決定しました
明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
国内外の問題が山積みであるが護衛魔術師でしかない私には関係ない。
……そう思っていた私はやはりバカだった。
まさか知らぬ間にリオネル殿下の直属になっていたとは……!
本人の承諾なしで進めるとかいくら王子であっても許されるのか。
結論から言うと許された。
リオネル殿下は魔術省のトップ。つまりは人事に口出し出来る立場な訳だ。私の経歴は研修期間終了後リオネル殿下付き魔術師となっており、現在はアデルハイト殿下の元へ出向中という事になっているそうだ。命令書もその事実を聞いたときに初めて貰ったが、すぐに破りたくなった。その衝動を我慢した私、えらい。
で、リオネル殿下が〝北の塔〟で寝泊まりするようになったので殿下の侍従であるデリック・ヒュー・ラヴクラフト様が〝北の塔〟への出入りを許された。ラヴクラフト様はアデルハイト殿下が『黒持ち』である事をリオネル殿下から聞いていたらしく、初対面時でも驚くことも嫌悪することもなかった。ニコッと笑いかけるラヴクラフト様にアデルハイト殿下は一瞬怯んだ様子だったがすぐに打ち解けたようだ。その様子を見ていたフロイド様は幽霊でも見たかのような顔をしていたけど。
「これからよろしくお願いします」
にこやかに挨拶をしてくださったラヴクラフト様をフロイド様とは三度見していたが何かあったのだろうか。「こちらこそ」と返事をすると右手を差し出された。意味が解らず、じっと見ていたら
「親愛の意味を込めて、握手。嫌ですか?」
「……私に触れるのが、怖くないのですか?」
「私は触れたいですね」
「ちょっ!」
「……」
「ふふっ、浄化しなくても大丈夫ですよ?」
何という事でしょう。まさか私と触れても大丈夫という人がいるとは。真顔で内心あたふたしながら手の浄化を行った。少しでも綺麗にした方がいいだろうと思っての事だ。そんな私を微笑みながら見つめてくるラヴクラフト様に、何故か調子が狂う思いである。
にこやかに握手をしている間、フロイド様が何か言いたげにしていたが黙っていた。その横でアデルハイト殿下もムスッとしていたのはどうしてだろうか?
正式にリオネル殿下の直属になったことでアデルハイト殿下の護衛後、別任務を任されることになった。夕方にフロイド様と交代した後に動くことになる。それはつまり活動時間は深夜。そして朝にはまたアデルハイト殿下の護衛となる。実質、護衛と言ってもただ見守っているだけに過ぎないので体への負担はほとんどない。フロイド様はリオネル殿下に文句を言っていたようだけどスムーズにアデルハイト殿下のお披露目と立太子を成功させるには入念な準備が必要。その為に使えるモノは何でも使うというスタンスをとるリオネル殿下は勿論フロイド様にも協力という名の元、密かに動くこととなった。
国内問題で最も面倒で最も重大と言えるのは国を二分する公爵家同士の争いだ。
ヴァレンタイン伯爵家が巻き込まれ、次期当主を死に追いやった原因。そのおかげで国内貴族の勢力図は大きく書き換えられることになった。メイウェザー公爵家対ブラッドフォード公爵家の争いは内乱寸前。実際に小規模の争いがあちこちで確認されている。城内でも賄賂が横行し、仕事にならないという。
そんなん知るかよ。というのが私の本音であるがそんなことが言えるはずもない。私が出来る事と言えば心の中で文句を言いながら与えられた任務をこなすこと。
メイウェザー公爵家は王妃様の母君の出身であるリンク侯爵家の主家。現当主は代替わりを行っており王妃様から言えば伯父が当主となっている。先代当主の方が野心家だったというが、ひっそり観察した限りでは先代当主よりも狡猾。狸。利益は勿論重要だけど相手の悔しがる顔を見るのも大好物! という印象。リオネル殿下は間違いなくメイウェザー公爵家の血筋だ。あの楽しそうに人を蹴落とす様なんかまるで兄弟のようだもの。アデルハイト殿下にメイウェザー公爵家の血が濃く出ない事を祈る。
そんなメイウェザー公爵家の当主となったアイヴァン・グレン・スタイナー様。
妻と息子二人と娘一人の三人の子供に恵まれ、長男はすでに侯爵家の長女と結婚。次男は長男の補佐をする事になっており、伯爵家の三女と婚約中。長女は現在学院に在籍しており、あのアークライト伯爵令嬢の学友でもあった。妻とは典型的な政略結婚だったが夫婦関係は良好。馬が合うのかお互いをパートナーとして尊重している。だけどそれはあくまでビジネスライク。子供を作らないという条件の元、互いに恋愛を楽しむ愛人がいる。
よくわからんが貴族の結婚でいえば一般的なのだろう。バーセル侯爵家や国王陛下と王妃様の夫婦がむしろ特殊なのかもしれない。
そんなメイウェザー公爵家と対立しているのが第一側妃様の主家であるブラッドフォード公爵家だ。
ブラッドフォード公爵家当主、ブルーノ・デール・エアハート。引退した前メイウェザー公爵家当主と同年代ではあるがこちらは未だに現役だ。
こちらの家族構成は公爵夫人である妻と嫡男夫妻とその子供。子供は女児であった為縁戚から養子をとるか婿を迎えるか検討されている。
家庭内の事に首を突っ込むのは宜しくないが息子夫婦関係は破綻している。男児を求められるのは嫁いできた以上、覚悟はしていただろうけど肝心の夫にはその気がない。公爵夫人からはそのことで大分責めているようだが妻一人で子供が授かる訳でもない。
嫡男夫人は領地で療養中といいながら実家から連れてきた護衛騎士とよろしくやっている。勿論嫡男の方も政略結婚の妻とは別に恋人がいる。こちらには子供が二人。それも男児だ。公爵もそのことは知っているけど相手は市井に住む酌婦。とてもじゃないが公爵家の次期夫人として認められるものではない。
嫡男は現公爵が引退した際三人を迎え、妻とは離縁するつもりのようだが公爵もそれが解っているので先回りしている。自分亡き後、嫡男が愛人を連れてきた場合若しくは支援を続けるようであるなら嫡男を公爵家から除籍。孫娘の成人までは次男が後見人となる事を正式に書類に残しているのだ。
残念ながらご嫡男様はそのことに気づいていないらしく、父親が引退するまでの辛抱だと言って愛人の方を慰めている。ご愛人様は仕事を辞めて用意された邸で公爵夫人になったつもりで悠々自適に生活しているが、どうにも礼儀作法などは学んでいないようだ。お子様二人はすでに16歳と13歳だがとてもじゃないが本妻との間に出来た娘さんとは雲泥の差なのは明らか。教育、大事。
(本気で妻として迎えるつもりならなんでマナーを身に付けさせないんだ?)
私とて一応、貴族の仲間入りした身。家の恥にならない様に必死に学んだつもりだ。まだまだ足りないけど。それでも今だって定期的にお義母様から学んでいる。仕事の合間を縫って。
なのに仕事を辞めて時間に余裕があるはずの愛人様は何も学ぶことなく一日中遊び、貴族出身の使用人を顎で使う。未だ平民であるにも関わらずだ。
ご嫡男様は本妻と離縁した際、女主人となるのだから当然だとして注意することも、女主人としての役目を学ばせることもせず好きにさせている。それを見ている子供二人もそれが当然と思うのは仕方ない事だろう。
ここから先は公爵もご嫡男も気づいていないが愛人の子供は公爵家の血を引いてはいない。酌婦として働いていたころに出会ったご嫡男の髪と目の色によく似た男と関係を持ち出来た子だ。それも二人とも。男は末端貴族の三男で詐欺事件に関わった事で実家から勘当された身だった。末端と言えど貴族であることには変わりなく、子供たち二人にも魔力があり疑うこともなかったようだ。
公爵は当初疑っていたが魔力がある事、公爵家に多い火属性であった事、髪も目もご嫡男の色と同じである事。それを理由に疑いつつも納得したようだ。
単にそれは本当の父親がブラッドフォード公爵家一門の末端貴族であるからなのだが。それに気づかない公爵も、気づいていながら何も言わない公爵夫人も、目を背け全てから逃げた嫡男の夫人も、甘い。
黙っていれば気づかれないと思っていたのか。気づいていたとしても、長年顧みられなかったことへの意趣返しなのか、男児を生めなかったことで役立たず呼ばわりされたことを根に持っているのか。どんな理由があるにせよ、政敵がいる中で公爵内でそのような分断があるというのは頂けない。
ほら、リオネル殿下の実に楽しそうな顔よ……。
こんなの恰好の餌食でしかないじゃない。
「ふふふった~のしぃ~!!」
まるで少年のような顔を浮かべて報告書を読み進めるリオネル殿下だが、これから行うことは公爵家にとっては微塵も楽しくない事は間違いない。
殿下が目を通しているのは部下に調べさせたブラッドフォード公爵家の内情。調べようと思えば他家でもそこそこ調べる事は出来るだろうがこれから先は王家の影であるからこそ知る事が出来る事実。そこに私が調べた結果を合わせると……
「排除決定♡」
哀れブラッドフォード公爵家。
にこやかに、されど邪悪といえる程のオーラを放つリオネル殿下によって王国三大公爵家の一角が潰える事が決定しました。
母親の実家の主家と敵対しているとはいえ、殿下の性格からすれば先ほどの発言は最早使える程の利用価値は無く王国にとって害悪でしかないと判断されたという事。そして殿下は不要となった存在に一切の情もかけない。冷酷で冷血。今の今まで笑い合っていたとしても不要と判断したら即日処分するような人間だ。信頼関係が築いていたとしてもいつ不要とされるのかわからないので部下は不安しかない。
(あれ、私不要ならどうなる……?)
現在は出向という形でアデルハイト殿下の護衛をしているが、いらないとなれば私の所属はどうなるんだ。アデルハイト殿下の直属に成れる? でもリオネル殿下は魔術省のトップ。殿下の不要は魔術省としての不要も含まれる。そうしたらどこの所属も無しにまた一般魔術師として市井で暮らすことになるのか。
(せめて殿下の戴冠式まではクビになりませんように……)
役に立たなければ捨てられるが役に立っているうちは捨てられない。例え人使いが荒くても!
だったら、どれだけ自分が有用な人間なのかアピールするしかない。不本意だけど。
とっっっっっても!! 不本意!! ですけども!!!
今後も不定期連載が続きますがよろしくお願いします!




