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王太子指名後 それぞれの反応

 

 *****



「首尾は」


「上々。ご命令があればいつでも」


「うむ。頼んだぞ」


「はっ」



 聖獣の顕現を発表し、その場で王太子の指名を行った事で城内は目まぐるしい程対応に追われていた。何せ数百年振りの顕現だ。前時代を知る者はいない上にその空白の数百年で聖獣ゼーレは空想上の存在となってしまった。混乱は当たり前だった。


 二人の男は書類を捌きながらこれからの大仕事の進捗具合を確かめる。

 この仕事がうまくいかない限り、王国に未来はない。聖獣ゼーレの怒りを買えばこの国は消える運命にある。まさに風前の灯火。そんな中舞い込んだこの奇跡ともいえる状況を無駄にするわけにはいかない。


 シリル王国1200万人の運命が掛かっているのだ。失敗は許されない。




 *****




「まさかっ、聖獣様が……!?」



 大神官が神殿へと戻り急ぎ各地方の神殿に聖獣顕現の知らせを送る。いくら神官と言えど、聖獣の存在は幻の存在とされておりここ数百年はまるで元から存在しなかったかのように扱われてきた。


 それが。その伝説の存在が、恐れ多くもそのお姿を現して下さった! 

 あの神聖な空気。聖獣様を信仰し、俗世とは無縁の生活を行ってきたという大神官でさえ自分がいかに矮小で穢れた存在であるのかを思い知ったのだ。



(あぁ! まさか自分の代で聖獣様とお会いすることが出来るとは……!)



 神殿に足を踏み入れ半世紀以上が経過し、久々にこのような清々しく心が晴れやかな思いをした。若かりし頃の清らかな思いを持ち続けていたつもりだったが、いつの間にかその気持ちが薄れ形式ばった信仰を繰り返していたのだ。


 聖獣という神に等しい存在を、この眼でそれも間近で目撃した大神官は心躍る思いだ。神殿は聖獣と共に生きる事を決めた信仰深い人間の集まりである。お隠れになって数百年。今では王家ですらその存在を忘れてしまっていたというのに、彼らは忘れていなかった。


 大神官へと代々受け継がれる口伝には聖獣の役割や王の役割が伝えられている。信仰が薄れてきたが故に王家ですら忘れてしまった役目。



「急ぎ伝えよ! 我らの役目を果たす時が来たのだ!」


「はいっ!!」



 聖獣、王家、神殿。止まっていた時が今、動き出す。




 *****




「聖獣ぅ~? 何だ、そんなもの、眉唾ものだろう? それより王太子だ! アデルハイトとは一体どういう人物なのだ!?」



 各国大使は急ぎ本国へとシリル王国に聖獣の顕現と王太子の決定を伝えた。大使から送られてきた火急の連絡に外交部職員は驚きと戸惑いを感じた。


 シリル王国にとって精霊や聖獣は建国の際、人族と協力して国を興したとされている事からこの知らせが彼の国にとってどれだけ重要であるのかは推し量れるとしても、本国にとって重要なのは次期国王となる王太子の素性。どのような人物なのかが重要なのだ。


 なのにその事については王太子がアデルハイトという王妃の第二子で第五王子が指名されたとしか書かれていなかった。それ以上の情報はこれから調べ報告を上げるにしても、もっと何かないのか!?



「王妃の第二子……。第一王子のリオネルが王太子となるのとばかり思っていたが。……まぁいい。王国とのパイプは確保している。引き続き、情報を集めるように!」


「はっ」



 アデルハイトという第五王子が王太子になろうと、すでに王国には太いパイプが出来上がっている。どちらが王太子となろうが、若しくは側妃達の子が王太子となったとしても問題ないよう王国の二大派閥にはこちらの手の者を入り込ませている。


 随分お互い疲弊しているようだが、最近ではメイウェザー公爵家有利との情報が入っていたところにこの報せ。勝負はついたか。だが、最後まで油断は出来ない。出来るだけ多くの情報を得る為、部下達には悪いがギリギリまで情報を集めて貰う。全ては国の為に。



「聖獣……か」



 男は窓から見える人々を見つめる。幸せそうな人々の笑顔。恋人同士、家族、友人……。その笑顔を幸せを守る為に男達は日陰を歩く事に成ろうとその命を懸けると誓ったのだ。


 事と次第によってはシリル王国との関係が大きく変化する可能性がある。国交はあれどそれほど親しい国でもないが、出来れば国民の為争いは避けたいところだ。しかし、



「……教会は黙っておるまい」



 男はクラシオン共和国の外務省の職員の一人だ。他国の情報を集め、国の為に利用してきた。今回も国の為、国民の為に利用させてもらう。だが。



「胸騒ぎがするな……」



 望みは国民の安寧。その為ならば手段は択ばない男だが、今回は異様な胸騒ぎがする。唯の気のせいであればいいのだが、残念なことに男の勘はよく当たる。


 大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出した男は再び眼下にある日常の生活を見つめる。



「何があろうと、この国を守り民の安全と平穏を守る。それが、我らの使命」



 新な決意を胸に、男は覚悟を決めたのだった。




 *****




「王太子に指名されたのは、王妃様の第二子様だ」

「一体、どのようなお方なのだ」

「何としても繋ぎを作らねば……!」



 慌てていたのは神官達や大使達だけではない。王国貴族と言えど、今回の王太子の指名は寝耳に水であった。期待していた部分はあったが本当にそうなるとは思わなかったし、ましてやおとぎ話の聖獣が顕現されるなど一体誰が予見できたであろうか。


 聖獣ゼーレ。

 その存在がおとぎ話の中での事であったとしても、あの大広間に現れたのは間違いなく人や魔獣といったようなものではない事は皆が気づいていた。あの神聖なオーラに身が竦むような威圧。聖獣でなくては一体なんだというのだ。


 仮に聖獣でなかったとしても、アレと敵対など自殺行為でしかない。聖獣の威圧に次々と気を失っていく連中を見ていればそれが大袈裟でないとわかるはずだ。ただの威圧。それですら人からすればとんでもない脅しに値する。



「第二側妃様の行動には驚かされたが……。あの方はもう表舞台へは出れまい」



 聖獣ゼーレに対して許可もなく近づき名乗ろうとした。自分が側妃となり勘違いしたようだが、本来下位の者が上位の者に声を掛ける事はマナー違反だ。そもそも陛下の許可もなくあのような行動。そしてそののち告げられたゼーレの言葉に身が竦む思いだった。


 精霊は決して人の都合のいいように動く事はない。聖獣であってもそれは変わらないだろう。自分達よりも矮小な存在である人間の言葉を聞く理由は無いのだから。



「何としてもアデルハイト殿下とお近づきになるのだ!」



 幻の第五王子アデルハイト・ウィリアム・ラファティ。

 生まれた時から病弱であったことから隔離されこれまで一切の情報がなかった。年齢は12。王妃の第二子で第五王子。本当にそれくらいの情報しかなかったのだ。


 そんな人が数百年振りに姿を現した聖獣の主となり、王太子となる。こんな物語のようなことが本当に起きるとは。信じられない思いだが、急ぎ情報を集めんとするこの男はあの日、あの時、あの大広間にて聖獣の姿をしかと見た。


 神聖なる空気の中、威圧で体が凍り付き動く事が出来なかった。初めて感じた畏怖の念。自分と聖獣が違う世界の住人であると感じたのだ。


 そんな聖獣が主と認めたアデルハイトという王子が一体どういった人間なのか。貴族家当主として家の存続と繁栄を一番に考えなければ待っているのは衰退のみ。一歩間違えれば衰退どころか家の断絶すら起こりえるのが貴族社会だが、男は胸の高鳴りを感じていた。



「ふっふっふっ! こんな機会、早々あるものではないぞ……! 私達は今、時代の転換期にいるのだ!」



 王国の転換期。

 この男が言う様に後の歴史家達はこのアデルハイト王太子指名以降をシリル王国の新時代が始まったと語る。だが、それはまだまだ先の話である。




 *****




「んふぅ~ん、聖獣が現れましたか!」



 楽し気に声を弾ませる男は豪奢な椅子に座り部下からの報告を聞く。傍らには男の使い魔である白蛇がとぐろを巻き報告する部下を監視するかのように睨み、舌をチロチロ動かしその柔軟な体をくねらせる。人の腕以上に太いその体に巻き付かれでもしたら大人の男であろうと絞殺されるのも容易い事だろう。


 男の命令一つで白蛇は部下を襲い、逃げる事も出来ずに絡めとられた上で絶命する恐怖に耐えながら報告を続ける。そんな部下の様子を眺めながらも報告された聖獣とその主に選ばれた人間に興味津々の男。



「まぁまぁ! これはこれは……! んふふふっ! 久々に大きなお仕事になりそうな予感です♡」


「!!」


「あなた方、立太子の儀でしっかりと王太子の人となりを見極めなさい。いえ、私が行くのもいいですね!」


「! お待ちください、コールリッジ司祭様!」



 部下の制止が聞こえているのかいないのか鼻歌を歌い、ご機嫌の男。使い魔の白蛇が男の体に巻き付き頬刷りをしてくるのを愛おしそうに撫でる。コールリッジと呼ばれた男は立ち上がり、彼の信じる神に祈りを捧げ始めた。



「退屈な日常に刺激的なスパイスをお与え下さった我が神に感謝いたします。我が神の教えに従い、邪悪なる獣に鉄槌を!」



 男が信仰しているのはクレプス教。唯一絶対神、クルムを信仰する彼らにとって聖獣と言えど獣と同等。そんな獣を信仰の対象としているシリル王国など下等国家。クレプス教会保有の騎士団は邪神信仰国家に天誅を下し討伐してきた歴史を持つ。そんなクレプス教会の中でも信仰深いのがこのコールリッジ司祭だ。



「さぁ! 忙しくなりますよ!!」



 祈り終わったコールリッジ司祭は両腕を大きく広げ、部下達に檄を飛ばす。黙って従う部下達を横目に司祭は遠いシリル王国に思いを馳せる。



「邪神に侵された哀れな王国……。ふふっ。私が引導を渡して差し上げましょう……!」



 恍惚な表情を浮かべる様はどこか異様な雰囲気を醸し出している。

 歪んだ笑みを浮かべる司祭は意気揚々と歩みだす。目的地は上司である司教の元。足取りは軽く弾むように向かうその様はまるで子供のようだ。


 今後この男によって王国が混乱の渦へと導かれる。

 男の名前はエヴァン・コールドリッジ。『血濡れのエヴァン』の異名を持つクレプス教会きっての宣教師であり、クレプス聖騎士団第三騎士団団長の顔を持つ。


 男が狙った国は必ず国教の改宗を行いクラシオン共和国が監視下に置く事となる。エヴァン・コールドリッジが動いたことでシリル王国もいずれクレプス教に改宗し、クラシオン共和国の占領下に置かれることとなる。


 誰もがそう信じて疑わなかった。

 そしていつものように準備をしていく。いつものように。


 いつもと違う事になるとは思いもせずに……。


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