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王太子指名直後 現王の子供達

 


「アデルハイトって正妃様の第二子の? 病弱なんだろ? 王太子なんて無理に決まってる!」


「今まで表どころか家族で集まった時にさえ顔を出してない奴が王太子だと!? 父上は騙されているんだ!」


「そうよ! あの聖獣ってのも何処かから使役してきた使い魔かなんかに決まってるわ!」



 ここは王宮。王族の居住区域にある共有スペースだ。集まっているのは第一側妃から第二側妃までの子供達。第三側妃の子供達はまだ幼いのでこの場にいることが許されなかった為、自室に戻っている。と言っても幼い子供達にとって先ほどの聖獣の威圧は恐怖体験に近く、気を失う形で戻されたのだ。


 吠えているのは第三王子セオドア・レジナルド・ラファティ。学院最終学年の彼は弟妹達と共に寮から城に戻ってきていた。理由は聞いていなかったが、もしかしたら王太子が決定したのではという期待をして。


 順当にいけば第一王子であるリオネルが王太子となる。だが、母である第一側妃は実子の第二王子、アーヴィンを推している。隙が無く、素行もいいリオネルを引きずり下ろすのは難しいだろうに母は躍起になっていた。


 異母兄上(リオネル)には悪いがアーヴィンが王太子になれば自分も兄の補佐として王子のまま支えていける。兄が国王となった時、王弟として国を守るのだ。

 幼き頃からそう言い聞かされてきたセオドアは実兄のアーヴィンが王太子となるのとばかり思っていた。なのに。



「アデルハイト……。兄上の邪魔をするのは異母兄上(リオネル)だけではなかったのかっ」



 本当にアデルハイトが王太子となれば今後の自分の立場も危ぶまれる。リオネルにしろアデルハイトにしろ、二人とも正妃の実子で後ろ盾にはリンク侯爵家とメイウェザー公爵家が付いている。近頃ではメイウェザー公爵家とブラッドフォード公爵家の水面下の争いはメイウェザー公爵家有利と言われていた。


 そこに今回のこの発表。


 メイウェザー公爵家の勝利ともいえる。リオネルを王太子に推していたが、アデルハイトも正妃の子であるならメイウェザー公爵家の血筋でもある。どちらが王太子となろうと、利があるのはメイウェザー公爵家だ。



「ありえない……! 王太子になるのは第二王子(お兄様)よ! なのに、一度も姿を見せたこともないアデルハイトなんて……! そんなの認められないわ!」



 そう言い放ち、紅茶の入ったカップを荒々しくソーサーに戻すのは第三王子セオドアの双子の妹、第二王女セラフィーナ・リュミエル・ラファティ。セオドアと同じくアーヴィンこそが王太子となる人間だと幼い頃から聞かされてきた彼女も今回の発表には納得がいかなかった。



「およしなさいな、まったく……見苦しい」



 ソファーで寛ぎながらも弟妹の振る舞いの不作法さに呆れ、扇で隠しながらも不快感をあらわにするのは第二側妃の子で第一王女のコーデリア・レア・ラファティ。すでに学院を卒業しており隣国ザカライアの公爵令息と婚約をしている。この婚約は不可侵の森での争いが終着し、友好の為の婚姻となる。完全な政略だ。


 第一王女として生を受けたコーデリアは第二側妃の第一子。世継ぎの子を産むと自信に溢れていた第二側妃は宿った子が男児であると信じて疑わなかった。だが、生まれたのは女児であるコーデリア。第二側妃はひどく落胆し、コーデリアを遠ざけたが国王アーサーはコーデリアを可愛がった。


 コーデリアだけではない。側妃の子だという理由でアーサーは子供達を差別しなかった。真に愛する正妃ジュリエットの子であるリオネルに対しても厳しくされど愛情をもって接していたのだ。母からの愛情を受けられなかったコーデリアだが父からは愛されているという自負がある。


 そんな父に応えるために王女としての振る舞いを身に付けた。厳しくて泣いてばかりだった幼いコーデリアだったが月に一度の父との面談では王としてではなく、娘として愛してくれた父の為に。



「あらぁ~? お姉様には関係ありませんものねぇ? もうすぐ他国に嫁入りするお姉様には!」


「セラフィーナ。あなたは一から王族の振る舞いを習いなさい。このままでは嫁入り先などありませんよ。政略で嫁いだところで、帰されるがの関の山。そうなれば我が国が恥をかく事になるのです」



「なっ! 貢物にされるお姉様なんて、公爵家の跡取りが良い所ですわ! ハリエット様のような失態を侵さない様に、せいぜいお気をつけ遊ばせ!」



 ハリエットとは第二側妃。コーデリアの母だ。

 母の事は仕方がない。あの場で騒ぎ立てたあの人が悪いのだ。母を気遣う様子を見せなかった父には少しばかりの驚きがあったが、父は夫や父親である前にこの国の王だ。その王が母を擁護しなかった。

 これでもう、王宮内での母の権力は無くなったも同然。


 何処か他人事のような思いのコーデリアだがあの母ならああなって然るべきだというのが正直な感想だった。元から母からはもう何も期待などしていなかった。薄情かもしれないが、これで良かったのだとさえ思える。



「そうですよ! 姉上は母上を見捨てるというのですか!? 母上なのですよ!?」


「だから?」



 だからなんだ。母親なら必ずしも助けなければいけないのか。あの状況で。



「母上のあの行動は処罰されるべきもの。聖獣様の動きがあと一歩早ければ母上の命は有りませんでした。生きているだけで幸運なのです」


「何を……」



 第二側妃の第二子、第四王子のアレクシス・ネイト・ラファティは信じられない思いで目の前にいる姉を見る。姉の顔はいたって冷静。母への憐憫の情さえ見せない姉に、アレクシスは怒りを露わにした。



「姉上は! 母上を心配ではないのですか!? 血を分けた肉親であるというのに!!」


「いやぁ~ね。姉弟喧嘩なら他所でやってよ。本当に迷惑な親子ねぇ~」



 クスクスと嗤う異母姉にカッと頭に血が上ったアレクシス。元から第一側妃の子であるこの異母姉の事は好いてはいなかった。我儘で傲慢な彼女は他の側妃の子を下に見ている。自分たちを使用人のように振る舞うこの姉を、どうやったら家族だと思えるというのだ。



「落ち着きなさいアレクシス。……母上の事は諦めなさい」


「なっ!? 姉上はそれでもいいのですか!? 母上を見捨てると!」


「ええ。それが、王国の為です」


「!!」



 坦々と述べる姉を信じられない思いのアレクシス。



「姉上! それが王国第一王女のする事ですか!? 血も涙もないそんな行い、父上だって……!」


「その父上が母上を擁護しなかった。見ていなかったというの?」


「……っですが!」


「だから~、喧嘩なら他所でやってよね」


「すぐにアデルハイトについて調べろ、草の根を別けてでも何か見つけ出せ!」


「―――やめろ」



 ズンッ


 たった一言。たった一言でその場の空気が変わった。

 先ほどまでのギスギスした雰囲気は霧散し、一気に緊張が走る。背筋が凍るような緊張感が逆に冷静さを与えた。



「聖獣様が顕現なされ、国王陛下と共に王太子にアデルハイトを指名した。それが事実だ」


「兄上……」


「お兄様……」



 ソファーに座っていた第二王子(アーヴィン)は今まで黙って弟妹達を見守っていた。腕を組みじっと目を閉じていたのだが、今はその目は開かれ鋭い眼光を騒いでいた弟妹達に向ける。


 王国魔術騎士団に所属するアーヴィンは騎士らしく鍛えられた肉体を持ち、側妃似の美しい顔立ちをしている。そんな男から睨まれたらいくら兄弟と言えど身が竦む思いだ。


 寡黙なアーヴィンが簡潔に述べ、再び目を閉じた。話は終わりだと言わんばかりのその態度に弟妹達は納得しない。だが、これ以上騒げばどうなるかわからない。


 王族として第二王子として第一側妃の長子として責任ある行動を心掛けてきたアーヴィンは誰よりも厳しく己を律してきた。勉学も剣術も魔術も全て期待以上に応えてきたアーヴィンは努力を惜しまないが、努力をしない人間には容赦がない。それが血肉を別けた兄弟であっても。


 アーヴィンの発するオーラによってこれ以上の言い争いは終了。納得しないがここは引くしかない。不満はあるがここで争うよりもアデルハイトについて情報を集めることが先決であると判断したのだ。


 ゾロゾロと部屋を出ていく弟妹達の後ろ姿をアーヴィンは黙って見つめていた。




 *****




 アーヴィンは弟妹達を見送った後自分も自室に戻っていた。紅茶を用意したメイドを下がらせ、一人になる。そこで漸く大きく息を吐いた。


 魔術騎士団の駐屯地から呼び戻され、何事かと思えば国内貴族のみならず各国の大使までが一堂に会していた事に驚いた。まさか王太子の指名が行われるのか、それはここに集められた面々を見れば予想がつく事だが、それにしても末端貴族でさえも集められているのは奇妙。唯の王太子指名ではない事は察しがついた。だが、まさか。



「聖獣様の顕現……。まさか、本当に実在したのか……」



 弟妹達が騒ぐのも無理はない。伝説上、おとぎ話でしかないと思っていた聖獣が本当に存在し、ましてや自分の異母弟を主と認めたなど考えてもいなかった。


 第一王子、リオネルが王太子となる。そのことに不満などなかった。むしろそれが一番いいとさえ思っていたアーヴィン。自分を王太子にと母である第一側妃が躍起になっているのは知っていたし、弟のセオドアも応援してくれていた。さすがに第四王子は第二側妃の子であるが故に敵視されていたが、自分よりもリオネルの方が敵は多かった。


 表立っては知らされていないが何度も命を狙われていたリオネルは警戒心が強く、心を読ませない。その原因が自分の母である第一側妃を中心とした側妃派一派であるからアーヴィンは兄を庇う事も出来なかった。そんな素振りを見せでもしたら第一側妃はリオネルを確実に亡き者にするために手段を選ばなかっただろう。


 ソファーにもたれかけ天井を見上げるアーヴィン。

 誰よりも努力してきたつもりだが、兄には敵わない。父である国王と正妃の間に生まれた愛の結晶。もしもっと早く兄上が生まれていたら自分は今ここにはいなかったはずだ。


 相思相愛の国王陛下夫妻に側妃など夫妻の亀裂を生んだだけ。生まれた子供は父は平等に愛してはくれたが、母の愛は得られなかった。母は自分が王妃になる為の道具としか自分を見ていない。だが、兄は?


 愛されるために生まれてきた兄、リオネル。王妃は惜しみない愛をリオネルに与えていた。幼い頃、庭園で見た親子の姿が今も頭から離れない。


 王妃が愛おしそうにリオネルを抱きしめ笑いあっている姿。

 神聖なものを見た思いのアーヴィンはその光景から目を離すことが出来なかったのを覚えている。


 自分はあのように母に抱きしめられた事があっただろうか。あのように笑顔を向けてもらった事があっただろうか?



(羨ましかったんだな……)



 それから母に見てもらおうと必死に努力した。

 だけど母が自分を見てくれることは無かった。


 空しくなって結局逃げ出した。学院では比べられない様にリオネルとは別の学科を選んだ。剣術は嫌いじゃなかったし剣を振るっている間は余計なことは考えなくて済んだ事は良い選択をしたと思えた。母は剣など王族のする事じゃないと反対し、今でもよく思っていない。それでも自分はここで生きていくと決めたのだ。



「やぁ、アーヴィン。ちょっと話さないかい?」


「あ、兄上!?」



 音もなく現れたのはアーヴィンの唯一の兄、リオネル。

 完全に一人でいた為気が抜けていたのは確かだが、まさか何の気配もなく現れるなんて……!


 信じられない思いだが、人のいい笑みを浮かべるリオネルはどう入ってきたのか聞いてもはぐらかすだろう。口下手な自分では丸め込まれるのも予想がつく。


 アーヴィンは気を引き締め、目の前の男に対峙する。だが、直感が告げる。



(あぁ、この(ひと)には敵わないなぁ……)



 悔しい思いはあるが、それ以上に眩しい。

 きっとこの先も叶わないんだろうなぁ、と話し合いが始まる前から心の中ですでに降参するアーヴィンだった。


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