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平民魔術師リズ ~人生山あり谷あり~  作者: 炬燵猫


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フロイド視点

 

 あぁ、あぁ!!もう二度と会えないと思っていた最愛に再び会えるなんて……!

 状況が状況なだけに表立って喜びを出す訳にはいかないが、やはり心は踊る。駆けだして抱きしめたい衝動をなんとか理性で抑えようと一人奮闘する。


 また会えた喜びで目の前がぼやけてしまった。副官となったジェフにスッとハンカチを差し出されたが、どこか視線が冷たい。何か言いたげではあるが全力で無視をしてリズを視界に納める。



(あんなに、痩せてっ顔色も悪い……。もしかしてもう、自分の足で立つことも出来ない……?)



 頬はこけ、大きな目がギョロッとした印象を与えてしまう程、リズは痩せていた。黒服で身を包み更にローブを着用しているので分かりづらいが元から腰など折れてしまいそうだったと言うのに、更に細くなっているなど想像に容易い。


 死に場所を求め、一人安寧の地で最期を迎えようとしていたリズ。そんな彼女の最期の時間を奪う事になった今回の魔族襲来。東方でスタンピードの予兆あり、しかも複数確認されたと聞き討伐隊として向かい発生してすぐに報せが届いた。複数同時に発生したスタンピード。それを放り出して王都に向かう事は出来ず出来る限り迅速に討伐を行っていった。その中で怪しい動きをする人間がいたのでジェフが尋問に当たったらどうやらこのスタンピードは人為的に生み出されたものらしい。


 何故そんな事を。失敗したら自分も巻き添えを喰らって死ぬ可能性があったというのに。


 信じられない思いだったが男がいうには小規模のスタンピードを継続的に発生させることで討伐隊を足止めする事が目的で雇い主に貰った呪具のおかげで魔物は男を襲わないと言い聞かせられたというではないか。そんな呪具があったのかと男が持っていた呪具を調べたが道具というよりお守りのようだった。中に入っていたのは赤い髪が一本。それ以外は何の魔力も呪術の類も感知できなかった。


 この髪で何が?そう思ったが試しに魔物にその髪を持って近づくと後ろに下がったではないか。恐れているかのようだが、後ろを向いて逃げ出そうとはしない。ただ怯え、敵意がないとばかりな行動をとった。


 おかしいと、こんな行動をする魔物など初めてだ。ジェフも同様で不思議そうであったので詳しく調べようとした時だ。


 懐かしい。温かな空気に包まれたかのような感覚が全身を包み、淀みない澄んだ魔力が流れ込んだ。

 そうして後はご存じの通り。目の間には泣く泣く別れた最愛の女性がいるではないか。私の唯一の女性。生涯をかけて愛する事を、死んだ後でも愛し続けると決めた私の最愛。


 別れを告げられ、余命があと幾ばくかと告げられた時は心臓が止まるかと思った。むしろ止まっていればよかったとさえ思う時もある。国の思惑、貴族としての義務、何より王太子殿下の為にリズとの決別を選んだ事。後悔はしていないがきっと一生心に突き刺さったまま抜けない棘になる。


 あの身の程知らずな王女だが私以外にも声を掛けていた男が複数いた。すでに体を許していた事、腹に子が宿っている事、父親が分からない事、更に妊娠しておきながら私と関係を結び腹の子の父親にしようとしていた事を包み隠さず彼女の父親である国王と王妃、宰相、騎士団長、魔術師団長など複数の前で王女と仲睦まじい様子を捉えた映像を流し、婚姻前に子をなすような王女とは婚姻できない旨を伝えてやった。


 国王陛下と王妃は王女を激しく叱責し、婚約の話は経ち消えた。この夫妻は政略結婚ではあったがお互いをパートナーとして他に目を向けることなく夫婦としてやって来たが故に、王女の我儘で私と婚姻したいと言い出した時には自分達が自由に出来なかった分、恋愛結婚をしてもらいたいと思ったのだそうでまさか複数の男と関係を持つなど夢にも思わなかったそうだ。それでも普通なら王女付きの侍女や側近、大使が他国に来た王女の行動を諫めるものだろう。そうしなかったのはどうしてなのか。侍女は王女に脅され男の側近は誘惑され大使は自分の妻の実家の不正やなんやらで逆らえなかったという。


 実にくだらない。そんな王女を野放しにしていた国も、助けては貰ったがそれ以降なんやかやと理由をつけて支援を要求してくる国に何も言えない我が国に対しても、もう怒りも湧かないほど何も感じなかった。


 リズを失った私には何も感じない。最後まで王女は愛しているのは私だけだ、助けてと訴えてきたが信用できない。私は私の子が必要なのだ。他人の子供じゃない。よその男の子を孕むような女を妻として迎える訳にはいかない。それもこれも、私の血を残し私の血を継いだ私と来世、リズと一緒になる為に。


 そんな身勝手極まりない私は妻を娶っても女性として愛する事は出来ないだろう。娶ったからには大切に家族として付き合いはしても、それこそ子をなしても私の最愛がリズである事には変わりない。


 不誠実な私はせめて誠実に妻となってくれる女性を探している。女性として愛せない代わりに子をなしてくれた後は自由を約束する。離縁をしてもいい、恋人を作って邸で暮らしてもいい、金も自由に使っていいい。愛せない分、不自由な暮らしはさせないし共に生きてくれるのならパートナーとして大切にする。


 爵位や私の見た目、役職にしか興味のない令嬢やその親は普通ならそれでもよかったのだろう。だが、貴族と言うのはプライドが高い。


 自分が、自分の娘が『黒持ち』の平民の下に位置づけられる事を嫌ったのだ。


 私の最愛が別れた妻である事は公言している。再婚をするにしても年に一度は彼女を想う日には一人にさせてほしい。そこには妻の同席を拒否する意味を込めての事。普段はパートナーで良好な関係を築けていたとしても、パートナーはパートナー。最愛の人ではない。それに我が家はグリーンフィールド家。

 唯一の妻を愛し、愛されるのが公然となっている我が家に嫁いで愛されないなど笑い者にされるだけだ。子をなすまでの道具。飾り。代用品。そう揶揄されるのは目に見えている。貴族の恰好の餌食だ。

 そんなところに好き好んで嫁ぎたい人などそう多くない。


 いくら大切にするといっても周囲も私自身、大切に出来るか分からない。私の唯一はリズだから彼女を差し置いて妻となる女性を優先する事など出来るのか。恐らく出来ないとも思う。



「リズ……。あぁっ、私の、リズッ!」



 愛しい愛しい私の最愛の女性……!

 心の奥底から溢れ出て止まらない愛おしさが、私の体を震わせる。全身が、魂が、リズを欲している……!



「私が手を貸すのはここまで。後はこれからを生きる方々で対処なさって下さい」



 少し掠れた脳内に響く優しい声。

 それだけでリズの体調が悪い事を察することが出来た。そもそも顔色が悪い。体全体が最後に見た時よりも小さくなっている。



「あ、あんなに痩せて……!なのにっ……うぅっリズゥ!」



 やせ細った体に鞭打って国の為、人の世の為、文字通り命を削って立つその姿をこの眼に焼きつけなくてはならないというのにっ!



「視界がっ滲んでリズが見えない~っ!!」


「泣き止んで下さい。これが最後かもしれないんですよ」


「わ゛がっでる゛っ!!」



 ずびっと鼻をすすり、ジェフから渡されたハンカチで涙をふく。その間もリズから視線を外すことは無い。ここには今、騎士団、軍、魔術師団の代表ともいえる人間がリズによって各地から集められている。正直に言えば陛下やリズが言う通り関係性は良くない。むしろ険悪と言ってもいい。

 何処も国の為に働いている事に違いはないのに。



「ご武運を……」



 そう言ってリズは姿を消してしまった。

 最後に目が合ったのはきっと気のせいではない。



(〝生きて〟と、そう言われた気がした)



 リズの分まで私は生きる。遠い未来私の子孫として再び生を受け、リズと再会を果たし今度こそ幸せな結婚をするのだ。その為にも生きねばならない。



「魔術師団を代表して申し上げます。国の窮地どころか人の存亡も危ぶまれるこの事態。我が魔術師団は一層の忠誠を誓うと共に、軍・騎士団・警官隊・消防隊・救護隊の垣根を越え生き残る為の最善を尽くし、必ずやこの人類の危機に打ち勝つことを誓います」



 膝を付き陛下の前で宣言すると部下達も同じように膝をついた。この部隊編成を行ったのは私で実力ある者を選んだ結果、貴族よりも平民出身者が多い。実力があり機転の利く彼らなら現在の状況がどれほど拙い状況なのか察知して事だろう。リズの行った転移、魔族への牽制、破られた結界の再構築。


 それらをリズは陛下が私達に協力を仰いでいる間に完成させてしまった。明らかな実力差を目にし、燃え上がったのは集めた連中が魔術師団の中でも変人と名高い癖のある人間ばかりだからか。さっきからうずうずしてしているのが伝わってくる。私が言うのもなんだが本当に面倒くさい連中だ。



「あなたが一番面倒くさいです」


「自覚はある。リズ限定だがな」



 ジェフも言う様になった。気遣いのできる魔術師団では珍しいタイプで今やなくてはならない存在だ。



「魔術師団と同じく!我が軍も協力は惜しまない。共に協力しこの人類の危機を乗り切ろうではないか!」


「遅れをとったのは業腹だが騎士団も同じ意見です。まさかこの危機に派閥やら手柄など考えている者がいるのなら私が自ら叩き切る所存。共に生き残る為に最善を尽くしましょう」



 各代表が陛下の前に跪き頭を下げる。国民から心配そうな視線を向けられる中、陛下は小さくありがとうと呟いた後「礼を言う」と、そう言って私達を立たせた。今は一分一秒が惜しい。すぐさま対策を練る。



「リズの再構築した結界があるとはいえ、いつまでもつのかは不明。結界の解析と同時に強化が必要だ。魔術師団は結界の解析と強化を進めると共に魔族との戦闘にも参加も可能。血の気の多い連中が多いので役に立ちます」


「こちらも対集団戦闘はまかせていただいて結構。魔術にも武術にも長けた連中です。魔族相手に逃げ出すような腰抜けは我が軍にはおりません」


「こちらは魔力の無い者もそれなりにおりますが騎士団内でフォローが出来ます。先陣はお任せください」



 結界に阻まれ中に入ってこれない魔族達。特にリズがタイミング悪く膝蹴りをかましてしまった魔族は怒り狂い、何度も何度も結界を殴り蹴りなど激しく攻撃しまくっている。あれほど激しい攻撃だというのに結界はビクともしない。流石はリズだ、愛してる。


 国民も結界の強靭さを知って少しばかり安堵の表情を浮かべている。その事に僅かにモヤッとするが今はこの窮地を乗り切る事が先決。その後でしっかり指導すればいい。きっちりと。そう、きっちりと!



「さぁ!生き残るぞ!!」



 おおぉぉ!!

 所属の垣根を越えて一致団結した雄叫びが王都中に響く。


 人類の生き残りを賭けた戦いが開始された。





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