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三年前の真実

 

 顔が違った事で別人だと判断してしまっていたけど思えば魔力……魂の色は同じだった。不覚、気づかなかったなんて。


 ゴールドバーグ様は三年前のザカライアとの争いで従軍していた私と二年前に出会った。死にかけの状態で。



「離れろ!! おいっこら!! いやらしい手つきで腰を抱くな!!?」


「細い……! なんて細さだ……。リズ様、しっかり食べてますか!? まさかこの男、夫とは名ばかりで真面に食事もさせないのですか!?」



 細いとは言いますがこれでもマシになった……はず。食べる量は少しだけ増えましたがまだ標準女性の三分の一程度の量でお腹いっぱいになるのですよ。胃が小さいままで中々大きくならないのだろう。


 それはさておき、ゴールドバーグ様はその節はありがとうございましたと礼がいいたかったらしい。そんなのわざわざ言わなくても大丈夫ですよ。それに一応、当時は敵だったのに助けたなんてしれたら懲罰ものだしね。




 *****




「結界に綻びが……!?」



 あれからどうにかフロイド様を宥め、ゴールドバーグ様の誤解も解いたところで三年前の争いについて少し振り返ってみた。


 多くの人間はあの争いをザカライア側の国境侵犯による争いだと思っているが現実は少し違う。



「はい。当時シリル王国側には瘴気に対応する術もなければ結界を維持し続ける余力もなかったのです。なのでザカライアは封印を強化するべく『不可侵の森』へと入ったのですが……」


「何故か王国にその事が伝わっていなかった……。シリル王国からすれば立派な国境侵犯行為です。その為事前に『不可侵の森を経由した上で王国側に一時的に立ち入る』と通達しました。……事後にわかった事ですがどうやら戦争推進派によって情報操作されていたようです」


「戦争需要での利益は莫大な物。金に目がくらんだ連中にとってまたとないチャンス。見逃すはずがありません」



 利益追求の為シリル王国、ザカライア法王国両国の人間が死ぬことになった。そこには結界強化の為に派遣されてた枢機卿や信心深い貴族家の嫡男も含まれていた為、ザカライアからは戦争機運が高まっていったらしい。部下である枢機卿をことさら大事にしていた当時の法王猊下は悲しみに暮れ国民感情を抑えることが出来なくなりつつあった。



「そこで私が派遣される事となったのです」



 ゴールドバーグ様は代々教会に仕える一族であり貴族家のトップ。中でも彼と聖獣オーブ様との親和性が高かった事もあり次代の法王にとまで言われていたそうだ。いきなり法王というのも外聞が悪いので貴族家から法王になる者には何かしら試験が行われるそうで、結界強化を行う事が彼が次期法王になる為の試験となった。先に派遣された枢機卿が結界強化を成功されてい場合は慣例通りの方法で試験が行われる筈だったのだ。



「試験を兼ねての結界強化。私は特に法王という立場に固執もしていなかったので普段通りの心持ちで向かいました。勿論王国側からの邪魔も入るので護衛は十分に用意しましたよ。……ですが」



 すでに多くの血が流れていた『不可侵の森』では瘴気は濃くなり異様な雰囲気を醸し出していた。当時従軍していたとはいえ上手くサボっていた私は日に日に濃くなる瘴気とそれと同時に禍々しい魔力を感じ取っていたのだが、『黒持ち』のいう事など誰も耳を傾けるはずもなく時は過ぎていく。嫌な感じの魔力が日に日に増していき遂にその正体が現れた。



「魔族の一部が復活したのです」



 魔族と言っても最下級の部類。魔獣に毛が生えた程度の小物だ。当然ザカライアは素早く対応できたが問題はシリル王国側。聖獣の加護をほぼ失い、魔族との争いを想定していなかった事で甚大な被害を受けたのだ。ザカライア側が誤算だったのは殺した人間を餌として食べた魔族がより強大なものへと変化した事。殺せば殺す程、食べれば食べる程奴らは強くなった。



「一刻も早く結界を強化しなければ被害は拡大する一方。私は準備もそこそこに『不可侵の森』へと向かい……ふっ……あっけなくも魔族に両手足を千切られたのです」



 ぎゅっと左腕を右手で握るゴールドバーグ様。丁度そのあたりが千切られ私が彼を発見した頃にはそこから先は何もなかった。サボりつつも任務をこなしていた私は掃討命令が下され自爆を強要されていた。仕方なくこの辺で……と場所を見繕っていた所ゴールドバーグ様と出会ったのだ。顔が違ったのは認識阻害魔術を使っていたそうだ。



「私が手も足も出なかった魔族をリズ様は虫を払うかのように一掃して下さった……。それも、本来敵であるはずの私や私の護衛に至るまで極秘に治療して下さったのです。おかげで、こうして私は再び自分の足で立ち、歩くことが出来ている。……感謝してもし足りない程、感謝していますっ」



 涙ぐむゴールドバーグ様。それを息を呑んで見つめるフロイド様。そんなこともあったなぁ~と思い返す私。いや、懐かしい。初めて見た魔族に怯まなかった訳ではないけど第一印象としてはなんだ……うん。



「〝すっごく不味そう〟と思ったんですよね、魔族って」


「「食べようと思ったのか(思ったのですか)?」」



 当時私に軍支給の簡易携帯食すら持つことが出来なかった。食事はその辺の草とか魔獣の丸焼き。お腹が満たされればいいので特に気にしなかったけどね。それに体は魔獣っぽくても人面だと食べるのはさすがに気が引けたのだ。


 彼らを助けたのは教会関係者であった事とそれほど任務に忠実ではなかった事。一番大きいのはその魔族がいきなり襲ってきたのでついペイッとしてしまったので彼らの方が戦意喪失していたのでなんか弱い者いじめしてる気分になったのが大きい。見つかったら懲罰ものだから気を使ったよ。


 話しは逸れたが魔族との遭遇はその時が初めて。ちゃんと一応上官に報告は上げたけど『黒持ち』のいう事なんか誰も信じないよね。無視されたのさ。だからそれから魔族と会っても無視したよ。だって攻撃対象はザカライアであって魔族じゃなかったから。王国側にも被害はあったけどそれはザカライアの秘密兵器だと解釈した上官達は判断を誤った。長引けば長引くほど魔族はより多くの人間を捕食し力をつけていった。


 その間下された命令に仕方なく従い、ほぼ毎日を特攻を仕掛け自爆して戻るという生活が続いた。その頃になるとザカライア兵を見ると自軍に気づかれない様に敵本陣に強制転移させる事を覚えた。だって死体を餌に魔族がより強くなるんだもの。しかもだんだん人間に近い姿をとるようになった事からこれ以上人を餌にする訳にはいかないと判断したのだ。

 完全な独断。上官に訴えても却下どころか『魔族は貴様だろう』と言われて殺されかけた。腹立つ。


 なので当てにはならないと判断した私は魔族がどこから湧いて出たのか調べる事にしたのだ。瘴気は濃いし魔族や魔獣は襲ってくるし突撃命令は下されるしで大変だったけどどうにか見つける事が出来た。何やら割れ目から瘴気が溢れ出ていてその瘴気から魔族や魔獣が発生しているようだ。


 さっさと閉じよう。そう思った時に現れたのが神聖ザカライア法王国の守護聖獣オーブ様だった。



「鹿美味そう。そう思った私は悪くない」


「「食べようとしたのか(したのですか)」」



 小鹿は臭みも少ないし肉も柔らかい。オーブ様は大きくなりすぎで肉堅そう。でも鹿食べたい。そんな私の心を読んだのかオーブ様が話しかけてきた。



『私は食べれんぞ、人の子よ』



 しゃべる鹿を食べようとは思わないよね。

 で、何故かオーブ様から結界の強化の仕方を教わる事になり結局封印作業を行う事となったのだ。



「まさか聖獣様だとは思いませんでした。なので失礼ながら最後までしゃべる、ちょっと固そうな鹿(肉)だとしか……」


「「食べる気だったのか(だったのですか)……」」



 鹿肉って美味しいんだよ! ちゃんと血抜きをしたら臭みはないしね。

 結界強化を行ってからは瘴気の漏れはなくなったし外に出ていた魔族は処分した。残念ながら知能は低く会話は不可能だったので仕方ない。個人的に結界の向こう側の世界がどうなっているのか知りたかったからそれはちょっと残念だったかな。


 結界が強化された事が確認され、ザカライアは『不可侵の森』から撤退。それを勝利と捉えた西方司令部は意気揚々と凱旋。『不可侵の森』周辺の後始末を押し付けられた後、私は研修も終了し王都に帰った。嫌な顔をされながらも研修修了書を受け取り晴れて魔術師の資格を得た。その後は西方の田舎の田舎の田舎でスローライフを送る事にしたのだ。あんなに田舎であったなら私みたいな『黒持ち』でも魔獣退治で一応役に立つ。なので歓迎はされなかったが拒否も出来なかったのだ。



「……兎も角。私が今こうして生きているのはリズ様のおかげ、私の命の恩人です。お礼を言う間もなかったものですから、一度しっかりとお礼が言いたかったのです」



 そう言ってゴールドバーグ様は深々と頭を下げた。公爵家の人間が簡単に頭を下げる事なんて滅多にない事だ。何か申し訳ない。



「いえ。お気になさらず」



 今の今まで忘れてたし。割とどうでもいいし。



「しかし……」


「アデルハイト王太子殿下の後ろ盾となって下さった事、それが私が行った事以上のお返しです。今後も殿下をよろしくお願い出来れば私から何か求める事も望む事もありません」



 元を辿ればザカライアからの通達を握りつぶした王国側に原因があるし、欲に目がくらんだ西方司令部が変に争いを長引かせる事をしなければ両国とも被害は少なかった筈。おかげで魔族に捕食される人間が続出した。上層部はその事はひた隠し兵士を無謀にも送り込んだが餌を与えてやったに過ぎない。そのことに気づくのが遅すぎたのだ。

 結局魔族同士殺し合えという阿保な命令を受けて私は毎日出撃させられた。ホント休む暇もない程に。自分達はその間酒を吞みながら作戦らしい作戦も練らずに私がいつ死ぬか賭けてやがったから絶対死ぬものかって意地張ってたな。



「とまぁそんな訳で。よくザカライアは王国と再び友好国として再構築しようと思ったなというのが正直な気持ちです。……賠償金も支払われたと聞きました」



 これ以上は首を突っ込み過ぎかな? と思ったけど戦闘に参加していた者からすればザカライアの対応は首を傾げるものだ。次期法王の補佐として研鑽を積んできた枢機卿と未来溢れる若者達が王国によってその未来を奪われたのだ。怒りと悲しみは計り知れない。



「はい。しかし、我々は聖獣様を信仰するザカライアの民。その聖獣様が王国への報復をお止めになったのです。それに従わない筈がございません」



 ……聖獣様の意思に従う。されど心の内では憎しみを抱いて。



「それに私達が従うのはあくまで聖獣様。その聖獣様が認めたアデルハイト王太子殿下に対し敬意をもって接します。ですが、アーサー国王に対してはそれはありません。勿論一国の王として敬意を持っていますがね。王太子殿下の次、というのは覆せない」



 あくまで聖獣様最優先のザカライアでは当然の話だったようだ。おや、つまりそれって……



「なら、王太子殿下が国王となった後、退位した後はどうなる」



 フロイド様も同じ事を思ったようだ。王国貴族としてここははっきりさせなくてはならないのだ。

 そんなフロイド様を同じ貴族の顔をしたゴールドバーグ様が感情の読めない笑顔を向ける。口角が上がったニヒルな笑みを浮かべた事で察した。



『言わなくてもわかるよね?』



 ゾッと背筋が凍えた。

 彼らは決して許してなどいないのだ。



『勘違いするなよ』



 ザカライアの友好に感謝を。そして彼の国を決して怒らせてはならない。私達二人はそう胸に刻んだ。



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