇだろ!!?」


『黙れ!! お主の仕業であろう!? 魔王が復活したのは!』



 眠りについていた聖獣達を叩き起こしたらこいつらときたらいきなり攻撃してきやがって! 時間がないんだっての、面倒くせぇ!!

 流石に国の守護を長年受け持っていただけあって手強い。シリル王国の獅子、ザカライアの牡鹿、バラチエの鷲、ストランドの亀、サルヴィーニの竜。こいつらがまとめてかかってきたら厄介だってのが証明された。

 だからってここで引き返す訳にもいかないんだよ。でないともっとヤバいのが来るんだから。



「聞け! 確かに魔王を復活させたのは俺だ。正直この世界が滅びようとどうだっていいし、人間なんか滅んでしまえと思っている事は事実だ」


『貴様!!』


「聞けって! 復活させたのは良いが魔王をぶん殴らねぇと気が済まないんだよ!! あと教会が仕掛けてくるのも時間の問題だ。ぶん殴った後はどうにでもなればいいが、あのクソ共に好き勝手されるのは御免だんだよ! だからさっさと手を貸せ!!」


『そんな説明で納得できる訳があるか!!』


『魔王を止める事が先決。しかし、力が戻らない……?』


『何かに妨害されているというのか? 魔王を止めるに十全とは言い難い』



 クソっ! 頭が固いな、それにあのクソ共まで動き始めたか。アイツらが動き始めたという事は既に儀式は始まっているのか……? だとしたら憑代(よりしろ)は間違いない。



「シリル王国王太子アデルハイト。アイツは憑代に選ばれた可能性がある」


『! 憑代……? アデルがか!?』



 反応したのは金獅子、聖獣ゼーレ。自国の王太子であるアデルハイトが憑代にされたとあれば少しは聞く耳を持つか。何にせよ時間との争いだ。魔王をぶん殴らないと気が済まないが、その殴る時間も今となっては残り僅かかもしれねぇ。


 魔王よりもっとヤバいのが姿を現す可能性がある。


 クレプス教が崇める神。俺はずっと元精霊王である魔王の事だと思っていた。だが違う可能性が出てきた。イェルサの記憶が見えるようになって知ったのは元精霊王の名。



「聖獣共!! 確認するが元精霊王で現魔王のアイツの名前は何だ!?」


『それが今何の関係がある!? 説明しろ!!』


「時間がねぇって言ってんだろ!! さっさと答えろ!! 魔王の名は!?」


『……フィリウスだ』


「フィリウス……」



 あぁ、予想が確信に変わってしまった。

 クレプス教の神クルム。俺はずっと魔王の名はクルムなのだと思っていたがそうではなかったらしい。教会の上層部に位置している人間でも魔王=神クルムという方程式は出来上がっていたはずだ。しかし、魔王の名はフィリウス。



「……精霊王から魔王となった時に名は変わったとかはないのか? 本当に、本当にフィリウスというのか?」



 出来れば間違いであってほしいが現実はどこまでも残酷だ。



『馬鹿にするな! 我らが創造主たる御名を間違う訳がない!!』



 神、クルムよ。貴方は……


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