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平民魔術師リズ ~人生山あり谷あり~  作者: 炬燵猫


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27/112

断罪

 

 玉座の間には〝北の塔〟に関わる全ての人間が招集されていた。急な呼び出しに困惑する者も多く、同じように集まった者同士何が起こるのか囁き合う。極秘中の極秘であったアデルハイトの内情を知る者はほんの一握りの存在。


 そこには第五王子殿下の実兄である第一王子リオネル殿下と生母である王妃、ジュリエット・エマ・ラファティの姿もあった。そして、元護衛騎士であり現ヴァレンタイン伯爵家当主のネイサン・ヴァレンタインも例外ではなかった。



 ☆☆☆



 侍従長を勤める男の名はグラハム。彼は期待に胸を膨らませていた。

 今日ここで、長年の苦労が報われる。そう信じて。


 陛下の入来。シン、と静まる玉座の間には緊張が走る。王としてのオーラを纏わせる国王は普段よりも一層厳格なオーラを醸し出している。これは、もしや! と心を弾ませるグラハム。


 この十数年、メイウェザー公爵様からの王太子が決定するまでは生かしておけという命令に従い、王妃様の命令は全て失敗したと装った。元執事のブライアンと協力して。



(あの悍ましい『黒持ち』の為に。何故この私が魔族を保護せねばならないのか……! だが! それも今日までだ。王太子がリオネル殿下に決定すれば、あの『黒持ち』に用はない!! 即刻処分してやる!)



 心の内に秘めるどす黒い思惑を表には出さず、恭しく頭を垂れる。それも全てはリオネル殿下の為、引いてはメイウェザー公爵家の為に。



「今日集まってももらったのは他でもない。我が息子。第五王子アデルハイトについてだ」



 ……何? あの『黒持ち』についてだと?

 そんな、王太子の決定では!!?



「恐れながら陛下! 今回は第一王子、リオネル殿下の立太子についてのお話では……!」


「控えよ! 愚か者どもめ!!」


「「「!!!?」」」



 陛下の側近、エドガー・オールバンス。

 腹に響くほどの重い一括が身をすくめさせる。私と同じ考えの、愚かにも先走り声を上げた男は尻餅をついた。



「第五王子アデルハイト・ウィリアム・ラファティは生まれてすぐに隔離させた。王子の世話には信頼おける者達に任せていた。それがここに集まってもらったお前たちだ」



 陛下は、一体何が言いたい。『黒持ち』の世話など知って誰が好き好んでやるものか! アレは化け物だ。あんな化け物、すぐに殺してしまえばよかったものを……!



「アデルハイトに対する無礼、不当な扱いを行った者、間接的にその扱いを犯したもの。それら全ての者を罰する。この場にいる者たちよ。今日まで苦労を掛けた。明日からは別の働き口を用意してある。クラール炭鉱とヘルモア鉱山だ。グリーンフィールド宮廷魔術師長よ。〝北の塔〟に関する一切の情報を口に出せないよう、契約魔術を掛けてくれ。例外は認めん」


「お任せを」



 待て、ちょっと待て!! 何故だ!?



「何故ですか!? 陛下!! 我らに一体何の非があるというのです!?」


「そ、そうです! わたくしたちは、いつも陛下の為に……!」


「どうかお考え直しを! 私達は何もやっていない!」



 バリリィィィ!!!


「「「!!!!」」」



 陛下の魔力。雷だ。それが陛下と俺たち使用人との間に落ちた。絨毯は焼け焦げ、床には穴が開いている。



「貴様らの罪。それは()()()()()()()だ。アデルハイトへの長年の不当な扱い。余に対しての虚偽の報告。暗殺の手引き……。それに加え、余が認めた護衛魔術師に対する不当。これは余に対する反逆に等しい! すでに貴様らが行ってきたことに対する証拠は揃った。一族まとめて処刑されるよりはマシであろう。せめてもの謝意だ。文句があるのならこの場で首を刎ねてもよい」


「「「!!!」」」



 ほ、本気だ……! 本気で殺す気だ!!

 何故だ!? 何故、こんなことに!?



「己の罪が分からないというなら読み上げてやれ。エドガー!」


「はっ。ではまず。 侍従長グラハム。貴殿は第五王子殿下に割り当てられた費用の4/5にも及ぶ金額を横領。殿下に王族らしからぬ生活を負わせたこと、食事の改善を求めたことを無視し平民若しくはそれ以下の食事しか与えなかった事。横領と不敬に当たる。次に―――……」



 はっ……。『黒持ち』にそんな。王族? アレは魔族だ、化け物だ。そんなものに何故食事が必要だ。何故金が必要なんだ!?

 これから己に課せられる不当な罰に、これまで費やした時間と労力を考えると腸が煮えくり返る思いだった。頭に血が上る思いで勢いよく立ち上がり叫ぶ。……この行動が自分の最期に繋がるとも思ずに。



「ありえない!! アレに金を掛けることも! ましてや食事!!? 生かして何になるというのです!? あんな! ()()()……!!」


 カッ!!



 男の名はグラハム。侍従長だった。彼は言い終わる前に光に飲まれ消えた。最後に男が見たのは目が眩みそうなほどの強烈な光。痛みも恐怖も感じることなく、意識は刈り取られたのだった。

 光が治まった後、グラハムがいた場所には黒い消炭だけが残されていた。



「……エドガー。続きを」


「はっ! 次に―――」



 全ての使用人に対し、犯した罪を言い渡した。王族に対して行えば、どれも極刑にされても可笑しくないものばかり。それに先ほどのグラハム侍従長の最期を見れば誰も反論出来ようはずもなかった。


 皆項垂れ泣き出す者もいた。だがきっと減刑を望めど許される筈がない。王族に対する無礼。軽んじていたわけではないが、第五王子殿下に対してのみは例外で無礼だとも思わなかった。そして、現在の護衛魔術師に対しても。


 護衛魔術師は二名。一人は『黒持ち』だ。陛下が認めたといったところで『黒持ち』は『黒持ち』に過ぎない。例え陛下立ち合いの元、グリーンフィールド侯爵令息と婚姻したとしてもだ。


『黒持ち』に正当な人間の扱いなど不要。

 それが使用人の間では暗黙の了解であった。


 それが王妃殿下の無言の圧力によるものだったとしても。


 後悔しても遅い。『黒持ち』でありながら貴族と婚姻を結び陛下からの後見をいただいたという事がどれほどの意味を持つのか。何故、その意味が解らなかったのか。

 ……命があるだけ良しとしよう。本来極刑は免れないほどの罪だ。



 ☆☆☆



 使用人たちは宮廷魔術師団長に契約を施され、ゆっくりと出て行く。残ったのは元護衛騎士のネイサンと王妃、第一王子の三名。



「次にネイサン・ヴァレンタイン伯爵。貴殿については情状酌量の余地があると判断する。元執事、ブライアンによる薬物投与による正常な判断が出来なかったこと、長年殿下に真摯にお仕えした事を考慮し伯爵から子爵への降格とする」


「承知いたしました。……ご配慮いただきましたこと、誠に感謝申し上げます」



 恭しく頭を下げるネイサン。彼は長年アデルハイトに向き合ってきた。『黒持ち』であったとして、彼にとっては主君の御子。個人的に思うことはあれど、仕事と個人の考えは別として生まれてから12年仕えてきた。その日々の中で彼はブライアンに少量ずつ兄やアデルハイトと同じ薬物を知らぬ間に盛られていた。ブライアンのアデルハイトに対する扱いに疑問を抱かなかったのはそのせいだった。

 本来であれば彼は貴族籍のはく奪の上処刑に相当する。魔力暴走時以外でもアデルハイトに対して手をあげていた事が本人からの申告されていたのだ。



『どんな理由があれ殿下に対しての私の行い、許されることではございません』



 伯爵家当主の座を譲られる際、両親にうち明かしたネイサンの罪。国王アーサーに自らの罪と公爵家に寄った事で勃発した貴族間の争い。ネイサンは爵位を返上しようとした。だが、それを止めたのはアーサーだ。



『然るべき時に、相応の罰を与える』



 その時が今だ。

 殿下に仕えた日々やその事をきっかけに壊れた家や死んだ兄の事を思えば言いたいことはある。されど、今はすでに爵位を継いだ一当主。肩には領民の生活や一門の未来が掛かっている。それを考えると握りこぶしを作り、耐える他ない。


 きつく握った拳をほどき、宮廷魔術師団長により〝北の塔〟に関する一切の事を外部に漏らすことは出来なくなった。術が確かに掛かったことを確認し、陛下に向かって最後に礼をとる。子爵となれば陛下と対面出来るのは王家主催の夜会や公式行事くらいなもの。もうこれからは滅多にお目にかかれない存在となる。



「……苦労をかけた。長年、よくアデルに仕えてくれたな」


「! 陛下!? おやめください!」


「父親として礼を言う。ネイサン・ヴァレンタイン。ありがとう。そして、大義であった!」


「っ! はっ! ありがたき幸せにございます」



 たったそれだけ。たったそれだけの言葉でネイサンの靄が掛かった心は晴れていく。主君と仰ぎ、一生涯の忠誠を誓った国王・アーサーによって。視界はにじみ、暖かいものが頬を伝う。何に対しての涙なのか。それは本人ですらわからなかった。



 ネイサン・ヴァレンタイン。

 12年にも及ぶ護衛騎士の任務を終え伯爵家当主として精力的に働くが心の中で何かが(つか)えていた。だが、それも今日で最後となる。

 その後、子爵家当主となって領地の運営を行う彼の姿は亡くなった兄を彷彿とさせた。兄の代わりと我武者羅に働き領地をより良いものへと変えようと奮闘する彼には人が集まり、意見が飛び交い、村が、町が発展していった。子爵へと降格したものの、彼の代で再び伯爵へと返り咲いた逸話は後世にまで語り継がれる偉業となる。


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