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二柱の聖獣

 

 王宮広場。


 聖獣に認められたという王太子を一目見ようと王国中から多くの国民が集まった。広場に面したベランダを今か今かと注目する人々の目は輝き、期待に満ちている。


 そして現れた王太子に歓声を上げる寸前、息を呑んだ。

 その後はもうお分かりだろう。


 泣き出し叫び逃げ出す。そして遂には……。



『殺せ、殺せ、殺せ!!』



 それは一人が言い出した事。それが連鎖し大合唱となって広場に木霊する。王宮広場に響く『殺せ』の言葉。それが向けられているのはアデルハイト殿下だけではない。私を含める『黒持ち』すべてに向けられた憎悪の言葉。


 解っている事だけど心が抉られる。


 自分が生きているのは奇跡だと実感させられる思いだ。あの時、殿下に拾われていなかったらいつか村の誰かに見つかって惨たらしく死んでいた事だろう。そうなった時、私はこの世界を恨んで死んでいったのだろうか。


 向けられる殺意に震える体を叱咤し必死に立つアデルハイト殿下。先ほどの始祖、シリル様に誓ったように前を向いて自分に出来る事をやろうと頑張っている。この罵声もなんの否定もせず受け入れているのだ。それが今の、世界から向けられる殿下への評価。


 ひっくり返してやろう。


 この罵声を声援に変えるのだ。そうでなければ、そうしなければこの世界に未来はない。いくら罵声を浴びせられても殿下は始祖様の意思を受け継ぎ国を守ると誓ったのだから。



「静粛にせよ!!」



 シーンッ

 轟音とも呼べるほどの声量。声の主はこの国の王。アーサー・ヴェルデ・ラファティ陛下だ。ここまでの大声で叫ぶ陛下を見るのは初めての事でびっくりした。

 建物内から様子を見守る私の他、フロイド様や他の騎士達ですら驚いた。



「ここにいるアデルハイトが王太子である!! 文句があるなら余に言え!!」



 いや、無理だろ。

 思わずそんな思いを抱いたが恐らく誰もが思ったはずだ。国のトップである王に庶民が直接物申すなんて事出来るはずがない。青筋を立て怒りを露わにする姿に国民は王を恐ろしい物でも見たかのような目を向けるが、やはり直接意見する勇者は誰一人いなかった。


 人々は口ごもり近くにいる者同士でぼそぼそと「いや、でも……」「魔族だろ?」「本当に……?」など戸惑う声ばかりを口々に囁き合っている。困惑が広場全体を覆い、先ほどまでのお祭り気分は一転。まるで葬式のような静まり返っていた。


 天気とは裏腹なその様に『黒持ち』に対する世間一般の反応が見れたのは殿下にとっては驚きと悲しみ、行き場のない怒りなどを感じた事だろう。初めて国民から受けるこの侮辱。憎悪。蔑視。これから殿下は全てを背負いこの国を守り導かなくてはならない。


 それには『黒持ち』の地位向上が必須だ。ゼーレ様が王妃様の罪を裁かなかったのも『黒持ち』であるアデルハイト殿下を支え己が犯した罪の贖罪にさせる事で執行猶予をしたのだ。殿下よりも王妃様の方がそういう意味では逃げ場はない。逃げたら問答無用でゼーレ様に魂を喰われてしまう。そうなれば魂は消滅し輪廻の輪に還る事は二度とない。そしてゼーレ様は国を見限り国を守る結界は消え、王国は滅ぶことになる。


 まぁ陛下と共に生きる事が出来るのであればどんな苦境も乗り越えられそうな方だから逃げ出す事もないはずだ。だけどやっぱり息子に対しては負い目があるようで親子としての関係は良いとは言えない。殿下を亡き者にしようとしたのも『黒持ち』である事が原因だったのだ。


 まずは『黒持ち』が魔族ではなく人類の敵でない事を知らせなければならない。

 と、ここで()()()()



 晴天の空。

 何の前触れもなく白い光が王宮広場に降り注ぐ。雪のように降り注ぐその光は優しく温かく、広場に集まった人々は感嘆の声を上げた。上空を見上げれば強い光を放つ塊が二つ。



「おい……! あれを見ろ……!」

「えぇ!?」

「あれは……!?」



 人々が見上げたその先。そこにあったのは黄金の光を放つ獅子と白い光を放つ牡鹿。

 見ればわかる。あれは聖獣。国を長年守護して下さっていた守護聖獣様なのだと。



「おぉ……!」

「聖獣様だ!」

「守護聖獣様がお姿を……!?」



 獅子の姿をしたゼーレ様は人々を見下ろしそうして口を開いた。



『我は王国守護聖獣ゼーレ。者共、我が選んだ王太子アデルハイトを不服と申すか』



 決して怒った物言いではないが民からすれば神にも等しい存在からこのように言われれば委縮してしまう。人々は目の前の聖獣の姿を神のように崇めるがそこには畏怖の念がありありと漂っている。子供の時分に言い聞かせられた聖獣の存在はあくまで空想、御伽噺、伝説上の生物だったのだ。それが今、紛れもなく本物の聖獣が姿を現した。



『我はアデルハイトを次期国王に指名した。それにケチをつけるようであるならそれでよい。国に頼らず、己の身一つで生きればよい』


「そ、そんなっ!」

「わ、我々は不満など……!」

「聖獣様っ! どうか見捨てないで下さい……!



 王太子よりも聖獣に見放される事に恐怖する民達はそれぞれゼーレ様に対して懇願し始めた。聖獣様が守護して下さるのなら王太子は誰でもいいと解釈できる物言いだが、実際のところゼーレ様が国を見放したら五年もしないうちに王国全体が瘴気に覆われ人だけでなく家畜や愛玩動物ももれなく全ての生物が死に絶える。自分の命が惜しいのは誰もが同じなのだ。


 瘴気の事は王都に住む人間はあまり知らないだろうから、ここで見捨てないで欲しいと懇願するのは御伽噺の一小節の部分からくるもの。



『聖獣様を利用しようとした悪い男は聖獣様の怒りを買い、罪人の証を体に刻まれ一人国を追い出された瞬間、黒い靄が男を食べてしまいました。靄は男だけを飲み込むと瞬く間に消えてしまい、二度と男は姿を現しませんでした』



 聖獣が実在するのであればこの話ももしかすると本当かもしれない。もし嘘や作り話だったとしてもこれほど神々しいまでの姿をした聖獣には、人一人消してしまう事など動作もないのではないか? 自分の認めた者を認めない人間を守護する義務はあるのか?


 顔を青くする人々に今度は別の声が届く。



『ゼーレよ。あまりいじめてやるな。人は間違いを犯す生き物だという事はお主も忘れてはおるまい』



 そうゼーレ様を諫めたのは隣にいる白い輝きを放つ牡鹿。


 神聖ザカライア法王国の守護聖獣オーブ様。

 今日この日の為、アデルハイト殿下の力強い後ろ盾となって下さった神聖ザカライア法王猊下からまさかの守護聖獣の貸し出し。めっちゃ不敬だけど


「多分皆納得しないだろうけど聖獣二柱からのお墨付きなら態度も変わるだろうからねぇ~」


 とかなり緩い感じでオーブ様をシリル王国へ使いに出して下さったのだ。法王自ら足を延ばす事も考えたらしいけど、世代交代も視野に入れて今回は第一王女コーデリア殿下の婚約者であるゴールドバーグ様が法王の名代として今回出席して下さった。


 コーデリア殿下の婚約者として今後はシリル王国とザカライア法王国の二国間の架け橋となるゴールドバーグ様は二つ返事で了承して下さったと聞いている。交渉に赴いたのはオールバンス閣下と補佐としてフロイド様が向かわれしばらく寂しい思いを殿下はしていた。

 数週間ぶりにお帰りになったフロイド様はとても疲れたお顔をしていたが交渉は上手くいったと疲れた顔で言っていた。



(でもその条件として私と話したいとは……。これ第一王女殿下も立ち会われた方がいいよね? 変に誤解はされないと良いんだけど……)



 二人っきりは無いだろうけど、婚約者が『黒持ち』の一応、本当に一応女の私(既婚)に会う事を人伝に聞いたら心中穏やかではない……かも? 大衆向けの物語ではこういうので誤解が発生してすれ違いを起こすのが定番だもの。物語ではスパイスとなって燃え上がるが現実問題そんなことになったら面倒この上なしだ。いつでも苦労するのは下っ端なんだ。いらん仕事はしないに限る。



『ふんっ我は事実を言ったまで。お主に言われんでもそれくらいわかっておるわ』


『ならなおさら。人は学習する。長い目で見るが良かろうて』



 ほっほっほっと笑う牡鹿の聖獣オーブ様は柔和な表情で鹿の姿でも笑っているのが良くわかる。ゼーレ様とは旧知の仲らしく、お互い遠慮のない関係だそうだ。

 そんなオーブ様はすぅっとこれまでの表情を消し、なんの感情もない真顔で人々を見下ろす。



「「「!!!」」」



 ピリッとした緊張感が広場だけでなく王都中を駆け抜けた。



『私ですらここ最近は声を伝えられなかった。それが今日ここで私の意思をはっきり伝えられるのは他でもない。『イェルサの民』である王太子付きの護衛魔術師の力による所が大きい。最早、『イェルサの民』無くしては我らは存在を維持するのは難しいのかもしれんな』


『信仰心。我らの存在は契約した主からの魔力や神力で維持されるが民からの信仰心からも得られる。それが薄まれば主の負担が大きくなる。負荷が大きければ大きい程結界の持続時間は短い』


『そうなれば封印が破られ混沌の時代が再来する。……『イェルサの民』には苦労をかけるが、でなければ。……世界は滅ぶ』


「「「!!!?」」」



 今後詳しい説明を国に、世界に伝えていく事になる。今はまだその意味が解らない民達は聖獣様の『世界が滅ぶ』という発言に驚愕した。『イェルサの民』が『黒持ち』とも知らない民達からは「やはり魔族が……」「汚い『黒持ち』のせいで!?」「やはり『黒持ち』の王太子など」と騒めき始める。



『勘違いするな。貴様らが言う『黒持ち』とは『イェルサの民』の事。いつの時代からか魔族などという噂を信じよってからに……。我が今ここにいて姿を見せる事が出来るのも『イェルサの民』である王太子と王太子付き魔術師のおかげぞ! 我の前で『イェルサの民』を魔族などと……! 嚙み砕いてやろうか!?』


「「「ひぃぃ~!!?」」」



 グワッと鋭い牙を剥き出しにするゼーレ様に恐怖する民。脅さないで下さい。



『兎に角!! 我が認めたのはアデルハイトだ。信仰心が薄れた今、結界維持にはアデルハイトが必要。皆、肝に銘じておけ!! アデルハイトなくして今後のシリル王国は無し!!』


『私もアデルハイトを次期国王と認めよう。彼ならきっとシリルと同様に良き王となる。……アデルハイトを害するなら我やゼーレに牙を向けるも同様。我たちも牙を向けられたのなら応戦しよう』



 そうして上空にいた二柱の聖獣様達はバルコニー近くまで下降してきてアデルハイト殿下にすり寄り、甘えたように頭を殿下の腹や顔に擦り付ける。こうしてみるとただの動物とのふれあいにしか見えず和む。殿下もどうして急にすり寄ってきたのかわからないみたいだが、可愛がるように首を撫でたり抱きしめたりと打ち解けている様子。

 その様子に驚いたのは私達だけでなく広場の民達も同様だった。



「せ、聖獣様が……!」

「あんなに、懐かれて……?」

「本当に……?」



 夢中で撫でる手つきはとても優しい。ゼーレ様もオーブ様も本当にアデルハイト殿下を認めて下さっているのだ。だからこそ、あんなにも愛おし気な表情をなさっているのだと思う。



『うむ。アデルハイトにも私の加護を与えよう。聖獣二柱からの加護持ちなど、近年どころか始祖の時代にまで遡らねばいないかもな』


「おぉ。それは良い! アデルよ、折角オーブがこう言っておるのだ。貰っておけ!』


「「「ええぇぇ!!?」」」



 この聖獣二柱の言葉に驚きを隠せないのは国王陛下も同じ。部屋からその様子を見守るオールバンス閣下や神官達は驚きの声を上げ、神官長に至っては気絶してしまった。お年なのに大丈夫なのかと目を向ければ若い神官に支えられており倒れることは無かったので良しとしよう。「し、神官長!? お気を確かに!」と若い神官は慌てているがまぁ大丈夫だ。



「おぉ! 聖獣様からの加護を!?」

「すげぇ……」

「王太子様……凄い方なの……?」



 加護のおかげで民達の反応が一転したのは現金だがこれで殿下を見る目も変わるはず。



『アデルハイトに祝福と加護を。……励めよ、若き王太子』


「はいっ! 始祖様に誓って……!」


『うむうむ! オーブよ、礼を言うぞ!』


『なんの! 私も久々にお主と相まみえた事、嬉しかったのでな。思いを伝えられるのも嬉しかったのだ。こちらの方こそ礼を言わねばな!』



 わはははっ!! と笑う聖獣様達。

 加護までは想定外だったものの、殿下の後ろ盾に神聖ザカライア法王国がいて法王自身が殿下の立太子を認め、さらに聖獣様までも殿下を認めて下さったことをアピールするには十分な成果だ。


 国王陛下もリオネル殿下も思っていた以上の出来事に困惑してはいるけどこれ以上ない程の成果に満足げだ。二国間の関係を良好だとアピールしつつ、他国の聖獣様からも認められた王太子としてアデルハイト殿下にはそう簡単にケチは付けられなくなった。


 他にもまだ問題はあるが少しずつ片付けて行こう。例えば聖獣様達と戯れる殿下を憎々し気に睨む人達なんかを、ね。



 それでは今度は晩餐の場へ。



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