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この血を呪う


 ***** 




「オールバンス様。ここは、一体……?」



 ここは王宮の地下深く。罪人を繋いでおく牢よりも更に深い。

 王都上空に巨大な召喚魔法陣が浮かび上がったと思ったらそこから出てきたのは何とも凶悪なオーラを発する魔族達だった。美しい姿をしていながら何とも恐ろしい捕食者達は結界を破ろうと攻撃を仕掛けてくる。そして判明した裏切者の正体。それは王弟ヴァージル殿下と元王子、アレクシスだった。対策本部にて戦闘が始まったが見事制圧。裏切者達は牢へと送り込まれた。


 リオネル殿下はその後王太子殿下に加勢する為城下に向かわれたのだが、そこで側近である私に下されたのは陛下の最側近とも言われるオールバンス様の指揮下に入る事だった。何故、と頭を過ったが殿下が無意味な事をする筈がない。何か理由があるに違いないと素直に指示に従いオールバンス様の元に向かった。


 エドガー・オールバンス。

 オールバンス公爵家出身。現在の公爵は彼の兄。学院で陛下の側仕えを経て正式に側近となった。今では陛下に最も厳しく最も忠誠を誓った忠臣であるのは周知の事実。

 そんな方の下につくというのは今後殿下に仕える為にはとても参考になる。普段であれば喜んだろうが現状が現状だ。側近ならこんな時こそ傍にいて主に仕えるべきだろうに。いざオールバンス様の元に向かうと時間も惜しいのか「ついてこい」と一言。それからお互い無言で城の地下深くまで降りてきた。


 カツカツと靴音が響く。薄暗く通路も細く埃っぽい。それでも気にせず前を行くオールバンス様は変わらず無言で話しかけられる雰囲気ではない。そして城のこんな深部にでさえも足を踏み入れる事を許された彼の陛下からの信頼が見えた。同時にこの場所の存在を知ってしまった私は、もう後戻りできないという事も悟ったのだ。今後の更なる忠誠を。裏切りは死を意味する。


 前を歩くオールバンス様が歩みを止めた。その前にあるのはただの壁に見えるがそれに手をつくとまるで生き物のように壁がうねり、そして。



「―――ッこんな空間が?」


「入れ」



 通され、中に入るとそこはだだっ広い空間が広がっていた。恐らく舞踏会が行われる会場よりも更に広く、部屋の中央は掘り下げられておりそこには……



「うわっ!?」


「ルゥ、見張りご苦労」



 きゅるるるるぅっと鳴いた?のは白に黒の斑点模様がある蛇。オールバンス様は平然としているがその蛇の大きさはオールバンス様の身の丈を大きく超える巨体。胴回りなんか私の太ももの2倍はある。そんな巨大な蛇はオールバンス様にすり寄り随分懐いているようだ。そんな蛇に怯えることもないオールバンス様は何度か撫でた後、足を進め目でこちらに来いと促された。



「……棺。一体、どなたの」


「初代国王、シリル王の母君の棺と言われている」


「!? シリル王の、母君?」



 何故、そんな方の棺がこんなところに? それに、この棺を囲む魔法陣は?



「シリル王の母君は『イェルサの民』だ。亡くなられた後、ここで魂を保管していたのだ」


「魂の、保管?」



 どういうことだ? 何故、というか魂を保管なんて出来るものなのか? それに、シリル王の母君が『イェルサの民』だったなんて……!



「長い歴史の中でこの事実は隠蔽され、何時しか忘れられた。我が家ですら忘れてしまっていた。……オールバンス家は代々この場を守る墓守だというのに」


「……墓守」



 何故、忘れ去られていたのか。何故、オールバンス公爵家ともあろう名門が墓守なのか。何故、私をこの場所に連れてきたのか。

 分からない事ばかりで頭がおかしくなりそうだ。この危機的状況の中、何故今初代国王の母君の墓の前にいるのだ!? 『イェルサの民』であった事は驚きだが、それが今、何の関係があるというのだ!?



「わからない、というような顔だな」


「っ申し訳ありません。何故、今ここに私は連れてこられたのでしょうか?」



 棺に手を這わせ、ゆっくりと歩くオールバンス様は酷く落ち着いている。まるでここだけ別世界のように、ゆっくりと時が過ぎているようだ。



「……〝魔王〟が復活する」


「はっ!?」


「復活すれば、ここに眠る『イェルサの魂』を回収しに来るだろう。……多くの人間を虐殺しながらな」


「た、たましい……? それに、魔王が回収、とは?」



 なんだ、何だというのだ一体!?

 初代国王の母君の棺に、この地下の大空間に魔王の復活、だと!?

 次から次へと齎される思ってもいなかった情報に頭が混乱する! 何が起きているんだ、一体何が!



「シリル王国、神聖ザカライア法王国、バラチエ王国、ストランド共和国、サルヴィーニ民国。この五か国はかつて魔族を『不可侵の森』に封印し協力して結界を張る事で魔王や魔族が発する瘴気を外に漏れださぬよう人を、国を守って来た」



 オールバンス様が語ったのは建国以前の魔族との攻防。今では考えられない事だがその当時は魔族の存在は当たり前で人は隠れて生活していたという。それに反旗を翻したのが我が国の初代国王シリル様を筆頭にした人族の代表達だ。数の差に力量の差、それらをひっくり返す為にご尽力して下さったのが『イェルサの民』であったという。

 初代国王の母君やザカライアでは立ち上がった男の恋人が、バラチエ、ストランドでは兄妹が、サルビーニでは代表の男そのものが『イェルサの民』であった。


 たった五人であったにも関わらず戦況は一変。

 瞬く間に魔族を追い込み『不可侵の森』に封印、その後は人が魔族に怯えることなく村が出来、町が出来、国が出来ていった。そうして人の世界に安寧を齎したこの五人の『イェルサの民』を〝英雄〟と呼ぶようになり、国王となった。シリル王は母君の名代で戦地を駆けまわり、ただの人でありながら魔王に立ち向かうその姿から〝勇者〟の称号を得たのだが、母君はお年とその後無理が祟ったのか体調を崩した事もありシリルが王となった。


 そしてその五人の『イェルサの民』は遺言として国の中心に亡骸を納めるように指示をした。



「この棺は神聖力で創られた特別製。魔族のみならず魔王ですら手に触れる事も出来ないが、人であれば簡単に触れられる。……この中に、遺骸と『イェルサの魂』が眠っている」


「この中に……。では、魔王はこの棺を奪いに来るという事ですか?」



 オールバンス様は険しい顔で一つ頷いた。そして私と鋭い目つきで向き合った。



「お前をここに連れてきたのは魔王からこの棺を守る為ではない」



 それは、そうだろう。私はリオネル殿下の側近として剣術や魔術は嗜む以上に、それこそそこらの剣士や魔術師にひけをとらない程度に習得しているが魔王が相手となれば話は別だ。というか魔王の相手が出来る人間などいるとは思えない。では何故私はここにいる?



「お前の家、ラヴクラフト家に与えられた使命は知っているか」


「!!」



 睨み付けるようにして見つめられる理由が解かったかもしれない。それは我が家が、我が家のみに許された使命に関係する理由で、私はここにいるのだ。

 しかし、それなら私ではなく当主が選ばれなければならない。何故、次男でしかない私が?



「何故当主や次期当主でないのか、それは……」



 緊張が最高潮に達する。これ以上先の言葉を訊きたくない、言わせてはいけない、そんな妙な焦りが出てきて心臓の鼓動が早鐘を打つ。


 ……覚悟しなければならない。わかってる。我が家の受け持った使命とそれに反した歴史を、今の私は知っている。



「お前は解放された。故に、正しく国を見定める事が出来る。そう確信したからだ」



 〝解放〟か。そうだ、そうに違いない。

 私は我が家の〝呪い〟から解放されていた。だがずっとそれを隠して今までやって来た。だってもし私が〝解放〟されたと知られたら、私こそが異端児と呼ばれ徹底的に再教育を施される事になっていただろうから。



「王弟殿下、アレクシス元王子を手引きしたのはラヴクラフト伯爵だ」


「!! そう、でしたか……」



 父が、父こそが〝王国の裏切者〟だった。驚きはないがオールバンス様がそれを知りながら私をここに連れてきた事については驚きだ。私は裏切者の一族。それも父の世代からの裏切りなどではない。



「聖獣様がお隠れになった頃からか。……クレプス教が国に入り込んだのは」



 クレプス教。神クルムを唯一絶対神と崇め、『黒持ち』を魔族と評し迫害に追いやった原因となる宗教。



「我が家は隠れクレプス教信者。その思想は過激で……父は特に、苛烈な思想の持つ主です。表向きは上手く隠してはいたのですが……」


「アデルハイト殿下の立太子で箍が外れたか」


「―――はい。父は、それがどうしても許せなかったようです」



 歴史ある伯爵家であるラヴクラフト家は爵位を与えられた初代の時に王から直々に秘匿の使命を与えられていた。



「我が家は王国の〝記録者〟……あるがまま、王国の歴史のみならず世界の歴史を記録し管理する事が使命。ですが……」



 無意識にギュッと拳を握る。我が家の与えられた使命は王国だけにとどまらない。各地に一族の者がその使命の為に永住し日々を記録している。国主の個人の趣味や夫婦間のケンカの数に末端の民の生活まで幅広く。


 その統括が我がラヴクラフト伯爵家。


 何処の国よりも国に詳しい我が一族。


 そんな我が一族が絶対の忠誠を誓ったのがシリル王国。決して裏切る事のない唯一の主と定めた筈。なのにこんな危機的状況を作り上げたのが父であるベルガー。奴は、奴こそが悪魔だ!!



「記録する際にお前達一族にのみ与えられた祝福がある。その使い道は本来、あったままの事実を記録し歴史として後世に残す事。私自身はその祝福について詳しくは知らないが、他にも使い方があるのだろう」


「そこまでご存じだったのですね。……そうです。本来祝福は今おっしゃったように使うのが正しい。ですが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それを()()()()()()を、我が一族の当主のみに受け継がれているのです」



 歴史の改ざん。過去をやり直すという事ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という()()()()()


 そうやって『イェルサの民』の記憶を改ざんしていき『黒持ち』という魔族を生み出した。クレプス教信者となった当主達によって。



「祝福がどういうものなのかは知らんが、世界中の人間の記憶を改ざん出来るものか?」


「オールバンス様。『黒持ち』を魔族と評し、迫害してきたのはクレプス教の教えが根強い地域もしくは……幼少期に教会や国を通して魔力鑑定を行う地域のみです」


「! なるほど……。そこに入り込み、何か細工を行うのか?」


「はい。魔力のあるなしに関わらず、人に埋め込むのです。受け皿、と言えばいいのでしょうか。それを通して記憶は改ざんされ、歴史は書き換えられていった。……一族ですらその事実に気づいていない、とても恐ろしい能力です」



 この祝福は人を意のままに操る事は出来ないけれど、悪意を持って使えば真逆の存在へと変えてしまう。英雄である『イェルサの民』の記憶を人々から消していき代わりに『黒持ち』という魔族に書き換えてしまった。結果は言わずともお分かりだろう。


 ラヴクラフト家が『黒持ち』を生み出した元凶で歴史を記録する者が行った長きに渡る国に対する裏切り。



 私はこの身に流れる血を呪っている。


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