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リオネルとアレクシス

 

 対策本部に乗り込んできたのはクレプス教司祭、『血濡れのエヴァン』ことエヴァン・コールドリッジ。更に元第二側妃の息子であったアレクシス元王子と王弟、ヴァージル・ノア・ラファティの三人だった。彼らは薄く笑みを浮かべる余裕すらあり、困惑するこちらとは正反対だ。



「アレクシス……、ヴァージル……」


「父上……、いえ国王陛下。今すぐコールドリッジ様の指示に従ってください! それが国の為なのです」



 こちらの許可もなくアレクシス元王子は王国の未来の為だと国王に向かって進言する。その姿はとても王国を憂いた元王子ではなく、何かに憑りつかれた歪みのようなものを携えた狂人のようだ。瞳に生気は無く暗く濁り、城住まいだった頃よりも痩せ、頬はこけている。王子として暮らしていた頃とは違い城を追い出された後の生活に苦労した事はそれだけでわかる。しかし、それがどうしてコールドリッジと接点を持つことになったのか。そして何故、王弟ともあろう人間が王国を窮地に追いやろうとする者と共に居るのか。


 困惑する者達をよそにヴァージル王弟は一歩前に出た。



「兄上。アレクシスの言う通り、司祭殿に従う事こそ王国の為です。汚らわしい魔族に、国を任せるなど愚の骨頂。兄上は国を滅ぼそうとなさるのですか!」



 王弟ヴァージル・ノア・ラファティはこれまで全く政治に関与はせず王弟として臣籍降下してからは公爵として賜った領地で大人しく暮らしていた。国王となった兄の補佐を行う事をしなかったのは反逆の疑いをかけられる事を恐れて、ではなく彼自身が兄に思う所があった為。


 されど王族として厳格な気質であるヴァージルがこういった言動に出たという事は本気で最善と考えている証。融通の利かない面を持つ王弟の説得には時間がかかる。しかし今は時間がない。



「何のつもりだヴァージル。自分が何を言っているのかわかっているのか」



 低く唸るような声でゆっくりと問う国王は王弟ヴァージルを睨み付ける。ピリピリどころかビリビリとした殺気を放つ国王だが、それに怯むことのないヴァージルは睨み返す。



「兄上こそ、正気ですか? このような事になったのも、そこのアデルハイトが王太子となった事が原因なのですよ? 民を危険に晒しているのは他でもない、兄上。貴方です」



 バチッ! と火花が散る。国王アーサーと王弟ヴァージル。二人の兄弟仲は決して悪いものではなかった。それがいつの間にか仕事以外の私生活ではどこか壁のようなものが出来てしまった。その原因がわからぬままアーサーも首を傾げ、何度か訊ねたが「何もない」というばかり。次第にこういうものだろうと納得し、放置していた。それが原因だったのか。



「アデルハイト……! アレさえ生まれなければ、……義姉上が、貴方に嫁ぎさえしなければ……! こんなことにはならなかったのに!!」



 青い稲妻がヴァージルから迸り、バチバチと音を立てながら放電する。怒り、悲しみ、嘆き、憎悪。様々な感情が宿る瞳はまっすぐにアーサーに向けられる。


 突然の出来事に部下達は慌て、一瞬固まったがハッと我に返り国王を守るために前に立つ。が、しかし。それはアレクシスによって足止めされてしまった。



「叔父上。早々に話をつけてしまいましょう」


「ああ。そうだ。あるべき姿に戻すのだ。兄上が国王となったその前からやり直す。そして―――」



 アレクシスの風の魔力によって見えない壁が行く手を阻み、国王を守ることが出来ない。どうにか破ろうとするも彼が城に住んでいた頃よりも魔力が上昇しており簡単には破れない。焦る部下をよそにアレクシスはリオネルやアデルハイトに対して勝ち誇った笑みを浮かべる。



「ははっ! どうです、異母兄上! 城を追い出されてから僕だってただ腐っていた訳じゃないんですよ!」


「お前に兄と呼ばれるのは遺憾だ。いつまで王子気取りでいる」


「っ僕は国を守っているんだ! そこの魔族に王位を譲ろうとしているあなたよりもずっと王子に相応しい! この国に必要なのは貴方やましてそこの魔族ではなく、この僕なんだよ!!」


「なるほど。つまりお前は王子でいる事が忘れられずにいる哀れな人間だという事だな。可哀そうに。現実逃避の結果得るのは破滅だという事が解らん愚かで何とも浅ましい奴よ。あの阿婆擦れの子供なだけある。あぁ、そういうとコーデリアに悪いか。ならお前の本当の父親の愚かさがそのまま受け継がれたか? 側妃と言えど国王の伴侶の一人だったのにも関わらず手を出した能無し男の、能無し息子が。その粗末なお頭に詰まっているのは脳味噌ではなく綿菓子か? ハンッ! 折角詰まっていたであろう綿菓子も蟻に群がられて今ではさらにスカスカの空っぽで砂糖のベタベタした甘ったるい匂いを放つただの空洞でしかないそのお頭では、確かに後先など考えられようはずもなかったか。悪かったな。お前には思考能力というものは元来備わっていなかったというのに、普通の人間と同じように扱ってしまった。こちらの落ち度だ。謝罪しよう。あぁ、謝罪という言葉の意味は理解できるのかな? 無理か、無理だよな。それが理解出来ていたのなら父上の温情に後ろ足で砂をかけるような真似は出来るはずないものなぁ?」


「「「……」」」



 三年前の防衛戦の際に見せたガラの悪さを発端に、リオネルの猫は時折脱走するようになってしまった。憂いを帯びた優しい、弟思いの兄というイメージにひびが入り、今ここで木っ端みじんに砕け散った。



「っな……なっ!?」


「はぁ? 言葉も出ないって? 語彙力無いとかお前はそれでも14年間王族として育ってきたのかよ? 咄嗟にしたって何か返す事も出来ないとかお前が本当に王族から抜けてくれて感涙ものだわ、そんな体たらくで王族名乗られてたら先祖に顔向け出来るかよ。本っっっ当に赤の他人で良かった~。お前みたいな頭が軽い脳味噌スカスカベトベト男、弟じゃなくて良かったと本当に、心の底から神に感謝するよ。あの魔道具作ってくれたリズに感謝~」



 煽る煽る。馬鹿にした顔でアレクシスを見下すリオネルに部下達は内心ハラハラドキドキだ。この風の魔力で作られた壁すら現状破壊することが出来ないというのに、挑発するなど何を考えているのか!? 満場一致で部下たちの心は一つになった。


 アレクシスはと言うと兄の優しいイメージが残っていたがためにここまで侮辱されるとは思ってもみなかった。自らの過ちを認めさせ、アレクシスをただ認めてくれると、アデルハイトよりも王子としてリオネルの弟として相応しいと。そう思ってくれると思っていたのに。返ってきたのは自分を悉く貶し、それまであった兄のイメージとは真逆の傲慢な態度。心優しい兄王子は一体どこに行ってしまったのか。



「あ、異母兄上!? どうして……、どうしてそんな事……」



 あまりのショックに茫然とするアレクシスだがリオネルにとってはこれまでが嘘で塗り固めてきた自分だ。どうしてと言われても、取り繕うのを止めただけ。そうとしか答えられない。だが、アレクシスにとってはこのリオネルは嘘で過去の優しい王子の姿こそが、本来の兄王子だ。信じられない思いは矛先を変え、国王と王弟を見守りつつコールリッジ司祭への警戒を怠らない王太子、アデルハイトに向けられる。



「アデルハイト……! 奴のせいで異母兄上は変わってしまったっあの優しい異母兄上が、そんな事いうはずがない!!」


「俺は昔からお前が大嫌いだったよ」


「……は?」


(((直球―――!!?)))



 部下達は心中で声をそろえて叫ぶ。まさかのリオネルの告白に自分達も驚きつつ、アレクシスの様子を伺う。アレクシスも何を言われたのかわからなかったのか、固まっている。それを見たリオネルはいい笑顔で更に続けた。



「側妃達も、弟妹達も、お前達を取り巻き持ち上げる貴族も使用人の全てが……大っ嫌い♡」


「……っぁ、そ、そんな」


「努力しない奴はもっと嫌い。アーヴィンやコーデリアは自己研鑽を怠らなかったからまだいいとして、お前やセオドア、セラフィーナやサイラス、チェルシーは血の繋がりを否定したくなるほど嫌いだった。まぁ、お前とサイラス、チェルシーとは血の繋がりはなかったと証明できたからこれは喜ばしい事だったけどね。……アレクシス」



 にこやかにいう事じゃない。まるで好きな食べ物の話をするときのようににこやかな笑みを浮かべるリオネルだが、言っている事はこれまでの兄弟間の絆を否定するかのような言葉。そして、一瞬にして雰囲気を変えたリオネル。ゾワリッ悪寒が背筋に走る。言い知れようのない恐怖がアレクシスに襲い掛かる。



「私は、お前を、兄弟と思った事など、ただの一度もない」


「―――っ」


「今後も、そんな日は来ない。お前を、認める日など。……世界が終ろうと、未来永劫そんな日は来ない」


「……~~~!!!」



 異母兄で、王に最も近いと言われてきたリオネル。母親からは自分がリオネルにとって代わって王に成るのだと言い聞かせられてきた。その為に教育も最高の物を受けて来たしそれに答えてきたつもりだった。しかし、年の差を考慮してもリオネルと自分では埋められない差というものがあった。母の期待に応えつつも、心の中ではリオネルに敵うはずがないと、そう思っていた。ならば、自分が補佐となって将来の王となるリオネルを支えるのだと一人納得した。勉強も剣術も魔術もある程度熟せればそれでいいと、真面目に受ける事もなくなった。母からは叱責されたが相手が悪い。あの隙の無い完璧な兄王子に勝てるはずがないのだ。


 そう思っていたらある日突然見たことのない第五王子アデルハイトの存在が明らかになった。そして信じられない事に、聖獣様が顕現なされ後継者に選ばれたのだ。


 完璧な兄王子ではなく、見た事もない異母弟アデルハイトを。しかも後に『黒持ち』だという事を知ると、アレクシスは怒りで体が震えた。何故アデルハイトなのだ、何故リオネルを差し置いて!!


 その報せを受けた際、リオネルは取り乱すことも落胆することもなかった。悲しそうな顔をすることもなかったが、きっと人目があるから気にしているんだ。アデルハイトさえいなければ、王位はリオネルのものだったのに!!


 アデルハイトが憎い……! 聖獣ゼーレを顕現させたという護衛魔術師が憎い!!


 あいつらさえいなければ、いいや!! 消してしまえばいい!!

 そうしたらリオネルの弟して、優秀な自分が彼の補佐をして国を、尊敬する兄を支えることが出来る!! アデルハイトではなく、真の弟であるこの僕が!!



『あなたの望み、私が叶えて差し上げましょう』



 視界が黒く塗りつぶされた様な感覚の後、耳元で囁かれたその言葉にアレクシスは身を委ねた。それが己の身を亡ぼす事になるとも知らずに。



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