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発動条件は心底お互いを愛している事

 

 陛下によって〝北の塔〟関係者が処罰された。


 怒りを露わに出ていってすぐの事だったらしい。多くの使用人は炭鉱や鉱山送りとなったが侍従長はその場で陛下自ら手を下したそうだ。殿下に割り当てられた予算を横領し、さらには断罪の場で殿下に対する侮辱を行ったことが原因だと説明を受けた。ただし、元執事ブライアンの姿はなかったときく。


 陛下とオールバンス閣下が再度やって来て直々に説明して下さったのだ。王妃様の件も含めて。

 


 こんにちは。リズです。

 私は今も変わらずアデルハイト殿下付き護衛魔術師として〝北の塔〟で生活をしています。


 あの後、昼食から改善されそれはもう見事なものへと変貌を遂げました。初めて見るご馳走とも呼べる昼食に茫然とした殿下はとても可愛らしかったものです。ただ、豪華すぎて中々食べ進められませんでした。これまでの食事とは雲泥の差なのは明らか。完食する前に満腹になった殿下は非常に悔しそうなお顔。



『あとで食べるから捨てないで……』



 捨てられるはずがないよね!

 メインの料理を一口、二口食べたところでストップをかけました。明らかに胃の許容量を超えていたのでこれ以上は無理と判断した次第です。


 食べたいのに食べられない。そんなもどかしさに涙目の殿下可愛い事この上なし!


 残り物は夕食時に出せるように保存。厨房側にも食事の量を減らすように指示。徐々に量を増やしていくことにしたのです。

 いやー、当初の目的であった食事改善。やはり陛下に直接殿下の生活を見ていただいた事が大きかったのでしょう。あとゼーレ様の主となること。おかげで身分に相応しい生活が出来てきたので言うことなしです。


 はっはっはっ! 毎日平和だなー。



「リズ、昼食の時間だ。しっかり食べろ。愛してる」


「……はい」


「リズ、もうすぐ交代の時間だ。終わったらゆっくり休むといい。好きだ。愛してる」


「……はぃ」


「リズ。見てみろ。月がきれいだ。だがリズの方が美しい。愛している、我が最愛の人よ」


「……」



 ……うん。

 ミンスター卿が壊れた。


 何故かあの日を境に語尾に〝愛してるー〟とか、〝好きだー〟とか言う様になってしまわれたのだ。

 どうしたのかと聞いても『愛している人に愛していると伝えることの何が問題なんだ?』と逆に聞かれてしまった。そういうものなの? これって一般常識なの?


 一般常識に疎い所があるのは自覚ありますよ? でもね? これってさすがに違うよね? こんな毎回語尾に愛してるとか好きだとか言わないよね? え? そうだよね??


 誰かに確認したいところだけどいったい誰に相談すれば? でも誰に??

 訳が分からず恐れ多くもゼーレ様に伺った所ニヤニヤしていらした。



『フロイドは自分の気持ちを伝えているだけだ。問題あるまい?』



 問題……ない?

 いや、でも私『黒持ち』だし。任務のための婚姻なだけだし。



『リズよ。これから『黒持ち』に対する偏見と差別の変革を成さんとするのにお前がその調子でどうする。愛されているんだから素直に愛されていればよかろうに。そしてフロイドに対してお前から愛を返せばいいだけの話よ。それとも、まだフロイドの愛を信じられんのか?』



 愛。

 愛おしいと思う心。


 それが今、ミンスター卿から私に向けられている。

 …………うん。



「~~~~~っ!!」


「どうした!? 何があった!? リズ、愛してる!」


「~~~、だからっ! それですよ!!」


「? それ?」


「その、だからっ……、あ、ぁ、あっ愛して、る……とかっ!! やめてくださいって何度も!」


「その度、無理だと言っている。リズ好きだ。可愛い」


「無理なことないです!! ちょっと前までそんなことなかったですもの!」


「過去は過去だ。昨日無理でも今日は出来る。今日無理でも明日なら出来る。私は君にこの先ずっと愛を囁くと決めたんだ。愛してる、リズ」


「~~~ぅうっ」


「赤くなる君もとても愛らしい。愛しい人よ。もっと君の傍で君を感じたい我が最愛」



 ……とまぁ、こんな感じです。

 それもこれも陛下と王妃様のすれ違いが殿下の冷遇に繋がったことが原因の一つにあると考えたミンスター卿。思っている事は伝えなければ伝わるはずがないと、その日から事あるごとに愛を囁いてくるように……


 正直めっちゃ恥ずかしい……!

 顔善し、家柄よし、性格善し。仕事もできるし、思いやりがあるし責任感もある。周りに乗せられるような性格ではないし、嘘をつくような人でもない。だからこそ、言葉による信用性は高い。


 本気で好いてくれているんだろう。けど、心が追いつかない。これまで染みついた『黒持ち』としての心構えが簡単に崩れ去ってしまいそうで、怖い。


 もし嘘だったら。私は耐えられるだろうか。


 ……正直難しいと思う。やっぱりね。当然だ。と言い聞かせるけど、もうすでに心のどこかで期待してしまっている。だからもし嘘であるのなら簡単に崩れていくことになる。そうなったらもう、元には戻らない。



「……君が私の言葉を信用していないのはわかってる。信じられないのも無理はないだろう。だけど、私のこの気持ちは嘘じゃない。一人の男として、リズ。君を心の底から愛している」


「……」


「答えが欲しいわけじゃない。君が私を拒否するのならそれもやむを得ない。……嫌だけど。ホントは受け入れてほしいけどっ! でも、君の気持ちを優先させるよ。愛してる君に嫌なことはしたくないから」


「……」



 言わなきゃ伝わらない。きっと同じ血を分けた家族であっても、言わなければ伝わらない。それが他人同士ならなおさら。


 ふぅっと一息呼吸。心を落ち着かせる。言わなきゃ伝わらないんだ。



「ミンスター卿のお気持ちに嘘が無いことはわかります。ただわたしは……その、〝愛〟というのがいまいちわからない。だから、ミンスター卿にどうお返しすればいいのかわからないのです。ミンスター卿のことは決して嫌っておりません。むしろ『黒持ち』の私なんかにとてもよくしてくださって感謝の気持ちでいっぱいです」



 伝えなきゃ。でも、なんかちょっと恥ずかしくてそれ以上に怖い。心の内をさらすのって勇気がいる。ミンスター卿はすごい。言葉にしてちゃんと伝えてくれたんだから。

 なら、私もしっかり伝えないと。



「……嫌いじゃないです。好きだと言ってくれて、愛してると言ってくれて、とても嬉しいです。でも、それ以上に、怖い」


「……怖い?」


「はい。今、私は自分史上最高に幸せです。これ以上ないってくらい。もういつ死んでも良いくらい。本当に幸せなんです。……この幸せの中に、ミンスター卿や殿下、ゼーレ様もいる。とても、幸せ、で……」


「……リズ?」



 とても幸せ。これ以上ないくらい。



「なくなるのが、怖い。いずれこの幸せが消えてなくなる。そう考えると、素直になれないのです。心の中で予防線を張っても失った時の絶望が私をきっと壊す。そうなるくらいなら今のこの幸せのまま生きていたい。これ以上は望みません」



 良し! 言えた! 紛れもない本心だ。とっても贅沢な私の望み。ミンスター卿はわかって下さるだろうか?


 ミンスター卿はと言えば押し黙ったまま何も言わない。怒る訳でも悲しむ訳でもなく、ただ真っ直ぐに私を見る。私もそれに答えて見つめ返す。軽い気持ちでミンスター卿が愛を囁くような人じゃない。そんな人じゃないからこそ、私もそれに答えないと失礼だ。


 そうしてしばらくお互いを見つめ合う。ミンスター卿の薄い水色の瞳に見つめられるとどうにも心の中まで見透かされていそうでドキドキする……

 随分長く見つめ合っていた気になったけど、ほんの1分2分の出来事。そうしてようやく口を開いたのはミンスター卿だった。



「失うのが怖いのは……私もだ」


「……え」



 怖いのはミンスター卿も? なんで?



「リズが好きだ。愛している。君を失えば、私はきっと生きていけないだろう」



 変わらず私を真っ直ぐ見たまま、ミンスター卿は苦し気に笑い自分の胸を抑える。



「きっと生物学的には生きているだろう。呼吸をして心臓が動いて。……でも心は死ぬ。そんなものは死んだも同然。若しくは動く人形。君を失った私には生きる希望などない」



 切ない眼差し。本当に私がいなくなった後の事を想像しているのが見て取れる。……どうしてそんなに苦しそうなの? ていうかそもそも、どうして私なの?



「君が学院に編入してきて3か月ほどたったある日。私は君に恋をした。黒く輝く君のその黒曜石の瞳に、色づく頬に……。君をとても美しいと思った。心の底から愛おしいと思えたのは君だけだ。これからも、それは変わらない」



 真剣さが増したミンスター卿の瞳。思わずビクリと反応してしまう。そしてミンスター卿は跪く。



「リズ。ここに誓う。 

『フロイド・グリーンフィールドは生涯をかけてリズを愛し、慈しみ、全てを捧げることを誓います』

 愛してる、リズ。私の唯一にして最愛の人よ」


「!!?」



 ピィィィン

 繋がった―――

 そう漠然とそう感じた。何がそう思わせたのか、見た目も魔力の変化は感じない。だけど、確かに『繋がった』



「っリズ!」


「ぇ……!?」



 自己分析を始めていたら感極まったミンスター卿があろうことか抱きしめてきた!



「えっえっ!? えっ!!? ミミミ、ミンスター卿!!?」


「ああっリズ! リズ!! 愛してる! 愛してる! 私の最愛、私の唯一!! 嬉しい!!」



 ななななっ、なん、なん、何で!!? どうした!!? いや、なんでだだ、抱き、抱きしめっ!!?



『わぁーはっはっはっ! フロイド! まさか実力行使と来たか! だがまぁ、リズにはこれくらいでないと伝わらんな。とりあえず、おめでとうと言うべきか?』


「ゼーレ様!? 一体、何がどうなっているんですか!!?」


『うむ、それはな……』


「ゼーレ様! 私がちゃんと説明します!」


『おぉ、お主も狭量だの……まったく』



 一体何が!? 何がどうなってミンスター卿が壊れたの!?

 普段周囲の者からは『氷の君』をいう渾名で騒がれる次期バーゼル侯爵。魔術師の中でもトップクラスの優秀さ。陛下の覚えもめでたい将来有望な彼が、何がどうして『黒持ち(わたし)』なんかに!?


 頭が混乱を通り越して思考停止状態だ……

 無理……何も考えられない……

 きっと夢、きっと夢。そう思って一度目を閉じた。きっと再び目を開けたらいつものミンスター卿に……



「リズ……! あぁっなんて……! 信じられないっ! リズも、同じ気持ちでいてくれたなんて……」



 戻ってない!? それに同じ気持ちって何!?



「先ほどの魔術は我が家に残されていた古い魔術だ。最愛の人とずっと一緒にいる事を望んだその人は死んで離れ離れになる事さえ恐れ、魂を繋ぐ術を開発したんだ」



 ……ヤバくない? バーセル侯爵家。



「魂を繋ぐ。これは私達が死んで、輪廻の輪に戻り再び生まれ変わったその時に魂が惹かれ合いお互いを導くというものだ。そうして来世でも巡り合えることが出来る。ずっと、変わらず愛し合える。だが術が正しく発動するには自分だけでなく、相手の気持ちも重要だ」


「!!!」


「リズ……。あぁっ、愛してるっ君も、私と同じ気持ちだったんだね……!」


「あ、ぁぅ……」



 ピンときたよ。そりゃ、ここまで言われたら術の発動条件くらい感づきますわよ! 発動条件は間違いなく



 〝心底お互いを愛している事〟



 ん゛ん゛っ―――!!! 


 顔が熱い!! いや、もはや全身熱い!! 絶対顔以外も赤いわ……

 あまりの恥ずかしさにもはや涙目。何か今なら頭の上にやかん置いたら湯が沸きそう……


 顔を両手で隠し、ミンスター卿から背を向ける。だけど、無理だった。抱かれていたんだった。慌てて逃れようと藻掻くが、びくともしない。くっ! これが男女差か!



「リズ……。何も言わずに術を掛けたこと、すまなかった。だが、こうでもしないと君は私を信じてくれないんじゃないかと思ったんだ……」



 しょぼん


 うぐっ!? どうしたことだ……! ミンスター卿の頭にペタンとねた犬耳が見える、だと!?

 犬属性……!? あ、確かに忠誠心は強そうだし一途だしホント忠犬……じゃなくて!!



「ミンスター卿!! お願いします! 離してください!!」


「嫌だ!! 離したらリズは逃げるだろう!? 全力で! 私は君と離れたくない! もう一分一秒でも離れない!!」


「嫌、物理的に無理! 逃げませんけど! 最早逃げ場なんてないでしょう!?」



 逃げたところで繋がった魂がお互いの位置を知らせてくれる。こうしてミンスター卿の腕の中にいてその存在が、魂が呼応する。

 まるで魂が叫ぶかのように震えて私に訴えてくる。もう誤魔化すことなんかできない。



 フロイド様を愛しています、と。

 

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