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逃がさないと誓った

 

 現在水面下でアデルハイト殿下の立太子に向けて陛下とオールバンス閣下、そして王妃様がご尽力されている。

 王妃様については断罪の日の翌日に陛下自らご説明下さった。


 ゼーレ様からも補足していただき、今の王妃様は殿下に対して敵対心も憎しみもないけれど面と向かって対話出来る程心構えも出来ていないそうだ。

 まぁ、普通の人間なら恐らくそうだろう。むしろ、『すぐに会いたい、会って謝らせて私の子!!』なぁ~んていわれる方が信用できんわな。多分陛下が許可しても殿下が会いたいといっても私は止める。人の心ほど曖昧で信用できないものはないんだから。……笑顔で他人を殺しに来る連中だっているんだもの。


 で、まず今取り掛かっているのは王妃様のお心深くに植え付けられた呪詛の解呪とそれを行った呪術師と指示した者の捜索を行っている。加えて殿下の教育係の選定も同時進行中である。


 ゼーレ様曰く呪いの類は城に施された結界や加護によって無効化される筈なのに王妃様には確かに呪詛がかけられていることが不可解だという。力が弱くなっていたとは言え、このような事態になったことにゼーレ様は責任を感じているようだ。

 今は魔術師団長と第一王子殿下が手掛かりを探している。呪詛を解析した師団長によると王妃様の深層心理と呼ばれる無意識の心理状態に芽吹いた根が深く広く蔓延っていて解呪には時間がかかるそうだ。少しでも無理をするとその場で廃人となる可能性が高い。呪詛返しを考えたが陛下は王妃様に呪詛を植え付けた呪術師を生きたまま、しゃべれるままに連れてこいと所望なので廃人状態で連れてくるわけにもいかず、慎重に慎重に解呪を行うことになった。


 せめてもの救いは根の成長が止まっていること。ゼーレ様曰く陛下の王妃様への〝愛〟によるものらしい。根の成長は王妃様の負の感情を糧にするが〝愛〟で満たされていれば成長できないもののようだ。なので解呪には毎回陛下が付いているそうだ。そうれはもう、王妃様をしっかり抱きしめて。



「……陛下、お仕事はどうなされたのです」


「仕事など、愛しのジュリーの命に比べればなんてことはない。私のいないところでもし、もしっ!! ジュリーに何かあったらっ……!!」


「陛下……!」


「ジュリー……!」


「……はぁ」



 とまぁ、こんな熱烈カップルのやり取りを毎回行うのはめんど、んんっ、時間の無駄……ん? ……なので師団長はもう何も言わずに解呪を行っているらしい。これはミンスター卿からの情報である。


 私は変わらず〝北の塔〟で殿下の護衛をしております。

 変わった事と言えばミンスター卿に魂を繋がれたことで今までよりもちょっとだけ、距離が近くなったことでしょうか。



「フロイド、ずるい!」


「ずるくありません」


「ず~る~い~!! 僕もリズといる!!」


「ダメです。はい、次はコレです」


「や~だ~!!」



 殿下に正式な教師が付くまではミンスター卿が代理で教育を行うこととなり、今はその授業中。ミンスター卿は侯爵家の嫡男ということもあり、基本的な教養や本職の魔術に関して指導されています。ですがあくまでミンスター卿が教えられるのは基本部分。貴族と王族とではマナーも、ましてや王太子となる教育は行えないらしく、あくまで正式な教師が見つかるまでの繋ぎ、代理なのです。


 教鞭をとるミンスター卿と机に向かう殿下。それを見守る私。これが最近の光景。

 教師として殿下に時に厳しくあたるミンスター卿ですが、ちゃんとできていたら褒めるいい教師ですし殿下も、口では嫌と言いながら授業を受けるいい生徒です。

 ちなみに今は小テストを行っており、問題を解いている間ミンスター卿が私の元で一緒に殿下を後ろから見守っていたことの一幕。

 一生懸命問題を解いていたらミンスター卿がいなくなっていてキョロキョロ。探せば後ろで私といたことに抗議したということです。



「むぅ~。最近、リズとフロイド近くない?」


「ふっ当然です。私とリズは夫婦! なのですから!」


「わかってるけど~……」


「はい。それでは次はこちらです。私は採点しますので、シャキッとなさってください」


「……はぁ~い」



 こうやってなんやかんや指示に従う殿下。現在行っているのは基礎学力の確認の為のテストです。一応元執事に文字の読み書きは出来るそうですが、その他の勉強については不明瞭なため確認しておきたいとのミンスター卿の希望で行われています。

 殿下自身、勉強してもっとたくさん本を読みたいというのでとても意欲的。無理やりやらせるより進んで取り組む方が覚えもいいので嬉しい限りです。

 しかも殿下ってば地頭がよろしいらしく、すんなり飲み込んでいくのでめっちゃ捗っています。


 ゼーレ様は日中は陛下の元で過ごし王妃様の解呪には必ず立ち会い万が一の時に備えているそうです。その後城内を見回ってから塔に戻ってアデルハイト殿下の夜警を担当して下さっています。なのでミンスター卿が日中教師として指導に当たれるというわけです。



 さて、皆様がお忙しくしておられる中ほとんど変わらずにいるのがこの私!

 一番時間を自由に使えるのです。それも王妃様の解呪が終わり呪った相手を突き止め、殿下のお披露目兼立太子が行われるまでの間でしょうけど。

 不本意だけど殿下の立太子後は私はゼーレ様の仮主として行動が制限されるらしい。今までのようにどこそこをほっつき歩く真似は出来ないという事だ。


 なので。自由な時間は今の内。

 と、いうことで! 



「さぁ~て! 始まりましたリズ主催! 元執事ブライアン氏の尋問会!! ドンドンパフパフ~!!」



 イエェェェイ!!

 田舎に戻ったと言われるブライアン元執事を〝北の塔〟の折檻部屋にご招待!! 私は逃がさないと誓ったからね。陛下が許しても私は許さん! 辞職したからと言って見逃すこともしないし罰を逃れられると思うなYO!



「むぅううぐぅ!!ううっ!!」


「あは☆ 何言ってんのかわっかんな~い!!」



 ふふふっテンション上がる~! この場にいるのは私とブライアン氏のみ。なので本来の私の性格を前面に押し出しても問題なーい!!


 むごむごと芋虫のように地べたと這いずり回るブライアン氏の口には猿轡を嵌めているのでホントに何言ってるのかわからない。まぁわかったところで私への罵詈雑言だろうからこのままでいっか☆

 にしても、お年が理由で退職されたはずなのに随分お元気なことで。ハハッめっちゃ芋虫。


 ちなみにこの〝北の塔〟の地下にある折檻部屋。防音対策もバッチリなのでいくら喚いても迷惑にならない優れもの! これなら殿下の安眠も保たれる。



「初めまして! 私はあなたの退職後に護衛魔術師として任命された魔術師のリズです。本日はそちらの都合も聞かずの強制連行にお付き合いいただきまして誠にありがとうございます!」



 ニッコーーー! と満面の笑みで持て成す。笑顔の練習がここで役に立った!!



「むぅむうぅぅっ!! むうぅぅぅぅ!!」


「あっは☆ だからわかりませんよぉ! まぁ、藻掻く藻掻かないはそちらの勝手です。お好きなだけどうぞ?」



 ジャラジャラとブライアン氏を拘束する鎖が音を立てる。だが、そんなことで鎖が切れる訳でも解放される訳もない。それでも暴れて藻掻くブライアン氏は私を睨み続ける。時刻は夜中。



「このことは陛下はご存じありません。私の独断です。なのであなたがここを抜け出すことが出来て私の行った事を世間に公表すれば私は間違いなく処刑ですね」


「うううっ!! ううっむぐう!!」


「ただし! それはここから万が一にも抜け出せたらのお話。ま、無理ですからお諦めください」



 ジャラジャガ! ガンガン!!

 暴れて暴れて暴れる芋虫、もといブライアン氏。見下していた『黒持ち』に見下されるのはさぞ気分が悪いことだろう。憎々し気に私を見上げるその目には、はっきりと殺意が篭っている。



「陛下もあなたをお探しになられていたようですが、どうも足取りがつかめないと。そうおっしゃるので私も探してみたんです。本来なら私は殿下の護衛にのみ集中していればいいのでこのような事、する必要もないのですが……」



 コツコツと横たわるブライアン氏に歩み寄る。今までは練習した満面の笑みを浮かべていたけれど、笑顔って結構しんどいのでもうやめる。いつもの無表情でいいや。



「どうにもあなたに対する処罰が遅れる事に苛立ちを覚えてしまって……。なので私も捜索してしまおうかと思いまして。……見つかってよかった」


「っ」



 恐らく暗部上がりのこのブライアン氏。名を変え姿を変え潜伏していたのは王都の中心街のはずれ。地方から職を求めてやってくる人間が溢れ住民の管理も出来ていない無法地帯。そこなら身を隠すには丁度いい。ご丁寧に王都から出たという痕跡を偽装してくれたおかげで捜索は地方に及んでいる。こんなに近くにいたのに。灯台下暗しとはこのことか。



「私にあなたを処罰する権限はございません。ですのでこれは全て、私の独断。ただの嫌がらせです」



 そう言って芋虫状態のブライアン氏を浮遊させると鎖の拘束を解き、代わりに壁に十字に張りつける。

 魔術で行ったことにブライアン氏……ブライアンでいっか。ブライアンは驚いていたようだ。この〝北の塔〟で長年生活していたのだからこの折檻部屋の事も知っているはず。勿論、塔の性質上この部屋も魔術は本来使えないことも。



「私は魔術師。魔術師の私が魔術を使わずにあなたと対峙するなど自殺行為でしかありませんし、術式の理解があれば書き換えなど造作もない事です」


「……」


「今この部屋における魔術は使用可能。拷問にもあなたは耐性がありそうなので魔術でサクッと聞きたいことを聞いてあとは陛下にパスします」



 多分こういう暗部の人って自分も拷問を受ける可能性を考慮してある程度耐性を持ってそうだし。自白剤も薬が効きにくそう。時間をかけるのも面倒だし。ここはサクッと終わらせてしまう。王宮侍従のグラハムとかいう男は陛下の手で葬り去ったときいた。それがこの男にも適用されるならいいが、もっと軽い処罰ならその時に殺そ(やろ)う。



「猿轡を外しますので余計なことは言わずに聞かれたことだけに答えてください」



 ちょちょいのちょい、と魔術で猿轡を外す。

 そしたら歯を食いしばって更に睨まれた。まぁ、睨まれても何ともないけどね。



「殿下に対する不敬。洗脳。行ってきた悪事の数々。色々聞かせてもらいましょうか」


「……ふ、ふふふっはははははっ!!」


 突然嗤いだした。うわ、きも……



「死ね!! 汚らわしい魔族めがぁ!!」



 ……

 …………



「……は?」



 十字に張りつけられ、文字通り手も足も出ない状態での魔術使用可能という情報。それを聞いてすぐに魔力を高めていたブライアン。私に気づかれないよう、慎重に魔力を練って。塔が正常な状態ならこの時点で塔の防衛魔術が発動しているはず。それを知っているからこそ魔力を練れたことで攻撃可能だと判断し、実際に攻撃に移った。詠唱なしでの風刃で首を切り落とす算段だったんだろうけど……残念。



「あなたが魔術を使えるはずないでしょう?」


「な……」


「ここであなたまで使えたら私に勝ち目なんてありませんて。肉弾戦で私があなたに勝てると思います?」


「!! そ、そんな……」


「使えるのは私だけですよ。思いの外、あなたって……」



 それなりに、むしろただの宮廷魔術師よりも魔術に対しての造詣は深いだろう。だからこそ逃げ出す事が出来ると踏んでの魔術行使だったんだろうけど。……あ~ま~い~よ~ね~?

 渾身の嘲りを込めて、相手を煽ってやろう。彼のプライドを傷つけて、その自信を叩き折ってくれよう。ははっ! 知ってた? 私ってば性格悪いんだよ。自然笑みが零れる。でも、これはとてもじゃないけど殿下やミンスター卿には見せられないなぁ……


 口の両端が上がるのが解る。

 目じりがいつもよりも下がって、きっととっても


 悍ましい。



馬ぁぁぁ鹿(ぶわぁぁぁか)!! なんですねぇ!!」


「ひぃぃっ!」



 あは☆ 悲鳴を上げるなんて酷いなぁ~。そんなに怖がらないでよ。だって



「泣き叫ぶのはこれからの、お・た・の・し・み! ですよ?」



 ズンッ

 ブワァァァァァ!!



「ひぃ……ぎぃあぁぁぁぁ!!?」



 普段抑え込んである私の本来の魔力。

 まるで生き物のように部屋の中に充満しブライアンを覆いつくす。手足に、顔に、胸に絡みつく凝縮された本来見えるはずの無い黒い靄のような魔力が迫る。

 目を見開き、自分の体に絡みつくこの靄に恐怖で叫び出すブライアン。彼も未だかつてこんな経験はなかったのだろう。もうすでに戦意喪失状態だ。つまんね!



「さぁ。これからが始まりですよ? オールバンス閣下」


「!! お、おおお、おーる、オールバンスさまぁぁぁ!!」


「……」



 くるりと振り返り、扉を見れば入室してきたのはエドガー・オールバンス様。

 閣下はの光景に眉を寄せ、厳しい表情を浮かべている。

 対するブライアンは天の助けと言わんばかりに閣下のお名前を叫ぶ。



「お、お助け、お助け下さいぃぃぃい!! この! この魔族に殺されるぅぅ!!!」



 逃げ出そうと手を足を必死に動かし傷ついてもお構いなしに拘束から逃れようとするブライアン。よっぽど怖いのか、失禁までなさっている。

 恐怖に染まり、捕まえた当初よりも随分老け込み、逃れる事に全力で意味のない叫びをあげ続けるブライアン。……やかましいな。



「陛下には内密に。されど閣下にはお耳に入れておこうかと思いまして。尋問なされるのならご随意に」


「……」



 あ゛あ゛あああああっ!!! とさっきからうるさいので口枷を。靄となり可視出来るようになった我が魔力によって口を塞ぐ。私の魔力なので自由自在の変幻自在!! 口を塞いだ状態で蛇のように形どった魔力の靄が眼前に迫り口を大きく開ける、と。



「あれ……。寝ちゃいました?」


「……気絶だ、馬鹿者。加減を覚えろ」


「とはいっても。こんなの初めての経験ですので。……死んで無いのでセーフでは?」


「……」



 眉間の皺が深くなった。何か言いたそうだけど、何も言ってこないからまぁいいか!



「……尋問はこちらで行う。これなら素直に吐くだろう」


「……どのような処罰をお考えで?」



 多分私の目は閣下に対する目つきではないだろう。閣下は一瞬体を震わせたが、すぐにいつもの威厳あるお顔に戻る。



「厳粛に。もう二度と日の光は浴びることも、殿下の前に現れることもないとだけは確約しよう」


「……畏まりました。どうぞ、お連れ下さい」



 ピッ! と手を振り、ブライアンの拘束を解いてやる。そのまま崩れ落ちても目覚めないブライアンは閣下の部下、尋問や拷問に長けた専門部隊が回収していく。

 後ろで控えていたのか、明らかに私に対して怯えていた。失礼な。



「……手を煩わせたな。だが! 今後はこちらに先に連絡するように! お前の任務は殿下の護衛だ!」


「だから休憩時間に居場所を探して、勤務時間外に拘束したんですが……」


「だとしても!! 一人で行動するな!! お前はすでに一人で動いて良い存在ではないのだぞ!!」


「……」



 ゼーレ様の仮主に選ばれ、すでに最重要護衛対象でもあったらしい。そんなんいつの間に決定したの?



「兎に角!! これはこちらで処理する。今後は勝手な行動は控えるように。……お前はもう、平民ではないのだ。ダニエルの倅と婚姻した貴族。自覚を持て。さもなくば、名誉や謂われなき誹謗を受けるのはお前だけでなく、グリーンフィールド家にも及ぶ。……それはお前にとっても不本意だろう」


「!! そう、ですね……」



 そうだ。もう私はただの平民ではない。身分上は貴族。それも高位貴族に位置するバーセル侯爵家の令息夫人。それが例え書類上の関係でも。

 私の失態はバーセル侯爵家の失態となる。……それはまずい。

 私のせいで侯爵家に泥を塗ることになる。そんなのは、絶対にダメ。



「閣下!! 私の身で大変烏滸がましいのですが……」



 変わらないといけないのは私もだ。


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