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侯爵夫人の告白

 

 王太子の儀が終了し、外国からの賓客は別室に移動。休憩を挟んで晩餐が行われる。



(その間に終わらせる)



 第一王子リオネル。

 彼はかつて最も王太子に近い男と呼ばれていた。だが聖獣の顕現によってその地位は実の弟アデルハイトが就く事になった。


 高い魔力と持ち前のカリスマ性に加えて整った顔立ち。国民からの人気も高く王位を争う兄弟でも長兄リオネルには敵わないと思っていた程だ。

 なのに王太子に選ばれることは無く実弟にその地位を奪われた。さぞ心中は荒れている事だろう。



 ……と、思いきや。



(ぃよっし!! これでめんどくさい連中とはおさらば!! さっさと排除してやんよ!!)



 めっちゃ喜んでいた。


 この王子、見た目に反して実はかなりの性格の悪さを隠し持っていたのだ。

 生まれて自我が芽生えた頃から自分の置かれた状況を理解し王宮という魔物の巣窟で生きてきた。何度も命を狙われてきた彼は幼き頃の母の姿を見て心に決めた。



『絶対にあいつらを地獄に叩き落す!!』



 中々子に恵まれなかった事で側妃を娶ることになった父。幼き子供でも側妃が密かに母を疎ましく思っている事も父の寵愛を得られたと勘違いして嘲笑うその姿の理由も解っていた。側妃が母を気遣う振りをして裏ではリオネルを何度も亡き者にしようとしてきた。……悍ましい笑みを向けられ耐えがたい屈辱を受けた事も一度や二度ではない。


 父は仕事の忙しさと母との間に出来てしまった溝を埋めようと画策するも王妃の仮面を被った母は頑なだった。


 それでもリオネルには愛情を目一杯注いでくれた母。忙しい公務の合間に時間をとってくれる父。そんな両親を愛していた。


 だからこそ許せないのだ。

 母を裏では嘲り自分こそが王妃に相応しいと豪語する側妃達を。父の事を愛していると言っておきながら気に入りの騎士や文官を部屋に招き入れ逢瀬を繰り返す側妃達を。


 許せるはずがない。


 我が物顔で王宮の実権を振りかざす側妃達も、何も学ばず母のいうがままの弟達も、母の真似をするばかりの妹達も。



(同じ血が半分でも流れているなど許せないっ……!!)



 一応リオネルの名誉のためにフォローを入れるとすると、決して全ての異母兄妹達が憎い訳ではない。すぐ下のアーヴィンやコーデリアは勤勉で王族としての振る舞いにも問題はないので好感を持っている。しかし怠惰であったり権力を掲げて我儘三昧の弟妹、特にセラフィーナは嫌悪の対象だ。

 しかしそれを覚らせないのがリオネルなのだ。兄弟であっても決して隙を見せず本心を覚らせない。おかげで変に懐かれたのは計算外だったが……。


 そんな弟妹達は自分と同じように今、王族席にいる。

 初めて見る王太子、アデルハイトをまるで汚物でも見るかのような目つきをしているのはセオドア、セラフィーナ、アレクシスだ。この場には年齢の事もあり出席していないサイラスとチェルシーの第三側妃の子供達もきっと同じような目をすることだろう。更にその不快を口に出す。絶対に出す。


 不快なのはお前たちの方だと内心毒づくリオネル。

 第二側妃は先日の件で謹慎中。大事な王太子の儀に自分が出席しない訳にはいかない! と息巻いていたがお前がいたことで何になるというのか。いない方が格段に平和だというのに。


 だがもうこれで側妃達や弟妹達に手を焼く心配もない。



(くくくっ! 第一側妃は頼みのブラッドフォード公爵家はこれから断罪される。……第二側妃と第三側妃は……ふっ、最早側妃を名乗るのも烏滸がましい連中だな)



 そうなるように、さっさと始めてしまおう。こいつらに割く時間がもったいない。



「では始める。先ほどブラッドフォード公爵と伯爵の親子関係が成立しない事が判明した。そのことについては公爵も夫人も弁明は無しで良いな」



 有無を言わせぬ陛下の物言い。国王アーサー

 もこの件を含め早急に手を打つつもりのようだ。陛下からすればブラッドフォード公爵は中々子を授からなかった王妃であるリオネルの母、ジュリエットを石女と吹聴し側妃を娶るように何度もしつこく進言してくる嫌な男だった。王妃も気にしてついには側妃を娶るように進言してきた時の絶望にも似た憎しみをアーサーは忘れていない。


 それが原因で夫婦仲がこじれてしまったのだ。こじれて王妃を避けるようになった自分自身を憎み叱責し、可能であるなら時を戻して殴り倒したい気分だった。それもこれも目の前にいるこの欲深い男のせいだと思うと怒りを押さえつけるのが精一杯だ。



「では、ここで新たな疑問が出てきます。公爵の子は三人。伯爵である長男と文官として王宮に出仕している次男。そして……ベレスフォード侯爵家に嫁いだ長女。伯爵が不義の子であったことを鑑みると他二人の親子関係も調べる必要があると考えますが、どうでしょう。反論のある方はいるだろうか」


「……っまさか」


「当事者は気になるところだろう。ベレスフォード侯爵夫人がブラッドフォード公爵の子でなかった場合、側妃にもその子供達にも関係があるのだから、余は調べることに賛成だ」


「へ、陛下……!」



 当たり前な事だと言わんばかりの態度を示す国王に当事者である第一側妃、オードリーが慌てて声を上げる。ここでもしブラッドフォード公爵家と縁のない事が判明したとして、ベレスフォード侯爵家の人間である事には違いない。なら別に衆人環視の中行わなくともいいのではないのか。


 そんな考えあっての事だが事実は小説より奇なり。そしてリオネルが必ず陥れ側妃の座を剥奪させ地獄に叩き落すと決めたきっかけはオードリー自身にあったのだから今から挽回することは困難を極める。



「ベレスフォード侯爵家当主、カール・ウィドリントン侯爵と侯爵夫人は前に」


「……はっ」



 一拍の間をおいて返ってきた声の後侯爵夫妻はしずしずと前に出てきた。その顔は青褪めこれから行われる事への恐怖と後ろめたさがありありと浮き出ている。だが、それは当主である侯爵のみで夫人であるジャクリーンはいっそ吹っ切れたと言わんばかりの晴れやかな表情だ。その違いに第一側妃は戸惑うが心配なのは父親ではなく、今後の自分の立ち位置だ。

 王妃になると幼い頃から夢見ていた彼女はその夢の実現まであと一歩というところまで来ていた。後ろ暗い事も卑怯と言われても仕方ない事だって家の力を使ってやってきたのだ。今更後戻りなど出来っこない。


 後ろ盾のブラッドフォード公爵と自分の血縁関係がどうであれ、自分は知らなかったのだ。罪があるというのならそれは公爵夫人でベレスフォード侯爵家の自分ではない。貴族籍の身分詐称は重罪。夫人の今後がどうであれ、側妃という立場に立つ自分が咎を受けることは無い。


 そう信じていた第一側妃。

 だが、最早それは他人事ではなくなってしまった。



「侯爵夫人。あなたとブラッドフォード公爵との血縁関係を調べさせていただく。かまわないな?」


「はい。勿論でございます。ですが……調べるまでもございませんわ」



 ざわっ

 自分の出生について詳らかにされるというのに、夫人のこの表情。心は凪いでおり実に晴れやかではないか。



「そうれはどうしてだ?」


「私の父はブラッドフォード公爵ではないという事です。あぁ、残念ながら確信したのは先ほどの魔道具で兄との血縁関係がないと証明された時ですが……」



 少し顔を斜め下に向き、悲し気な表情を見せたがそれも一瞬のうちで貴族女性らしい笑みを携える。



「母が父とは別の男性と懇ろな関係を持っていたことは事実ですし、私の顔は母に似ていたので公爵とはもしかすると……と思いはあれどそれを証明することも不可能。ですがこれではっきりと証明できますわ」


「な、に……」



 嬉しそうに微笑む夫人はまるで少女のように顔を綻ばせる。だが、対照的に引き攣らせるのは夫であるベレスフォード侯爵。青褪め、小刻みに震えて小声で何か呟いている。

 そしてブラッドフォード公爵も、その発言に驚愕し倒れる。息子が慌てて支えるが放心状態の公爵の目は虚ろであった。



「陛下、第一王子殿下。この場をお借りして全てを明らかにしたいと考えます。どうか、私にその魔道具の使用許可を頂きたく存じます」


「ジ、ジャクリーン……! お、お前っ」


「最早隠し事など出来る段階ではございません。潔く、己の罪を白状なさい」


「!!」



 淑女の微笑みを向けていた国王や第一王子に対し、夫である侯爵には真顔で冷たく言い放つ夫人。持っていた扇子で口元を隠す彼女の顔は明らかな嫌悪が見て取れた。


 その様子に愕然とする侯爵は膝をついてその場に項垂れる。その様を見ても夫人の表情は変わらない。長年連れ添ってきた夫婦なら政略結婚であっても情は沸くだろうに、夫人からは夫を労わるような視線は一切向けられることは無かった。



「見ていただく方が早いかしら。なら、髪を提出いたしますので早速確認していただきましょう」


「ま、待ってくれ!!」


「お早く」


「ぅっ……いや、だから待ってほしいと……」


「あら、何がしたいのかお分かりに? まぁ当然ですわね。……さっさとなさい」


「……」



 一体何をしているというのだ?

 周囲からすればこの言葉に尽きる。何故ブラッドフォード公爵の血縁関係を調べるのにベレスフォード侯爵はあんなにも動揺しているのか。妻が公爵家当主の血を引いていないとすれば動揺するのも可笑しくないかもしれないが、この動揺っぷりは可笑しい。


 内心笑い転げそうなリオネルは必死に耐える。デリックに探らせていたベレスフォード侯爵家の醜聞。今となっては噂でしかなかった現当主の秘密。



(あぁ……! リズ、君ってば本当に最高だよ……! キスの一つでも送りたいくらいだ!)



 そんな事したらフロイドに殺されるが、思わずにはいられない……!

 これもリズが作成した『骨肉の争いに終止符を打つ魔道具』のおかげだ。ネーミングセンスは皆無だがその魔道具の性能は認める。おかげでこれからブラッドフォード公爵家の血縁関係も明らかに出来る。そして今、公爵家の事など忘れて大広間にいる貴族全員の注目を浴びるのがベレスフォード侯爵家。


 第一側妃、オードリーの生家で夫人はブラッドフォード公爵家出身。先の一件で血縁関係に疑問を持つことになったが夫人自ら父親は公爵ではないと確信をもって宣言した。これから確認の為に公爵と夫人との血縁関係を明らかにするにしても、それがどうしてベレスフォード侯爵の髪の提供になるのだ。


 貴族達は固唾を飲んでその様子を見守る。

 他家の、それも側妃を輩出した侯爵家と王国三大公爵家の醜聞。見たこともない新しい魔道具で明らかになったのは血縁関係。血筋にこだわる貴族からすれば恐ろしい魔道具だが、おかげで面白いものが見られそうだ。


 注目の的であるベレスフォード侯爵家。特に侯爵夫人はそれでも堂々、貴族女性としてその場にしっかりと立って魔道具の使用目的を告げる。

 その内容に驚愕したのは第一側妃とその子供達だ。



「ここではっきりと申し上げます。第一側妃となられたオードリー様と私に血縁関係はございません」


「「「!!!?」」」


「何故なら、私は子など産んでいないのですから」



 そう言ってニッコリ笑う侯爵夫人。


 その眼には一切光が宿っていなかった……


50話達成!

ブックマーク登録、いいね、評価していただきありがとうございます。

思いの外長くなりそうでまだまだ続きそうです。出来ればまだしばらくお付き合い頂ければ幸いです。

これからも「平民魔術師リズ」をよろしくお願いいたします。

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