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自業自得

 

 晩餐会場にはすでに来賓達が入場を終え、あとは国王と王太子となったアデルハイト殿下の入場を待つのみだ。国王陛下は王妃様をエスコートし、アデルハイト殿下には聖獣ゼーレ様が人型の姿で共に入場をしてきた。

 私とフロイド様は会場の一角にて警護に当たっている。バーセル侯爵家嫡男としてフロイド様も晩餐に参加しても良さそうだが、殿下の護衛を務めるという強い意思の元今回は護衛にあたる事となった。



(正装姿のフロイド様、見たかったな……)



 ちょっぴり残念に思うけど仕事仕事! いつ何が起きるか分かんないんだから……! と気合いを入れなおす。


 晩餐はやはり陛下の挨拶から始まり乾杯の合図で始まった。

 コース料理が運び込まれ、給仕する人間は忙しさを全く顔に出すことなく華麗にこなしていく。


 陛下と王妃様の間に挟まれるようにしてアデルハイト殿下とゼーレ様が並んでいる。ゼーレ様は獅子の姿でいることが多いけど人型となってナイフとフォークを使うのに何の問題もないように見える。長く生きている分、こういった催しにも慣れているようだ。

 対するアデルハイト殿下は緊張のせいかあまり食が進んでいない。食事のマナーもみっちり叩き込まれた殿下だけど緊張してしまっては動きがぎこちない。もっとリラックスですよ! 殿下!


 そんな様子を嘲笑うのは第三王子と第二王女。こんな公式の場でその態度とは、一体どんな教育を受けてきたのか。さっきのバルコニーでの事もすっかりお忘れになっているのかのような態度に呆れ果てて言葉も出ない。



「まぁ、王太子殿下は食事も真面に出来ませんの?」


「俺達人間の食べ物は口に合わないんだろうよ」



 クスクスと嗤う二人につられ、他の客も数人は笑いだす。しかし、圧倒的に無言を貫く人間の方が多い。なのに殿下方は無言を肯定ととったのか更に煽り始める。



「ねぇ、お兄様。魔族に銀食器なんて扱えないわよね? 触れば手が爛れてしまうもの」


「ああ、そうだな。きっと王太子殿下の手は爛れて食器を扱えないんだろう」


「まぁ! 大変だわ。尊い身ですもの。食器など二の次にして素手で召し上がればよろしいのに」


「違いない! 王太子殿下。無理に食器を使う事はありませんよ。どうぞいつも通り、()()()()()()()()()()()



 ワッハハハ!!


 賓客の前で平気で王太子を貶す二人とその二人に便乗して嗤いだす貴族達。あぁ。ここがどこで自分達の立場が全くわかっていないのだな。無言を貫く第一、第二、第四王子と第一王女殿下。第四王子殿下は隣の第一王女がテーブルの下で第四王子が何か言おうとする度にヒールで足を踏んづけて黙らせているに過ぎないが。

 アデルハイト殿下は顔を青くさせつつも反論せず黙ったまま。隣のゼーレ様はワイン片手に気分良さげに見えるが……。



「アーサー。我は言ったぞ。お主の子であろうと我が一等大事に思うはアデルハイトだ」


「はっ!! 申し訳ございません! セオドア、セラフィーナ。すぐに退室せよ。同じく王太子を嗤った者達もだ。騎士達、即刻つまみ出せ!!」


「はっ!? 父上、一何を!?」


「黙れ……! これ以上は庇いきれん!」


「何を言って……? 退室すべきはそこの魔族ですよ!?」



 バンッとテーブルを叩き立ち上がる第二王女はアデルハイト殿下を指さし挙句に『魔族』呼び。この方学習力ないのか。

 同じく第三王子も立ち上がりそうだと同調し始める。双子だけ会って仲良いな。



「何故我々が退出させられて()()()()ここに留まるのです!? 退出されるべきは……っぇ……?」



 カッと一瞬にして黄金の光が第三王子セオドア・レジナルド・ラファティ殿下の体を包み込んだと思ったら。



「きゃあぁぁぁぁぁ!!!!?」

「なぁぁぁああ!!」

「う、うげあぁぁ!!」



 ボトッ


 身体は消え、残ったのは第三王子の首のみ。虚ろな目が隣に立っていた王女殿下と目が合ったら王女が泣き叫び尻餅をついた。


 ……殿下の命は消えた。大勢の目の前で16年の生涯を閉じた。()()()()()()()。他でもない。王国守護聖獣、ゼーレ様の手によって。

 無残な姿となった第三王子の姿に晩餐会場は阿鼻叫喚と化した。逃げ惑う者に嘔吐する者。失禁する者に命乞いをする者。


 そんな人々の姿に興味を持たずワインを傾け色と香りを楽しむゼーレ様の姿は美しく、人ではないのだと実感させられた。



「ぃ、いやっ! ……お、おにいさ、ま……!? お兄様ぁぁあ!!」



 片割れの兄の絶命した姿に王女は失禁している事にも気づかず、抜けた腰で必死に逃げようとする。目を背けようにも固定されたかのように第三王子の何も映さない目から離せられないようだ。言葉にならない言葉が喉から零れ続ける第二王女。



(もうこれは晩餐にならないな)



 この騒動に賓客達からも悲鳴が上がり我先にと逃げ出す人間が扉の前に殺到する。今日の為に用意された最高級の食材をふんだんに使った見た目にも美しい料理達が、床に無残にもまき散らされ、踏まれ、哀れな姿になってしまった。そんな事には目もくれず、逃げ出す者達からすれば食事よりも自分の命だろうけど……。


 ここまで自分の立場を解っていなかった第三王子と第二王女。その代償は大きかった。


 聖獣ゼーレの怒りを買ったらこうなる。


 実例が王族によって示された。王族に対しても容赦なし。それが第一側妃の子でその身分が不安定だとしても現段階では王族であるのにだ。決して人に媚びない、諂わない。アデルハイト殿下とそれ以外の区別は徹底されており、それ以外がどうなろうと知った事ではないのだ。



『ふん。大して美味くないな』



「きゃぁぁぁ!!」「開けろ!! 殺される!!」「私が誰だと思っている!?」など口々に叫び逃げ出そうとする人々。だが、中には全く動じない者達もいる。それが神聖ザカライア法王国を筆頭に聖獣や精霊を信仰する国の代表達だ。



「見苦しい……。聖獣様の意思を無視した結果だ」

「お優しくも何度もご忠告下さったというのに……」

「ふんっ、これぞ自業自得というものだ」



 バラチエ、ストランド、サルヴィーニの各国代表達はワインを片手に逃げ惑う賓客達をまるでゴミ虫でも見るかのような目で見ている。そういった反応を見せる国の代表はそれほど多くはない。集まった中で大体2割弱と言ったところか。逃げ惑い冷静さを失っているのは3割。残る約半数は様子見に徹している。決して先ほどの断罪に恐怖と畏怖を感じなかった訳ではなさそうだけど、国として国交を継続させるかどうか見極めているのだろう。



 今もなお、兄の惨状に悲鳴を上げる第二王女を騎士達が連れ出していく。逃げようとした賓客達と国内貴族達も同様に別室にと連れて行かれた事で晩餐会は急遽お開きになる。国王陛下と王妃様が対応し、大きな混乱はなかく、先ほどのバラチエ、ストランド、サルヴィーニの各国代表達は王太子、アデルハイト殿下に対して目礼して出て行く。その眼には畏敬の念が込められていたのは殿下本人にも分かったようだ。少しでも殿下のお心が救われますように……。




 ******




 こうして晩餐会はお開きになった。会場は散らばった食器や料理、出席者達の吐瀉物や失禁などでぐちゃぐちゃだ。これを掃除するのは大変だろうな。


 退出させられた第二王女殿下はあまりのショックで今もまだ部屋で泣いてガクガク震えているらしい。とても話が出来そうにないが、王族が一堂に会うのは其れなりに色々調整があるのでこの期に側妃様方の処遇に関して決断を下すつもりのようでプライベートな部屋で再度話し合いの場が持たれる事になったそうだ。そこに第二王女も連れ出すらしい。


 アデルハイト殿下は先ほどの異母兄である第三王子の最期を目の当たりにして塞ぎ込んでいる……と思いきや。「ご飯、あんまりうまく食べられなかった……」と、別の意味で塞ぎ込んでいたのだった。さすがリオネル殿下の弟君。殿下もしっかり図太い神経をお持ちのようだ。


 まぁ異母兄が亡くなったことに気落ちしている訳ではないようだし塞ぎ込まれるよりはいいだろう。人に見られる事がほとんど今日初めてなのに聖獣様やまさかの始祖様との対面。国民からの罵声にも真正面から受け逃げ出さなかった点を見れば大したモンだと思うのだ。きっと殿下は大物になる。


 王女殿下が落ち着き第一側妃に第三王子の最期を説明する間、他の王族達と共に広間で陛下と第二王女を待つ。給仕がお茶を配りそれぞれ思い思いに寛いでいる。殿下は獣型になったゼーレ様をモフモフして過ごすことにしたらしい。モフモフしている間は他の兄弟や叔父、伯母の視線からも意識が逸らせるからだろう。……単純にモフリがいのある毛並みだからかもしれないけどね☆


 ここで私とフロイド様は一度殿下のお傍を離れる。護衛として常に傍にいないといけないがここは聖獣さまもいる。念のためフロイド様は扉前に待機することになったが離れることに一番渋ったのはフロイド様だった。


 口にはしないものの焦燥感が滲み出ている。ここ最近お互いに忙しくして会話もなかった事が大きな理由だ。それにあのフロイド様が補佐として向かった神聖ザカライア法王国でゴールドバーグ様と私との対面を要求された事もフロイド様の苛立ちを煽る事にもなったのかもしれない。こういうと自惚れかもしれないけど、フロイド様は本気で私に惚れているようだし嫉妬深く多分独占欲も強い。前に一度聞いた時、本当なら邸で囲い込み誰の目にも触れさせたくないというような口ぶりだった。


 そんな彼が婚約者はいるけどまだ独身男性であるゴールドバーグ様と私を引き合わす事に渋らない筈がなかった。事実、共にザカライアに向かったオールバンス閣下からは法王から許可を頂くのは驚くほどすんなりいったがゴールドバーグ様とフロイド様のやり取りには手を焼いたらしい。何故ゴールドバーグ様が私と会いたいと言っているのかは知らないけどそんなフロイド様が簡単に私との接触を許す筈がない。閣下のご苦労が目に浮かびます……。


 今も心配そうに見つめてくるフロイド様だけど「ゴールドバーグと今から会うんじゃないだろうな!?」「二人っきりで会うなど許さない!」 と浮気を咎められているような気分になってくる。そんなフロイド様に「勝手に会いません」「浮気などしません」「目を合わせません」と謎の復唱をさせられる事十回。漸く解放された。共に扉前で警護に当たっていた騎士からはドン引きされてしまったがね……。


 広く長い廊下を歩き目的地まで向かうが、背中には視線が未だに突き刺さる。「……おいていくのか?」「私に愛想が尽きたのか?」「やはりゴールドバーグは始末すべきだった……」と不穏な言葉を投げかけられながらも歩を進める。大丈夫! フロイド様だってそんな事したらいけない事ぐらいわかってる! 本気に摂れる声色だけどさすがに第一王女の婚約者に何かしない、と思う……。うん、恐らく……たぶん。



 ちょっとした不安を抱えながらも私は目的地に向かう。もうここには滅多に足を踏み入れる事は無いだろうと思っていたけど早速足を踏み入れる事となった。


 しんっと静まり返った部屋には一人の人間の気配。今は眠りに落ち、私が来た事にも気づかないその人。目覚めた時どんな顔をするのか楽しみである。



 使えるモノは何でも使うよ。


 元からいらないモノなんだから使えなくなれば捨てるのも、壊すのだって。


 拾った私の自由デショ?



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