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夢見る女

 

 *****




「一体、どういう事よ!!?」



 王宮の一角にて怒りを露わにする女性がいた。

 メイドが用意した紅茶をひっくり返し、それでも気が治まらないその女性は持っていた扇子をテーブルに何度も叩きつける。カップは見るも無残に割れ、毛の長い絨毯には紅茶のシミが出来ていた。


 メイドは怒り狂う女性の視界に入らぬように部屋の隅で息を殺す。経験上、こうなった女性は怒りが治まるまで周囲に当たり散らし止めに入れば被害は全て自分に降りかかる。それが解っているからこそ、誰も止めに入らず好きなように暴れさせている。これが一番被害が少ないのだ。


 荒れているのは第一側妃、オードリーだ。ベレスフォード侯爵家出身でブラッドフォード公爵家の後ろ盾を得て第一側妃に納まった女性。元々は王太子妃候補として名が上がっていたが当時王太子であったアーサーがリンク侯爵家のジュリエットを見初めたので候補から外れた経歴がある。


 プライドが高く、誰よりも王太子妃に相応しいと自負していたオードリーは己の欲望を隠し第一側妃の座を得た。だが側妃という地位ですら彼女にとっては踏み台に過ぎない。


 王妃となる。


 これがオードリーの野望。国王の正妃という立場こそ己の正しい身分。正しい現実。今の正妻であるジュリエットではなく、自分こそが相応しいと疑わない。その為に。何が何でも息子、第二王子のアーヴィンを王太子にする。



(第一王子リオネルを蹴落とし次期国王になるのはアーヴィンよ! そうなるはずだったのに!)



 ギリィっと爪を噛み、忌々し気に空を睨むオードリー。その顔はまさに悪鬼そのもの。普段見せる穏やかな顔とは全くの別人だ。



「アデルハイト……! 王妃(あの女)の産んだ第二子っ! くそっ! さっさと始末しておきなさいよ!!」



 そう言って壊れた扇子を投げつけた相手はオードリーに仕える影。

 避ける事も出来た扇子を躱すことなくその身で受け取る影は一切の動揺はない。

 避ければ避けたでさらに激昂するだろうが真面に受けても苛立ちは治まらないようで手に届く物を手あたり次第に投げつける。


 その間も影は微動だにせず、ただただ怒りが治まるのを待つだけだ。


 しばらくして投げる物がなくなったことに気づいたオードリーは漸く冷静さを取り戻した。美しかった部屋は見るも無残な姿に変わり、平民が一生かけても買うことが出来ないような調度品の数々はただのガラクタへと変貌していた。


 落ち着いた様子にメイド達は出来るだけ息を殺し、部屋を片付けていく。音を立てでもしたらこの落ち着きも一気に下降するのは過去の経験からわかっている。自分が壊したくせにやったのはメイドのせいにして弁償するように実家に請求書が届いたことで破産し、一家離散となった使用人達は多数存在する。


 そうならない為に第一側妃付きのメイド・侍女は細心の注意を払いながら黙々と部屋を片付けていく。大方片付いたところで新たに準備したお茶を出し、そっと部屋を出る。メイドはここで漸く呼吸が出来た思いだろう。


 部屋に残ったのは第一側妃とその影の二人のみ。側妃はソファに座り、お茶を飲む。ふうっと息を吐き心が落ち着いたところで影に声を掛ける。



「それで。アデルハイトとやらは本当に王太子になるというの?」



 大広間には国中の貴族、国外の大使に神官まで揃っていたというのに国王の宣言が嘘だと思うのか。

 影は内心辟易しながらも坦々と事実のみを伝える。感情的になるのは半人前のやる事だがこの側妃の場合、相手にするのも馬鹿らしい。



「すでに各方面に根回しをされておられるようです。聖獣様の顕現とここ最近の陛下とその周辺の様子からまず間違いないかと思われます」


「どうしてよ!! 陛下の周りで動きがあったなら、何故わたくしに報告がないの!!? 使えない!!」


「申し訳ございません」


「お前!! もし本当にそのアデルハイトとやらが王太子になりでもしたら、お前の一族まとめて処刑してやるわ!! 年老いていようと生まれたばかりであっても一族郎党全て! 嫌ならさっさとアデルハイト周辺の情報とリオネルの弱みでもなんでも探ってきなさいよ!! 役立たず!!」



 ガチャンッと音を立てカップをソーサーに戻すオードリーは再び影に向かって暴言を吐き、まだ熱いカップを投げつけた。それでも微動だにしない影にオードリーの眉は吊り上がる。



「いい事!? アーヴィンこそがこの国の王になるのよ! アデルハイトでもリオネルでもない、アーヴィンが! 私の息子が国王になるの! そうして私は王妃となる。あの女を引きずり下ろすのよ。正すの! それこそがこの国の正しい、あるべき姿なの……!」



 妄執に囚われたかのようなオードリーの瞳は昏く濁っている。今の世界は間違っているから正すという彼女の使命感には最早狂気すら感じた。

 影は黙って頷き部屋にある隠し通路から出ていった。一人残されたオードリーは歪んだ笑みを浮かべながら来る正しい現実を夢見るのであった……。




 *****




「頭がイかれてるみたいです」



 〝北の塔〟に作られたリオネル殿下の執務室に戻って先ほどの第一側妃の様子を報告する。書類が積みあがった机に噛り付いて処理していくリオネル殿下に誰がとは言わずに報告したがそれだけで分かったようだ。報告が楽でいい。


 密かに潜り込んでいた第一側妃の部屋の様子を記録した魔道具を起動させ内容を確認するリオネル殿下に。また、いやぁ~な笑顔を浮かべている。これもう終わったな、側妃一派。



「ふふふっ、()()、ねぇ? ……どの口が言ってんだ」



 よっ! チンピラ王子!! 安定のガラの悪さ!! 「はぁ゛ん゛!?」 おっと、調子乗ったみたいだ反省。


 国内貴族の腐敗を一掃する為リオネル殿下から情報収集の任を受けたけどもっとこう、慎重になるべきではないのか。特にブラッドフォード一門。すでに陛下と殿下から排除の方向で指示が出ているので彼らが今更慎重になったところで時すでに遅しではあるんだけど。



「ちなみに第三側妃の方は?」


「あれは側妃を語って良いものなのですか?」



 側妃様たちの中には明確な序列がある。

 第一、第二、第三の順に位があり、子供も順当に生まれているのでわかりやすい。第一側妃様は王妃様の2歳年上である為、何かにつけて王妃様を下に見る傾向にあるようだ。だけどそれもここ数年の話でリオネル殿下の幼少期はまだ仮面を被っていたそうですが。


 最近ではその仮面はどこ行った!? と言わんばかりの振る舞いをなさっているそうで、侍女の入れ替えも一番多い。おかげで入り込むのは簡単だったけど。こういう所が甘いんだよねぇ~。人が入り込める隙なんか作るものじゃないでしょうに。



「第三側妃に限らず、第二側妃もブラッドフォードに与している。油断は出来ないが……何を掴んでる?」



 掴んでるというほどのものではないのですが、と前置きをした上で第二側妃、第三側妃とその王子王女達についての印象をゼーレ様に興味本位で確認した事を包み隠さず話すとリオネル殿下は机に両肘を付いて俯き、大きなため息を吐いた。



「……それは事実? 間違いないのか?」


「ゼーレ様にも確認した事です。間違いありませんよ。……残念ですが」


「いや……むしろ、都合がいい。これで一気に蹴落とせる。だが、確証足るものがあればもっとスムーズに運べるんだがな」


「? なければ作ればいいのでは?」


「……」


「……」



 無言で殴られた。解せぬ。しかも殴ったのに作れだと? 人使いが荒いな。




 *****




「リズ? 何を作っているんだ?」


「骨肉の争いに終止符を打つ道具です」


「「「???」」」



 リオネル殿下の執務室からアデルハイト殿下の居住空間に戻ってきて早速新しい魔道具の作成に取り掛かった。材料は私が個人的にストックしてあった物を引っ張り出して来た。上手く出来たらリオネル殿下に買い取ってもらう予定でいる。試作品でも買い取ってくれるというので心置きなく作れるというものだ。


 初めて見る魔道具作りに興味を示したアデルハイト殿下は授業の合間に何を作るのかどうやって作るのかしきりに訊ねてくるが、出来上がるまでのお楽しみという事で詳しい説明はしていない。

 それでも授業が終わる度に進捗状況を確認してくるあたり、わからなくても気になるのだろう。



「ねぇ! もうすぐ出来る?」


「そうですねぇ……。殿下方の協力があれば完成も早まるでしょうね」


「僕と……兄上?」


「はい」



 正常に機能するのかきちんと検証しなければならない。これには殿下方だけでなく、陛下や王妃様出来ればバーセル侯爵家の皆様やオールバンス閣下からの協力は得たい。サンプルは多い方がいいのだ。



「これが世に出回ったら世界が変わりますね……」



 リオネル殿下から今作っている魔道具の概要を訊いているらしく、何故だか若干引きつった顔をしているラヴクラフト様。しきりに「特許の申請は任せてください」とか「くれぐれも内密に!」とか鬼気迫る様子で言ってくるから頷くしかない。他にも作った魔道具があれば全て出すように言われて西方の村で生活していた時に販売していた物を全て提出させられた。


 何とも渋い顔をした後もの凄い勢いで特許の申請をし出した。「こんな……信じられないっ! コレをあんな辺鄙な田舎で売ってた!? ありえないっ」


 ……懇々とお説教をされてしまった。解せぬ。

 しかし今後はラヴクラフト様が開発した魔道具の特許申請や販売など各方面の申請など一手に担って下さることになった。自然と話すことも多くなった私とラヴクラフト様をフロイド様がギリィっと歯噛みをしていたなんて私は知る由もなかった。


 検証を繰り返し5回の改良を行って漸く納得できる代物になった。

 殿下のお披露目兼立太子の儀まで残り10日。間に合ったことにほっとする。



「完成したのか」


「はい。検証実験もバッチリです」


「そうか。よく頑張ってくれたね……ありがとう」


「……!?」



 この人誰だよ?

 そう思った私は悪くない。絶対、悪くない!



「お前は……。ホントに失礼なヤツだな!?」


「素直にお礼を言う殿下何て殿下ではありません、あなたはどちら様ですか!」


「本物のリオネルだよ! リオネル第一王子殿下様だ!」


「本物の殿下は人なんか自分の駒としか考えていません……! 私に礼!? ありえない!」


「このっ……! っはぁ~……、もういい。私が馬鹿だった」



 何故か不貞腐れた様子の殿下。可愛くないですね。アデルハイト殿下はあんなにも可愛らしいのに。



「コレで第二第三側妃達を一掃できる。残るは第一側妃だが、こちらも問題はない」



 ブラッドフォード一門の排除は決定事項。すでに逃れられない様に包囲されているのだ。最近では第一側妃様の影と思しき連中がどうにか情報を得ようと潜り込んでいるが何もつかめず側妃は焦る一方。同じくブラッドフォード公爵もメイウェザー公爵家有利をどうにか打破したい為になりふり構っていられない様子。


 勝負はついた。

 殿下が『黒持ち』であろうと、王太子に指名され次期国王となる。()()()()()()()()()。きっと殿下の力になって下さる。


 立太子の儀に邪魔などさせない。

 王国の醜聞に成ろうと国王陛下は不穏分子の一掃を行うことを了承された。その中には陛下の愛する王妃様を呪った人間もいるのだから中途半端な情けなどかけることもない。


 来る日、この国は新たに生まれ変わることになる。

 アデルハイト殿下の新たなる門出を邪魔する奴らには表舞台からご退場いただこう。



 新生シリル王国の誕生まであと10日。


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